019 何度この地に倒れても
あの時レックス先生に勝てたのが奇跡だったんじゃないかと思うほど、レックス先生に全く勝てなくなってしまった。
『REeeeeeeeeeeX!! DYNAMIC!!』
「がぁっ……」
勝てた時の戦術とほとんど変えていないはずなのに、こちらの攻撃が通りにくい。効果が薄い、と言えば良いだろうか? トマホークも、ファイアアローも、あの時は怯んだはずなのに全く怯む気配がない。
『――――これで6度目の全滅です。アンドゥによる元に戻す効果は、何度でも発動するようですね。こちらも安心しました』
死に戻りの度に、ルシカと対策を話し合う。俺は凡人だ、天才でもなければ戦闘のセンスも高くない。レックス先生にそれを嫌というほど教え込まれたので、慢心しているということは決してない。
だが、何故なんだ? 常に全力で攻撃しているはずなのに、なぜ勝てない? レベルも上がって、スキルレベルだって高くなっているはずなのに。1階層のレックス先生を倒せる気配が全く無い。
「あと何回か死ぬかもしれないが、手探りでやるしかないな……」
「そうね。とりあえず、死んでも大丈夫だとわかって安心したもの。それが良いわ」
なんだ……? 今のルシカの言葉に、何か違和感を感じた。
俺も同じ気持ち、同じ考えのはずなのに、いったいなぜ……? 何がおかしいと感じたんだ?
「…………ルシカ」
「うん? どうしたの?」
「最初に倒した時と、負け続けている今。いったい何が違うんだろうな」
「だから、それを今から手探りで……何回死んでも、大丈夫なんだから!」
ああ、ああ。今ハッキリとわかった。
何回死んでも大丈夫……。これだ。これが、最初に倒せた時と今の大きな違いだ。次は倒せる、次は上手くやろう、次は、次は。
本当は次なんて存在しないはずなのに、次があるからと安心しきっているんだ。だから……本気でブッ殺す、勝ってやるっていう気合いが足りていない。
「……これを聞いたら呆れるかもしれないんだが、もしかしたら、気合いが足りないんじゃないかって思うんだ」
「き、気合い……?」
「レックスを絶対にぶっ倒すっていう、心の底からの闘志が足りてないんじゃないかって」
「…………あながち、無視できない意見かもしれないわ! 死力を尽くして戦った時のような気合い、根性! 闘志がマナに乗って、知らず知らず強化された攻撃になっていたのかも」
ちょっと精神論過ぎる気もするが、マナなんていう非科学的なものがある以上、根性によるブーストというのもありえない話ではない。しかし、どうやって任意で闘志をマナに乗せられるのか……。
「自暴自棄になって突っ込むだけじゃ駄目だと思うんだ。任意で闘志を燃やすような、そうだな……ゾーンに入るっていうのかな? 極限まで集中力が高まった時に発揮される、火事場の馬鹿力を任意で出したい」
「それ、達人の領域の話になっていないかしら! それが出来るのって、達人とか剣聖とか、そう呼ばれるような存在よ?」
ん~……。だけど、最初に倒せた時は確実にゾーンに入っていたと思うんだ。あの感覚を任意に……までは難しいけど、それに近づけようとする努力ぐらいは出来ると思う。
「自己暗示……試してみるか」
「自己暗示?」
「うん、自分に暗示をかけて、強制的にゾーン状態を呼び出すんだ。まあ素人の考えだから、上手くいくかなんてわかんないけどさ。とにかく、やってみようと思う!」
「自己暗示、ねえ~……。私も私なりにやってみるわ」
よし、とりあえず足りないものの話はこれで終わりだ。ここからは、頭だけじゃなく体も使っていこう。さて、自己暗示……自己暗示かぁ~……。
「いくよ」
「ええ、準備は良いわ!」
――――絶対に勝つ、絶対に勝つ絶対に勝つ。レックスを倒す!! レックスを倒す!! 倒す倒す倒す倒す!! 俺なら倒せる!! 俺なら、倒せる!!
『REeeeeeeeeeeeeeeeeeX!!』
「うおおおおおおおおおおおおおおお!! 負けねええええええええええええええ!! 絶対に、負けねええええええええええええ!!」
『REeeeX!?』
圧倒する!! 圧倒して勝つ!! 俺の渾身のトマホークを、食らいやがれぇええええええええ!!
「トマ、ホォオオオオオオオオク!! ぬぅぅううん!!」
『AHHH!! OHHHH!!』
…………効いた!? いや、集中を乱すな。手を止めるな、あいつは死んでないんだぞ!! ぶっ殺すと心の中で決めたのならッ!! その行動を終了させなければ、ならなぁあああいッ!!
「イルジオン、ダブルファイアボール!!」
『OH!! WOW!! NO!!』
「トマホォオオオオオオク!!」
『AHHHHH!!』
倒す、倒す、その隙を致命傷にする!! 恐竜頭の人型モンスター故に、弱点も人間と大差ないんだ!! 姿勢を低く、狙うは……アキレス腱だ!!
「……ダブルスラッシュ!!」
『OH……!? NOOOOOO……!!』
「ダブルファイアスパイク!!」
「ダブル……ディサイシブスタブッ!!」
体勢を崩したチャンスを逃すわけにはいかないよなぁああ!? 狙うは首、両の牛刀で刺突!! その丸太みてえな首、刎ねさせて貰うぞ!!
「スラァアアアアアアアアアアッシュ!!」
『――――ッ』
やった、やった!! あれだけ戦って勝てなかったレックス先生に、こんなにすんなり勝てるなん…………てっ…………?
『Miso.スープレックス、完全撃破。強化型フロアボス完全撃破ボーナス、6000UMP獲得。安全地帯になりました。おめでとうございます』
「はぁ……はぁ……ッ!? う、うっ……!」
「ちょっと、ケント!?」
なんだ……あ、足が、立てない……? 体が、倒れる……ッ!?
「な、なん、ら、こぇ……?」
「ケント、貴方!! マナが空っぽよ!?」
「な、なんりぇ……」
は、吐きそうだ……。気持ち悪い、世界がぐるぐる回ってる……。二日酔いの朝みたいな、最悪の気分だ……!!
『スキル【超集中】と【限界突破】を獲得したようです。判断と根性のスキルが進化したと推測されます』
「は、ぇ……。おぇえええ……!!」
「それでこんなになっちゃったの!?」
『レベルに見合わない強力なスキルであるため、マナの枯渇が激しいものと推測されます』
それでかよぉ……!! 判断と根性のスキルが進化したってぇ……? 嬉しいことだが、死ぬほどキツイ!! 胃の中身がひっくり返りそうなぐらい最悪な気分だが……。
「上手く出来るかしら……。んんんっ……!! ケント、拒絶しないでよ……?」
「うお、ぁ……。あ、あった、けぇ……」
俺の腹にルシカが触れてて、そこがメチャクチャあったけえ~……。うう、吐き気が収まってきた……。でもまだ、世界はぐるぐるしてる……。
「……ナビちゃん! うどんよ、ミニうどん!」
『はい、お待ちどうさまです』
「ケント、無理してでも胃に流し込んで!」
「うぶっ……うっ……」
うう、一口で食えちゃうぐらいのミニうどんが、にゅるっと入ってきたぁ……。俺の体はうどんで出来ているんじゃないかってぐらい、うどん食いまくってるなぁ……? あれ、世界のぐるぐるが止まった……?
「UMPを消費した料理には、体力と状態異常とMPを回復する効果があるのよね? だったら、マナ切れで調子がおかしくなった体も、元に戻るかと思って」
「ああ~……。ありがとう~……助かったぁ~」
「マナ欠乏症って言うのよ。初めては辛いわよね……」
これが、マナ欠乏症……。今までマナポイントことMPを切らしたことなんてなかったから、知らなかったぁ~……。い、いい勉強になった……。
「これは、切り札にしよう……。出来れば、限界突破しなくてもレックス先生に勝てるぐらいに……」
「毎度毎度これでは、大変なんてものじゃないわよ~」
…………いや? 俺は、何を甘えているんだ?
倒せるスキルを手に入れたのに、マナ欠乏症が嫌だから使わない? 何を言っているんだ?
「……いや、やっぱり使おう。この状態が普通になるまで、慣れるまでやれば良いだけだ。そうじゃなきゃ、この先どんな強い相手が出てきても、マナ欠乏症が嫌だからって超集中と限界突破を拒むようになっちまう」
「ケ、ケント……!?」
「ルシカ、俺はやるよ。嫌だから使わないなんて、甘えてた。ナビちゃん、リセットしてもう一回だ!! このスキルを使うのが当たり前になるぐらい、使って使って使い込んでやる!!」
「……じゃあ、私もケントに負けないように、その超集中スキルと限界突破スキルを会得してみせるわ!! 頑張りましょ、ケント!!」
「ああ!!」
やるんだ。嫌だからってやらない、使わないはナシだ。さあ、覚悟を決めてもう一戦!! 限界突破のその先を目指して、限界突破を限界突破だ!!




