第22話 特別な1日
その日の夜、いつものエントランスで優花さんを待つ。
これまでのように自動ドアを入って来る。
「優花さん、こんばんは」
「奏多くん、今朝ぶりね。こんばんは。こんな所で待ちぼうけ?」
「……うん、優花さんを待ってた」
「え?何?大人をからかっちゃダメよ」
「からかってないよ。本当だよ……今朝、久しぶりに優花さんと話したら、もっと優花さんと話したくなった」
「ふーーん。どういう風の吹きまわしかわからないけど、私で良ければ話し相手になるわよ」
「ねぇ、優花さん大学生活は楽しい?大変?」
「そうねぇ。大学の講義や課題にバイトもあって忙しいし、いろいろ大変な時もあるけど、友達と遊んだりして楽しいこともいっぱいあるわよ。奏多くんも大学進学希望かしら?」
優花は、手で子供の頃の奏多の身長を示しながら、微笑んで答えた。
「うん、進学クラスに進んだから大学のことが気になって」
「そうかぁ。この前までこんな小さかったのに、奏多くんも大きくなったなぁ。あ、そうだ」
そう言った後、優花さんは持っていたポーチの中を探り、ラップで包まれたドーナツを取り出した。
「今日の売れ残り。これあげる。ドーナツでも食べながら、勉強がんばるんだよ」
去ろうとする優花に声を掛ける。
「優花さん、次のバイトの日はいつ?」
「ん?どうしたのかな?」
「また、こうやって話したいなって思って……」
「あらあら、そうねぇ……バイトの日は……ふふふ……秘密」
「えー?」
「また、偶然会った時に、話聞いてあげるよ」
――それ以上は踏み込ませないという線引き。
「つまんないのー」
子供っぽく拗ねて見せる。
「うふふふ。子どもなんだか、大人びてきてるのか分からないね、奏多くん」
「……それじゃあ、またね」
一歩踏み込めば、やんわりと戻される。
まるで、見えない壁があるかのように。
この周は、これ以上優花と会うことはなかった。
5人目の候補も見つからない。
そんな状況だから、金曜日の作戦会議は行わなかった。
そして、週末を迎える。
――――――――――
土曜日。
改札を出てきた凜は、ピンク生地に白いドット柄のノースリーブのワンピースをまとっていた。
「おはよう」
「おはよう、凜。今日のワンピース、似合ってて可愛いね」
朝なのに、日差しは強く、既に暑くなり始めている。
でも、そんなこと気にせず、手を繋ぎ二人は図書館へ向かった。
今日は、ゆっくりとそれぞれの好きな本を並んで座って読んだ。
お昼は、凜お手製のお弁当を食べる。
凜の弁当はみるみる上達していて、見かけからとても美味しそうだ。
いつもの心休まる土曜日を二人は過ごした。
――――――――――
日曜日。今日も天気は晴れ。
彩芽との待ち合わせ場所に行くため、マンションを出る。
「やっほーー!」
彩芽が待ち構えていた。
黄色いTシャツにショートパンツ姿だった。
「あれ、駅で待ち合わせじゃなかった?」
「かなたんの家、駅に向かう途中にあるし……ほら、少しでも長く会いたいじゃん」
「あやむん、赤くなってるよ」
「赤くなってないし!てか、ここで『あやむん』を出すのやめろ」
怒ったそぶりをした後、彩芽はケラケラと笑う。
「さて、今日はどんな『特別な日』にしてくれるのかな?かなたん」
「ハードル、上げないでもらっていいかな?」
「あはは、あたしを満足させるためがんばるんだ、かなたん」
アクセサリー店に行き、初デート記念に大きめのリボンの髪留めをプレゼントした。
彩芽は、とても喜び、すぐにその髪留めをはめた。
「かなたん、どう?似合ってる」
「うん、可愛いよ。今日の服装にもぴったし」
「良かった。ほんとにありがとね、嬉しい」
お昼は、彩芽がどうしても行きたいパスタの店があると言い、そこでパスタセットを食べた。
午後からは、チェーン店のカフェに行き、それぞれ好みの飲み物を頼んで、たくさんおしゃべりした。
「あやめお嬢様、今日のデートはいかがでしたか?」
「とても楽しかったぞよ」
「ぞよ?」
「変な振りをしたかなたんが悪い」
「あはは。楽しかったなら良かった」
「うん、ほんと楽しかった。プレゼントも貰ったし、『特別な一日』になったよ」
「それはよかったでござる」
「ござるって何だよ」
彩芽はケラケラと笑う。
「さてさて、デートはそろそろ終わりかぁ。明日からかなたんは、また『攻略』だね」
「うん、そうだね」
「他の女の子、口説くのは嫌だけど……私たちのことが無かったことにならないようにするために……がんばってね」
「うん、がんばる」
「あー、でも、やっぱりなんか嫌だなー」
「あはは。学校の下校は一緒にできるから」
「その言い方、嫌だー。てか、夏休みにもうすぐ入るし!」
笑いながら彩芽は言ったが、本音だろう。
夏休み、オレたちの進学クラスは課外がある。でも、彩芽たちの情報クラスは課外はない。
優花さんとの間にある見えない『壁』。
それを壊す方法は、まだわからない。
でも、凜や彩芽と過ごした時間を、無かったことにしたくない。
だから、オレは。
また次の『月曜日』へと向かう。
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