第2話 幕間
とある日の帝国、その首都ヴァルハラの
スラム街に彼と彼女は居た…。
(相変わらず独特の空気があるな…)
と、先ゆく少女の背中を眺める少年…。
ここがスラム街の一角であるとは、思え
ないほど軽やかな足取りで先ゆく少女の
無邪気さに苦笑しつつも、歌姫の騎士…
アイオーンは、この帝国の生き神として
祀られる歌姫マリア アンコールの背中
を眺めていた…。
本来であれば、帝国政府の中枢を担う、
歌姫信仰の中心にある歌姫の護衛役は、
マリアの脇を固めるべきだが…歌姫の
護衛は、アイオーンが独りで担ってい
る訳ではない。アイオーン以外にも、
帝国最高位の座に座る賢人の次に魔力
を秘めている、白銀の魔眼を持つ猛者
達が、陰ながらに護衛についている…。
護衛と云う名目の監視ではあるのだが…。
「相変わらず整備さえされてないね」
歌姫マリアは、瓦礫が散乱し独特の空気
に包まれスラム街を見渡し、アイオーン
に視線を向ける。
スラム街の瓦礫の山を眺める歌姫マリア。
一歩…離れて進んでいたアイオーンは…、
マリアの脇に立ち「まぁ…な…」と呟く。
「なんで?ちゃんと整備しなのかな」
と、呟くマリア。帝国の首都ヴァルハラは、
三重の区画に別れた階層社会。中央に近い
ほど、発展しているが…外側の区画は外敵
に侵入された際…、いつでも切り離せるよ
うになっている。
「以前…教えたとうりなんだがなぁ…」
と、言うアイオーン…。
「それは、分かってる。伝承の時代…、
初代の歌姫様を誕生させたヴァルハラの
悲劇に原因があるんだよね…」
「正解だ…。」と、短く返答し、アイオーン
は、歴史をマリアに紐解く…。
伝承の時代。初代の歌姫は、巨大な港を
持つ小国の巫女として生まれ、天に居る
とされる絶対神の寵愛を受けた。しかし、
初代の歌姫は、絶対神の寵愛を無視…。
それに困った絶対神が戦を司る女神に、
寵愛の件を相談し、戦を司る女神は…、
絶対神の寵愛の証として、初代の歌姫に
神の声を発声させる声帯を与えた。と、
ここまで話せば!!単なるお伽話だが
問題は、その後だ…。巨大な港を持つ、
小国の領土を、巡る大国同士の衝突に
幾度となく領土を侵されつづけてきた、
現在のヴァルハラで、大国同士の争いが
起き、現在の歴史にヴァルハラ誕生の悲
劇と、言われる大虐殺が起こり、歌姫は、
神の声を歌として発声させ、現在の帝国
国民に魔法の威を与えた。
歴史に刻まれる程の大虐殺…その結果は、
小を切り捨て大を護る究極のトロッコ問題
のアンサーをだしたようなものだ…。
(帝国の場合は、量より質か…)
と、思いに耽るアイオーンを横目にマリア
は、「ふ〜ん」と、一応は、納得している
様子だが…理解までしていない様子で再び
歩み出す…。マリアの姿を目で追うアイオ
ーン。そこで、数歩…進んだ所で、マリア
の足が止まる。建物の死角…、狭い通路の
入り口で硬直するマリア…。
何事か!!と、アイオーンは臨戦体制に
入り、マリアを背中に隠すが…、マリア
が硬直した正体を瞳に宿し、脱力する。
スラムの一角、瓦礫の山の中で辛うじて
形を成している建物が造る路地裏には、
一糸纏わぬ姿の幼い売春婦と、それを買
った、男性の交わりが行われている最中
であった。帝国の階層社会の底辺で暮ら
すスラム街の住人達にとっては、当たり
前の光景であるが…きらびやかな世界で
暮らすマリアにとっては免疫のない場面
であった…。
(よし!見なかった事にしょう)と…
マリアを下がらせるアイオーン。しかし
マリアは、意外な程に力強く前に踏み出
し、一声を放つ…。
「なにやってるんですかぁぁ!!」
マリアの一声!不味いものを見られた!
と、逃げ出す買い手の男性。その後ろ姿
を、ポカーンと見送る幼い売春婦…。
(あちや〜……)と思っても、もう遅い。
(なんとかケリをつけるか)とアイオー
ンは、顔を顰めた…。
幼い売春婦に駆け寄り「怖かったね〜」
と、包容するマリア。しかし…、
「なんてことしてくれてんですか!?」
と、幼い売春婦に突っ張られ戸惑うマリ
ア。(まぁ…当然か…)と、アイオーンが
マリアと幼い売春婦の間に入る。
「すまないな…。うちの主は、若いから
免疫がない。これで…足りるか?」
と、銀貨数枚を手渡すアイオーン。幼い
売春婦は、突如の高報酬に「ええ!」と
喜びの笑みを浮かべた。
「????」と首を傾げるマリア…。
なんの力もない非力な者は、奪うか
奪われるしか選択肢がない。自らの
春を売るのは…、奪われるものか??
逃した客の分以上の稼ぎを手に笑顔の
売春婦と困惑する歌姫マリア。
(さて…どう説明する?)と、頭を
悩ませるアイオーン。
幼き売春婦は、「こんなにくれるなら少
しサービスしますよ」と、円満の笑み。
「いやいやいや…」と、上手く躱そう
とするアイオーンは、作り笑いで場を
流す。と、そこで…「ねぇ!!」と、
マリアが割って入る。
「ごめん!!怒ったのは、私が邪魔し
たからだよね!?オリンから聴いた事
があった。スラムでは、売春行為が…
当たり前!!って…。ごめん!!お詫
びさせてくれないかな?」
売春行為の邪魔をした分の報酬は、
オリンことアイオーンが相場の倍を
支払っているが…。
(まぁ…歌姫様の気が済まないか)
と、思い「うちの主の好意を受け取って
くれないか?」と、幼き売春婦に提案する。
幼き売春婦は、少し戸惑いながらも…、
「まぁ…稼ぎになるなら…」と了承して
くれた。
「ありがとう」と、主の自己満足に付き合
わせる事にアイオーンは、幼き売春婦に、
謝罪の謝礼を述べた。




