023 期待以上
『――兄さんはな、全部殺すつもりで攻撃を出しとる。それはええこと、や!!』
「ぐぉっ……っご……」
強い……。
『だからその分、悪く言えば単純や。殺すつもりっちゅうことは、その次のことは考えとらん。殺すっちゅうことは、それで終いやからなぁ』
「はぁ……はぁ……」
『はよ立たんかい!!』
「ぐっ……!!」
海老助師匠は、圧倒的に強い。
『火遁、轟炎火球!!』
「イ、イルジオン!! セイントシール――きゃあああああああああ!!」
『気ぃ抜いたら妖術師は死ぬで。自分のことばっか考えとったらアカン、この戦場が全部姉さんの手のひらの上の出来事、全員の思考を読め。転がせ。常に有利な立ち回りを考え、考え、考え抜いて、勝利する。妖術師は脳みそが武器や、何重にも思考して未来を読めぇ!!』
「うっ……くぅ……セイント、ヒール……」
ルシカが操れるイルジオンは1体だけだった。武器などを部分的に幻影で複製することは可能だったけど、同時発射や連射などの単純な操作しか出来なかった。海老助師匠は、3体のイルジオンに別々の動きをさせ続け、自分自身も別の行動をしつつ、時折飛んでくる攻撃に対応しろという課題を与えた。
ルシカは、常に意識外から攻撃されている。視認、反応、発動、展開……これでは間に合わない。故に、読みと直感で攻撃を防げと言っているんだ。
『兄さんの剣はなぁ、処刑人の剣や。剣術家っちゅうんは、最終的な勝利に辿り着くための攻撃っちゅうものを、過程っちゅうもんを考える。もちろん、一撃で倒せるなぁ~思うんなら話は別やけどな? 月影!』
遠距離攻撃、速い、対応、避……ッ!!
『――月影には月影で返せっちゅうたやろ? なあ、何回言ったら覚えんねん』
「はっ……!?」
海老助師匠が消え、後ろ……!? 死……ッ!!
「限界突破、超加速ッ……うっぁあああああ!!」
『おお、よう避けよった!! 氷遁、龍鱗の舞!!』
『イルジオン!! フレイムアローストーム!!』
間一髪、致命傷だけは避けた……!! だが出血が、左腕をやられて……ッ!! 距離を……!!
『兄さん見たかぁ~!? ああやって撃ち落とすんやぞっ!! 月影ッ!!』
また遠距離!? 速い、右腕しか……やるしかない!! 合わせろ、死ぬ気でやれ!! これが現実なら、ここで終わりだぞ!!
「うおおおおおおお!! 月影!!」
『ひゅ~……。やれば出来るやんなぁ』
「はぁ……はぁ……!!」
「うぶっ……おぇ……!!」
『なんやなんや、もう限界かぁ。まあしゃーない、ワイと兄さん達では段位が天と地の差や。故に、ワイは天を名乗っとる……。ワイは天の高みに辿り着いたと、そう自負しとる。だからワイは、海老天之助なんじゃ』
言いてえ……。俺も、言いてえよぉ……。なんだその、厨二病全開のクソかっこいいセリフ!! ワイは天じゃ、故に海老天之助じゃぁ!? んだよそれ、くっそぉぉおおお……!!
「俺は天を越えてやるんだぁあああああああああああああ!!」
『なら吠えとらんで打ってこんかい!! 限界迎えたその先の、そのまた先の遙か先!! ワイの高みは、天ぞ!! 風遁、鎌鼬!!』
「いる、じおん……お、ぇ……!! フレイム、ソード……!!」
死ぬよりも辛い。辛いという言葉があまりにも軽いと思える程に、地獄という言葉が生半可なものに聞こえる程に、過酷。
海老助師匠に容赦という言葉は一切存在していない。こちらが限界を迎えても、出血多量で死にかけていようとも、戦闘を放棄することは一切許さない。思考を放棄した瞬間、恐らく……俺達を、斬り捨てる。
『その極限状態で的に当てぇ!! 右、左、真ん中の順や!! さっさとやれぇ!!』
「いる、じお、えぇ……!! うぶっ……!! フレイム、アロー、ストーム!!」
「斬月ッ!!」
『ほぉう……?』
次の攻撃に、繋げる殺意を……!!
『――ワイに払われる方向を読んで、その勢いを利用して次の手に繋げようっちゅうわけや』
読まれている、構うもんか!! 向こうは剣術で天に上り詰めたと豪語する男、ド素人の俺が何をしたって読まれるに決まってる。だから、今の俺の考えを聞いて貰う!! そのつもりで、打つ!!
「星威しッ!!」
『弾かれた勢いをそのままに、流星の如き一撃。ええな、ワイの言っとること、結構わかってきたんとちゃう?』
「く、ぅ……!! おおおぉおお……!! おごっ……!?」
『まあここまででも上出来や。姉さんも的、ちゃんと順番通りに当てとったなぁ。妖力も完全に尽きたやろ、気分悪うて死にそうかぁ? そうなったらこの男が助けてくれるんか? この男も死にそうやで? ほんなら、お荷物やんなぁ』
「おに、もつ……う、おぇええええ……!!」
初めて、少しだけ認められた……。なんだろう、少し、嬉しい。
それに対してルシカは悔しそうだ。マナが尽きて、マナ欠乏症で動けなくなったらお荷物だと言われて……。
「くっ……ふぅっ……!! あぁああああああああああ!!」
『……なんやその妖力、どっから出した? なあ姉さん、さっきまで妖力尽きとったはずやろ?』
「血ぃ、をぉ……削っ……てぇ……!! ぎっ……うぅ……!!」
おいおい、嘘だろ……!?
『……兄さん、ええ女貰ったなぁ~。バケモンやで、あの姉さん』
「ルシカは世界一のいい女、なん、でぇ……!!」
『認めたるわ、そんでお荷物言うたんは撤回するわ。その力、使いこなせるまで使い続けぇ。何回が限界か、覚えとくんがええな』
ルシカ、凄いよ……。血は生命の源、生命力をマナに変換したとでも言うような、とんでもない裏技……。凄いを通り越してもはや怖い…………。
――――俺も、出来るか?
『ほんで、兄さんはいつになったら立ち上がるん?』
「今ぁ……!! 立ち上がって、師匠に、一撃を……」
『お~お~、威勢だけは衰えへんなぁ。ほんで、なんか考えはあるん?』
限界突破と超加速の発動によってマナは尽きた。本来なら指一本動かせないようなこの状態で、ルシカが俺に見せてくれた本物の限界突破。
俺の命よ、生命力よ……。燃え上がれ、再び立ち上がるだけの力を、俺に……!! 俺の、薪になれええええええええええええ!!
「――――うぁああああああああああああああああああ!!」
『ほう、立つんか。おもろい、最高や』
燃えろ、燃えろ、燃えろ!! 全部燃えて灰になっても、灰すら燃やし尽くして闘志を燃やせ!! 師匠に一撃、一撃!! 一撃ッ!! 一撃ッッッ!!
――――天元突破!!
「斬月……!!」
『また同じ手は……いや、これは……ちゃうな……!!』
今度は、弾かれるのを読んでの攻撃じゃねえ!! 今度は、弾かれねえ!! 押す、押して下がらせる一撃!!
「星……威し……ッ!!」
あの海老助師匠が一歩下がった、当てる……この一撃!! 確実に、急所へ!! 袈裟斬りに!!
『――秘剣、海老鉈』
「はっ……?」
武器が、弾き飛ばされ……? なに、起こって……手……? 俺の……?
「ぐうううっ……!! 手、がぁ……!!」
『久しぶりや。身の危険を感じたん、いつ振りやろなぁ。すまんなぁ、思わず剣を抜いてもうたで』
「ケント……!!」
手を、武器ごと斬り飛ばされたのか……!! 全く見えなかった、限界突破のその先に到達した、恐らく今到達出来る最高の敏捷性をもってしても、抜いた瞬間すら見えなかった……。
これが、天に至ったと豪語する男の、剣……!!
「セイント、ヒール……!!」
「う、うっ……ああ……!! ありがとう、ルシカ……」
『いやぁ、見事なもんやった。久々にワイも死というもんが近くにあることを思い出せたわぁ~……』
いや、でも……。しかしこれではなぁ……。
「まだ、一撃……。入れてなくて……」
『いや、入っとる』
「え……?」
いや、師匠の体の何処にも、当たって……なぁああああッ!?
『ほれ、ワイの前髪と薄皮一枚、ちょっぴり斬れとるで! やるやん、兄さん!!』
「あ……ああ……」
「ケントが、一撃……入れた……」
『兄さんの剣が、天にちょっぴりやけど触れたで!! ようやったなぁ~!! なあ、今回はここまでにせんか? ワイはもう~腹減ってなぁ~』
俺の、剣が……。海老助師匠に、届いた……。ほんのちょっぴりだけでも……。前髪と、薄皮一枚……。あいたぁっ!?
「ほら、ケント!! 師匠が、お腹減ったって!! わ、私も、もう血が足りなくて、ぎぼぢわるい……」
『嫁さんぶっ倒れるで~? 血ぃを妖力に変えられるんは三回が限度……九割ほど回復するっちゅうところか? とんでもない奥の手やで、ほんま!』
「す、すみません! えっと……あの、うどんしかないんですけど……」
急にメシって言われても、うどんしか出せないっていうか……。しかも、変なメニューばっかり作っちゃったから、まともなものが~……普通のうどんか、ドラゴン白モツ味噌煮込みうどんしかないんですけど……。
『なんやその贅沢品しかないっちゅう、どないなっとんねん』
「え、あ、いや! 俺達はえっと、うどんを結構好きなだけ食える時代……? 世界……? とにかく、一般的な食べ物になったんです!!」
『ほんまか!? ワイもなぁ~好きやねんうどん! ただなぁ、普通のうどんしか食ったことあらへんし、なんやおもろいうどんが食いたいんやけどなぁ~』
お、おもろいうどんって。いやぁそんなメニューはちょっと……。
『……【和牛ベーコンのカルボナーラうどん】、お待ちどうさまです。本気ですか??』
「し、師匠……。その、おもろいうどんかどうかは、わかんないんですけどぉ……」
『…………なんやこれ、ほんまにうどんか? なん、なん……? なん……?』
すみません、本当にすみません。申し訳御座いません。創作系のうどんしか、おもろいうどんがなくってぇ……!! ルシカ、その冷たい視線やめられそう? 俺、泣いちゃう。
『まあええわ、ほな頂きますわ。ん……んっ…………』
『……ほら、やっぱりダメそうですよ、マスター』
「ケント……」
「す、すみません師匠!! 別のを……!!」
止まった……。海老助師匠が完全に、止まった……。お、終わった……。これから俺、二度と稽古をつけて貰えないかもしれん……。
『……なあ』
「はい……」
『あんな?』
「は、はい……」
胃が、胃が痛え~……!! これまで受けたどんなダメージよりも、痛え~……!! ルシカちゃん、そのブリザードアローみたいな視線やめられそう? 俺、死んじゃう。
『……これの量、少ないと思わん?』
「……は、はい!? はい! 少ないですよね、それ!!」
『おん……。なんやその、もう一皿……? いやいや、四皿ぐらい貰ってええ……?』
…………こ、れって……?
もし、かし……て?
気に、入ったぁあああああああああああ!?
ザ・風来坊って感じの、ザ・江戸の武人って感じの、師匠がぁああああああああ!? カルボナーラうどんをぉおおおおおおおおおおお!?
『――お、お、お待ちどうさまです。【和牛ベーコンのカルボナーラうどん】、四人前になります!!』
「ど、どうぞ!!」
『おぉん!! すまんなぁ、すまんなぁ!! ほなおおきに……』
「ケント、私も食べたい……。ねばねばおくら……」
「俺、ドラ味噌……」
『――【ドラゴン白モツ味噌煮込みうどん】【ねばねばスタミナワカメうどん】、お待ちどうさまです!!』
『他にもあるんかぁ!? おぉん、ワイもそのどらみそ……? それ、そのねばねばのも食うてみたいわぁ!!』
剣術家な上に健啖家で御座いましたか、師匠!! はい、どうぞ!! もう1皿ならすぐに用意出来ますんでね、へへっ!!
『おぉん、おぉおおん!! 全部美味い!! 全部美味いで!!』
『――【うどんギョーザ】、5人前です……』
「師匠、このギョーザをですね……。ドラ味噌の汁と一緒にいくと、良いんですよ……」
『ほぉぉん……。お……おぉ……。おおおおおおおおお!! なん、おお、おおっ!! すまん、このぎょーざっちゅうのも、三皿貰うで……』
師匠が、俺の作ったうどんメニューにドハマリしてるぅうう……!! なんだろう、超嬉しいんですけどぉ!! 俺が作ったわけじゃないけどぉ!! 俺の思い描いたのを、ナビちゃんが忠実に再現してくれただけなんですけどぉ!!
『これ、兄さんが全部考えたんかぁ……?』
「そうよ! ケントは凄いんだから!!」
『なあ、剣術よりこっちに全力出さん? ああ、それは兄さんに失礼やな……。両立せえへん? あ、しとるんか……。おん……。ワイ、正直に言うとうどん作りに専念して欲しいぐらい、ええもん作っとるわぁ……』
あ゛!! 嬉しくなんて、ないんだからねっ!! ふふっ!!
『なんやこれ? なん、星じるしのなんか出てきたで? おお、今食ったやつやなぁ。星の印が多いと、ええ評価っちゅうことかいな。ほな全部、星五つや!!』
『――初めて【お客様】に【評価】を頂きました。伝説級のお客様より【伝説の星5つ】を【4点のメニュー】に授かり、合計【4,000スター】を獲得しました。スターはうドーピン具のアップグレードに消費出来る、専用のポイントとなります』
俺もなんやこれって言いたくなってきた。なんやこれ、スター……? アップグレード……はっ!? まさか、うドーピン具をアップグレードすると、ドーピングによる数値の上限が上昇する……とか!?
『――ドラ味噌に1,000スター消費した場合、メニューに【最高の】という接頭語が付きます。更に2,000スター消費で【極上の】、更に4,000スター消費で【伝説の】と上昇します。接頭語が付いたメニューを食した場合、うドーピン具の上限を超えて能力値が上昇します。ただし、1メニューにつき5回が限界のようです』
な、る、ほ、ど……ね?
つまり、ドラ味噌を極上のドラ味噌にまでアップグレードした場合、25で止まったドーピングから10上昇して35まで上がるわけだ~……。ふ~ん、なるほどなるほど……?
『――また、今回【お客様】にうどんを振る舞って評価をして頂いたことで、0階層に【メルシカ製麺所】を開設し、店舗経営が可能になりました。なお、命名は私が行いました。ケント製麺所は響きが悪かったので不採用です』
「不採用」
『ん? なんや? 兄さん箸が進んでへんで?』
「あ、ああ!! す、すみません。今ちょっと考えごとを!!」
『仰山食って力付けんと!! な!!』
て、店舗経営って……。そんなことをいきなり言われても……。
ちょっと、ちょっと待ってくれ。今は考える脳みそが足りないから、まず飯を食わせてくれ!! 話は、ええっと……話はちょっと、それからで!! ね!?




