第33話 『25回目のおはよう』
公園のベンチに座ったまま、優花さんは目を見開く。
「あ……」
「これは……」
――記憶が戻っていっているのがわかる。
「……そうだったのね」
でも、凛と彩芽とは違い、反応は静かだ。
「私、何回も月曜日の朝に、奏多くんと挨拶を交わしてたんだ……」
「24回だよ」
「そう、24回も」
優花さんは目を閉じて、一度大きく息を吸い込む。
「奏多くんは全部、覚えているんだね」
「うん」
「何度も『おはようございます』って言い続けてくれてありがとう。それがあったから『今』があるんだよね」
静かに微笑む。
「そっかぁ。奏多くんは、何度も私に近づこうとして、私は距離を保とうとし続けた」
「うん」
「でも、最後に『壁』を壊してくれた……ありがとう」
「いや、最後に選んでくれたのは、優花さんだから」
「うふふ、まぁ、そうだけど。決断させてくれたのは奏多くん。荒療法だったけどね」
オレは苦笑いするしかなかった。
「いろいろ、聞きたいけど、今はいいかな。ここで、奏多くんと子どもたちを眺めていたい」
「うん、そうしよう」
「あ、カフェオレ、ぬるくなっちゃってない?」
「大丈夫だよ。いつもありがとう」
「いえいえ」
オレはボトルの蓋を開け、カフェオレを飲み始めた。隣の優花さんもコーヒーを飲む。
その日は夕方まで、子どもたちの遊ぶ姿を二人で眺めて、家路に着いた。
―――――――――
この世界が始まって25回目の月曜日の朝が訪れた。
今日は祝日だが、学校がある日と同じ時間にオレは起きた。
「奏多、早起きね。朝ご飯、まだよ」
「うん、大丈夫。朝ご飯いらない」
オレは、Tシャツとチノパンに着替え、登校するときと同じ時間に家を出た。
エントランスを出て、左に曲がる。
少し進むと、マンションのごみ置き場がある。
そこには、一人の女性が佇んでいた。
「優花さん、今日は大学休みだよね?」
「奏多くんも、高校休みでしょ?」
「うん」
「うふふ、私に会いたかったのかなぁ?」
「優花さんこそ、オレに会いたかったんでしょ?」
「そうだよ、奏多くんに会って、『おはようございます』を聞きたかった」
「オレもだよ」
「うふふ、これからもどうぞ、よろしくね」
「こちらこそ……では、あらためて……」
「優花さん、おはようございます」
「うん、おはよう、奏多くん」
せっかくだからと、二人で近所の喫茶店に行き、モーニングをとった。
これからは、毎回変化のある『月曜日のおはよう』が始まった。
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