第37話 平凡な高校生活
真央との通話が終わると、22時近くになっていた。オレは、長袖のシャツを羽織り、公園へ向かう。
「ねぇ、聞いて聞いて。今日、この格好で大学とバイトに行ったの。そしたら、友達からもバイト先でも『どうしたの?そんなにおしゃれして…彼氏できた?』って言われちゃった」
優花は明るく楽しそうに話す。
「堂々と、『彼氏できたんですよー、てへ』って答えた?」
「えー、まさか。笑顔ではぐらかしたよ」
その後も会話は弾み、幸せな時間を過ごした。
今週は今日と木曜日の夜に、優花さんと会う約束をしていた。そして、来週の日曜日は優花さんと初めてのデートだ。凛と彩芽が譲ろうとしない中、優花さんは、月に1度だけ土日のどちらかに会うことになった。大人の余裕だろうか。
優花さんとの会話ではRe:inのライブ放送の話はしたが、真央のことには触れなかった。
――――――――――
火曜日。
通学路で、凛と合流する。
挨拶を交わした後、凜から、
「昨日のMaoちゃん、かっこ良かった、ね」
と話を振って来た。
「うん、最高にかっこよくて、心に響く歌声だった」
オレは、素直な感想を返した。
でも、凛にもここでは、真央の話はしなかった。
2時間目の休み時間。スマホを確認すると、メッセージが届いていた。
『先輩、おはようございます。学校はどうですか?私は朝のレッスンを終えて、この後、打ち合せです』
真央は、自分の正体を隠す気はないようだ。
『おはよう。授業も特に変わりなく、平凡な高校生活だよ。真央ちゃんは忙しそうだね。がんばってね』
すぐに既読が付く。
『平凡な高校生活……少し憧れます』
少し間があって、もう一通メッセージが届く。
『先輩は、私の正体、気付いてますよね?』
オレはどう返すか少し迷う。
『髪の色が、黒からブラウンと水色に変わってて驚いたよ』
『先輩、そこですか?スプレーですよ』
『歌声、素敵だったよ。めっちゃ感動した』
『……ありがとうございます!私は、もっともっと頑張って、もっとすごい歌手になります』
『今でも十分すごいけど』
『そんなことないです。まだまだ修行がたりません』
昨日の過呼吸と、声が出なかった様子が頭をよぎる。
『無理し過ぎないようにね』
『私は大丈夫です。まだまだがんばれます』
その返事に、オレは少し心配になった。
『移動先に着きました。また連絡しますね。先輩、またね』
『うん、またね。ファイト!』
最後に、ウサギのイラストに『元気モリモリ』と文字が入ったスタンプが送られてきた。
そのスタンプに思わず笑った。
――――――――――
昼休み。
弁当箱を持って、凛の席に移動する。
凛がジト目でオレを見つめている。
「ど、どうした?」
「奏多、休み時間にスマホ見て、笑ってた、ね」
「う、うん」
「楽しそうだった、ね」
「うん、まぁ」
「良かった、ね」
「お、凛の弁当のハンバーグ、美味しそう!一口ちょうだい!」
「ごまかそうとしてる、ね」
オレは見事に、凛の『ね』攻撃の回避に失敗した。
――――――――――
放課後は、彩芽が今日も補習があるため、一人で下校した。
オレは、歩きながら、
『調子はどうだい?これは下校中だよー』
と、真央にメッセージを送ってみた。
既読はすぐには付かず、夜になってようやく既読が付き、返事が返ってきたのは、夜22時頃だった。
『先輩、絶好調です!これから、新曲の振り付け指導があります。まだまだがんばりますよ』
『大変だね。体壊さないようにね』
『ありがとうございます。トップシンガー目指してがんばります!』
今度は、ウサギの目が炎で燃えて、『うおおおおー』と文字が添えられたスタンプが届いた。
真央とのやり取りは、どこか不思議だった。
画面の向こうにいたのは、今大人気の歌手。
それなのに、送られてくるメッセージは年下の女の子そのものだった。
すぐ既読を付けてきたり、スタンプを送ってきたり。
そのギャップに親近感を覚えていた。
真央の送るメッセージは可愛いけど、一方で、強気な言葉が少し心配になってもいた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
月曜日と木曜日の21時に投稿します。引き続き、お読みいただければ嬉しいです。
ブックマーク、リアクション、評価、感想等、とても励みになります。いただけたら有難いです。




