『50』の先へ
次の周回を迎えた。
月曜日の朝、ゴミ置き場で優花さんと会う。
「おはようございます」
「あら、奏多君おはよう!奏多くんも高校生かぁ。大きくなったねー」
いつもの会話をやり直す。
会話の最後に今回は意識して、
「いってきます……優花お姉ちゃん」
と付け加えた。
きょとんと立ち尽くす優花さんの親愛度を確認すると、『11』だった。
夜の会話は前の周と全く同じように進めた。
夏祭りの迷子の時の話を優花さんは懐かしそうに話す。
親愛度は、これも前回と同じ『35』に上がった。
火曜日も、同じやりとりを踏んでいく。
カフェオレとドーナツのやりとりから、夏祭りが秋祭りに変わった話、そして、秋祭りに一緒に行く約束を交わす。
親愛度は、『41』に上がった。
水曜日は身長の話。
「そう言えば、奏多くん、身長伸びたよねー。今何センチ?」
「今、173ぐらい。まだ伸びてるかな」
「うわぁ、そんなに大きくなったんだ。昔は見下ろしてたのになぁ」
「優花さんに追いついたのいつぐらいだったんだろ?」
「奏多くんが中2の時だよ」
「え?覚えてるの?」
「覚えてるよー。ずっと見てたから」
「けっこうショックだったんだよねー、奏多くんに追いつかれた時……出会った時は、こーーんなに小さかったのに」
「いやいや、小さすぎでしょ、それ!」
「うふふ、それにしても、本当に大きくなったねぇ。私が164センチだから、ほぼ10センチ差だよ。信じられないなぁ」
ここから、会話を変えてみる。
「164センチってちょうどいいぐらいの身長だと思うなぁ。高過ぎず、低すぎず……オレと並んで歩くのにもちょうどいいぐらい……」
オレはわざと敬語も混ぜて話す。
「お、どうした?急に彼氏目線?」
優花さんはくすくす笑った。
「ほら、昨日秋祭りの約束したじゃないですか?だから、一緒に並んで歩くのを想像しちゃって……楽しみだなー」
「そだね。楽しみだね。並んで歩いてるとカップルだと思われそうだね、近所の人とかに。奏多くんは問題ない?」
「オレは大歓迎ですよ。優花さんなら……」
「あらあら、嬉しいこと言ってくれちゃって。まぁ、私も近所の人に誤解されても平気かな」
「オレは……誤解じゃなくて……ホントにそうなればいいなって思っちゃってますよ」
「うふふ。思春期だなぁ。奏多くんには奏多くんに似合う素敵なカノジョがきっと見つかるよ」
「優花さん以上に素敵な子はなかなか見つからないですよ」
「またまたぁ……でも、ありがと」
そこまで話し、優花の頭上を見る。
親愛度は『50』に達していた。
踏み込んだ会話も嫌がられてはいなかったようだ。
――――――――――
木曜日は、野球の試合の後の話だ。
――今日で『60』ぐらいまでは上げたいな。
そう思いながら、会話を続ける。
「奏多くんさ、野球の試合で負けて帰ってきた後、いつも廊下にいてさ」
「廊下の手すりに顎を乗せて、くやしそーーな顔でいつまでも空を眺めてた」
「げ!そんなところ見てたの?」
「見てたよ。いつもユニフォーム姿のままで、長い時は、2時間も3時間も……その時の、悔しそうな顔……今でも思い出すなぁ」
ここから会話を変える。
「優花さん、オレのことよく見ていてくれたんだね。そんなにオレのことが気になってたの?」
「うん。気になってた」
優花さんは、少し照れたようにはにかみながら、素直に答えた。
「お祭りで迷子になって泣いてた小学1年生の男の子が、どう成長していくのか、いつも気になっていた。迷子のことは覚えてないだろうなって思いながらも、挨拶をしたら、奏多くんも返してくれて……それでますます気になるようになったよ」
「そうなんだね。なんか嬉しいような恥ずかしいような」
「うふふ、そうよね。ストーカーみたいでごめんね」
「全然。優花さんみたいに優しくて可愛いストーカーなら大歓迎ですよ」
「またまたぁ。なんか敬語使う時、攻めてきてるよね?」
「あ、バレました?」
「昨日からバレバレ。でも、心地悪くないよ。奏多くんとそういう会話するのは不思議な感じがするけど……嫌じゃないよ」
「なら、これからも、敬語でぐいぐい攻めますよ」
「うふふ。ぐいぐいは少しうろたえるかも……お手柔らかにお願いします」
目を細めてくすくすと笑う。
――これはイケてるはずだ。
オレは、優花さんの頭上を確認する。
そこにある数字は、
『50』
昨日と同じ数字が浮かんでいた。
――そ、そんな。
信じられなかった。これだけ雰囲気良く会話ができたのに。
結局、次の日も優花さんの親愛度を上げることはできず、8月が終わった。
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33話まで毎日夜9時に投稿します。引き続き、お読みいただければ嬉しいです。
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