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追放された魔女の私、奴隷の堕天使を買ったら無双し放題だった  作者: 紫煌 みこと
第2章 堕天使の復讐 女神へのざまぁ
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第19話「ミラル、堕天使と女神へのざまぁ」


「リタあああああ!!」

「……」


 俺のもとに、ミラルが走り寄ってくる。

 ……一瞬、幻かと思ってしまった。水魔法しか使えない非力な少女が、どうにか天界までやってきて、俺の名前を叫んでいる事実が。


「ミラル……」


 ……いや。

 きっと俺は罵倒される。

 奴隷のくせして、勝手にどこへ行ったんだと。俺だって、嫌われる覚悟でやったことだ。それがミラルの、未来の幸せに繋がるならば、良かれと思ってしまった。


 最初にかけるべき言葉は、「すまない」か「来たのか」か。

 いやむしろ、何も言わない方がいいのか? 俺はそういう言葉を器用に使い分けられないんだ。


「……」



 何も言えず、床に座ったまま呆然としていると――

 ――ミラルが、俺に抱き着いてきた。




「なんで勝手にどっか行っちゃうのおおおおおお!!」


 俺の首元を、彼女の腕が必死に掴んでいる。

 肩が濡れた。泣いて、いるのか?


「酷い!! わかってるけど……あなたがやろうとしてたことは……でもあなた、私と一緒にいたいって言ってくれてたじゃん! 私は嬉しかったんだよぉ!!」

「……!」

「なのに黙ってどこかへ行かないで……。あなたが勝手に消えて残る日常なんて、私にとっては幸せでもなんでもない。でも」


 ミラルが取り出したのは――黒い羽根。

 間違いなく、俺の翼から抜けたものだ。


「これが教えてくれたの」

「……?」

「私、あなたが好き。だから助けたかったし、まだ一緒にいたい。それでも、あなたには幸せになってほしい。好きの一言で説明がつくの」


 好きの一言で、説明がつく……。

 そうか。俺もすべて、ミラルが好きで選んだことだったのか。

 しかし、俺の選択はかえって彼女を、深い絶望に突き落としていた……



 それでも、ミラルは俺を罵らなかった。


 

「……ミラル。俺は……」

「謝らないでよ。謝らなくていいから……お願い、もう勝手に私から離れないで。一緒に神を倒そうって……言ったじゃん」

「……すまなかった。俺だって、ミラルのことを考えていたつもりだったんだ……」


 ミラルの頭には、白い冠がズレた位置に乗っている。

 俺はその冠を、そっと付け直してやった。





「……あー、良い感じのところを挟んで悪いのじゃが」


 突然、背後から声が聞こえた。


「……」

「わらわのことを忘れ、想いの語り合いをしているとはどういうことじゃ。わらわは不愉快じゃぞ」


 後ろを振り返ると、険悪な表情を浮かべているレナスがいた。

 目がつりあがっている。だが、その視線を向けられているのは俺ではなくミラルだった。


「なぜ人間が天界におる。誰じゃ、ここまで連れてきおった異端者は」

「あなたがレナス? 思ったよりちんちくりんなのね。理不尽だらけの嫌われ女神?」


 ……ミラルが突然、神に対してとんでもない言葉を発した。


「お主……自分で何を言ってるかわかっておるのか?」

「わかってるわよ。だってあなたを倒しにきたのよ。 ねっ、リタ!」


 ついにミラルも宣戦布告しちまったか。

 ――まぁいい、俺もさっき女神に喧嘩を売ったばかりだ。だがミラル、すまない……今の俺は……


「……さっき魔力の放出を失敗して、逆にダメージを負ってしまった。しばらくまともに動けそうにない」

「……えっ!?」


 ミラルが目を丸くしてきた。

 わかってる……。悪気はない。さっき女神を倒そうと思って、最大魔力を出しすぎた。

 ……ミラルが傍らにいないと、戦えぬという。しかし彼女がやってきても、戦力が湧くような感覚はなかった。


「リッ……リタが戦えないのはまずいってぇぇ!」


 ミラルは嘆くような口調で叫び、身を起こす。

 ふと顔を上げると、翼を濡らした天使の兵たちが大勢来ていた。


「人間ごときが神聖なる天の国に足を踏み入れるなど、断じて許せん。天使よ、そやつらを消せ」


 レナスが氷のような冷たい口調でそう言い放つ。

 まずいな。この数の天使相手に、対抗できるのだろうか。堕天使として生き延びることで俺は強大な力を得たのだが、天使だって、人間とは程遠い魔力を持っているのだ。


「どうしよう。私、もう魔力の残量少ないよ……」


 ミラルが焦った表情をしている。万事休すなのか?





 ――だが、天使たちの口から出た言葉は、意外なものだった。


「おい、見たかよ。あいつら女神を倒すって言ったぜ」

「マジだわ……。驚いた。そんなこという天使、今まで一人もいなかったのに」

「……な、なぁ。僕らも協力しないか? 全員で行けば、もしかしたらあの神に勝てるかもしれないだろ」


 周囲がざわめき出す。

 この状況で、一番困惑しているのはレナスだった。


「天使たち、何故に戯けたことを申しておる」

「……調子に乗りすぎないでくださいよ、女神様……」

「なんじゃと? わらわに反旗を翻すというのか!?」

「そうだよ、アホ女神!!」

「あああああああ!! わらわを馬鹿にしおって!!」


 レナスが地団太している。あれじゃただのガキだ。


「どいつもこいつも思い通りにならぬ奴らめ! わらわへの忠誠は偽りじゃったというのか。ならよい……よいわ!」

「!!」

「お主ら出来の悪い天使は排除してやる。その前に、小娘からじゃ!」


 レナスが指を弾けるように鳴らす。

 ――すると突然、空中に巨大な穴が出現し、魔のエネルギーの塊が降り注いだ。


「うわああああっ!!」

「逃げろ!!」


 天使たちは逃げ惑う。

 ミラルも必死だ。あんなものが直撃したら、人間なんてひとたまりもない!


「何よこの攻撃!! やめてよっ!!」

「……まずい、ミラルが……」


 このままでは、ミラルが攻撃されてしまう。

 怒り狂ったレナスを止めるには、遠距離の攻撃を放つか、あの爆弾の雨を突っ込んでいくしかない。

 だが、天使たちはミラルや俺に危害が加わることを恐れ、遠方からの魔法を放とうとしていない。ミラルはすでに魔力が限界だ。

 ……この状況で、誰があのレナスを倒せるんだ……




 しかし。


「いやああああああああっ!!」


 ミラルが悲鳴を上げた。足元に攻撃が当たり、壁へ吹き飛ばされたのだ。

 この瞬間、俺の中で何かが切れる気がした。


 俺はふと、初めてミラルと会った日のことを思い出した。


『堕天使君、あの兵士たちを追い払って!』


 俺は彼女に命令されるがままに動いていた。

 ミラルを守るのが俺の仕事だ。ミラルを守ることが、俺にとって最も重要なことだった。

 ……彼女を傷つける奴は、誰であろうが許さない。絶対にだ。


「……それ以上攻撃を加えるな、レナス」

「まだ立ち上がれたのか」


 俺は身を起き上がらせた。

 ……もとある力が眠りから覚めるように、俺の体に魔力と体力が一気に流れ込んでくる。


「もうお主はくたばったも同然かと」

「……ミラル、俺に命令をくれないか」

「……え?」


 俺が振り返ると、ちょうど壁にぶつかったミラルが身を起こしていた。


「な、なんで命令? 急に何を?」

「最初の頃みたいにだ。お前が言えば、俺も全力でやる気が起こる気がする」

「……そんな夢みたいな話あるぅ? で、でも、あなたが本気出すってなら……」


 ミラルが片足を前に出す。

 俺も静かに、真っ黒な翼を左右に広げた。



「リタ! あの女神をぶっ倒して!!」



 次の瞬間、俺は床を蹴って飛び上がった。

 この神玉の間で、神より高い場所から見下ろしたのは初めてだ。


 俺は全身に魔力を込める。

 今ならいける。最大限の力を突破して、地上で使った力の何倍も出せる。


「なっ……! お主、復活したのか! やめるんじゃ!」


 レナスが両手を広げて魔法を出そうとしてくる。俺の魔力溜めを妨害するつもりだ。

 ……しかし、群がってきた大勢の天使たちが、その行為を邪魔した。


「お、お主ら邪魔じゃ!!」

「全員でこいつを止めるんだあああ!!」


 思い通りにならず、女神の奴も荒くなっている。

 ――そろそろだ。魔力が溜まる。女神が放った攻撃の何倍も大きいエネルギー球を飛ばしてやる。


「リタ! なにその魔法!? 私知らないんだけど!」

「天界の者にしか扱えない」

「……とにかく、やっちゃって!!」


 ふと下を見ると、女神が天使たちを振り払ったところだった。


「ええい。邪魔者だらけでムカつくのじゃ!」


 ……ちょうどいいな。今魔力を放てば、他の者に危害を加えず、直接女神だけを狙える。


「レナス!」

「……なっ、お主、それは――!!」


 俺の頭上には、人間ひとりは丸々と呑みこんでしまうような、紫の火球ができていた。


「お主、まさかわらわにそれを放つのか? いくらなんでも――」

「……やめねぇよ。俺は絶対に躊躇はしない」


 出せる最大の魔力を込めたんだ。

 可愛さの欠片もない暴君め。これでも喰らって頭を冷やしやがれ!


「あああああああああああああああああああ!!」


 絶叫する神に向かって、俺は魔力の塊を、力強く放った。

 そして――

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