014 天国と地獄
防犯カメラの映像から『殺意を持って拳銃を発砲した相手に対し、手足を切りつけて反撃したのは正当防衛である』と認められた。そもそも相手が指名手配中の暴力団の人間だったのもあって、罪に問われることは一切ないということだった。瀬戸はその繋がりがある人物として逮捕、まあ当然だな。
解放された後は、最初に話しかけてきた警察官に家まで送って貰って、憂さ晴らしに4階層の解放とマテリアルガチャ、そしてモンスターガチャをやることにした。モンスターガチャは、明日の朝飯代が残るように引けるだけ引いてやった。
「……これ、ヤバいよな?」
「絶対にヤバいわ。絶対に、間違っても配置しちゃ駄目!!」
そして、モンスターガチャから……ヤバいのが出てきた。
『レジェンダリーレア! 大剣豪・海老天之助が当たりました! おめでとうございます!!』
「基本UMP……5万……!!」
「絶対に無理、絶対にヤバいわ、こんなのヤバい予感しかしないもの!!」
俺の頭も、『こいつは絶対にヤバいから戦うな』と警報を鳴らしている。UMPの高さはおよそ強さと比例していると思われるので、こいつはうどんぶりスライムの500倍は強いという計算になる……。それなら、うどんぶりスライムを500体倒したほうが絶対にマシだ。
『レジェンダリーレア! 大剣豪・海老天之助が当たりました! おめでとうございます!! セットしてください!!』
「ふざけんな、しねえっつうの!! ストックしとけ!!」
『レジェンダリーレア! 大剣豪・海老天之助が当たりました! おめでとうございます!! セットしましょう!!』
「しねえって、バカがよぉ!!」
「絶対しないでね、ナビちゃん! 絶対だから!!」
『はい。ストックします』
ルシカの言うことだけはすんなり聞きやがって……。まったく、こんなのセットしたら瞬殺だろ、俺達。それにしてもいきなりレジェンダリーレアが出ちゃったかあ、スーパーレアの上のレアリティとか見てみたかったんだが、今回はハイレアの『キンメ大根』しか出なかった。水棲系モンスターらしいから、水中のマップじゃないと配置出来ないらしい。
「ナビちゃん、水中マップって呼吸とか大丈夫なのか?」
『はい。水中であるという要素のみを取り入れ、何故か呼吸が出来る水中という環境を構築することが可能です。なお、建造費は1.5倍頂きます』
「え~……メリットがないように聞こえますけど~……」
『うどんジョンでは、海のうドン底という専用マップで固定となります。広大なマップで隠れる場所が少なく、先程のデメリットも存在するマップではありますが……。マップ固有のボーナスチェストが複数発生します。もちろん、モンスターを上限まで配置して撃破しなければなりません』
はっは~ん、なるほどね。面白いマップだなぁ……。でも、やるとしたら5階層とか11階層とか、そういうキリの良いところからがいいな~。
「なるほどね、ありがとう! それじゃあ明日のダンジョンは……」
「グラビ豚と戦いましょ!! 豚肉ってことよね!?」
「いいね~豚肉は是非手に入れたいし、ちくわんこも飽きたから~……あ! タマカモネギにする? 新しく出たやつ!」
「それがいいわ! うふふ、明日が楽しみね~!」
よしよし、明日はグラビ豚だなぁ~……。重戦士グラビ豚、どんな攻撃をしてくるんだろうか。楽しみだな~……。
「ねえ、ケント」
「ん? 何~?」
「前は使えなかった魔法だったのだけど、多分使えるようになったと思うの。試しに使ってみても良いかしら?」
ほげ~新しい魔法ですかぁ~!? いやその、家を派手にぶっ壊すようなものでなければ……?
「そ、それって、攻撃系……?」
「え? ああ、ごめんなさい! 回復系に分類されるかしら? こう……いけそう! こういうものよ!! ルミナスヒール!!」
うお、まぶしっ……ってほどでもないな。ほわ~っと綺麗な光が~……ほわぁ~……。
「出来た! これはね、範囲回復魔法よ!! 簡単な状態異常も回復出来るし、なにより!! うんうん、文献で読んだ通りの効果だわ~!!」
「凄いなぁ~。それで、文献で読んだ効果って?」
「ほら、自分の手を見てみなさいよ!」
自分の手? ああ、そういやさっきの小競り合いとかで、諸々でちょっと汚れてたか……あれ?
「汚れを綺麗さっぱり浄化するのよ! 使いたかったのよ~ルミナスヒール、お風呂も最高だけど、お風呂に入れない時に汚れていると嫌な気分になるでしょ!? ほら、汗をかいてちょっと~……って時もあるし、服の汚れとか、色々気になるじゃない!?」
お、おうおうおう、いつにも増してルシカのテンションが高いな。でも、確かに……。
「ルシカは綺麗で可愛いし、いつも綺麗で可愛く居てくれるってことなら、凄く嬉しいね!」
「…………」
お……おう? あれ、ルシカさ~ん? なんか、目が座ってらっしゃいません、か……?
「ねえ、貴方から見たら私って……相当なお婆ちゃん、よね?」
「え? いやいや、成人したばっかりなんでしょ? 綺麗なお嬢さんでしょ!」
「私ね? 結構自信を失ってるのよ。だって、ケントと私ってこの家でふたりっきりよ?」
はい、そう……ですね?
「もしかしたらケントって、私に全然興味がないんじゃないかしらって」
「いやいやいやいや!! そんなことはないんですけどね!?」
「じゃあどうして、可愛いとか綺麗とか言って期待されるだけさせて、それ以上してこないのよっ!」
あ~……あ、あ~……。そう言われましても~……。まだ出会って数日ですし~……。
『抱~け。抱~け。抱~け』
「う、うるさいよナビちゃん!!」
「私……ケントに救って貰ったの。命の話じゃなくって、人生的な意味でもよ。生き延びても、もうみんなは居ないんだって思ってたけど、こうやって前を見て歩けるように手を取ってくれたのはケントなの。凄く恩を感じてるし、それに報いれないのが凄く悔しいわ」
『抱~け。抱~け。抱~け』
くそっ……!! ナビちゃんがかつてなくうぜえ!! 今、どうやってルシカを説得しようか悩んで…………。説得して、どうするんだ?
ルシカは、俺に報いる方法がこれしかないって思ってる。俺がいくら説得したところで、ルシカの中にモヤモヤが残るだけじゃないのか……?
「出会って間もないとか、そんなの理由にして欲しくないの。私のこと、どう思ってるのか……いつも思わせぶりなことばっかりして、からかってるだけなのか。それを、知りたいの」
「うっ……」
『貴方にも責任がありますよ? 牛柄の下着を迷いなく渡したり、幻影だからって無遠慮に胸を揉んだり、いっぱいい~っぱい、ルシカを傷つけていますよ~?』
く、くそぉ……。反論出来ない。事実陳列罪で訴えるぞ、ナビちゃん……。
いやでも、ルシカは本気なんだ。どうしてこのタイミングなんだって考えたけど、恐らく瀬戸の起こしたあの事件が原因だ。この世界でも、命は軽く失われてしまう可能性が高いって、ルシカはそう思ったんだと思う。だから……そんなことが起きる前に、ハッキリさせたいものはハッキリさせたいって、思ったんだろうな。
「……俺さ、不器用だけど、うどん作るのもナビちゃん頼りで下手くそだし……。その、思いを上手く、伝えられるかわかんないけど」
「…………今夜は、一緒の部屋で寝てくれるって、こと?」
「…………ふ、ふちゅちゅかものですが」
『うおおおおおおおおっしゃぁあああああああああ』
「ナビちゃん、絶対話しかけてくるなよ」
『はい、頑張ってください。きっとお二人の体力でしたら、朝までノンスト――』
ダンジョン管理、ナビちゃんを一時的に遮断。これで、出来たよな?
『――――』
「ナビちゃんは黙らせた。じゃあ……いこっか」
「……んっ」
どうしてさっきまであんなにグイグイきてたのに、急にしおらしくなっちゃうのぉおおお!! 俺、どうしよう!! 犬から狼にランクアップしちゃうよぉ!? 夜の大運動会、しちゃうよぉ!? あ、そういや国によってはこういうのがスポーツとして認められてるっていうおおらかな国もあったよな……。いや、今はそんな話どうでも良いんだよ!!
『――――!!』
ルシカ……。俺は今日、一線を超えるぞ!!
◆◆◆◆◆
『見せろぉおおおおおおおおおおおおお!! ふざけるなぁあああああああああああああああああああ!!』
◆◆◆◆◆
やべぇ……。本当に、ルシカと……? お、覚えてねえ……。無我夢中過ぎて……。
「あ……。おはよう、ケント」
すげ、おっ……。女神が窓辺に居る……。紅茶を飲んでまったりしてらっしゃる……。
「女神様……」
「あは、何言ってるの。まだ夢の中なのかしら~?」
女神様と喋ってるよ、俺。あまりにも不敬な我が態度、どうかお赦しください……。
「まだ2時間しか寝てないわよ? もうちょっと寝たら?」
「……え?」
えっと、一緒にお部屋に入ったのって、0時ぐらいでしたっけ? それで、今は7時で……。ほ、ほへぇ……!?
「いや、起きちゃおっかな……。テ、テレビでも……」
「その情報伝達の魔導具、面白いわよね。たまに思想が強い情報も混ざってるみたいだけど」
「ああ~俺は、ニュースとかしか見ないようにしてるかな」
とりあえず話題を変えよう。テレビ、テレビを見ます!!
『――昨夜、都内のスーパーにて傷害事件が発生しました。指名手配中の暴力団の男と見られる男が発砲しましたが、怪我人は出ませんでした』
『しかしこの映像、凄いですね~。狙われた人はたまたま当たったって証言しているようですが、銃弾に何かを投げつけて当てた!! 人間業じゃないですね~!!』
『コメントまだですよ、宮家さん……』
『あ、ああ失礼しました!』
どっ……!?
うっ……!?
わぁあああああああああああああああああああああああ!?
「今の、ケントだったわよね?」
「スーパーの防犯カメラの映像、漏れてんじゃん!! なんだそれえええええええ!?」
最悪、最悪だろこれぇええええ!! なんだよそれええええええ!!
『――裏で暴力団の男と繋がっていた女性も逮捕され、女性は「腹が立ったので、裏切り者に思い知らせてやろうと思った」などと供述しており、酷く身勝手な個人的理由による犯行であると警察は発表しています』
『フラレたんですかねぇ? しかしフラレた程度で、ヤクザに人殺しの依頼ですかぁ~世も末ですねぇ』
『だから宮家さん、まだ……』
『ああ、失礼!!』
『他にも暴力団との繋がりがないか、警察は捜査を進めているそうです……。どうぞ、宮家さん』
最悪だ……。さっきまで女神様と最高の時間を過ごしてたのに、朝から最悪の気分だ……。あ、最悪で思い出した。ナビちゃんの遮断解除しよ……? あれ? もう解除されてる!?
「……おはようナビちゃん」
『緊急性があると判断し、今の映像を確認させて頂きました。私にはダンジョンマスターをサポートする責務があります。責務なので言ってやります。今の情報から推測するに、貴方へ話を聞こうとする人間がこの家を探し出して大勢やってくる可能性があります』
うわぁ、怒ってるけど仕事はしてくれてる……。本当にありがとう……。
いやでも、そっか……! このニュース、こんな朝の目立つ時間にデカデカと時間を割いて放送してるってことは、注目のニュースになってるってことだ。うわあ、面倒くせえ!!
「で、でも、どうすれば……」
『提案。ここは、0階層です。それは理解できますね?』
「ええっと、はい……」
ナビちゃんに何か作戦があるっぽいな。どんな内容なのか、聞いてみるか……。
『ダンジョンマスターは、ダンジョンへと続く転移ポータルを設置することが出来ます。今回は捏ねたうどんが自動的にそうなりましたが、意図的に設置することも可能です』
「は、はい!」
『つまり、0階層を1階層のダンジョン同様に異空間化し、0階層に続くポータルを作成すれば、この家を自由な場所に持ち運ぶことが出来るということです』
「…………この家、移動出来るってこと!?」
『そうなります』
なるほど……。確かにそうすれば……でも本当に、俺を探しにくる人なんて現れるのか? このニュースで終わりって可能性は……。
「ケント、さっきから外をウロウロしている人が結構居るわ。多分、ケントのことを探しているんだと思う」
『急ぎましょう、時間がありません』
んん~……!! 親父と過ごしたこの土地離れるのは癪に障るが、家を離れるわけじゃないんだ、仕方ないと思うしかないか!? くそ、俺は悪いことしてないのに、逃げ回らなきゃいけないのかよ!!
「でも、どこに逃げてどこに再設置するんだ……?」
『灯台下暗しという言葉があります。探している人物は当然外にいる、その思考の逆を突き、そのラジテレビなるテレビ局内に潜伏しましょう。迷惑をかけてきた相手ですし、間借りするぐらいの権利はあるでしょう』
凄いこと考えるなぁ、ナビちゃん!? でも、この最悪の気分の意趣返しとしては確かに面白いな。テレビの映像から察するに、俺の顔は全く割れていない。わかるとすれば、瀬戸繋がりで飯田商事に辿り着いて、あいつらが『こいつだよこいつ!』と俺の顔写真を勝手に公開するぐらいだ。
「……よし、この家を異空間化させる。いくらUMPを払えば良い?」
『0階層の建造費用はいくらでしたか?』
「え?」
0階層の建造費用って……。うーんと……。ああ!!
「うどん捏ねただけだ!!」
『はい。強いて言えばそれでうどんが1杯作れたと思いますので、うどん1杯分の値段が妥当でしょう。その費用の2倍を頂戴致しますので……』
「200UMPでいいのか!?」
『何にポータルを貼り付けるか、選んでください。それに転移ポータルを貼り付け、この家を異空間に取り込みます』
何に貼り付けるかって、え~……。目立たずに持ち歩けて、なおかつポータルとして機能させるのに問題ない大きさのもの~……。んっ!? そうだ、折りたたんで持ってっても良いんだよな!? そもそも、アイテムボックスに入るか? ああでも、設置中は現界に置かなきゃいけないだろうし~……。
『どんな大きさのものでも構いません。魔力を流すのに触れられる大きさであれば』
「じゃあこの、麺棒だ!! うどん作る時に使ったんだ!!」
『……では、そちらの麺棒で。ポータルは200UMPで作り直すことが出来ます。もしも残高不足の場合、ポータル作成に限ってはUMPの貸し付けが可能です。ご安心ください』
おお、それはご安心です。では早速この麺棒に!
『では、家から出てください。巻き込まれてしまいます』
「……あ、そっかそっか。ダンジョンの備品として帰属してないものとかは? 大丈夫?」
『問題ありません。一時保管品として扱われるだけです』
「いこう、ルシカ!」
「ええ!」
じゃあ早速家から出て、麺棒にうどんジョンを閉じ込めるぜ! ナビちゃん、よろしくな!!
「よし、頼む!」
『0階層、異空間化開始……。麺棒にポータルを付与します』
「あっ! 消えちゃったわ、更地になった!!」
「――なんだなんだ!? 家が消えたぞ!?」
「――さっき聞いた家だ!! あそこに居るんじゃないか!?」
やべえ、もう見つかったのかよ!! くそ、走って逃げるしかないか!? なんとか、こう、闇魔法とかで……。
「イルジオン」
「お……? わっ」
「ケント、手を離しちゃ駄目よ? 今私達は、幻影魔法で姿が見えないから」
ありがとう、本当にありがとうルシカ様……。ああ、女神様……!!
「……ありがとう。じゃあ、いこうか」
「ええ……。全く、こっちの世界でも面白がられて追い回されるなんて、私もごめんよ」
そっか、ルシカは元の世界で帝国に追いかけ回されて……。嫌な思い、させちゃったな。
さらば、我が家の土地。いずれ帰って来ることは……ある、かな? 帰ってきたいな。親父と過ごした、この場所に。




