007 冒険者登録
凄いもう、本当にもう、お金がない。さっきまで財布にあったはずの10万円、御座いません!! なんということでしょう!!
そんなわけで、本気でお金が欲しい。お金ならある、そう……あるのだ。この、純金のコインがな!! クソちっちゃい、ぺらっぺらのコインだけどな!!
「ケント、今度はどこに行くの?」
「この金を売るのにさ、冒険者協会に行こうかと思って」
「冒険者協会! こっちの世界にもあるのね!!」
「まあ~最近出来たって感じなんだけどさ、想像してるよりもずーっと……ああ、銀行みたいな雰囲気だよ」
「あら、じゃああんまり面白みがないわね」
そうなんですよ、日本の冒険者協会は結構つまんないところでして、御役所感がすっご~く出ちゃってるんだよね。もっとこう、酒場とドッキングした中世の施設~みたいなイメージでいいと思うんだけど、底が日本人らしいというかなんというか。
「金の買取はいろんな企業でやってるんだけどさ、冒険者協会には買い取り企業が沢山入ってるんだ。だから、ここに持っていって一番の高値が付いたところに売るのが、一番手っ取り早いってわけ」
「なるほど……。随分と効率的ね」
「そういうのをシステム化しちゃうから、面白みがね~」
まあとにかく、金の買取をして貰おう! 金の鑑定はあっという間に終わって無料でやって貰えるらしいから、とりあえず買い取りカウンターに……。
「いらっしゃいませ。鑑定ですね? では、冒険者登録証をご提示ください」
「あっ、えっと、冒険者登録はしてないんですけど……」
「え? では、鑑定費用として1点辺り5000円頂きますが……」
「ええ!? 冒険者登録をしないと、無料ではないってことですか?」
「そうなります。あちらのカウンターで身分証になりますものを提示して頂ければ、簡単に登録出来ると思いますが……」
「ッスー……わかりました。すんません、出直してきます」
マジかよ。冒険者じゃないと金取られんのかよ。いや、そうだよな……。そうじゃねえと買い取りカウンターがパンクしちゃうよな。一般人が『これ、金かな? 金かな!?』って押し寄せてきたら、面倒臭いもんな。
「メリューシカさん、先に冒険者登録をしてくるよ」
「あら、じゃあ私もしたいわ!」
「…………あ」
やべえ。メリューシカさん、冒険者登録に必要な身分証明書……なんもなくない?
「身分証明書が必要でぇ……」
「なに、それ?」
「えっとね、こういう……あ、これ親父の免許証だわ」
違う違う、これは死んだ親父の免許証だ。遺影代わりに、免許証をそのまま持ってるんだよね~……。
「それ貸して。へえ~、ここの名前のところと顔が写ってるところ、私にしちゃえばいいのよね?」
「は?」
「イルジオン。はい、これでどう?」
「は??」
あ~あ、やった。やりましたよこのお嬢さん。公文書改ざん? 公文書偽装? なんかそういう悪いことじゃないですかねぇ、これ!! でも……冒険者登録証って確か、かなり強力な身分証明書として扱われるんだよな? ここで、既成事実を作っちまえば……。
もう後には引けないんだ。やっちまえ!!
「よし、それでいこう。すみませ~ん、新規登録をお願いしたいんですけど~」
「…………はあ。お二人、ですか?」
「はい!」
「では、身分を証明出来るものをご提示ください」
「これです! お願いします」
「はい、お願いね」
バレませんように、バレませんように~……。上手くいけ~上手くいけ~……!!
「…………はい、お二人とも問題な……ん?」
「……コンフューズ」
「あら……えっと、稲庭犬人さんと、稲庭メリューシカさん……で、お間違いありませんね?」
「え?」
「そうよ!」
メリューシカさん、今なんか魔法使いました? コンフューズとかって呟きましたよね? コンフューズって確か、混乱とかって……。
「ええと、ええと……。あれ、良いのかしら……。大丈夫よね、大丈夫ね。ええ、大丈夫です。これから登録を開始しますので、まずはこちらのタッチパネルに触れてください……?」
絶対に混乱してるじゃん、このお姉さん!! わぁ~メリューシカさん、可愛いウィンクですわね~。間違いなくやりましたねぇ、しかしここまできたら俺も後には引けない。俺がやり始めた偽装なんだから、やり遂げるしかない。
「ええと、ええと……!? 犬人さん、レベル6!? ああメリューシカさんはレベル1……火属性魔法!?」
「あれ、メリュ……」
「しーっ……」
光属性魔法のほうは内緒ってことね。はいはい、そのほうが都合が良いのね。
「か、確認致しました。ありがとうございます。ええと、こちら……冒険者登録証になります……?」
「ありがとうございます。えっと、手数料とかって?」
「いえ、これからを支える未来ある冒険者から、お金を頂戴するわけには参りません。レベル3以上、もしくは魔法スキルを所有している方は、登録料がかからない仕組みになっております……?」
はは~ん、レベル3以下か魔法が使えないやつは、未来がなさそうな冒険者だってこと。なるほどね~……昨日までレベル1でスキルなしだった俺、ガチで未来がないと思われてたってこと……。
それにしても、混乱が効きまくってるのか、語尾が常に疑問形なのが面白いな。
「ふふっ、これで身分証明書はバッチリってことでいいのよね?」
「そうだね! じゃあ、今度こそ買い取って貰おう」
それじゃ、今度こそ金の買い取りをして貰おうじゃあないの~!!
◆◆◆◆◆
すんげぇ……。マジで、通帳に150万円ぐらい増えてる……。冒険者って、得た収入は全部非課税なんだよな……。まあそうでもしないと、死と隣り合わせの職業なのに魅力がないもんな。命を賭けて戦って、命を賭けた罰金みたいに税金取られちゃあ……。
「……メリューシカさんや、あのさ」
「メリーって呼んで。長いでしょ?」
「……メリーさんメリーさん、今貴方の目の前に居るの……」
メリューシカさんの愛称、メリーなのか。でもこれだと、あの怪談のメリーさんがいちいち頭をちらつくんだよな!!
「なにそれ! うふふ、変なの!」
「なんていうか、怪談に出てくる子の名前がメリーさんってのが居てさ……」
「じゃあルシカって呼んでも良いわよ。私の幼名なんだけど……」
「ルシカさん! うん、可愛い! 良い!!」
ルシカさんなら呼びやすいな。まあこれなら、メリーさんがいちいち出てこないで済むな!
「ルシカ」
「……ルシカ、さん?」
「ルシカ」
「ル、ルシカ…………さん」
「ルシカ!」
「ルシカ! あーもうっ!! わかったよ~!!」
「やった! 私もケントって呼ぶから、ケントもルシカって呼び捨てで呼ぶのよ!」
「はいはい……わかったよ、ルシカ」
なんと、呼び捨て強要とは。圧に勝てなかった……なんだろう、将来ルシカの尻に敷かれる未来が見えるような、見えないような……。
「他にもさ、普段着とか色々買っていこう。近くにデパートがあるからさ、そこで!」
「服ならさっきも買ったじゃない。なんでまた買うの?」
「あ~……さっきのお店はちょっと、美人さんが着る服過ぎた、かなぁ~って……。もっと緩くて着やすいやつをさ!」
「ああ、さっきのは他所行きの服だったってことね! わかったわ、ありがとっ!」
うん、美人さんにありがとって言われると、鼻の下が伸びるぅ~……でへ~……。
ああっとその前に、とりあえず~……30万ぐらい下ろしておくか!!
◆◆◆◆◆
「いやぁ~買った、買ったねぇ~……」
「ねえ、やっぱりこのスポーツブラのほうが良いわ! ワイヤー入りのやつはちょっと、付け心地が悪いもの!」
「いや~見せにこなくていい! こなくていいからぁ~!!」
「あらやだ、ごめんなさい!」
ありがとう、眼福でした……。見せにきてくれてありがとう……。
30万円ね、全部使っちゃった……! あは、あは……!! 女性のスキンケア用品とか、新しいお布団とか諸々必要かなと思ってさ、いっぱい買い込んだんですよ。何回かにわけて。そしたら30万円、なくなってた! アハハハハ!!
『ダンジョンマスターへ提案。1階層を完全なるセーフエリアと設定し、モンスターの出現しない0階層目としませんか?』
「え、そんなこと出来るの?」
ええ、セーフエリアの設定? そんなことが出来るなら……あ~でも……?
『はい。セーフエリアは10階層に1層設定することが可能です。ですので、次にセーフエリアを設置出来るのは11階層以降となってしまいますが……』
「ああ、じゃあ~そうして貰おうかな? あれでも、0階層にしたらリセットとかって出来ないよね?」
『可能です』
ええ、出来るの!? いやいや、でも待て? ダンジョン外から持ち込んだものは、リセットの対象外だったはず……。
「でもでもでもでも、今買ってきたものとかはさ、ダンジョン外のものだからUMPで直せない……とか言ってたよな?」
『はい。持ち込んだだけでは直せませんね』
「…………引っかかる言い方するよね~」
『ダンジョン管理スキルで、家具などをうどんジョンの備品だと登録すれば、リセットで新品同様に修理することが可能です。UMPのお支払いは必要ありません……ただし、この階層から持ち出すことが出来なくなります』
「な~るほどね~……」
はっは~ん、なるほどなるほど。上手いこと出来てるシステムだなぁ? つまり、服とかまで備品登録しちゃうと、下の階層へ行った瞬間に全部脱げちゃうってことか。転移する瞬間にストリップとか、それは勘弁して貰いたいね。
「じゃあダンジョンの備品として、登録していく方法を教えてくれ」
『一度登録すると取り消すことは出来ませんので、考えながら登録なさってください。ではまず、登録したい物に触れながら『ダンジョンへ登録』と発言し、現れた管理ウィンドウにてOKボタンを――――』
――――取り消せないって言ってたけど、取り消したいって念じたら取り消し出来たわ。まーたナビちゃんが拗ねちゃったよ。もう諦めろって、なんか知らんけど取り消し動作は可能なんだって。
もしかしてさ、うどんジョンって新しいダンジョンシステムが組み込まれてて、ナビちゃんは古いシステムのサポート役だから取り消しとかの知識がないんじゃないの~? まあ、知らんけど。
「いやぁ~これで色々と生活が便利になるなぁ~。今度、ついでに俺の布団も新調しちゃおうかな~?」
『…………』
はい、完全に拗ねてます。なんも答えてくれません。
「ケント、用事は終わったの?」
「ああ、終わったよ。とりあえずこの後は~……うどんジョンの1階層目に挑戦しようかなと思うんだけど」
『1階層目のデザインは、2階層と同様で構いませんか~?』
「うん、それでいいよ。これで戦いにくい家の中大決戦はなくなるんだ~……ほっ」
「なんの話?」
「んまぁ、色々とね」
ああ、ダンジョンの話になったらやっと喋ってくれたわ。登録中はずーっとぶすくれてたからなぁ~……。でもこれで、1階層と2階層は戦いやすい江戸風ダンジョンになってくれるわけだ! いやぁ、良かった良かった。
「あ! 森の守り人の服の中にスポーツブラを着けてるんだけど、変じゃない?」
「…………だ、大丈夫だと思うけど。動きやすいの、それ?」
「うん! 動きやすいわ、なんていうか暴れない感じ? うふふ!」
「そうなんだ……」
まあ男も男で、暴れると困るものをぶら下げておりますからね、なんとなくわからんでもないですよ。ポジションに収まってくれてると、凄く安心するんですよねぇ……。
「よし、それじゃあ……ダンジョン攻略にいこうか!」
「そうね! 昨日は転移の魔法で帰ってきたみたいだけど、どこのダンジョンに行っていたの?」
「…………ああ、俺の家、ダンジョンなんだわ」
「は……? はあ!? ケントの家、ダンジョンなの!? この、居住スペースも!?」
「セーフエリア扱いだから、モンスターは出てこないよ。ここの地下に居るんだ」
びっくりするよねー。俺もさ、うどんを捏ねてたらそれがダンジョンになりました~とか、今でも信じられないもん。でもなっちゃったんだよ、ダンジョンにさ。
「こ、怖くないの……?」
「ええ? 転移ポータルを通らないと行けないから、隔離されてるし大丈夫だと思うよ?」
「しかも転移型ダンジョン!? 珍しいなんてものじゃないわ!!」
「そうなんだ? まあでも、自宅がダンジョンだってバレるとさ? なんていうか、変な連中に目をつけられると嫌だし……黙っててくれる?」
「もちろん、絶対に言わない。ケントに迷惑をかけるなんて、命を助けて貰って、その……あの……だから、ケントに迷惑はかけないって言ってるの!!」
もういっぱいお金はかかってますぅ~……。40万円もなくなってますぅ~……。いやいや、ルシカと一緒に小金貨交換券を2枚出せば、半分半分で勘定すればあっという間に50万円稼いで貰ったことになるし! 細かいことは気にするな、俺!
「じゃあまずは、1階層にモンスターを全部移動させよう」
『ちっ、覚えていましたか……』
「はいはい、ナビちゃん悪態を付かないよ~」
『再配置開始、2階層のモンスターを1階層に移動。2階層の設定を引き継ぎ反映しました』
「凄い……。ダンジョンに現れるモンスターを、選ぶことが出来るってこと!?」
「ああ、どこに出てくるかまでは選べないけど、どの階層に出るかは選べるんだ」
「これが、ダンジョンマスターの力なのね……」
いやぁ、これが一般的なダンジョンマスターの力なのかって言われると、ちょーっと自信がないんだよねぇ……。ナビちゃんもかなーりぶすくれる操作だし……。
「よっと、ここに転移ポータルがあるんだ」
「床下に隠してあるのね! これに魔力を流せば、ダンジョンへ行ける……!」
『事前に、パーティを結成することをおすすめします』
「パーティ?」
え、パーティ結成なんてあるのか? そういうのは、冒険者協会では説明されて……ああ~、お姉さん混乱してたしなぁ。
『冒険者登録証を重ね合わせ、パーティ結成と発言することで、その相手とパーティを組むことが出来ます』
「なるほど。ルシカ、さっき発行した冒険者登録証ある?」
「あるわ! 大事なものだと思うし、ちゃんと持ってるわよ」
「これを重ねて、パーティ結成!」
おお、ステータスウィンドウに【パーティ:メリューシカ】って項目が増えた! なるほど~これがパーティ結成か~……。なんか意味、あんの?
「これでよしっと……。でもこれ、なんの意味が?」
『ダンジョンでの転移先が同じになります。経験値を2人で共有することが可能になり、どちらが倒しても2人で入手したこととなります。さらに、パーティメンバーの位置を知ろうとすれば、なんとなく居場所がわかるようになります』
「へえ~! 結構便利機能が沢山あるんだな! じゃあルシカ、いこう!」
「ええ、頑張りましょう!」
それじゃあ早速、ルシカと一緒にダンジョンアタックだ! 今日もいっぱい稼ぐぞ~!!




