第18話 居場所(前半、別視点)
サブタイトルを変更しました。
その瞬間、あたしは大きく目を見開いた。
頭の奥に、何かが流れ込んでくる。
一つじゃない。
いくつもの記憶。
一緒に笑った帰り道。
どうでもいいことで盛り上がって、くだらないことで笑って。
好きな音楽。
好きな食べ物。
好きなスポーツ。
距離を縮めようとするかなたんを笑って避けていた自分。
「あやちゃんって、明るいだけじゃないよね」
踏み込まれそうになった瞬間。
「やだなー、かなたんったら。」
笑って、逃げた。
「オレで良かったら、話聞くよ」
そして、いよいよ踏み込んできたかなたんを、
「そういうの重すぎて全然無理!」
あたしは、完全に拒絶した。
あの時の、自分の声。
笑って、逃げて。
最後は笑うこともできなかった。
――怖かった。
全部。
知られるのが。
見られるのが。
踏み込まれるのが。
――それなのに。
プールサイドの記憶が、浮かび上がる。
何も聞かれなかった。
何も言われなかった。
ただ、隣にいた。
「……そっか」
その一言だけ。
それだけなのに。
――楽だった。
―――(視点変更)
しばらくすると、彩芽の表情は柔らかい笑顔に戻った。
「……ああ、そっか」
小さくつぶやく。
「あたし、何回も逃げてたんだ」
「笑って、ごまかして、軽く流して」
「かなたんが近づいてくれようとした時、いつも自分から距離を取ってた」
オレの方を向く。
「でも……」
「本当は気付いてた……ずっと……楽しかった……かなたんと一緒にいる時間が」
「でも……怖かった」
「ほんとの自分を見せて……拒まれるのが怖かった」
「だから……踏み込ませなかった」
いつの間にか、彩芽の頬には涙が伝っていた。
「でも」
「かなたんがいる」
「あたし、ちゃんと、ここにいられた」
彩芽がオレの目を見て語り掛ける。
「……ねぇ、かなたん?」
「ん?」
少しだけ、言葉が震える。
「あたし……」
言葉が詰まる。
「怖い」
小さく息を吐く。
「また、同じになるかもしれない……重いって言われるかもしれない……引かれるかもしれない」
「それでも……」
「やっと見つけた、あたしの居場所」
「ねぇ、かなたん……あたし、ここにいていい?」
オレは少しも迷わなかった。
「好きなだけいるといい」
「……そっか」
彩芽が柔らかい笑みを浮かべる。
張り詰めていたものが、ふっとほどけるのが、オレにはわかった。
「あたし……ここにいるから」
そう言った後、彩芽はいつも見せてたようにケラケラと笑う。
「ああ、おかしい!こんなことってあるの?何が何だかわからない……」
笑いながら、目をこする。
「でも……かなたんが見つけてくれた」
「何を?」
「あたしの居場所」
「好きなだけいるといい」
オレはさっきの言葉を繰り返した。
「なら、お言葉に甘えちゃおうかな」
夕焼けが、少しずつ夜に変わっていく。
彩芽は座ったまま、頭をオレにもたれかける。
拒まれないことを確かめるように。
オレは何も言わずに、それを受け止める。
オレは、何度も間違えた。
好きなことを聞き出そうとして。
心に踏み込もうとして。
その度に、彩芽は心を閉ざし、逃げていった。
そして、今回。
オレは間違えなかった。
彩芽は『居場所』を選択してくれた。
踏み込まず、受け止めることで、オレは『居場所』になることができた。
辺りが暗くなってからも、
二人はしばらく、そこから動かなかった。
その時間を壊したくなかった。
ここまでが第2章になります。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
33話まで引き続き、毎日更新を続けます。
これからも引き続き、読みにきていただけると嬉しいです。
後書きで失礼しますが、1話にミスが見つかり、修正しました。良かったらご確認ください。
また、ブックマーク、リアクション、評価、感想等、とても励みになります。いただけたら有難いです。




