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追放された魔女の私、奴隷の堕天使を買ったら無双し放題だった  作者: 紫煌 みこと
第2章 堕天使の復讐 女神へのざまぁ
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第18話「ミラル、天界へ降り立つ」


「ねぇ、もっと早く飛べないの!?」

「無茶言うなぁ! 俺にはこれが精一杯だ!」


 今、私はメゾンの背中に乗って、遥か上空を飛んでいる。

 すでに雲より上までには到達している。しかし、天の国というものは一向に姿を見せない。


 急いでるんだから、早くしてよね。

 私その気になれば、背中から急にメゾンへ攻撃できるんだから。


「どこにあるの? あなたたちの住む場所って」

「……わ、わからなくて当然だ。上位天使が持つ特殊なゲートを使わないと、人間は見ることすら不可能なんだぜ」


 なるほどね。だから天の国の存在などは、伝説上ぐらいでしか地上に伝わっていないわけだ。

 ひょっとして、天界に行く人間って、私が初めてなんじゃないかな?


「うわっ、最高! 天界についてのレポートとか、王城の研究で書いたらビッグニュース間違いなしじゃん! ……あ、でも、誰も信じてくれないか」

「うわあああ、最悪だ! 人間が天の国に入るだなんて、前代未聞なのに。俺、神様に殺されるんじゃ……」

「大丈夫よ、その神様を今から私とリタでぶっ飛ばすから」


 それを聞くと、メゾンが青ざめて私の顔を見つめてきた。


「正気かよ!? 誰も逆らえない最強の女神様に!? というかリタの奴、もう生きてるかわかんねぇぜ。神の怒りを買っていたら、とっくに消えてるかもしれない」

「……いや、リタは生きてる」


 私は懐から、一枚の羽根を取り出した。

 羽根は朽ち果てることなく、紫紺の輝きを放ったままだ。


「天使って、絶命したら消えちゃうんでしょ。この羽根が残っているってことは、リタは死んでいないし、天使に戻ってもいない」

「……」

「私、彼を絶対に助ける。だって好きだから」


 メゾンに話しているつもりはない。

 独り言のように、それでも気が付けば、言葉に力がこもっていた。


「最初は私が彼を助けた。でも、彼も私を助けてくれた。私たちは支え合ってるの。互いに足りないところを補って、どちらかが倒れないように」

「……支え合い……」

「天使だとか堕天使だとか関係ないの。私の目には、彼はひとりの男として映ってる」


 最初は護衛用の奴隷でしかなかった。私にとっても、彼は堕天使だった。

 でもかかわるにつれて変わった。彼は私にとって大事な人だし、幸せになってほしい。


 メゾンが、静かな様子でつぶやいた。


「……俺は天使だから、恋愛とかはわかんねぇんだよな。リタはお前のことが好きなのか?」

「……わからない。でも、夢の中で私は、リタに好かれてるって言われた」

「なんだよその都合よすぎる夢!」


 大声で笑ってるメゾン。

 私は苛立って、こいつの頭を思わず殴ってやった。


「いでっ!!」

「早く天界に行きなさいよ、嘘つき天使! 後で働いて、村人たちにお金をたんまりと払いなさいよ」

「ひいっ、悪かったって! あれ考えたのレナス様なんだよ。俺は過酷労働は御免だぜ……」





 やがて、雲よりもさらに上空まで飛び上がった時、メゾンが言った。


「ゲートを開くぜ」


 彼は両手を前方に広げる。

 すると、真っ白な光が輪円状に現れ、空中で巨大化した。


「これがゲート……?」

「入るぜ。急に景色が変わるから、驚けよな」


 私とメゾンは、ゲートへと一直線に突っ込む。




 すると次の瞬間、私の視界に広がったのは――

 すべてが白に統一された、純白の雲に浮かぶ世界だった。


「……なにこれ……!?」


 リタが前に言ってたとおりだ。草も森もない。

 あまりに単調な色彩だ。いや――色がない世界なのか?


「天使は綺麗な金色の輪っかを持ってるのね。みんな金髪だし……」

「おっと、俺の背中に隠れろ。わざわざお前が見つかりにくいように、俺はゲートを上空のほうで作ったんだぜ」


 メゾンが腕を軽く広げて、私を隠すような姿勢を取る。

 背後には誰もいない。たまに空を飛んでいる天使たちは、生気がないような顔をして、ふわふわと飛び回っているだけだ。


「もうここまで連れてきちまったし、しゃあねーよ。……女神様を倒せるなら、やっちゃってくれや」

「……えっ?」

「あの神様……正直言って、理不尽が多くて俺は嫌いだ。急にリタを呼び戻したいってな、俺らに命令を突き付けてきたんだ。そんで手配書をばら撒けとかいう意味わかんねぇ要求してきてよ。天使どもも苦労してんだ。前の神様はマシだったのになぁ」


 メゾンの意外な言葉に、私は驚いてしまう。

 ……今の神様、リタだけに対して偏見をしていたんじゃなくて、天使全般に対して無能だったわけ?


「ほらよ、あの宮殿。レナス様がいるぜ。おろしてやるよ」

「……」

「恋だか愛だか知らねぇが、お前らなら、何とかできるんだろ?」





(もちろんできるし。舐めるんじゃないわよ!)


 私は向かう。何も持たず、堂々と宮殿の中へ。

 たちまち武器を持った天使たちが、私の姿を捉える。


「なっ……。誰だあの女は」

「……まさか人間か!?」

「嘘だろ、どうやって天界に――」


 驚くでしょうね。人間なんていう、天には程遠い存在が雲の上にやってきたのだから。

 こいつらが戸惑っている間に、私は水の竜巻をその場に生み出した。


「貴様、これ以上近づくのなら――」

「うるさいわ、これでも喰らいなさい!!」

「……うわあああああっ!?」


 武器を握っていた天使たちは、不意を突かれ、防御用の魔法を出す余裕すらなかったらしい。

 たちまち私の竜巻に巻き込まれ、全身が水浸しになった。


「うぅっ、飛べん……、背中が重い……」

「翼が濡れたら弱るって、実戦で知ったから。……って、そんなことどうでもいいわ。ちょっとあなた!」


 私は倒れた天使に掴みかかった。


「リタはどこにいるの!?」

「り、リタ? えっと、誰の事……」

「堕天使のことよっ!!」

「あ、レナス様のもとに――って、やべっ!」


 天使は口を押さえて青ざめる。


「体が冷えて、判断がバグっちまった!」

「何教えてんだよお前! 早くあいつを止めねぇと!!」


 天使たちが立ち上がってくる。濡らしたとはいえ、直接ダメージを与えたわけではないのだ。


「ハァッ、ハァッ――」


 とはいえ、走り出したのは私の方が早い。

 他の天使たちからの猛攻を受け、何とか身を躱す。時には水魔法を噴射して時間を稼ぎながら、私は長い廊下を駆けて行った。


「うわっ!!」

「なんだっ!?」


 もはや私の脳裏には、彼のことしか映っていない。


(もうすぐで……もうすぐだから、リタ……!!)


 邪魔をしてくる天使たちは魔法で蹴散らし、私はただひたすらに走った。






(俺……殺されるのか)


 頭上でレナスが、天使たちに俺を殺すよう命令していた。

 ……駄目だ。本当に力が出ない。魔力を溜めすぎた反動で、体が動いてくれない。


(なんで俺、ミラルがいないと……)


 自分でも信じられない。

 好きな子がいないと、まともに戦うことすらできないだと?


 あぁ……

 俺も堕落したものだ。


「……」

「……む、待て、天使たちよ」


 俺に歩み寄る天使を、レナスが止めた。

 ……なんだか背後が騒がしい気がする。


「廊下の方から騒ぎ声が聞こえるぞ。確認してこい」

「はっ!」


 天使たちが廊下に走り去っていく音がした。

 何か事件でも起きたのか? 俺には、確認する余裕すらない……


 すると突然レナスが、驚いたような表情を見せた。


「……なに? 人間?」

「レナス様! 水魔法を操って走ってくる人間がいます! わ、我々じゃ手に負えないです!」

(……なんだって?)


 待ってくれ。今、人間と言ったか?

 いや、まさかな。上位天使でなければ、天界と地上は行き来できない。


 ……それに、俺はきっとあいつに嫌われた。黙って置いていったからな。

 あいつが追ってくるわけ……





「リタああああああああああ!!」


 叫び声が聞こえた。

 ――まさか、あいつがやってきたのか?


「ミッ……ミラル……」


 力を振り絞って、俺は起き上がる。

 ――レナスが睨む先には、息を切らした少女が、ひとりで立っていた。

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