第13話 一歩
彩芽攻略3周目
月曜日。
朝の優花さん、ひかりとの会話はルーティンのようにこなす。
昼休みに彩芽に声を掛け、一緒に下校した。
1周目と同じように、とにかく彩芽との会話を楽しむことに集中した。
月曜の夜、優花さんに会うのは一旦やめることにした。普通の会話をしても進展はないし、どう踏み込めばいいのかもわからないので、今は彩芽に集中することにしたのだ。
火曜日は「かなたん探検隊」のくだりで盛り上がった。
水曜日。
この日も雨。
傘をさして並んで歩く。
「なんかさ、最近ずっと雨だね」
「梅雨だからね」
「テンション下がるわー。でもまぁ、かなたんと帰れるからプラマイゼロだな!」
「それってオレの価値、軽くない?」
「そんなことないよ、かなりの高評価よ?あたしの中ではかなたんはランクS!」
「基準がわからない」
「あはは!」
今日も、よく笑う。
本当によく笑う。
でも、この明るさの奥に何かあるような気がしていた。
会話は弾んでいる。
距離も、確実に近づいている。
それでもーー
どこかで線を引かれているような感覚があった。
一歩踏み込もうとすると、すっと距離をもどされるような。
深い話になると、軽く流される。
話題は、明るい方向にすぐに戻される。
それが意図的なのか、無意識なのかはわからなかった。
――――――――――
木曜日。
ケラケラと笑いながら会話を楽しむ彩芽に、オレは一歩踏み込んでみることにした。
「あやちゃんってさぁ……」
「どうした、かなたん?」
いつも通りの、明るい声。
だからこそ、少し言いづらい。
「いや、あやちゃんって、めちゃ明るくて、一緒に話していてめちゃ楽しい」
「どうしたんだ、かなたん。改めて言われると照れるぞ!」
いつもの調子でケラケラ笑う。
「でも……」
オレは切り出す。
「あやちゃんって、明るいだけじゃないよね」
「……え?」
「ずっと楽しいだけじゃなくて、何か抱えてるものがあるのかなーって、ちょっと思った」
ほんの一瞬。
彩芽の笑顔が、消えた。
――その瞬間、
彩芽の頭上に『5』という青い数字が浮かび上がった。
――出た。
初めての変化。
彩芽が無表情になった瞬間が頭から離れない。
あれは、見間違いなんかじゃない。
今まで見て来た彩芽のどの表情とも違っていた。
笑っていない彩芽。
明るくも、元気でもない彩芽。
――本当の顔。
そう思った瞬間、胸の奥がざわめいた。
踏み込めば、届くかもしれない。
でも、同時に踏み込んではいけない場所のような気もした。
あの笑顔の奥にあるものにどこまで触れていいんだろうか。
彩芽はすぐに元の笑顔に戻る。
「き、急に変なこと言うからびっくりしたじゃん。やだなー、かなたんったら。あたしは、明るく元気なスーパー美少女、それだけだよ」
言って、いつものようにケラケラと笑う。
ふいに見せた無表情、そして、頭上の『5』の数字。
……迷った。
でも、オレは、踏み込む選択をした。
「あやちゃん、オレで良かったら話――」
「あはは、まだ、言ってる。かなたんは、楽しく話してくれたらそれだけで十分だよ。楽しいのが一番!……そういうのは、重くなるから苦手なんだ……それじゃあ、また明日ね」
「ごめん、明日は友達と約束があって」
「そっかー、残念。なら、来週も時間がある時、一緒に帰ろう」
「うん、あやちゃんと話すのほんと楽しいから、来週も一緒に帰ろうね」
「そんじゃ、また来週会おう!バイバーイ」
1周目と同じように彩芽は元気よく帰っていった。
振り返ることなく歩いていく彩芽の背中を見ながら、オレは、さっきの一瞬の変化を思い返していた。
あの無表情と、頭上に浮かんだ青い『5』の数字が、頭から離れなかった。
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