012 理想以上のカルボナーラ
はぁ……はぁ……。
見てごらん、この、えっちな輝きを……。
「マテリアル、和牛サーロイン……」
「こ、これ、本当にお肉なのよね……?」
「お肉だよ……」
「き、綺麗過ぎるわ。こんなの……」
わかる、わかるよぉ~ルシカ……。俺もね、ここ数年のダンジョン騒ぎで和牛なんて、それこそ高級なお肉なんて口にしたことがなかったんだ。
それにしても、スーパーレア確定のボーナスチェストかと思っていたサー・ロインの完全撃破ボーナスも、実は確率による出現だっただけ……。本当に最初の運が良かっただけだったんだ。
そう、16体目さ。もう今日は無理か、無理だな~と諦めかけていた最終週、銀色よりもギラギラと輝くボーナスチェストが出現した。プラチナチェストと、そう呼ぶことにしたそれからは……このマテリアルが出現したんだ。
「ハイパーレア、か……」
「もう手に入らないかもしれないわね……」
「だなぁ……」
ハイパーレアアイテム、マテリアル・和牛サーロイン。奴の名前を冠した、高級部位のお肉だ。これをどうするか? 正直、もう少し捻ったメニューに使うべきなのはわかっている。わかっているんだが……。
「ルシカ。俺はね、この部位で……」
「いいの、わかっているわ。使いましょう!」
「…………わかってくれちゃうかぁ~!! ルシカは天才!! 最高!! 牛柄下着!!」
「最後のは関係ないでしょ!? わかってないわね、この下着の良さを!!」
いやいや、わかっています。わかっていますとも! だって、こんなに美人で澄ました顔してるのに、下着は牛柄なんだよな……って思うと最高だもん。なんか、良い。
「まあまあ、それじゃあ……。やるぜ!!」
「ええ、やっちゃって!!」
それはとりあえず置いといて、この和牛サーロイン……贅沢な使い方をさせて貰うぜ!!
『【マテリアル:和牛サーロイン】【選択型マテリアル:黒コショウ】、【試作型カルボナーラうどん】に合成開始……』
「うおおおおお、豪華過ぎるだろぉ~!!」
『マテリアルを和牛サーロインベーコンに加工、アクセントとして黒コショウを追加……。完成しました。【和牛ベーコンのカルボナーラうどん】です。価格変更、2000UMPになります』
「はぁっ……!?」
「ほえっ!?」
ひ、ひっ……!? 2000UMP!? それってつまり……9割引だから……本来は2万UMPってこと!? ば、バカお前、4階層の建造費用より高いじゃないの!?
「……いや、食おう。何を日和る必要がある? 和牛サーロインベーコンだぞ? 超高級食材が、ある意味では実質無料で食えるんだぜ? ルシカ、食べるよなぁ!?」
「た、食べたいわ……。でも、凄い価格で……」
「ルシカ! 問題ないさ、途中の武器修理とミニうどんのMP補給とか諸々を差し引いても、7万以上UMPが残ってるんだぜ!!」
「……じゃあ、頂くわ!!」
そうだよな、こんだけあるんだから派手に使っても問題ないんだって。へ、へへっ……。
『ご注文承りました。【和牛ベーコンのカルボナーラうどん・2人前】、お待ちどうさまです』
「「……いただきます!!」」
デカい。そしてベーコンだからカリカリかと思いきや、かなりジューシーさを残した肉感強めのベーコンだ。これがベーコンなのかと言われると、ギリギリベーコンのサーロインの切り身って感じもする。
「…………!?」
口の中でとろける触感、そして焼けた外側のカリカリ感、広がる香りと風味はまさにベーコン。だが、食ったことがないレベルのそれは、俺の脳を破壊しようとしてくる。
カルボナーラソースに絡めた大振りのベーコン、急激にねっとりとした舌触りがまとわりつき、強烈過ぎるサーロインベーコンを優しく包んでくれる。一体となって襲いかかってくるそれは、完全に俺の脳を破壊してしまった。
「…………ルシカ、泣いてるぞ」
「美味しい……! 美味し過ぎて……!! ケントも泣いてるわよぉ……!!」
「わかる……。泣かざるを得なかった……」
感謝。圧倒的感謝だった。
破壊された脳内に残った感情は、圧倒的な感謝の気持ち。俺が考えていた理想の遥か上をいく、とてつもない衝撃。進む……手が止まらない……。そしてもう、ない……。
「…………頼むよな?」
「ええ…………お願い」
『ご注文承りました。【和牛ベーコンのカルボナーラうどん・2人前】、お待ちどうさまです』
「「いただきます……」」
冒涜的過ぎる、旨味の威力と卵とチーズの優しさ。和牛サーロインベーコンの旨味を吸ったうどんもまた、驚異的な旨味を叩きつけてくる。黒コショウのアクセントがくる度に卵とチーズの風味がリセットされ、また次の一口へと進むことが出来る。
――――そして、もう……ない。
「…………」
「…………」
わかる、わかるよルシカ。3杯目はヤバいよなって、そう言いたいんだろ? だってこれ、2人で1杯頼むと4000UMPも持っていくもんな。4階層の建造費は1万UMP、既に食費のほうが建造費より高くなっている。それはどうなのと、そう言いたい目をしているのはわかっている。
だが、困ったことに……。この和牛カルボナーラうどん、50UMPで注文出来るミニうどんより、麺の量が少ない!! 高級料理あるあるだよな、異様に量が少ないのに値段がヤバい料理。それがまさに、この料理にも起こってしまっている!!
つまり、まだ1食分ぐらいにも満たない量しか食べられていないんだよね……。
『ご注文承りました。【和牛ベーコンのカルボナーラうどん・6人前】、お待ちどうさまです』
「ここは高級料理店じゃない。俺の家だ……だから、高級料理であってもバクバク食べて良いし、同じ料理を何度も頼んじゃいけないなんていうルールは、ないっ!!」
「最高!! ケント大好き!!」
「「いただきま~す!!」」
これで10杯、怒涛の2万UMP消費の夕食。ああ、美味い……。何皿目でも最初の一口目の美味さを感じる。これでもっと量があれば、もっと量が……!! だが、それは注文数でカバーすれば良いだけの話だ。使い道に困って余らせるより、自分の幸せと欲望のために使うべきなんだ。
「私、毎日これでもいい……。ううん、これがいい……」
「毎食はありがたみが薄れるから、それに野菜とかも食べないとだし……。たまには普通の料理も、俺が作るからね……」
「あ、野菜……! そうね、確かに食べてない」
「……俺、この後スーパーに行って買ってくるよ。ポトフとか作ろう」
「私も行きたいわ!」
「オッケー、じゃあ一緒に行こう」
最近野菜を食ってない気がするし、他の食材も欲しいからスーパーに行こう。まあもしかしたら状態異常解除の効果で、そういう栄養面の問題も解決されてるのかもしれないけど、気持ちの問題ってのがあるからさ。
『――――5食合計、全ステータスが10上昇、制限に達したステータスは、これ以上上昇しません』
「うおっ!? 1食で全ステータス2も上がってるのか……ああ、遂にきたか」
「制限に達したって、今言ってたわね」
遂にきたか、あると思ってたんだよなぁ~うドーピン具の条件。さて、制限に達したってステータスはどれだ? ちょっと見せて貰おう……ん、ルシカは何も言わず見せにきたな。それだけ見て欲しいっていうか、信用してるってことでいいのかな。じゃあ遠慮なく見せて貰おう。
◆◆ステータス◆◆
【名前】稲庭 犬人
【レベル】10 【性別】男性
【職業】かけ出汁うどんマイスター
【EXP】880/1100 【MP】66/66
【STR】13+10 【VIT】13+10
【AGI】14+10 【TEC】14+10
【MAG】8+10 【MND】10+10
【ダンジョンマスター】
・うどんジョン
┣UMP:54200
┗全3階層
【ユニークスキル】
・うどんマスタリー
・ダンジョン管理
┣基本管理スキル
┣4階層拡張【10,000pt】
┣モンスターガチャ【500pt】
┣マテリアルガチャ【1日1回、30,000UMP】
┗クルーガチャ【使用済み】
【スキル】
・武器投擲:レベル3
・剣術:レベル3
・暗殺術:レベル2
・判断:レベル1
・闇魔法:レベル2
◆◆◆◆◆
ああ~……なるほどね? 制限の意味がわかった気がするぞ? ルシカのも見てみよう。
◆◆ステータス◆◆
【名前】メリューシカ
【レベル】9 【性別】女性
【職業】マジカルうどんクルー
【EXP】686/1000 【MP】555/555
【STR】5+9 【VIT】 6+6+9
【AGI】6+9 【TEC】18+9
【MAG】25+9 【MND】9+9
【ユニークスキル】
・うどんマスタリー
・幻影魔法:イルジオン
・ダンジョン管理
┗基本管理スキル
【スキル】
・火魔法:レベル5
・光魔法:レベル4
【装備スキル】
・うどんぶりシールド・スーパー
・堅固要塞
◆◆◆◆◆
な~るほど? これは、確定だなぁ……。
「レベル以上にドーピングの数値は増えないみたいだな」
「そうねぇ~……。なるほど、そういう制限があったのね」
『制限に到達したため、補足情報です。下級のうドーピン具アイテム、つまり下級の食券や下級のマテリアルでは、一定数値以上のドーピングは不可能となります』
「さっきの和牛サーロインは?」
『下級です。希少性であるレアリティとは別に、品質である下級中級上級などが存在しています』
「な~るほどね!」
ん? あれ、ちょっと待ってくれ? 俺は今、大事な部分を何か見落とさなかったか? なんかルシカのステータスに違和感を感じたんだが……。
「…………ルシカ、いつの間にかうどんマスタリーが生えてないか?」
「あ、あるみたい……。うどんマスタリー……」
『異世界人でありながらうどんを愛したことにより、獲得した模様です』
そんな簡単に取得出来るもんかよ、うどんマスタリー……。それじゃあ俺は? なんでうどんマスタリーが取得出来たわけ?
「ユニークなのに2人目の所有者が居て良いのかよ。というか俺は? 全国のうどん職人に謝るべきでは?」
『仕事でうどんを作っているのと、趣味でうどんを作ったことの違いです。そしていくつかの偶然が重なり、うどんジョンのダンジョンマスターとなったことがきっかけで発現しました。地球人で唯一なのと、異世界人で唯一なので、ユニークの定義は揺らいでいません』
「すげーこじつけ!! なんだそれ!?」
『…………』
「あら、黙ってしまったわ」
「都合が悪くなるとこれなんですよ」
まただんまり、か。まあナビちゃんはこういうところがあるからな。味方ではあるんだけど、完全に味方とは言い切れないような、なんとも言えない不気味なところがある。まあ、害はないから全然良いけどね!!
「よっし、色々とわかったところで! 買い物いこっか!」
「ええ、行きましょ! この世界の食べ物、もっと見てみたいわ!」
そうだよね~。実は簡単な外食以外だと、うどんぐらいしか食ったことないんだよね。うどん以外も好きになってくれると良いけど、それだとマスタリーってどうなっちゃうのかな? まあ俺も、白米が好きでもうどんマスタリーはそのままだし……大丈夫か?
「どうする? 走っていく?」
「体力のステータスも上がってるし、どのぐらいの身体能力なのか気になるわ。走りたい!」
あ、そういえばルシカもうどんマスタリーを得たってことは、運動が得意になったわけか。なるほど、反対されるかなーと思ったら全然好意的だったのは、このスキルが原因か。
「そういや、うどんマスタリーって、う・ど・んの文字が全部含まれてて、なおかつそれだけで構成されてるものが全部得意になるんだぜ」
「…………異世界の言語に直すと、ウュー、ドィーエ、ネェヌよ! 発音しにくいでしょ?」
「ああ~翻訳とか言語理解様々だぁ~!! ルシカと普通におしゃべりが出来て、俺は嬉しいよ~!!」
ひい~。異世界言語じゃ、全然言葉が通じなかっただろうなあ~……。あ、その異世界言語の状態だったら、並び替えて何か言葉になったりしないのかな?
「なあ、その……うぃぅー? ど、どぅ~……」
「さっきの言葉?」
「そう、それを並び替えたら、何か言葉が出来たりしないか?」
「う~ん……」
お、考えてる考えてる。もしかしたら何かあるのかな~? というか多分、このユニークスキルとか諸々、異世界由来の力なんだろうな。だって、ルシカは俺に魔法をなんら問題なく教えられたわけだし、相違点がないってことだろ? つまり、異世界の言葉で何か出来上がれば、それも得意なものとしてカウントされるってわけだ。
「ウュネェドィーエ。元に戻すって言葉、かしら?」
「元に戻す? そんなの得意になっても、なんじゃそ…………りゃ…………」
おお……。おいおいおいおい……。これじゃないか……? もしかしなくても、これが原因なんじゃないか!?
「ダンジョンのモンスターの再配置、本来は出来ない操作だってナビちゃんが言ってたんだよ。それなのに出来ちまったのは、もしかしたら……」
「元に戻すが、マスタリーに入ってるからってこと?」
「多分そうだ!」
元に戻す、これだろ!! これがうどんマスタリーに含まれているんだ!! あ、ちょっと待てよ……? 他の言語に直して良いんだったら、アルファベットに直して……U、DO、N。並び替えたり増やしたりして出来そうな言葉は……。
「あ……UNDO、こっちの言葉でも元に戻す、だ!!」
「あら、全然うどんが入ってないけど」
「別の言語があってさ、こう直して並び替えると……UNDOでうどんが全部入ってるんだよ!!」
「本当だわ。この変換した言葉、私達の世界の言葉に結構似てるわね」
「もしかしたら、ルシカと俺達の世界は近い何かがあったから、こうやって繋がっちまったのかもしれないな」
「あり得る仮説ね。もしかしたら、私達の世界と繋がってしまっているダンジョンが存在するのかも?」
「ふ~む……」
なるほどなるほど、面白い仮説だが~……。あ、やべ! スーパー閉まっちまうよ!!
「やべ、もう7時半じゃん! スーパーは21時までだからさ、急ご!」
「あ! そうね、忘れていたわ!」
この時間となると、やっぱり前に居た会社の近くのスーパーしかないな。しゃーねえ、いくか!!




