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彼女はなぜ無差別殺人事件の犯人になったのか  作者: まるねこ


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3/9

3彼女からの手紙

多田さんからの資料には事件のことも詳細に書かれていた。


当時、犯人は舞台の中央やや前の席だったようだ。


コンサートが始まってしばらく問題は起きなかったらしい。だが、会場が最高潮に達した時、容疑者の女は隠し持っていたナイフを振り回し、被害者たちを刺しはじめた。


悲鳴と共に傍にいた観客たちは逃げ、駆けつけた警備員によって取り押さえられ、負傷者は救急搬送され、彼女はその場で警察に逮捕された。


会場は逃げ惑う人の波で大混乱だったようだ。


逃げ惑う人々の様子をスマホで撮影し、SNSに上げている人も何人かいた。


もちろんすぐにテレビ局はニュース速報として報道し、翌日には新聞の一面を飾るほどのニュースになっていた。


あの事件では死者を出し、未だ意識がない人もいる。


土井ゆかりは先日、刑が確定し、刑務所に移送された。本人は上告する気はないらしく、素直に刑を受け入れたのだとか。


俺は刑務所で面会を希望したが、やはり重大事件のため、拒否されてしまった。


まあ、これは仕方がないことだ。


斎藤さんとも話をしていたが、今、記事にするにも後追いすぎる。彼女の出自に関することや、彼女の心境などニュースに出てきていない話題を掘り起こしたい。


と、考えればやはり土井ゆかりに直接話を聞きたいところだ。


だから俺は考えた。彼女の考えを知るためには手紙しかない。だが、直接彼女に手紙を送ることも難しいのが実情だ。


俺は彼女の弁護士を通して彼女に手紙を渡してもらうことにした。


手紙は検閲されるが、中身が問題ないようであれば渡される。俺は土井ゆかりに手紙を送った。


もちろん手紙を送ったとしても返事が貰える確証は全くない。


記者という身分を隠していないため、相手は記事にされることを嫌がり、返さないことだって十分にありえるからだ。


だが、彼女は刑務所で時間を持て余しているらしく、すぐに返事が返ってきた。


突然、事件の核心を突いても話してくれないだろうと考えた俺は、刑務所での生活はどうか、困っている事があるかどうかを聞いてみた。


彼女は短い文だったが、素直に答えてくれている。


どうやら記者と書いていて警戒していたけれど、俺が困っていることを聞いたことがとても嬉しかったと書いてあった。


彼女の人物像を探るうえで取っ掛かりになるかもしれない。


土井ゆかりはどういった人物なんだろうか?


改めて考えてみる。土井ゆかりからの手紙は少しずつ彼女の内面が見て取れるようなことが書かれるようになってきた。


そろそろあの事件のことを聞いてもいいころだろう。


俺はそう思い、彼女にあの当時のことを直接聞いてみた。


―佐光さんへ


お元気ですか? 私は部屋から出ることができなくて飽き飽きしています。こうして佐光さんと手紙のやり取りをしている時間が今、一番楽しいです。


質問にあった事件当時の話なんですが、興奮していたせいか実はあまり覚えていなくて……。


覚えているのはあの時、私はライ君を必死に呼んでいたんです。ライ君が私に気づいて近づいてきてくれたんですよね。


なのに、前の女が勘違いしていて、「ライ君大好き」なんて言ってたから勘違いも甚だしいなって。


許せなくなって、かっとなってしまって……そこからの記憶が曖昧なんです。


でも、こんな話を佐光さんにしても気分が悪いだけですよね。それに佐光さんは私の彼氏の話なんて聞いてもつまらないですよね。


またお手紙下さいね。待っています。


土井 ゆかりより―



彼女からの返事が返ってきた。


……彼女にとっては執事の源川ライという人物は彼氏という解釈なのか。


彼女は俺の質問に答えてはいるが、あまり話したくないようだ。少し早まったか。


それにしてもその内容に違和感を覚える。彼女は推しを役柄として見ていないのか?


キャラクターというよりも、もっと近しい人物として捉えているように思える。


俺には全く理解できないな。

どう転んでも日常にあんな執事がいるわけないんだがな。


俺はそう思いながら被害者への取材に出かけた。




上司から貰った資料を基に詳しい話を聞くため、俺は怪我人が運び込まれた北八幡医療センターへと向かった。


怪我人が運ばれた当初は、救急車が何台もロータリーで待機し、取材陣が殺到して病院は物々しい雰囲気だった。


今は事件などなかったかのように普段の病院に戻っている。


なぜその様子を知っているのかというと、事務所に一報が入った当初、記者の手が足りず、急遽俺がここへ取材に来ていたからだ。


その時の様子は駆けつけた家族、病院を訪れている人達、記者が入り乱れている状況だった。


その後、患者家族に配慮し、病院側が規制を設け、医院長の会見だけに留まっていた。


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