013 スーパーに出かけただけなのに
いつもなら、自転車で30分もかかる7キロ離れた遠くのスーパー。なんとね、走って10分で到着致しましたよ? それもルシカのペースに合わせてだから、俺が全力で走れば7分か6分で到着するのではないでしょうか!! ダンジョンが現れる前、5キロメートル走の世界記録は12分台だったから、アップダウンのある曲がりくねった道を7キロ10分で到着は……凄い早いってことですねえ!!
「もう着いたのね!」
「そう、ここ! コンビニだと品揃え悪いからさ、スーパーのほうが良いんだよ」
「大きい商会のお店ね~」
「まあ確かに、大きい商会なのは間違いないな。未だに全国規模で店を出してるの、ここぐらいじゃないかな?」
「全国!? 凄いわね!?」
さてさて、やって参りました、ヨークハナマル。全国のいろんなスーパーと合併して巨大化した、生き残りに大成功した巨大スーパー。こんなご時世でも全国展開してくれて、しかも結構遅くまでやっててくれる。本当にありがとうって感じ!
「わあ~……。明るいし、天井も高いし、商品もいっぱい! これ、全部買って良いものなの?」
「あんまりペタペタ触っちゃダメだよ? 他の人が買うものでもあるんだからさ」
「そうよね、ちょっと浮かれちゃったわ」
こんだけいっぱい品物が揃ってたら、テンションも上がっちゃうよね~。デパートに入った時は食料品コーナーを回ってこなかったし、見るのは初めてだもんね。
「んじゃ、野菜を適当に選んでいくか」
「ここはお肉も売っているの?」
「ああ、大体この手のスーパーは奥の方の角のコーナーとかにあるな」
「……ねえ、もしかして、魚もあるの!?」
「あるよ~。とれたて新鮮みたいなのも、なんだったら日本は生でも食べられるのが存在してるんだぜ」
「生で!?」
魚の生食は驚くよな~。うんうん、わかる~……。寿司とか覚えさせちゃったら、うどんに戻ってこられなさそうだわ。大丈夫かな~……。
「興味があるなら買ってく?」
「この国の人達は、普通に食べているものなのよね。じゃあ、せっかくだから……」
「おっけー。それも買っていこう」
まあちょっとぐらいなら。それに今の俺の懐はかなり温かいし、なんだったらサー・ロインを倒した時に手に入った中金貨交換券もあって、これで400グラムも金を所持しているわけだし。1000万円ですよ? いやはや、夢がありすぎて……。でも、1000万円あってもUMPは1も増えないんだよな。ぶっちゃけ、今の俺はUMPのほうが欲しい。
もちろん、お金が欲しくないわけじゃない。でも、それよりもUMPなんだ。4階層以降もばんばん増やしたいし、ガチャももっと引きたいし、あの時はスルーしたマテリアルガチャ……あれもばんばん引きたい。レベルが上がったらきっと、回数も増えるはずだ。
「……あ、あの。稲庭さん、ですよね」
「え? あ~……」
うわ、だから前の会社の近くのスーパーは嫌だったんだよな。こんな時間だってのに、出会っちまったわ。面倒くせえ~……。
「ケント、この人は?」
「前の会社の、あ~……仕事場に居た瀬戸って同僚」
「ふぅ~ん、セト……」
「稲庭さん、その人は誰ですか……?」
誰だろうとさ、もうお前に関係なくないか? なんでイチイチ説明しなきゃいけないんだよ、面倒くせえなぁマジで。
「じゃあ、無関係の人どころか、嫌な人ってこと? 嫌だから辞めたって言ってたものね」
「まあ、そうなるかな。そんなわけで顔を見たくないから、関わらないでくれる?」
「稲庭さんが抜けて、発注先が全然わかんなくて、会社は大混乱なんですよ!! 責任があるじゃないですか、引き継ぎとか!!」
「相良に聞けよ。俺の案件は全部あいつのものだって、会社全体で納得してたんだろ? お前らこそ無責任だよな。俺から勝手に案件取っといて、やる気なくなったから辞めたら無責任? ふざけんのも大概にしろよ。気持ち悪いから喋りかけてくんなって言ってんの」
「き、も……」
この際、ハッキリ言ってやるか。
「ああ、気持ち悪いよお前。今更どの面下げて俺にそんなこと言ってんだよ。土下座して教えを乞われても断るっつうのに、責任だ? 引き継げだ? 引き継ぎなんて要らねえって相良が言って、それを社長も止めなかった。お前達も誰も止めなかった。お疲れ様でしたの一言もない。気持ち悪くて吐き気がするよ」
「ケント、もう放っておきましょう? このセトって人から得られるものは何もないわよ。ただ時間を失うだけだわ」
「それもそうか。んじゃ、買い物~……何買うんだっけ? うわ~早速実害が」
「あらあら、回っている内に思い出すんじゃない?」
「ま、ま、って……」
俺なんて居なくなってもなんとかなるって、会社が回るって、そう思って誰も止めなかっただろ? お疲れ様でしたの一言でもあれば、ちょっとは考えても良かったんだけどな。
もうお前達に構ってる暇なんてないんだよ。二度と話しかけてこないでくれ。
「あ! そうだ、コンソメスープの素だ! あれがないとな~」
「スープの素? そんなのまで売ってるのね」
「そうそう、本当に凄いんだよ。企業努力ってやつだなぁ~」
「ケント、私このお魚が食べたい! 赤くて綺麗!!」
「シャケか~。焼いて食うのが一番だな、買ってくか」
そうそう、こういう楽しいショッピングの時間が良いんだよ、俺は。
なんでもかんでも、物珍しそうにはしゃぐルシカが可愛いねぇ~……。瀬戸はなんか、スマホで電話してんな。会社の誰かに連絡してたら面倒臭いし、さっさと退散するか。
◆◆◆◆◆
「――じゃ、買ったものはアイテムボックスに入れて帰るか」
さて、買うものも買ったし、あとは走って帰るだけなんだが~……。ああ、ルシカがはしゃいでちょっと長居したからかね。な~んかこっちに用事があるっぽいお兄さん達が居るっぽいねえ。
「おったおった、美人の外人連れてるっちゅう兄さん!」
おいおい、ここのスーパーには警察に直通の警備システムがあるし、防犯カメラもめちゃくちゃあるんだぞ? 瀬戸のやつ、どこの伝手を呼んだんだよ。というかあの女、こんな奴らと関わりがあったのか。
「瀬戸ちゃんがえーんえーんって、泣いちょるからぁ。ちょぉ~っと見に来たっちゅうわけ。なあ、面貸せや」
「こっちのねーちゃんは、俺らが遊んでてやるからよ!」
ルシカは……ああ、ぶっ殺すって顔してるわ。俺も同意見なんだけど、先にこっちから手を出すとヤバいからなぁ~……。
「腰にぶら下げてる武器は飾りか? 今時お前らみたいなチンピラ、流行ってねえんだよ。帰って小便して寝ろ」
「あぁ……? 口の利き方ぁ、気ぃつけなあかんでぇ兄さん!! なぁ!!」
「ワン、ワンワンワン!」
「ぷっ……ケント……ッ」
犬に吠えてきたんだ、礼儀正しく犬語で返してやるよ。小さい頃からこの名前のおかげでバカにされることが多かったんだ、相手をからかってブチギレさせるのは慣れてんだよ。やり返しただけなら、俺は悪くないからな。
「ああ……!?」
「あれ? 随分と吠えるもんだから、実は犬の仲間かと思って口の利き方に気をつけたんだが、もしかして犬語わかんないの? 瀬戸の犬のくせに」
「てめぇ!! 兄貴、こいつぶっ殺しましょう、ここで!!」
「待て待てぇ!! ここは、ここはアカンやろ……」
なんだ、こいつら警察にビビってる程度のチンピラかよ。じゃあ、もう一押しってところか?
「…………コンフューズ」
「あぁ……?」
「瀬戸に呼び出されたんだろ? ムカつくからボコって~みたいな感じに。瀬戸様ぁ~女王様ぁ~ワンワ~ンって、足を舐めてる変態犬がてめえだって言ってんだよ」
「調子に乗りやがって!! ヤクザ舐めんなやぁ!! いざとなりゃてめえぶっ殺すぐらい、ワケあらへんぞ!?」
「……!! こちら東口、トラブル発生。民間人がヤクザと名乗る男に襲われています。警察に応援を!!」
ほ~ら、警備員に見つかっちゃったぞ~? まあ、ルシカのコンフューズによる混乱効果なんだろうけどな。さっきまでは『ここでやるのはマズい』って言ってたのに、いきなりこれだもんな。
「やっちまえ!!」
「死ねや!!」
え、こいつら……!? 背中側に武器持ってるなと思ってたけど、ナイフか何かだと思ったら、拳銃かよ!! クソ、誰かに当たったら……!!
「鉛玉くらえや、クソガキィ!!」
集中しろ、銃口から発射される弾は一直線。後ろはスーパー、流れ弾が誰かに当たるのだけは避けたい。アイテムボックスから石……石じゃ弱い。手斧だ、こいつを投げる……!! 手首のスナップだけでいいんだ、弾に当たりさえすれば……見える!!
「あぁ!?」
手斧に当てた、弾は上に弾いた……。一瞬のスローモーションの世界だったが、間違いなく弾いたのが見えた。シリンダーが回って、次の弾の準備がされる。それは、撃たせねえ!!
「はぁっ!!」
「あ……? あ、ああ……?」
拳銃持ちのヤクザの右手を切り飛ばした。やり過ぎかもしれないが、拳銃なんて取り出してここでぶっぱなったんだ。殺されなかっただけありがたいと思えよ!! 残り2人、こいつらはドス持ち。だが遅い!!
「こいつ、死ねえ!!」
「この野郎!!」
姿勢を低く、地面を這うような体勢で踏み出す。足を切り飛ばして無力化する! 相手が倒れ込んだところでドスを持った手を蹴り上げ、空高く飛んだドスを回収すれば……無力化完了だ。
「やるぅ、ケント! コンフューズ解除」
「お、ぁああ……!! 俺の、俺の手がぁああああああ!!」
「ああ、足、足ぃいいいいい!!」
「動くなー!! 警察だ!! 両手を上げろ!!」
「くっ、くっそぉおおおおおおお!!」
おーおーきたきた、国家権力の皆様のご登場だ。随分と早い到着だと思うが、スーパーの周りには常に警察がパトロールしてるんだ。万が一にも地上でモンスターが発生して、それがスーパーに立てこもったら……って想定しての動きだな。ちなみにこの手のモンスター立てこもり事件、今までで数十件ある。だから食料品を売ってる店の近くでトラブルは起こさないほうが良いんだよ。
「そのお兄さんが、ヤクザに絡まれてた民間人です!」
「君が……とりあえず署まできてくれるかい? これは、君がやった……で、良いかな?」
「拳銃と刃物抜いて襲いかかってきたんで、無我夢中で……」
「ケントをどこかに連れて行く気? 襲われたのはケントなのに、悪者扱いしないわよね?」
「あ~……このお嬢さんは?」
「ん~……運命の人です」
「まぁ……ケントったら、もう~!」
警察の顔がちょっと引きつってますね、はいすみません……。でも、嘘ではないんですよ。本当に運命的な出会いをしちゃったんで。
「それより、もう1人捕まえて欲しい人が居るんです。あの女、今逃げようとしてる茶髪の女です」
「容疑者が1人現場から逃走中、南方向に逃げた茶髪の女、被害者を襲ったグループの1人と思われる」
「――――やめて!! 離して!! ちょっと、痛い!!」
あっという間に捕まったな~……。まあ、警察はダンジョンに行ってレベル上げとかしてるらしいし、一般人より強いのは当たり前か。レベルも高いんだろうな~……。目の前に居る警察官、この人とやりあったら、俺とどっちが強いんだろう。
「容疑者は確保した。それより……なんでも、目撃証言では1発撃たれたそうだが、怪我はしていないのか?」
「え? ええ、まあ……」
どうする? 下手に嘘をついても怪しまれるだけか……? 防犯カメラに写ってるし、言い逃れは出来ないか。
「アイテムボックスから手斧を投げたら、たまたま当たったんです。運が良かったです」
「アイテムボックス!? 君、アイテムボックス持ちなのかい!?」
「ええ、防犯カメラの映像で嘘ではないことがわかると思います。どうせバレるので、先に言おうかと」
「――おどりゃぁ!! 絶対にゆるさん!! 絶対に、ゆるさんぞぉおおおおおおお!!」
「……やはり、署で詳しく話を聞かせてくれないか? アイテムボックス持ちとあれば、国からの支援を受けて」
「いや、そういうのは面倒なんで。この事件の話だけなら出来ますんで、それ以外は」
こういうのは強気に出ないと駄目だ。アイテムボックス持ちが国の子飼いになるって話はたまーに聞く。嘘か真かはわからないが、そんなのになるのは御免被りたいんでね。
「わかった。とりあえず、署まで案内する。警察車両に乗って貰っても良いかい?」
「ルシカ、とりあえず話だけして、さっさと帰ろう」
「ええ。セト……最低の女ね……」
「ここまでバカな女だとは思わなかったよ」
本当にバカなことをしたな、瀬戸。ヤクザと繋がっててイキってたから、あんなに強気に出てきたのか? そもそもなんのためにヤクザなんか呼んだんだよ、バカ過ぎて理解が出来ない。
あ~あ、ちょっと買い物に~って出てきたつもりだったのに。こんな面倒なことになるなんてなぁ~……。ほんっと、最悪な気分だわ。
――――もっと最悪な気分になるのは、その翌日のことなんだけどな。




