第29話 壁
9月最初の月曜日。
優花さんとの朝の会話を済ませたオレは、学校500メートル手前の交差点に到着する。
「お、思春期の少年、おっはよー」
「おはよー。だから、思春期じゃねーし」
情報クラスも2学期が始まり、ひかりとのやりとりは、メッセージから会話に戻った。
ひかりと直接会うのは、ちょっと久しぶりだ。
頭の上の数字は『30』。
……変わっていない。
お弁当は凛と教室で食べる。
教室だから、そこまでイチャイチャはしない。
お弁当を食べ終えたオレはトイレに行くため、廊下に出る。
「順調そうね」
「何が?」
「学校生活、かな」
ひかりとのループは健在だった。
放課後は、彩芽と一緒に下校した。
くだらない話をしながら、二人でケラケラ笑った。
そして、夜を迎える。
過去2回の周と同じく、順調な会話を優花さんと交わす。
この周回でもすんなり、秋祭りの約束ができた。
先週よりももう一歩踏み込んでみたりもした。
それでも、親愛度は『50』までしか上がらなかった。
――――――――――
「それは、何かある、ね」
金曜日の『ドゥ・アメール』。
コーヒーを飲みながら凜は、静かに感想を述べた。
「『何か』ってなんだろう?ひかりのようなギミックみたいな感じ?」
「うーーん、ギミックとはちがう、かも」
「あたしの時も、なかなか上がらなくて苦労したでしょ?」
「そうだねぇ。彩芽の時は、全然親愛度が表示されなくて、攻略対象じゃないのかと思いさえした。でも、優花さんは、『お姉ちゃん』のトリガーを引けば、あとは凛の時のように正解を踏めば、毎周『50』までは伸びる」
「また『凜の時のように正解を踏めば』とか、言う。その攻略しました感、嫌」
「あたしもー!『彩芽の時はー』とか、やだなー」
攻撃が2倍に増えている。
「ご、ごめん。以後、気を付けます」
「うん、気を付けて、よ」
「乙女心は繊細なんだからね!」
ふぅ。二人は何とか鞘を納めてくれた。
「優花さんには、『50』の壁があるの、かな?」
「『50』の壁?」
「うん。なんとなくそう感じた、よ」
「何かあたしもわかる気がするなー。そこまでは仲良くなりたいけど、それ以上はいいかなー、みたいな『壁』みたいなものかな」
「うん、そんな感じな気がする、よ」
「その壁は、どうしたらいいんだろ?壁を上る?避ける?穴を掘る?」
「穴を掘るって何よ」
彩芽がツッコむ。
自分の中の答えは出てる。
優花さんの心の壁を……オレは……。
――――――――――
次の周は、月曜日から金曜日まで優花さんに会った。
やはり、どうしても『50』を超えることは無かった。
土曜か日曜に会えないか尋ねたが、バイトとサークルの活動があり、会えないと断られた。
会話は楽しい。
一緒にいる時間も心地良い。
優花さんもオレと話すことを喜んでくれている。
それなのに。
これだけ踏み込んでも、距離も縮まったはずなのに、『50』から先に進めない。
それは、優花さんの中に答えがあるように、思えて来た。
『50』から先に進みたくない理由。
『50』の壁。
来週末は、秋祭りだ。
秋祭りにオレは賭ける。
秋祭りで、優花さんの『50』の壁を……オレは……
――壊す。
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