第38話 『その子、だね?』
水曜、木曜と真央とのメッセージのやりとりは続いた。
真央が超ハードスケジュールであること、そして、とても頑張り屋であることがよく伝わって来た。
木曜日の夜、いつもの公園で優花さんと会った。
「今日ね、新人のバイトくんがどうしてか、同じドーナツを二回連続作っちゃって、すごいことになった」
優花さんは、今日の出来事を楽しそうに話す。話の内容は過去の思い出から、今日の出来事に変わったが、毎回楽しそうに、よくしゃべる。その話の内容と優花さんの笑顔に、オレの心はいつも優しく包まれる。
「あ、そうだ。今日は提案があるんだった」
何かを思い出し、優花さんは手をぽんと叩いた。
「提案?」
「そう、提案。来週、私のデートの順番が来るでしょ?」
「順番って。まぁ、そうだけど」
「うふふ。奏多くんはモテモテだから、順番待ちも大変なのよ」
優花さんはちょっと悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「それで、提案て何?」
「そうそう。来週の日曜日、みんなで山に登らない?」
「みんなで?山登り?」
オレは意外な提案に思わず聞き返した。
「そう。ハーレムメンバーみんなで」
「ま、またその言い方……」
「うふふ、だってそうじゃない?まぁ、それはともかく、来週あたりが、紅葉が見頃で、ベストシーズンなの」
「そうなのかぁ。でも、みんなでいいの?折角の初デートなのに」
「お姉さんはこうやって夜に話ができてるから、大丈夫よ。奏多くんは二人きりが良かったかな?でも、山登りはみんなで行った方が楽しいじゃない?みんなと親睦も深めたいしね」
「うーん、オレは残念な気もするけど、みんなで出かけるのは新鮮で楽しいかも。あ、でもオレたち山登り、素人だよ、優花さんはサークル入っているけど」
優花さんは大学でワンダーフォーゲル部に入っている。
「そこは、大丈夫よ。今度行きたいところは、山頂まで、舗装されてるところで、初心者でも大丈夫だし、普通の運動靴でも普通に登れるから」
「なるほどー、そうなんだね。オレは大丈夫だよ。明日、二人に確認してみるね」
その後も、会話を続け、別れ際に触れるだけのキスを交わした。
――――――――――
金曜日。
『ドゥ・アメール』。
オレと凛は、放課後すぐに、店に入り、一時間ほど遅れて、補習を終えた彩芽が合流した。
「もーー、ほんと一週間地獄だったぁ‼」
彩芽は席に着くなり、そう言いながら、テーブルにへたり込む。
「まぁ、次の定期テストはがんばりな。あやちゃんも土曜日の勉強会に来る?」
「奏多、それはダメ、だよ。それに、勉強会じゃない、デート、だよ」
凛がきっぱりと否定した。
「私も凛ちゃんの邪魔をする気は無いし、休みの日に勉強なんてぜーったい、嫌」
「まぁ、テスト前に、放課後一緒に勉強するぐらいにしとくか……それは、それとして……今日、二つ話したいことがある」
「二つ?何?」
「何、かな?」
二人は興味津々で聞いてくる。
「まず、一つ目は、優花さんからの提案で、来週の日曜日、みんなでハイキングに行かない?」
「ちょ、かなたん、ゆかたんの初デートでしょ?いいの?」
「オレは少し残念だけど、山の紅葉が見頃らしくて、みんなで行きたいって」
「大人の余裕を感じる、ね」
「山登りって言っても、山頂まで舗装されてて、動きやすい服装と運動靴で大丈夫なんだって」
「なら、私でも大丈夫、かな」
「山登り楽しそー‼」
二人がハイキングに乗り気になったその時だった。
オレのスマホが震えた。
確認すると、真央からだった。
『先輩、お疲れ様です』
『リハーサル終わって、次はボーカルレッスンです』
『今日、コンビニで買ったチョコ、おいしかったです』
立て続けに3通のメッセージが届いた後、チョコを掲げた写真が送られてきた。
写真に続き、またメッセージが届く。
『先輩にもおすすめです』
思わず口元が緩む。
オレは、一瞬、二人の存在を忘れて、真央のメッセージに浸ってしまっていた。
「かなたん?今、めっちゃ嬉しそうな顔したよ?」
「またニヤニヤしてる、よ」
「そ、そんなことないって」
「その子、だね?」
「え?」
「いつもスマホ見てニヤニヤしている原因」
「え、どういうこと?絶対、女の子だよね?」
状況を掴めない彩芽が身を乗り出して、聞いてきた。
「あの、えっと……5人目の攻略候補が見つかったかもしれない」
「え、そうなの?」
「うん。まだ確定じゃないけどね。来週のループで確認する」
「その子は、どんな子、なの?私たちの知ってる子?」
「その子、可愛い?同い年?」
二人が矢継ぎ早に聞いてきた。
「うーん、それはまだ言えないかな。確定して、タイミングが来たら話すね」
「かなたんが秘密にするの珍しいね」
「いつもニヤニヤしながらとてもとても楽しそうにスマホ見てるもん、ね」
「かなたん、どういうこと?」
珍しく凛の誇張された言葉に彩芽も反応した。
「いつもニヤニヤしてはいないし……」
オレは少し間を置く。
「今はまだ話せないかな。オレ自身も整理できてないんだ。タイミング来たら話すから、今は見守っていてほしい」
彩芽は少し考えたあと、口を開く。
「気になるけど、あたしはかなたんを信じるよ」
「私も、奏多が話すのを待つ、よ」
二人がオレを信じてくれていることが心強い。
その後も、ひかりのことに触れたり、雑談をしたりして、定例作戦会議はお開きとなった。
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