024 天元突破
海老助師匠にメルシカ製麺所のことを相談してみた。
今はミニうどんを除いてメニューが5つしかなくて、テンポを開いてもバリエーションがないということと、しかしこのままうどんを食い続けているといずれUMPなる通貨が切れてうどんが出せなくなってしまうこと。
そして……海老助師匠は、基本的に5万UMPの価値がある、モンスターとして扱われているという事実も伝えた。隠し事をするのが、辛くなったからだ。
『な~るほどなぁ~。この下の階層にいかへんと、兄さん達がうどん作ったり補充したり出来へんっちゅうわけや』
「そう、なりますね……」
『階層の主が、通ってもええでって言えば、それで通れるんとちゃうんか?』
「…………そ、それはどうでしょう?」
『――可能です。和解による撃破扱いとして、2階層へ進行が可能となります』
「出来るらしいです!! 和解による、撃破扱いで!!」
『ほんなら、うどん代稼いできぃ! 今の兄さん達なら、雑魚ぐらいあっちゅう間に皆殺しやろ!!』
「……用心はします!!」
「頑張りましょ、ケント!!」
『それに――』
海老助師匠は、自らがモンスターであるということに全く驚いていなかった。むしろそれで当然という反応で……。
それよりも師匠は、俺達に課題を与えた。2階層以降、必ず『限界突破と天元突破の同時発動』と『全ての階層で妖力を使い果たして生命力変換を限界まで行う』という、とんでもない課題だった。
師匠曰く、修行で得られる経験は限定的なものらしい。確かに強くはなれるが、実戦で使いこなせなければ意味がないと。なので、どんな状況でも臨機応変に、なおかつ限界を迎えても戦い続けられる精神力を養うため、常に限界ギリギリで戦えという。
――――メチャクチャ面白そうじゃねえの!!
『ほんで? その製麺所っちゅう店、何処で誰を招き入れるん?』
「ええっと~……」
『――海老助にお伝えください。高レベル冒険者をターゲットに、黄泉の国ダンジョン付近でゲリラ的に店舗を出現させ、超高額での販売を考えております』
ほえ~……なんか凄いプランを考えてるなぁ~……。というかナビちゃん、最近俺達修行ばっかりだから、もしかして暇してる? 店舗経営にはかなり乗り気みたいだし、まあ~……不都合が起きたら逃げ出せば良いんだし? 別に損するようなことはない、か?
「……って感じに、考えているみたいです」
『あのうどん、身体能力を恒久的に上昇させる効果があるやろ。バケモンに餌与えてどうすんねん。敵が増えるだけちゃうか?』
『――逆に、黄泉の国ダンジョンを制覇させることが目的です。ダンジョンコアを破壊されれば、元クソ上司はダンジョンと共に消滅……。私の復讐も成就するというものです』
「あ~……黄泉の国ダンジョンを、逆に制覇させたいみたいです、はい……。そこの管理者はうちの管理者の元上役で、うちの管理者にこのダンジョンごと死ねと一方的に命じたやつでして……」
『なんやそれ!! ワイが行って天誅下したる!! ボケが、ハラワタ煮えくり返ってきたで!!』
「ただ、一応ダンジョンから師匠を出せないという決まりは、未だ健在にようでしてぇ……」
『かーーっ!! なら、はよう2階層、行かんか~い!!』
「ひぃん!」
「ひぃ~!!」
そんなわけで、1階層で師匠と修行。その後は2階層以降でモンスターとの実戦、1日しっかり3食を取り、必ず8時間は寝る……。
このサイクルを繰り返すというスケジュールとなり、入手したマテリアルでたまに新メニューの開発も行い、海老助師匠に評価を貰う……という生活となった。
そして、2週間が過ぎた頃。遂に10階層が完成し、うどんのメニューもスタンダードな【きつねうどん】【たぬきうどん】【釜玉うどん】【鴨南蛮うどん】、創作系で【バター醤油チーズ焼きうどん】【汁無し坦々うどん】【チーズカレーうどん】【すき焼き風牛肉うどん】などを開発した。
海老助師匠からは全て星5の評価を頂き、スターも8000を入手し、最初に開発した【カルボ】【ギョーザ】【ドラ味噌】【ねばスタ】の4品に3000スターずつ使用し、全てを【極上の~】という等級まで上昇。これにより、レベル65になればうドーピン具による上昇値も65まで上がるようになった。
『――アカンなぁ、もう2人同時やと、あーだこーだ教えながら戦うんも辛ぅなってきたわぁ』
「はぁ……はぁ……! ぐっ、はぁ……! なに、言ってる、んっすか……! 息も、上がってないくせに……!!」
「おっ、おぇえ……っ!! うっ……まだ、まだぁあああ!!」
『こっからは…………本気でいくで』
1ヶ月が経って。
麺棒を置いている場所をラジテレビの物置から、黄泉の国ダンジョンが存在する東京ドゥームに移動した。
ドゥーム内に突如出現するメルシカ製麺所の話が上級冒険者の間で広まり、1杯1000万円以上の莫大な金額ではあるものの、食べれば永遠に力が増幅するという脅威のスーパーフードであるうどんを求める者が殺到した。
支払いは全て『金』。スタンダードメニューは100グラム、創作系は200グラム、トッピングを足す毎に20グラム……。スタンダードで5点のトッピングはステータスが5種しか伸びないで同じ金額だが、創作系は同じ値段で全てが伸びる。
ただし、全て同じトッピング5点で注文すれば一気に同じステータスが5も上がる。これは多くの冒険者を悩ませ、そして支払額に苦しめられた。
支払われた金は、1グラムが100UMPに変換された。1日の売上が1万グラムなら、100万UMPが溜まってしまうという計算だ。これに合わせて自力で稼いできたUMPが1日辺り80万前後、全てうどんジョンの拡張とモンスターガチャに投資、投資、投資!
――――3ヶ月が経過して。
遂に、うどんジョンは50階層を超える大きなダンジョンとなり、うどんのメニューも20種類を超え、全てのメニューを極上のランクまで成長させることが出来た。
◆◆◆◆◆
「……お願いします」
「お願いします!!」
『おう、もう手加減なんて出来ひんで。海老天流も解禁や、正真正銘の本気の本気……。死ぬ気でこいや』
あっという間の3ヶ月だった。
俺達が覚えているスキルは、海老助師匠の弟子になってからほとんど構成が変わっていない。変える必要性がない、そう思ったからだ。
「能力向上、限界突破……!!」
「イルジオン、クアドラ!!」
『万天の構え』
レベルは49、うドーピン具による強化も出来る最大限まで。この3ヶ月で得た経験は、これまで生きてきた人生の何十倍も濃いものだった……!
めんつゆの原液ぐらい濃かった……!!
いや、今はそんなこと考えてる場合じゃなくて。死ぬんだって、余計なことを考えてたら!!
「連牙斬月!!」
「インフェルノアローレイン!!」
『まずは手数で勝負、一撃一撃が相変わらず重いっちゅう……!!』
毎日毎日、死んだほうがまだ楽なほどの苦痛を味わって、それを全て乗り越えてきた。もうよそ見をして避けられるような攻撃は、残念だけど持ち合わせてないぜ、師匠!!
「牙狼!!」
『ちぃ!!』
師匠に避けさせるしか選択肢を与えない刺突スキル、牙狼。これは剣術スキルではなく、暗殺術。師匠には秘密だったんだが、このスキルの真骨頂は……!!
「牙狼ッ!!」
『何ぃ……!? がはっ……!?』
武器だけじゃなく、蹴りでも発動出来るんだぜ!! 固定観念に囚われず、あらゆる可能性を試した末に見つけた発動方法だ!!
『土遁――』
「シャイニング、レイン!!」
『……!!』
閃光が降り注ぎ、周囲を薙ぎ払うシャイニングレイでの追撃、これはいくら師匠でも捌ききれない。
ルシカの魔法は威力が尋常ではなくなった。俺だって当たれば無事では居られない……だが、これも師匠には秘密のパッシブスキルがある!!
『なんでそっちは当たらへんねん!! くかぁっ……!?』
ルシカの攻撃魔法が効かなくなる、愛の契。ルシカの攻撃魔法は基本的に俺をすり抜け、意図して当てたいと思わない限り当たることがない。だから、この閃光の雨の中でも俺は、自由に動き回れる!!
『――――秘剣、海老鉈』
ああ、理解してたさ。
師匠は焦っている素振りはしていたが、俺が飛び込んでくるのを待ち構えていた。一撃で、確実に首を刎ねる機会を、ずーっと伺っていた。だが俺にだって……切り札は、ある!!
「天元、突破……!!」
見える、あの時は刀を抜く瞬間すら見えなかった一撃が、今は見える!! 天元突破はステータスの1つを爆発的に跳ね上げる、一点集中型の限界突破。俺は敏捷性だけを向上させ、この一撃を見切ることに全てを賭けた!!
『……!! 秘剣、海老剃ッ!!』
避けた!! だが、次の一撃!! 第二の秘剣、これは見たことがない。横薙ぎに何度も、師匠の腕が10本にも20本にも見える速度で……だが、躱す!! これを躱さなければ、勝ち目なんてないんだ!!
「ぐ……がっ……!!」
「生命力、変換……!! イルジオン!! シャイニング、レイン!!」
数発、当たった……!! だが、死んでない。胴は繋がってる、首も繋がってる、ハラワタも出てねえ!! 食いしばって、根性で!! 押し切るッ!!
「影狼」
『あぁ……』
影狼、自らの分身を作り出す闇魔法。前までは瞬時に見破られていた分身だったが、今では師匠にすら見破られなくなった。それほどに精巧な分身になってくれた。こいつで……!!
『――奥義、天下無双』
なんだ、これ……? 見たこと、ねえ……。さっきの海老剃とは、まるで動きが、避け……? 速すぎて……。だが……これは……!!
「か、はっ……」
『なんや、やっぱり後ろにおったんが本体やったんか。あとは、姉さんだけ』
――――前に居るのも、後ろに居るのも、両方俺の……分身だぜ、師匠!!
『あ……?』
「夜閃衝……ッ」
『…………は。なんや、これ? 確かに、兄さんの首……』
後ろに居たのは、ルシカが作り出したイルジオンの俺だ。そして俺は、影狼の影の中に、潜ませて貰っていたんだぜ。
『や、られ……た? どっちも、偽もん……? なんや、それ……は、はは!! えげつない、ごふっ……!! 連携……』
「ああっ、師匠!!」
「海老助師匠!!」
正面から、心臓を一突き。正面からの暗殺術の発動なんて、普通じゃ考えられないものだろう。だが、確実に俺を殺したと油断した、その一瞬の油断が暗殺術の発動条件を満たした。俺を意識外に置いてしまった、その隙が。
『…………その二振り、持っていき。兄さんが、海老天流を下した……。海老助流の、ぐっ……。正当な、後継者や……』
「師匠、今回復を……!!」
『要らん、要らへん。ワイは……満足や。悪を斬る人斬り包丁が、悪鬼羅刹と呼ばれたワイが、バケモンやと言われたワイが……。兄さん達みたいな、ええ人間に出会えて、捨てた剣術を継げて……。ええ出会いやった……これでええ、これで……』
海老助師匠は、良い師匠だった……。厳しいけど、優しくて、うどんの良さを理解してくれて。どんな創作系のうどんでも、嫌な顔ひとつで食べてくれた。最終的には美味いの一言で、星5つをくれて褒めてくれた。
『…………』
「師匠……?」
「ケント……海老助師匠は……もう……」
殺してしまった。偉大な師匠を、この手で……。
超えてしまった。偉大な師匠を、ふたりで……。
『――――失礼致します。ヒドゥンレジェンダリーモンスター、剣術家・海老助を完全撃破。海老助の意思により、【伊勢丸】と【牡丹丸】はマスターへ帰属。ドロップアイテムとして、新規メニュー【至高の一杯、伝説の海老天うどん】が追加されました』
師匠……。海老助師匠……。
『海老天之助はモンスターの枠から外れ、人間性を取り戻し、海老助として死亡しました。よって……これ以降、海老天之助は配置することが不可能となります』
さよなら、師匠。
俺……師匠の剣を、海老助流を……継ぐよ。
『レベル60に到達。うドーピン具の上限が2倍になり、120まで上昇可能となりました。また、3次転職の条件を満たし、マスターは【海老助流天麩羅師範】、メリューシカは【天術師】へとクラスチェンジします』
――――だが、感傷に浸っている間もなく……。
3ヶ月振りにあの苦痛が、再来してしまったのである。
今回は、前回の5倍ぐらい苦しくなって、再登場だ……!!
「――るちかぁああ、もうむり、ひんりゃうぅぅ……」
「――しぇかいが、まわりゅぅぅ……」




