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彼女はなぜ無差別殺人事件の犯人になったのか  作者: まるねこ


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4/9

4田中鈴の母

半年以上経った今、他の記者からの情報で怪我をした人の氏名は分かっている。


俺は病院側へ取材依頼を行わずに直接病棟へと向かった。ばれたら追い出されるかもしれないが。


週刊誌の記者という肩書では取材依頼をしても断られるに決まっているからな。


「資料にあった病室はっと……」


直接入院病棟へ入り、名前を確認すると、やはり彼女たちはまだ病室にいた。


重傷だった二名は部屋の奥にいるようだ。


扉の前で俺は家族に取材許可をもらおうとしたその時、家族らしき女性が部屋から出てきた。


……俺は運がいいな。


「あの、すいません。私、記者の佐光と言います。先の事件を調査しているのですが、少し話を伺いたくて……。ここの病室のご家族ですか?」


俺は丁寧に家族に話し掛けた。


俺を見て警戒するように一歩後ろへ下がった。中年の女性は眉間に皺をよせ、不審者を見るような目で俺を見ていたが、名刺を見せると、「談話室で少しなら」と話をしてくれることになった。



ありがたい!

こういう時、断られることも多いからな。


談話室は明るい部屋になっていて、いくつか机が設置されているのだが、今の時間は誰も使っていないようだ。


俺とその女性は窓際のテーブルに向かい合うように座った。


「お時間を取らせてしまい申し訳ありません。えっと、薮片さんのご家族ですか?」

「いえ、私は田中鈴の母です」

「そうでしたか。田中鈴さんの怪我の具合はどうですか」

「お陰様でうちは来月には退院する予定なんです」


確か資料では重傷者のうち一人は病院に到着後、死亡が確認された。残る重傷者は二名。軽傷の六名は腕に怪我をしていたり、背中を斬りつけられていたりしていたはずだ。


意識不明の女性は、小林加奈という女性で、彼女は後ろから刺され、ちょうど肋骨の間に刃が入り、肺まで達していてその場で絶命してもおかしくなかったと記されていた。


重傷の田中鈴という女性も腰を刺され、今もなお立ち上がる事ができないという話だ。彼女は退院できるまで回復したのか。


「他の方たちは既に退院したと聞きました」

「ええ、そうね。よく知っているわね。軽傷の人達はすぐに退院してうちと小林さんだけになったわ。うちも退院の目途が経って嬉しいけれど、彼女のことを思うと心苦しくて……」


鈴の母は複雑そうな表情をして窓の外に視線を向けた。


「軽傷の人達はどういう怪我だったんですか? 彼女たちとお話はされたのですか?」


「ええ、同室していた人たちとは。事件当初、私たち家族に気を使って誰も話し掛けてこなかったけれど、鈴は元々明るい子だったから他の被害者の方に自分から話し掛けていったの。

加奈さん以外は話すようになったわ。その時に他の方の怪我の具合を聞いたの。


鈴の右隣にいたお友達は腕を深く傷つけられていて六針を縫っていたわ。もう一人のお友達も『危ない』って鈴たちを引っぱった時に、犯人に手を切られていたの。犯人の左側にいた女性は悲鳴を上げたら犯人が振り向いたみたい。


急いで逃げようと、背を向けた時に切られたけれど、服を着ていたのと肩掛けのバッグをしていたおかげで致命傷にはならずにすんだわ。でも軽傷って言っていいのかわからない。


重傷者以外は入院しなくてもいい程度だと聞いたけど、ショックを受けていたし、警察からの事情聴取やマスコミ対策で数日入院になったみたい。他の人の怪我は聞いてないからわからないわ」 


鈴の母は身振り手振りで怪我の具合を説明してくれる。


その状況を細かく俺は聞いてメモを残していく。


「詳しくありがとうございます。鈴さんは犯人の女性と面識はあったのですか?」

「いえ、ないと言っていたわ。あの時、友人と一緒に曲に乗って三人でグッズを手に騒いでいたみたい。突然、叫び声がして気がついたら隣の女が前の人を刺していたって。前の人が倒れて、鈴は『え?』って横を見たら、犯人が自分を切ろうとナイフ? 包丁? だかを振り上げていたみたい。慌てて距離を取ろうとしていたところを刺されたって言っていたわ」


「直接鈴さんにお話するのは可能ですか?」

「事件のことはあまり聞いてほしくないわ。ようやく落ち着いてきたし。この取材で怪我をした人達のことを口にするのは傷口に塩を塗りこむようなものよ」


「……申し訳ありません。ですが俺はこの事件を起こした犯人の女性がどんな人物だったのかを詳しく調べたいと思っているんです。犯人がどういう意図で理不尽な殺傷事件を起こしたのか。

それを知れば今後、同じような事件を起こすのを防ぐ手段にもなります。そのために協力をしていただきたいんです」

「……そう。鈴に聞いてみるわ。もし、話したくないと言ったらごめんなさいね」

「ええ、もちろん構いません」


俺の熱意が伝わったのかは分からないが鈴の母は席を立ち、病室へと戻っていった。


暫くすると、母親は戻ってきて「少しなら取材をしてもいい」と言った。


俺はすぐに彼女の母親の後について病室へと入っていく。




病室の窓は開いていて、風にカーテンが靡いている。六人部屋で現在入室しているのは二人だけだ。右側に田中鈴、左に小林加奈がいた。


小林加奈という女性はあの事件で死亡した小川夕の次に重い怪我をした女性だ。


未だ意識がないと書類には書いてあった。カーテンを少しだけ閉めた状態だったので、彼女の様子を窺う事ができた。


横に座っているのは祖母なのだろう。


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