7拒否された電話
「こちら青倉国立医療センター、受付田村です」
「あの、私、週刊誌の記者をしております佐光といいます。そちらで勤務している精神科医の伊勢裕也さんに半年前にあったコンサート殺人事件の犯人に精神鑑定を行ったと聞き、伊勢先生に取材を申し込みたいと思い、電話させていただきました」
「はあ、……確認を取りますのでしばらくお待ちください」
明らかに受付の女性は声のトーンが低くなった。
保留の音楽がリピートを続け、十分ほどまった後、先ほどとは違う男性が電話口に出た。
「お待たせいたしました。私、青倉国立医療センターの広報を担当している者ですが、当院では取材はお引き受けしておりません。せっかくお電話いただいたのですが、ご協力できず申し訳ありません」
「えっと、――」
俺が話そうとした時、電話は無情にも切られてしまった。
「ったく。ガチャ切りなんてどうなっているんだ? 感じが悪い。まあ、取材を受けてくれるとは思っていなかったけどな」
俺は気分を変え、高橋彩佳に取材依頼の電話をしたが、電話口で「あの事件のことは思い出したくない」ということで彼女にも話を聞くことはできなかった。
まあ、目の前で人が殺されたんだ。
思い出したくはないだろう。
他の人物に取材が出来たのは良かった方だ。
さて、一旦事務所に戻るか……。
俺はそこから数日の間、事務所で記事にするために取材していた物を文章に書きはじめた。
……記事にするにはまだまだ足りないことだらけだな。
取材した女性たちは悲痛な胸の内を語ってくれていた。だか、事件を起こした本人は事件のことなど気にしていないかのような感じに思える。
この温度差は一体何だ?
やはり土井ゆかりの考えは理解できないな。行動に理由があるのか?どうしてそんな考えに至ったのか知りたくなってくるな……。
そうして先日、ようやく刑務所に取材し、刑務官から土井ゆかりの現在の状況を聞くことができた。
彼女は最初、大人しい態度を見せていたようだ。独房に入った時は模範囚のような感じだったらしい。
日を追うごとに刑務所に慣れ、午前中は作業を行うようになっていたのだが、そこで他の受刑者に注意され、カッとなって襲い掛かったのだとか。
注意した相手は嚙みつかれ、爪で引っかかれて大怪我を負ったらしい。
現在は作業を中止し、一人で過ごしているそうだ。
その取材時に、彼女からの手紙を受け取っていると刑務官から直接手渡された。
取材を終えた後、俺は事務所に戻り、彼女の手紙を読むことにした。
―佐光さんへ
お久しぶりです。ゆかりです。部屋から見える木が枯れ葉になっているのが見えてちょっと寂しく感じます。佐光さんはどうですか?
もしかして彼女さんと一緒に過ごしているのかな?そうならちょっと寂しいかな。家族の誰も面会に来てくれなくて。一人寂しく過ごしています。
母に手紙を送ったんですけど、返事はないし。お兄ちゃんは住所が分からず手紙も送れないんです。本当に一人なんだなぁって思うとちょっとしんどいかも。鳥はいいですね。
どこにでも飛んでいける。私はずっとここに居なきゃいけないし。早くここからでれるといいなぁ。暇しているんで、また手紙下さい。待っています。
ゆかりより―
事件から既に半年以上経っているのにも拘わらず、家族は一度も面会に来ていない上に、連絡もないのか。
軽い雑談程度の手紙のやり取りをしていた当初から、彼女の置かれた家庭環境はあまりよくないのだとは思っていたが。
最初の方は毎回手紙に母の愚痴が書かれていた。
たまに兄の愚痴も書かれてはいるが、どこか気を使っている様子は見て取れた。
そして不思議なことに父のことは「小学生の時、〇〇してくれた」という過去にしてもらったという内容ばかりだった。
父と母の書き方の違い。
これは両親との距離感の違いか……?
彼女の中では母の存在が大きいのかもしれない。母親に関しては愚痴が書かれているが、楽しかったことや嬉しかったことが殆どない。
円満な家庭とはほど遠いものなのだろう。事件について、よりも犯人の人物像を重点的に調べて記事にしていくのがよさそうだな。




