第25話 それぞれの二人きり
迷子の子のお母さんはすぐに見つかり、奏多は何度もお礼を言われた。
「良かった、ね。お母さん見つかって」
「うんうん、一安心。かなたんの行動力にときめいたよ」
「本音かな?」
「本音だよ。すぐに動けるのすごい」
「それに、『大丈夫だよ』って声掛けも、子どもを安心させて良かった、よ」
「二人に褒められると、照れるなぁ」
そんなやりとりをしていると、花火の案内のアナウンスが流れる。
「もうそんな時間か、見えやすい所に移動しようか」
「かなたん、りんりん、先に行っといて。ちょっとお手洗いに行ってくる」
そう言うと、彩芽は凛に目配せした後、人ごみに消えていった。
「気を遣ってもらった、よ」
「あは、そうみたいだね。せっかく二人きりだし……手を繋ぐ?」
「……繋ぐ」
オレの左手と凛の小さな右手が繋がれる。
人の波に乗って、移動する。
歩きながら、凛が声を掛ける。
「……奏多の甚平も、似合ってて、かっこいい、よ」
「ありがとう」
「私、毎年、家族でこのお祭りに来てた。今日は奏多と来れて、嬉しい」
「オレも凛と来れて、嬉しいよ」
広場に出て、人の流れが落ち着いたところで、凛が足を止めた。
「……ねぇ」
「こうして、外で二人でいるの……付き合い始めてから初めて、だね」
「……ああ、たしかに」
言われて見れば、いつも図書館や喫茶店ばかりだった。
凛は少しだけ視線を下げて、小さく息を吐く。
「……なんか、慣れない感じ」
「嫌?」
「ううん」
首を横に振る。
「……嬉しい、だけ」
その言葉のあと、凛は少しだけこちらに寄った。
ヒューッ……ドーーン。
まもなく、最初の花火が上がった。
「きれいだね」
「うん」
次々と花火が、上がっていく。
花火の光が、凛の横顔を照らす。
――美しい。
花火の光を受けた凛の横顔は、ただでさえ整のっていてきれいなのに、さらに神秘的な美しさを放っている。
「……きれいだよ」
オレは、凛の横顔をちらりと見ながら、そう言った。
「うん」
凛は花火から目を離さず、答えた。花火のことと思ったのだろう。
「やっと見つけた!あ、手を繋いでる!あたしも!」
空いている右手を彩芽が握る。
二人の美女に挟まれて、ドキドキしながら、花火を見た。
3人で花火を最後まで見て、夏祭り会場をあとにした。
――――――――――
帰りの電車は彩芽と二人きりだった。
電車の中は、祭りの帰りの人でごった返している。
人波に押され、彩芽との距離が縮まる。
電車が揺れた瞬間、彩芽がよろけて、倒れそうになる。
オレは、彩芽が倒れないように胸に引き寄せて支えた。
彩芽の頬が赤くなる。
彩芽はそのまま、オレの胸に顔をうずめる。
「何か、ラッキー。りんりんに悪いな」
「汗臭いだろ?」
「それ言ったら、あたしもだよ」
「くんくん……いい匂い」
「バカ……甚平だと薄いから……奏多の体温が伝わってくる……」
祭りではしゃいでいた時とは違う、静かに幸福感に浸る、彩芽はそんな感じだった。
「……かなたんの鼓動が伝わって来るよ」
「あやちゃんの方こそ、心臓バクバクしすぎだよ」
「そんなこと言われると……恥ずい」
電車はほどなくして駅に到着し、二人は別れた。
家までの帰り道、夜の空気を吸い込む。
さっきまでの喧騒が嘘みたいに、静かだった。
腕に、さっきの感触が残っている。
彩芽を支えた時の重さ。
胸元に感じた、かすかな体温。
思い出すだけで、自然と頬が緩む。
凛と見た花火も、彩芽と過ごした時間も、どちらも同じくらい大切で。
――こんな日が、ずっと続けばいいのに。
そんなことを、ふと思ってしまった。
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