021 なんだか体調が悪い日
『マテリアルガチャ――エピックレアリティ【自然薯】を入手しました』
「うお……」
「じねんじょ? これは、お芋なのかしら?」
「その一種だねえ」
5階層のごった煮モンスターハウスの連続と、これまでのレックス先生との激闘を終え、精神的な疲労で倒れながら引いたマテリアルガチャからエピックレアリティの自然薯を手に入れた。
実は、レックス先生からランダムマテリアルボックスなるものを手に入れていて、これの中身から【わかめ】【白ごま】【海苔】を入手している。他にも雑魚モンスターから色々と……。それで自然薯がきてしまったら、作るものはもはや1つしかない。
「……よし、ねばねば冷やしうどんを作ろう」
「ねばねば? え、大丈夫なの……?」
「まあ、好き嫌いはわかれるかもしれないけど。とりあえず俺は好きかな……」
「そう……」
ルシカとの会話も心なしか弾まない。なんだろう、やっぱり精神的な疲労ってのは何事も面白くなくする、最低最悪のデバフなんだなぁ。
『【おくら】【自然薯】【わかめ】【白ごま】【刻み海苔】【冷やしうどん・濃いめ】を合成――――【ねばねばスタミナワカメうどん】、完成です』
「これなんだけど」
「…………糸、引いてるけど」
「腐ってはない。こういう食べ物」
「だ、大丈夫なの?」
そうか、ルシカはねばねば系の食べ物は初見か。食べ物から糸引いてるって、冷静に考えて腐ってるとしか思えないよな。うん、俺が先に食べているところを見せよう。
「いただきゃす……」
「うん……」
この、ずぞぞぞっと啜った時に絡みついてくるおくらの粘りと、自然薯を摩ったとろろのねばねばがね、良いんですよ。白ごまがアクセントになって、うん……。美味しい。美味しいけど、テンションが上がらない……。
「おいしい」
「私も、食べてみるわ」
そうですよ、ダンジョンと同じなんですよルシカちゃん。なにごとも挑戦する意思がね、大事なんです……。はぁ、うう……。なんか、食べて体力とかも回復してるはずなのに、体が痛え……。
「おい、しい……。私これ、結構好き」
「あ~。ねばねば大丈夫人間だった~良かった~」
「見た目に反して、マイルドな味わいね。濃いめのつゆに絡んで美味しいわ」
「…………」
「…………元気、出ないわよね」
「うん……」
何回死んだんだろ、今日だけで。死んだ瞬間のことを冷静に思い出すと、なんか震えがくる。もう死にたくないっていう気持ちが段々と強くなってきて、死への恐怖が大きくなったのを感じる。
「どうして、ここまで自分を追い込んだんだろう」
「死の恐怖からの、逃避……かしらね」
「うどんジョンだから死んでも大丈夫だったけど、これが外での出来事だったらって思うとさ」
「このまま、弱いままじゃいけないって、そう感じるのが強くなったのよね」
ルシカが死の恐怖を感じたのは、故郷の森が火に包まれた時だったと思う。だけど、本当に死を経験して……よりその死に対しての恐怖というか、これが現実で起こったらという強迫観念というか……。言語化するのが難しい、そういう思いが強く出たのかなと思う。
「確かに、弱いままなのは非常にマズい……だけど、本当に疲れたし、体が痛い……」
「そう、そうなのよ。私も体が痛くて……。疲れとかとは違う、別の要素なのかしら、それとも気のせい……?」
「ナビちゃん、UMPは大体どのぐらいあるかな?」
『はい。残量は24万UMP強となっております』
「うーん……」
どうする、使うべきか……。溜めておくべきか。正直、ここで消費するのはなんとなく……嫌な予感がする。
「ルシカ、使うべきだと思うか?」
「使うべきかって……。う~ん……」
ルシカもなんとなく、ここでUMPを使い切って寝るのは良くないかもって思ってるっぽいな。確かに、階層の拡張は明日でも出来る。ここはとりあえず、保留って形でも良いかも知れない。
「保留しよう。明日の体調で考えよう」
「そうね、そうしましょ……」
「……どうする? 今日は、その……」
「ゆっくり、体を休めるべきよね……その、でも……」
「……と、とりあえず、ルシカの部屋に布団を持っていくよ。並べて寝ようぜ」
「そうね。うん、いい考えだと思うわ」
うん、ここからルシカと一戦交えるほどの元気が全くない。だけど、別々の部屋で寝るのはちょっと違う気がする……という、謎の意気投合により、同じ部屋で寝ることに。
――――この後、本当に何事もなく寝た。本当に何もなかった。でも、何事かが起きてしまったのは、次の日のことである……。
◆◆◆◆◆
「ルシカ、大丈夫か~……」
「はぁ……はぁ……うん……大丈夫……」
2人揃って熱を出した。酷い高熱で、39度を超える辛いものだった。
うどんで解除出来る状態異常の中に、風邪やインフルエンザなどもしっかりと含まれていると、ナビちゃんは言っていた。なんなら癌だろうが脳腫瘍だろうが治っちゃうぐらいのヤバい代物だと。そのうどんで治らないとなると……。
「これ、どういう状態異常なんだ……」
「状態異常じゃないってことじゃないの……?」
「正常だって、ことか?」
「うん……多分……」
正常なのに高熱を出している。こんなことがありえるのか?
正常な痛さと言えば、パッと思いついたのは成長痛。あとは親知らずが伸びてきた時とか、そのぐらいだ。体が正常な働きをした結果、体が痛くなるという現象。
駄目だ、これ以上は頭が回らない。
「うう……頭の中に、何か……声が……響いてくるわ……」
「幻聴まであんのかよ……うう~……」
ルシカは幻聴が聞こえだしたらしい。それにしても本当に、メチャクチャ腹が減る。体中痛いし体調も悪いが、腹だけは異常なほどに空いて仕方ない。
『【ドラゴン白モツ味噌煮込みうどん】、お待ちどうさまです……。ダンジョンマスター、大丈夫ですか?』
「ああ、ありがと……。メシだけは入るんだよ、メシだけは」
「それ、わたひもぉぉ~……」
『【ドラゴン白モツ味噌煮込みうどん】、ルシカ様の分です。どうぞ』
「あいがとぉ~……」
うう、相変わらず美味い……。美味すぎて涙が出てくる……。情緒不安定過ぎるだろ、俺。
『――――闇の麺打ち職人、名付けて……闇討ち職人にクラスチェンジを開始……』
「あぁ~……俺もなんか、幻聴聞こえる~……」
「らいとにんぐふぁんとむって、にゃんかいわれたぁ……」
「おお~かっけえ~。おれ、やみうちしょくにん」
「なにそれ、ふふ……あたまいた~い」
死ぬ、倒れそう。頭痛い。気圧でグロッキーな日の、5000倍ぐらいのグロッキー具合。昨日の大量レベルアップと、何か関係があったりしますかぁ~?
『これは……。なるほど、確かに正常な痛さで間違いなさそうです……』
「へぇ~? なんかわかったのぉ、ナビちゃん」
『温かくして寝ろ、寝てください』
「うん……あ、片付けありがとぉ~……」
『お安い御用です。お気になさらず』
「いつもありがとぉ、ナビちゃん。すき」
『…………そ、そんなことを急に言われても!! うどんしか出せませんが!!』
「わたしもしゅき~。いつもありがとぉ~」
『さ、さっさと寝てください! 交信終了!!』
あらあら、ナビちゃんが応答なし状態になっちゃったわ。まあでも、もう立ってられない。座っても居られない。1日分のダンジョン攻略が滞るのは残念だけど、今日は……仕方ないね~……。
『――――闇討ち職人、クラスチェンジ進行中。推定残り時間、18時間45分』
それって何時~……駄目だぁ、頭が回らねえ~……。




