022 天。
朝起きて、あまりにも体が軽いことに気がついて驚いた。昨日まで熱に浮かされてふわふわふらふら、自分が何をしているのかすらもわかっていないような状態だった……が!! 今日はすこぶる調子が良い!!
『お目覚めですか』
「おう! ナビちゃんおはよう!!」
「んん~……!! ケント、起きてたのね~」
「おはよう、具合はどう?」
「…………絶好調ね!!」
どうやらルシカもすこぶる調子が良いらしい。こりゃあ行幸、昨日の遅れを取り戻せる最高の機会じゃあないか! じゃあ早速、1階層のボスの準備を……。
『ステータスの確認はなさいましたか?』
「え? ステータス?」
「そういえば見てないわね」
ナビちゃんに言われるまで、ステータスってものの存在を忘れてたぜ。レックス先生から出た『ヒーロー勲章』っていう装備の効果も、とりあえず一撃死を耐える可能性があるって効果だけ確認して、それ以外は確認してなかったな。
「ステータスオープン! ルシカ、何か変わってる?」
「ステータスオープン……え゛っ」
「え? え、え゛え゛え゛え゛……」
こ、こりゃあ~……。じょ、冗談……。あ、あれ……!?
◆◆ステータス◆◆
【名前】稲庭 犬人
【レベル】30 【性別】男性
【職業】闇討ち職人
【EXP】810/4500 【MP】188/188
【STR】25+25 【VIT】20+25
【AGI】33+25 【TEC】35+25
【MAG】15+25 【MND】15+25
【ダンジョンマスター】
・うどんジョン
┣UMP:204200
┗全5階層
【ユニークスキル】
・うどんマスタリー
・ダンジョン管理
┣基本管理スキル
┣6階層拡張【100,000pt】
┣モンスターガチャ【500pt】
┣レアモンスターガチャ【5,000pt】
┣ハイレアモンスターガチャ【50,000UMP】
┣マテリアルガチャ【1日3回、30,000UMP】
┗クルーガチャ【使用済み】
【スキル】
・武器投擲:レベル6
┗月影
・剣術:レベル7
┣斬月
┗星威し
・暗殺術:レベル8
┣天誅殺
┗夜閃衝
・迅速:レベル8
┗超加速
・判断:レベル10
┗超集中
・忍耐:レベル10
┗限界突破
・闇魔法:レベル10
┣朧
┗影狼
【装備スキル】
・食いしばり
◆◆◆◆◆
◆◆ステータス◆◆
【名前】メリューシカ
【レベル】30 【性別】女性
【職業】ライトニングファントム
【EXP】616/4500 【MP】1,800/1,800
【STR】10+25 【VIT】 10+10+25
【AGI】14+25 【TEC】34+25
【MAG】44+25 【MND】14+25
【ユニークスキル】
・うどんマスタリー
・幻影魔法
┣イルジオン
┗マルチウェポン
・ダンジョン管理
┗基本管理スキル
【スキル】
・火魔法:レベル12
┣フレイムアロー
┣フレイムランス
┣フレイムボール
┗フレイムソード
・光魔法:レベル12
┣セイントヒール
┣セイントフラッシュ
┣サンクチュアリ
┗セイントシールド
・技巧:レベル10
┗コンセントレーション
【装備スキル】
・うどんぶりシールド・スーパー
・堅固要塞
・食いしばり
◆◆◆◆◆
「れ、レベルが、30まで上がってるように、見えますが……」
「見えるわね……」
『強化型ボスのミッソースープレックスの経験値は莫大でした。結果、この大量のレベルアップに繋がったものと考えられます』
「あの~……職業も、変わっているというか、スキルも~……」
「なんだか、1段階上の魔法が増えている気がするわ!!」
『クラスチェンジによるスキルの強化と思われます。クラスチェンジはレベル30で起きる可能性がある、人類の進化と言える現象のようです』
し、進化……!? 人類の進化……!? 俺達、人類辞めちゃった? ああいや、そこまではいかないか? 良くて常人よりも遥か上ってぐらい、最上位の冒険者から比べたら、俺達はまだまだ弱いはずだ。
「なあ、噂なんだけど……。黄泉の国ダンジョンとかって、レベル50のモンスターが出るって話を聞いたことがあるんだ」
『真実です』
「ナビちゃんは他のダンジョンの情報も知っているのね?」
『……黄泉の国ダンジョンは、私の古巣の……一番偉い上司のような存在が管理を手伝っているダンジョンです。管理の苦悩をボヤいている姿を何度か目撃し、その時にその情報を聞きました』
へえ~。ナビちゃんと同じ種族の上司がねえ~……。うん? なんだろう、引っかかる言い方をするな? 古巣の一番偉い上司? 前は話を聞いていたって言ってたから、ダンジョンの管理をしていても同族との関わりはあるってことだよな。ナビちゃんは……今は関わりがないって言い方だな。
「もうその上司とやらとは、連絡を取ってないのか?」
『……私は、このダンジョンと共に消滅するように差し向けられた存在です。モンスターをここから出すなと、ただそれだけを命じられました』
「うそ……。なによ、それ」
「おいおい、じゃあ……。その上司の野郎は、ナビちゃんに死んでこいってここの管理を任せたってことか!?」
『そうなります』
俺の前の職場よりクソじゃねえか。なんだよそれ、胸糞悪い。同族に対して、死んでこいって命令する上司……? 最悪じゃねえか。
「……その上司にさ、復讐したいって気持ちとか、ないのか?」
『あります。が、現状の我々では手も足も出ない存在だと思われます』
「確かに、レベル50のモンスターが出るようなダンジョン、黄泉の国ダンジョンはAクラスパーティとか、単独Sクラス冒険者の連中だけが入れる最難関ダンジョンって言われてる……」
「私達じゃ、どうにもならなそうね」
『はい。ですので、海老天之助と重騎士サー・ロインをセットで……』
「いやいやいやいや」
「それはちょっと」
だからってさあ、海老天之助と戦えってのはいきなり話が飛びすぎじゃん? なんかこう、段階ってものがあるだろ? だって確か基本5万UMPだろ? レックス先生の何十倍強いんだよ、無理に決まって…………。
――――いや、待てよ?
「…………死んでも、元に戻るんだよな」
『はい。一昨日のことから、このダンジョンに限っては何度でも。そう判断出来るほどには同じ現象を確認しました』
「ねえちょっと、ケント……!?」
『重騎士サー・ロインは亜人族と獣人族に分類されます。海老天之助は亜人族、つまり同族による強化効果が発生します』
強化型のサー・ロインと、強化型の海老天之助……。この世の理不尽というものを味わってみるのも、上を目指すにはアリ……なのか? いや、アリなのかじゃない。アリなんだ。
「ルシカ、海老天之助は大剣豪だ。レックス先生の何十倍も強い相手、知っておきたいじゃないか。現実の世界じゃ、強い相手と敵対したらそれで終わりなんだぜ?」
「確かに……チャンス、ではあるのよね……」
「な、1回だけ! 1回だけでいいから!」
「……1回だけよ?」
『重騎士サー・ロイン、大剣豪・海老天之助を1階層にセットしました。どうぞご武運を』
そうだ、これで良いんだ。レベル30になって、クラスチェンジなんてものが発生して強くなったと思っている俺の伸び切った鼻をへし折ってくれる存在が必要なんだ。俺達はまだまだなんだぞって、思い知っておくのが重要だと思う。
「……準備をして、いこう。ステータスも出来る限り、うドーピン具で」
『あ。今の下級マテリアルでは、25がドーピング限界のようです』
「……じゃあ、軽く運動してさ!! 腹ごしらえしたりして、いこうぜ!!」
「そうね、じゃあ……そうしましょ!!」
◆◆◆◆◆
『……ブモ、モッォオオオォォオ!!』
開幕、不意打ちからの武器投擲。強化型サー・ロインはわかりやすく卑怯者で、騎士の風上にも置けないクズ野郎だ。それはどの階層でも変わらないな~と、そう思っていた時のことだった。
『――天誅』
『モ――――』
俺がサー・ロインを視界に収めた瞬間には、サーロインの体が細切れになって崩れ落ちた。何が起こったかって? そんなの、答えはひとつしかありえない。
「あれが、大剣豪……」
「海老天之助だ……!!」
『…………』
大剣豪・海老天之助。風来坊と呼ぶのが相応しい出で立ちの、長刀を腰に下げた和装の剣士。身長は俺と同じぐらい、170より高いぐらいだろうか。黒髪の男で、悍ましいほどの殺気を放っている。
『闇討ち、大いに結構。しかし騎士の身なりにて、それをするのはあまりにも卑怯極まりない。畜生にも劣るその行為、この海老天之助が赦さぬ』
サー・ロインを殺した理由は簡単だった。ただ、卑怯だったから。騎士の姿で騎士道に背く不意打ち攻撃、これが赦せなかったらしい。
『……ふむ』
「お、俺の、名前は!! 稲庭犬人!! 犬の人と書いて、犬人だ!!」
『人間に見えるが』
「俺に名前を付けた、かーちゃんととーちゃんに言ってくれ!!」
『おお、それは失敬』
どういうわけか、こいつは普通に会話が出来るタイプらしい。先程まで発していた殺気もすっかり収まり、今はただの人が良さそうなお兄さんという感じになった。ルシカも殺気から解放されて呼吸が出来るようになったのか、ようやく平常心を取り戻したようだ。
「こ、こっちは、ルシカ。メリューシカが本名で、お……俺の……」
『妻といったところか? ふむ……』
「ちょ、ちょっと、自己紹介ぐらい自分で……!! ご、ごめんなさい。ルシカと呼んでください……!!」
『あいわかった。ルシカ、異国の響きだ。きっと、さぞ良き名なのだろう』
本当は海老天之助の実力を知りたかったから、戦うべきだったんだろうが……。どういうわけか、戦闘せずに会話モードになってしまった。どうしよう、これ?
『某の名は、知っておるようだな。海老天之助、大剣豪などと呼ばれておるが……所詮は人斬り包丁を振るうだけの人殺しよ』
何か、言うべきだろうか。ここで何か……。会話を繋げないと……。
「そ、そんな大剣豪殿の刀を!! 剣を、その術を、一目見たいと……!!」
『抜かせるな』
「えっ……」
『抜けば、死ぬぞ』
死んでも大丈夫だと、そう言いたいが……。相手はこちらの事情を知らない、言葉が通じるだけのモンスター……。どう伝えるのが、一番良い選択なのか……。
「た、例え、死んだとしても!! 大剣豪の剣を受けて死ぬなら、剣士として本望!!」
『…………』
これは、ミスったか……!? ダメ、か……!?
『そなたも、悪を斬る人斬り包丁か。この世に蔓延る悪を、数日前に3人程斬っておるな』
「え……!? えっと……あ!! は、はい……」
『そなたは同じ道を歩む同志。殺すには、あまりにも惜しい。しかし、そなたは大剣豪の剣を受けて死にたいと申す。これは困った、あまりにも困った』
どうなんだ……。これ、どう受け取られたんだ……? 好感度はなんとなく、良いっぽいんだけど……。
『話は変わるが。ルシカなる妖術師殿は、大剣豪である某に何用か?』
「私も、ケントと同じよ!! 貴方という高みを、見たいと思って……!!」
『なぜ死に急ぐ? なぜだ? なぜ命が惜しくない?』
「命が惜しいから、高みが見たいんだ!! 俺も、ルシカも!!」
「そう、そうなのよ!! もし貴方の剣を見て生き残れたら、私達は……きっと、高い場所に一歩踏み出せると思うの!!」
「生き残るために、貴方の剣を受け、知り、越えたい!!」
『おお……。おお……』
震えてる……。怒らせた……かなぁ……。でも、これは本心だ。海老天之助という高みを見ることで、俺達は更に一歩を……!!
『……大剣豪の剣は一撃必殺、天誅の剣。悪人しか、斬らぬ』
「ダメ、か……」
『そなた達のその言葉、某にはわかる。間違いなく本心である、と。某には善悪が見え、真偽が聞こえるのだ。そなた達の某を越えたいという思いに、何ひとつ偽りがない。高みを目指すという言葉に、一切の偽りがなかった』
おお、じゃあ……!!
『だが、大剣豪の剣は悪人のみを斬る。そなた達を斬ることは、出来ぬ……』
「そう……か……」
やっぱりダメかぁ~……。信念が通ってる人なんだなぁ、海老天之助……あ、モンスターか……。
『……人斬りの魔物、大剣豪の剣やなければ、ええと思わん?』
「へ?」
「えっ?」
ん……!? きゅ、急に、口調が関西弁……っぽい、何かに!? 聞き違えか!?
『せやからな? 大剣豪の剣はあかんと思うねん、ワイも悪人以外斬りとうないし? 何が言いたいっちゅうと~……剣術家の海老助としての剣ならどうやって、そういう話や』
『――――警告、ヒドゥンレジェンダリーモンスター【剣術家・海老助】に変化しました』
け、剣術家、海老助!? ヒドゥンレジェンダリーモンスター!? な、なんじゃそりゃ!?
『兄さん達の話はようわかった。大剣豪の剣はな、一撃必殺の天誅の剣や。それは教えられん……その代わりに、や! ワイが封印した剣術家の剣、それなら教えたるっちゅうてんねん。どや? あ、妖術師の嬢ちゃんも、ワイの妖術で良ければ教えたるで。同じ志を持つ者同士、まさに同志や。大切にしたいやんなぁ?』
なんっだ、このぉ……感じの良すぎる兄ちゃんはぁ~!! うおぉおお……好き……!!
「し、師匠!! 海老助師匠!! お願いします、是非!!」
「私も、お願いします! 海老助師匠!!」
『お~お~堅苦しいなぁ~。まあ、剣を教える術を教えるっちゅうわけやし、師匠なのは間違いあらへんか。ほな、まず兄さん? 得物、出しい。そんで構えぇ』
はい! 出します!! すみません、こんな牛刀で!!
『牛刀……。それにその構え、我流やなぁ。せやけど悪くはない、相手を確実に殺すっちゅう意思が伝わってくる、ええ構えや』
「あ、ありが、うぉっ!?」
『使え、ワイの封印しとった小太刀や。奇しくもなぁ、ワイが封印しとったんも、兄さんと同じ二刀流なんやぁ……』
こ、これは……。この二振りの小太刀、普通じゃない……。とんでもなく強力な、途轍もない力を感じる!!
す、すみません。一瞬収納させて貰っても……? あの、性能だけ見たくて……。
◆◆◆◆◆
【双刀の小太刀:伊勢丸・牡丹丸】【!貸与!】
貸与武器。剣術家・海老助に所有権がある。
ヒドゥンレジェンダリーアイテム。スキル【不滅】が付与されている。
絶対に破損しない。攻撃力が8割増しになる。
◆◆◆◆◆
なんっじゃ、こりゃぁ……!? で、でも貸与か。後で返さないとな……!
『教えるんや、ちゃんとした武器が要るやろ? ああ、貸すだけや。使い』
「あ、ありがとうございます!!」
『嬢ちゃんはその杖でええな? ワイもそこまで術に自信があるわけちゃうし。実戦形式やなくて、知識として教えたる。兄さんは……まあ、血反吐吐くやろけど、気張り?』
「はい!!」
「わかりました!!」
――――この日、俺が下した決断の全ては、まさに最高のものだった。このことは一生涯、俺の自信と誇りに繋がることとなるのだが……。
『――――あかん、そんな大振りやと殺してくださいっちゅうてるのと同じや。いっぺん死ねや』
「おっ、ごっ…………!?」
『嬢ちゃん、幻影の魔法は三個が限界か? なんやそれやと百の魔物と戦うっちゅうたらどうするんや? 気張りぃ!! 百の幻影を作るつもりでぇ!!』
「はいぃ~……!!」
その自信と誇りを手に掴むのは、まだまだ先の話である……。




