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君を好きになるのは、何度目だろう。 ~親愛度100で記憶を共有したヒロインたちと、一週間ループを攻略する〜  作者: 月雲 天音
第3章

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第32話 『今』

 祭りの後、オレは眠れなかった。


 オレは、優花さんと今の関係を続けたいわけじゃない。

 優花さんと前に進みたい。

 だから、『壊す』ことを選んだ。


 でも、優花さんを傷付けてしまったかもしれない。

 置き去りにするのは、やり過ぎだったかもしれない。

 オレは、優花さんを裏切っただけかもしれない。


 眠れない中、そんなことをぐるぐると考えてしまっていた。



 朝方4時、スマホの通知音が鳴った。


 考えすぎて思考が回らなくなった中で、スマホの表示を見る。


『メッセージが一件届いています』


 誰だろう?こんな時間に。


 スマホを開き、メッセージを確認する。


『寝てるよね?』


 一言だけ。


 優花さんからだった。

 

 すぐに返事を送る。


『起きてる』

『眠れなくて』

『オレも眠れなかった』

『ねぇ?』

『何?』

『今日会えない?』

『……会えないことはないよ』

『会ってちゃんと話をしたい』

『オレも優花さんと話したい』

『なら、会おうね』

『うん』

『メッセージしてたら、少し落ち着いたからひと眠りできるかも』

『オレも』

『なら、午後から会おう』

『うん』

『いつもの公園で、午後2時でいい?』

『うん』

『じゃあ、少しでも寝るね。奏多くんも寝てね』

『うん、眠れたら』

『おやすみ』

『おやすみ』


 メッセージのやりとりの後、オレはすーっと眠りに落ちた。


――――――――――


 目覚めたのは、11時だった。

 昨夜は何も食べてなかったことを思い出し、顔を洗い、遅い朝ご飯を食べる。


 朝食後、またベッドに寝転び、ぼんやり考える。

 優花さんから、どんな話があるんだろう。

 優花さんに、どんな話をしたらいいんだろう。


 答えは出ずに、時間を迎える。


 オレは、寝ぐせを直し、着替えて部屋を出た。


 曇り空だった。


 いつも夜に来ていた小さな公園では、小さな子供たちが何人か、すべり台やブランコで遊んだり、追っかけっこをしたりしている。


 ベンチに目をやると、女性が一人座っていた。

 優花さんだ。


 ブラウンの袖がレースになった無地のTシャツに、グレーのイージーパンツというバイトの日よりも緩い格好をしていた。


「優花さん、おまたせ」


「おはよう、奏多くん。もう2時だけど」


「おはようございます、優花さん」


「うふふ、月曜日の朝を思い出すね」


「うん」


「まぁ、ここに座って」


 優花さんは自分の横を掌で軽く叩く。

 オレは言われた通り、ベンチに腰掛ける。


「はい、どうぞ」


 優花さんは、バッグから取り出したカフェオレを差し出す。


「また子ども扱い?」


「ううん、そんなんじゃないよ。奏多くん、カフェオレ好きでしょ?ただそれだけ」


「そか、変な言い方してごめん」


「ううん、いいよ」


「……優花さん、目が腫れてる」


「そりゃあね……どれだけ泣いたことか」


「昨日はごめんなさい」


 オレは頭を下げる。


「デートで置き去りはショックだったな……」


「そうだよね……ほんとごめん」


「ううん、私が悪いの」


 優花さんは首を横に振った。

そして、遠くを見る。


目線を追うと、追っかけっこをしている子どもを見ているようだった。


「奏多くんも出会った時は、あのぐらいだったよねー」


「うん」


 オレの方を向き直す。


「それが、いつのまにかこんなに大きくなっちゃって」


 オレの頭の上に手を置く。


「いや、いつの間にかじゃないよね……ずっと見てた。奏多くんが最初は少しずつ、6年生ぐらいからは急激に大きくなったの、ずっと見てた」


 優花さんは続ける。


「私はずっと見てたの。それは過去の、あそこの子どものように小さかった奏多くんじゃない。野球で負けて悔しそうな奏多くん、私の身長を追い越した奏多くん、『おはようございます』って敬語を使うようになった奏多くん……その時、その時の奏多くんを、私はずっと見続けて来た」


「うん」


「だから、本当は気付いてた。奏多くんの成長に。もう私が守る必要が無いことも……それなのに、私はお姉ちゃんで居続けようとした……ずっと、奏多くんを守っているつもりのお姉ちゃんで居ようとしていた……そうしてたら、これからもずっと奏多くんのそばに居続けられると思っていた」


「……うん」


「でも、それは間違っていた。奏多くんの言うとおり、私は逃げていた……昨日奏多くんが、帰ってようやく気付くことができた。私は……奏多くんを失いたくない……それは過去の思い出を失いたくないんじゃない……今の奏多くんを失いたくない」


 優花さんは、腫れた目に涙を浮かべる。


「昨日の夜……怖かった。奏多くんを失うと思うと怖かった……だから、夜中に、返信が来て安心したし、今日会えて、もっと安心したよ」


「オレも、怖かった……もう会えないかと思った……今日会えて、安心した」


「ありがとう。それでね、それでね。私なりに考えたの……答えを出したの……」


 優花さんは、ふぅっと一息した後、続けた。


「……まだ間に合うならだけど」


「……私は奏多くんの隣にずっといたい。今の奏多くんをずっと見続けていたい」


 予想していなかった言葉だった。

 消えてしまわないように、ちゃんと返事をしなきゃ。


「オレも……優花さんに、ずっと隣にいてほしい」


「……まだ間に合うかなぁ?」


「もちろん」


「……ほんと?」


「うん」


「もう、奏多くんがいなくなると思ってた」


「……」


「嫌だった……すごく嫌だった……」


 溜まっていた涙が、こぼれ落ちる。


「だから……これからも隣にいたい」



 オレは、優花さんの手に自分の手をのせる。


「優花さん、ずっと隣にいてください」


「奏多くんの方こそ、これからもずっと私の隣にいてね」


 照れ隠しのようにお互い微笑み合う。



――その瞬間だった。



 優花さんの頭の上の黄色い『50』という数字が、ガラスが割れるようにひびが入り、ひびは広がり、音を立てて崩れ去った。


 ついに、『50』の壁を壊した。


 そして、そこに虹色の数字が輝き始めた。



『100』


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

第3章、33話の予定でしたが、1話増えました。あと少し、優花編にお付き合いください。

34話まで毎日夜9時に投稿します。引き続き、お読みいただければ嬉しいです。

ブックマーク、リアクション、評価、感想等、とても励みになります。いただけたら有難いです。

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