第23話 3人の夏祭り
凛、彩芽とのデート後の月曜日。
優花さんとのいつものやりとり。
いつもの距離。
それ以上は、何も起きなかった。
夏休みに入り、学校では彩芽、ひかりと会わなくなった。
その代わり、ひかりからは月曜日に、「思春期の少年、課外がんばってるか?」とメッセージが来るようになった。
彩芽は、時々課外後のオレを正門の前で待ち構えている。
暑い中、オレの下校に付き合ってくれる。
凛とは、お昼休みにお弁当を一緒に食べる。
そんな日常を繰り返しながら、時間が過ぎていく。
8月に入り、二週目の金曜日。
オレと凛と彩芽の3人は、『ドゥ・アメール』に集合していた。
「何も進まないなー」
「進まない、ね」
「優花さんって人、本当に攻略対象なの?ただのご近所さんでしょ?」
「ループしてるし、たぶん、攻略対象だと思う、よ」
凛の返答は少し自信なさげだ。
「そもそもかなたんは、どうして、その優花さんと仲良くなったの?」
「どうしてって……どうしてだろう。小さい頃から自然と会ったら会話するようになってた」
「そんなことあるかなー?同じマンションってだけじゃん」
「確かにそうだけど……んー、何も思い出せないなー」
「何もきっかけが見つからない、ね」
「そうなんだよなー。優花さんとはどうしても距離を縮められない」
「ドツボにはまってる感じだねー……せっかく夏休みなんだしさ、なんか気分転換しようよ。二人とも来週から課外休みでしょ?どっか遊びに行こうよ」
「気分転換かー。いいかも。どこか行きたいところある?」
「んー、あたしは思いつかないなー、りんりんは?」
「ある、よ」
「え、どこどこ?」
「夏祭り。私の町で、お盆にある、よ。花火も上がる」
「おお、りんりん、いいねー!決定!!そうと決まれば、浴衣買わないと」
「私は、浴衣、持ってる、よ。奏多も、甚平、着て来るんだ、よ」
「甚平なんて、小さな頃以来、着てないなー。前はオレの近所でも夏祭りあったんだよなぁ」
「よし、来週は、浴衣と甚平で夏祭りに行こうね!超たのしみー!」
――その夜が、流れを変えることになるとは、この時はまだ思っていなかった。
――――――――――
迎えた8月15日。
人の波で賑わう夏祭りの会場に足を踏み入れた瞬間、視界が一気に色づいた。
屋台の明かり、提灯の灯り、浴衣姿の人たち。
そんな中――
ふと、視線が止まる。
凛が、そこにいた。
紺地に白い花模様の浴衣。派手さはないのに、目を引く。
帯は落ち着いた薄紫で、全体を静かに引き締めていた。
髪はまとめられていて、首筋がすっと見えている。
凛は気づくと、わずかに首を傾げた。
「……どうしたの?」
「いや……似合ってるなって」
「……そう」
短く返すだけなのに、ほんの少しだけ頬が赤い。
そのまま視線を逸らす仕草まで、やけに大人びて見えた。
――綺麗だな、と思った。
「かなたーん!りんりーん!」
静かな空気をぶち壊すように、元気な声が飛んでくる。
振り向くと、彩芽が大きく手を振っていた。
ぱっと目を引く、明るい色合いの浴衣。
淡い黄色の生地に、オレンジやピンクの花が散っている。
帯は少し大きめに結ばれていて、後ろでふわっと揺れていた。
走り寄ってくるたびに、髪飾りの小さな鈴がちりんと鳴る。
「待ったー?」
「いや、今来たところ」
「ほんとー?じゃあセーフ!」
くるっと一回転して見せる。
「どうどう?似合ってる?」
期待に満ちた目で見上げてくる。
「……似合ってるよ」
「やった!」
ぱっと顔を輝かせて、すぐに距離を詰めてくる。
「でしょでしょ!めっちゃ悩んだんだから、これ!」
腕に軽く触れながら話す距離の近さ。
その無邪気さに、自然と笑いがこぼれる。
凛が一歩後ろから、その様子を見ていた。
「……賑やかだ、ね」
「いいじゃん、お祭りなんだから!」
彩芽が笑って言う。
同じ浴衣姿でも、まるで違う。
凛は静かに引き込むようで、
彩芽は一瞬で心を持っていく。
――二人とも、ずるいくらいに綺麗だった。
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