第34話 宣戦布告
月曜日の夜からも、いつもと同じように、優花さんと近所の公園で会った。
毎日、少しずつ『この世界』について説明した。
優花さんは、疑問に思ったことは質問を返しながら、話をゆっくり受け入れていく。
そして、優花さんで攻略した女性が3人目であることも伝えた。
最初こそ、「まぁ!」と驚いた様子を見せたが、程なくして事実を受け入れ、自分以外の2人について、聞いてきた。
そんなやりとりを経て迎えた木曜日の夜、明日の『ドゥ・アメール』に誘った。
優花さんは、快諾した。
――――――――――
金曜日の放課後、オレと凛と彩芽は、駅の裏にある喫茶店へ向かった。
『Doux-amer ドゥ・アメール』と書かれた金属の看板の下に、古びた木製の扉がある。
その扉を開けて、オレを先頭に店の中に入る。
いつものようにコーヒーの香りと落ち着いたジャズの音楽が3人を迎え入れる。
でも、いつもと違う。
オレたちの指定席には、先に一人の女性が座っていた。
3人に気付くとその女性は立ち上がる。
3人が近づくと、その女性は、体の前で手を重ね、ペコリと小さく丁寧におじぎをした。
「はじめまして。白草優花です。よろしくお願いします」
「り、凛、じゃなくて。水無瀬凜です。よ、よろしくお願いします」
「風野彩芽でーす。あなたが噂の優花さんね、よろしくお願いします」
凛は緊張した様子で、彩芽はいつもと変わらない感じで挨拶を返した。
「ま、まぁ座ろうか」
座るのを促しながら、気付いた。
この状況だと、オレが優花さんの隣に座り、凛と彩芽が並んで座るのが自然だよな。
それでいいんだよな?
少し考えていると、彩芽が動いた。
「優花さん、お隣、失礼しますね」
「ええ、どうぞ」
「なら私は、こっちに座る、ね」
奥の席に、優花さん、彩芽が並んで座り、優花さんの正面に凜、隣にオレが座った。
座ったところで、改めて優花さんを見る。
――き、気合いが入ってる。
まず、髪色がブラウンだが、昨日までよりも少し明るい色になっている。
そして、耳の上から後ろにかけて大きく編み込んであり、耳が見えてすっきりして美しい。
服装も秋先取りのブラウンとグレーのチェック柄のウールジャケットに、ブラウンのロングスカートで合わせている。
おしゃれで可愛らしくも上品な美しさがあった。
メイクも言わずもがな、ばっちりきまっている。
9月後半でも、未だ夏服の高校生3人とは世界が違って見えた。
「さて、どんなお話しましょうかね、奏多くん」
「え?オレ?」
「それは、そうでしょ。かなたんを中心に集まった4人なんだから」
「奏多にまかせる、よ」
「えーーっと。何話そう?考えてなかった」
「そんなことだと思ってたよ。私から議題があるけどいい?」
彩芽の提案を受け入れる。
「いいよ。何?」
「まず、優花さんの呼び方を決めない?あ、その前に優花さん、あたし、敬語じゃなくてもいい?」
「もちろん、いいわよ。同じハーレムメンバーですものね」
「「「ハーレムメンバー!?」」」
3人の声が重なる。
「うふふ、だってそうでしょ?奏多くんの三人の恋人。それはもう立派なハーレムよ」
「……そ、そうなのかな」
「確かにそう、だね」
「あたしもこの現実を受けいるしかないか……ここにいるのは、かなたんとそのハーレムたち」
「うふふ、現状把握はおしまいね。それで、呼び方っていうのは?」
優花さんが話を戻す。
「奏多はかなたん、凛はりんりん、なの」
「それで呼んでるのあやちゃんだけだけどな」
「余計なこと言わなくていいの、かなたん。優花さんだから、ゆうかんかな?」
「ぶはっ。センスなっ!」
「ゆうかんは無い、ね」
「ゆうかんって呼ばれるのは新鮮だわ」
「却下!」
オレは却下した。
「えー、なら他に何か候補はある?」
「ゆうゆう、ゆうかたん、辺り、かな」
「ゆうかたん、いいけど、少し語呂がねー。あ、ゆかたんはどう?」
「いいと思う、よ」
「私も、ゆかたんで、構わないよ。あやむん」
「あーー!!ゆうかさ……じゃなくて、ゆかたんまで!!かなたん、話したな!!」
オレはカフェオレを飲みながら目を逸らす。
その後も賑やかに話し、3人の顔合わせは無事、終了した。
―――――――――
その日の夜も、優花さんと二人でいつもの公園に来ていた。
「優花さん、今日めちゃおしゃれできれい。美容室も行ったんだね」
「そりゃあ、もう。気合い入れたから」
「そ、そうなの?」
「だって、若い子たちに負けてられないじゃない。相手は奏多くんの同級生二人よ、しかも、私より記憶が戻ってから時間も経ってるし」
「あはは、オレはきれいな優花さん見れて目の保養になりました」
「うふふ、奏多くんが喜んでくれるなら、毎日でもオシャレしちゃうよ」
「毎日は、大変だろうから。時々おねがいしようかな」
「わかった。そうするね」
優花さんは、一度月を眺める。今夜は満月に近い。
「ねぇ、奏多くん?」
「なーに、優花さん?」
「奏多くんはー……3人の中で誰が一番好き?」
「え?」
「ねぇ、誰が一番?」
優花さんが、顔を覗き込んで来る。
「ち、近いです」
「うふふ、答えてくれないの?」
優花さんは、顔を離さなかった。
――それどころか
顔はそこから、どんどん近づく。
優花さんは、目を細め、ついには閉じる。
オレは、金縛りにあったかのように、固まって動けない。
そして、ついに……
優花さんの唇が、そっと触れた。
優しく触れるだけの、短いキスだった。
柔らかい唇の感触が伝わって来た。
唇を離した優花さんは、オレに抱き着き、耳元で囁く。
「私、負けないから。若い子たち二人にも、まだ恋人になっていない残りの二人にも。優花は負けません」
抱き返すべきか、戸惑いながら、そっと優花さんの背中に手を回した。
少し迷った後、優しく抱きしめ返す。
「これからは、奏多くんがちゃんと私を見ててね。私だけ、奏多くんを見てるのは、おしまい。ちゃんと、見てないと、お姉さん、許さないからね」
優花さんに圧倒されながらも、オレは抱きしめる手に少し力を込める。
「うん、これからずっと、優花さんを見続けるよ」
月は優しく二人を照らし続けていた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
第3章はここで完結です。5章のうち、一番不安を抱えて書き始めた章ですが、今では一番のお気に入りです。第4章も引き続き、お読みいただけたら嬉しいです。
次話は、少し空いて6月8日から投稿します。
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