92.連合作戦
四隻の鋼鉄の巨獣が横一列に並び、整地された広大な平地へゆっくりと降下していく。
エネルギー炉から放たれる色とりどりの光波は、まるで実体を持つかのように青々とした草を震わせ、近くにいた者の中には立っていられなくなる者さえいた。その光景は壮観というほかなかった。
着地の瞬間――
「ドン!」
轟音とともに、大地が大きく揺れる。
続いて、飛空艇は「投錨」を開始した。
十数本もの巨大な鉄鎖が船体側面から射出され、大地へ深々と突き刺さる。それぞれがぴんと張られて船体の均衡を保ち、さらに魔法使いたちが共同で詠唱を始めると、地面から次々と石柱が隆起して船体を支えた。
こうしてようやく、四隻の巨体は完全に安定した。
飛空艇の着陸が完了し、エネルギー炉の反応が停止したのを確認してから、ディアはイヴリンとほかの「護衛」である重装剣士たちを連れて近づいていった。
彼らが船体前方へ着くころには、巨大な船の下部に設けられたいくつものハッチが開き、次々と降船用のスロープが伸びていた。
その直後、大勢の人々が一斉に船内から溢れ出す。
歓声や興奮した叫び声を上げながら、我先にと希望町へ向かって駆けていった。
ディアが少し観察したところ、その大半は冒険者と商人だった。比較的秩序立って動いているのは傭兵団や商団で、どうやら飛空艇に便乗し、開放されたばかりの新興地域で好機を探しに来たらしい。
「団長に伝えておけ。少し注意を強めろとな。外から来た連中に希望町の治安を乱させるな。黒泥の産業網は非常に重要だ。何か問題が起きれば、私が直接女王陛下に報告しても文句は言わせない」
ディアは振り返ることもなく命じた。
先ほど待っている間に考えはまとまっていた。監察使としての権限が殲滅騎士団に通じないのなら、互いに利用し合えばいい。
すべては女王と帝国を最優先にすればいいのだ。
「飛空艇の先遣員からすでに連絡を受けています。大量の外来者が訪れることは団長も把握しており、事前に手配を済ませております。ディア様には、どうぞ任務に専念していただければと」
背後から、イヴリンの淡々とした報告がすぐに返ってきた。
「ふん。それはご親切にどうも」
「はい。お礼のお言葉は必ずお伝えいたします」
二人が言葉で牽制し合っていると、巨大な双翼を背に持つ亜人が空から滑空してきて、正確に彼らの前へ降り立った。
「はじめまして。私は鋼鉄の玉座、第九艦隊の副指揮官、アルフレッドと申します。お二人は殲滅騎士団のどなたでしょうか?」
声は穏やかで礼儀正しく、顔つきは精悍だった。
三十歳ほどに見える男で、肩まで伸びた青い髪を簡単に束ねている。飛行の邪魔にならないよう薄手に仕立てられた戦闘用の鎧が鍛えられた身体にぴたりと沿い、精鋭らしい鋭さを感じさせた。
「副指揮官殿、はじめまして。私はディアです。殲滅騎士団の者ではなく、蒼藍帝国の監察使であり、今回、女王陛下より皆様の支援を命じられた責任者でもあります」
アルフレッドは明らかに一瞬、戸惑った様子を見せた。事前の連絡で聞いていた内容とは、まるで違う。
だが、一歩後ろに立つ鎧姿の女剣士が小さく頷いたのを見ると、すぐに平静を取り戻した。
二人は友好的に挨拶を交わし、握手をする。
ところが次の瞬間、監察使であるディアはいつもの癖で、さっそく疑問をぶつけた。
「珍しいですね。鋼鉄の玉座の艦隊で、亜人が副指揮官を務めているとは。普通なら人間かドワーフが就くものでは? 飛行系の亜人は、誘導や偵察任務を担当するだけだと思っていましたが」
好奇心のようにも聞こえるが、実際には詰問に近い。わずかに差別的な響きすら含まれていた。
あまりにも遠慮のない切り出し方に、後方でずっと無表情を保っていたイヴリンでさえ、痩せた監察使を思わず何度か見た。
有翼の亜人であるアルフレッド自身も、面と向かってそんなことを言われるとは思っていなかったらしく、本当に呆気に取られている。
亜人は人亜連合では一定の地位を持っているものの、それ以外の国々では、多くの場合、便利な冒険者、狩人、労働者、傭兵などの消耗品として扱われているだけだった。
使い終われば、問題を起こしやすい外来者として追い出される。
ディアの疑問自体にはそれなりの理由があったとしても、普通なら当人を前にして口に出すようなことではない。大半の亜人は、それほど気性が穏やかではないからだ。
だが、この有翼の亜人は我に返っても怒ることなく、どこか気恥ずかしそうに丁寧な口調で説明した。
「長く雇っていただいているうちに、指揮官が私でも多少は役に立つと思ってくださったのでしょう。それで昇進させていただきました。つい最近のことです」
「なるほど。帝国側では一度も耳にしていませんでした。失礼しました。アルフレッド殿がよほど優秀だからこそ、貴艦の艦長もあなたを抜擢したのでしょう」
「いえ、ディア様こそご丁寧に……」
二人は軽く世間話を交えながら、それぞれの状況を簡単に説明しつつ、並んで降船用のスロープを上っていった。
その会話を聞きながら、最初は疑いを突きつけ、直後には一転して持ち上げるディアのやり方を見て、イヴリンも少し分かってきた気がした。
監察使というものは、こうして遠慮なく相手を刺激するような話し方で探りを入れるのが好きなのだろう。だからこそ、団長は一刻も早くこの男を追い払いたがっていたのだ。
言葉による攻防で相手の感情を揺さぶれば、その瞬間に本性や事実の核心が露わになることがある。不意を突かれた一瞬を、訓練を受けた監察使は逃さず、必要な情報を素早く掴む。
だが、こんな攻撃を混ぜた会話を好ましく思える者など、そうはいない。
殲滅騎士団の中でも最も口数の少ない自分が補佐役に選ばれた理由を、イヴリンはようやく理解した。
相手への敬意を示すため、ほかの重装剣士たちはその場に残り、イヴリンだけが足早に後を追って飛空艇へ乗り込んだ。
三人が進んでいるのは、どうやら専用通路らしい。
降船中の大勢の人々と列を作る必要はなく、途中でいくつもの船室の窓の前を通り過ぎる。
そこからは、高い位置から大勢の冒険者たちが隊を組み、装備を整えて出発していく様子が見えた。さらに多くの商人たちが、さまざまな荷駄獣を手慣れた様子で使い、大量の荷物を載せて次々と船を降りている。
「今回、貴国が一般の乗客にも輸送を開放したことで、かなりの収益になったでしょう。ただ、それで連合作戦に支障が出ることはないのですか? 飛空艇は巨大とはいえ、内部空間には限りがある。死亡峡谷は普通の迷宮城ではありません」
またしても言葉に疑念が滲んでいる。
だが先頭を歩くアルフレッドは、変わらず辛抱強く答えた。
「ディア様は少し誤解されているのかもしれません。今回、鋼鉄の玉座はあくまで支援する立場です。循律の塔の魔法使いたちによる天象異変の研究を補助するために来ています。必要がない限り、現時点で迷宮城を攻略する予定はありません。主力の大半は、専門の傭兵団が担うことになります」
「迷宮城の内部で起きた天象異変を研究したいのに、攻略するつもりはないと。その程度の認識でいるなら、いずれ後悔しますよ」
声にはすでに不満と非難がはっきりと表れていた。
今度こそアルフレッドも足を止め、穏やかだった表情を引き締める。
「ディア様、ご忠告には感謝いたします。ですが、行動方針についてはすでに指揮官のお考えがあります。もし貴国から、より正確な情報をご提供いただけるのであれば、我々としても大変ありがたい」
「もちろん。それが私の職務です。ただ、あなた方の指揮官が、きちんと話を聞いてくれればいいのですが……」
蒼藍帝国の監察使から何度も言葉で挑発され、温厚なアルフレッドもさすがに耐えかねてきた。後ろから続いた言葉は聞こえなかったことにし、黙って前を向くと、そのまま案内を続けた。
一方、有翼の亜人から無言で返された反発など、後ろを歩くディアはまるで気にしていない。むしろ何かを考え込むような表情を浮かべていた。
希望町も壊死の大地も蒼藍帝国の辺境にある。
たとえ迷宮城の攻略に成功したところで、最終的に最大の利益を得るのは蒼藍帝国だ。
だから鋼鉄の玉座と循律の塔は、できるだけ少ない負担で自分たちの欲しい成果だけを手に入れ、そのまま立ち去るつもりなのだろう。
迷宮城の攻略は簡単なことではない。
まして死亡峡谷は、数千人規模の傭兵団を一瞬で壊滅させた場所だ。どの国も、どの勢力も、自分から愚かにも真っ先に犠牲を払う側になどなりたくはない。
また、飛空艇は極めて強力な魔導武装である一方、非常に貴重でもあり、通常の迷宮城攻略ではほとんど役に立たない。
大半の迷宮城は地下に存在するからだ。今回のように地形が特殊で、巨大な峡谷の間を飛行できるのでなければ、鋼鉄の玉座と循律の塔も簡単には投入しなかっただろう。
最後尾を歩くイヴリンは、二人のやり取りを一言一句しっかりと記憶していた。あとで団長へ報告するためだ。
三人の間に流れる空気は、言葉を交わすたびに、最初の友好的なものから徐々に冷え込んでいった。
やがて誰も話さなくなり、そのまま甲板へ出る。
移動する城塞にも等しい巨大な船。
その上に立てば、周囲の大地を高所から一望できた。
高空を吹き抜ける強風に、文官で痩せたディアの身体はすぐに煽られた。ふらふらと足元を崩し、何度も甲板の縁へよろめいては、今にも落ちそうになる。
少しばかり痛い目を見せてやろうと考えたアルフレッドは、助けようとはしなかった。
結局、イヴリンが手を伸ばして支えたことで、ディアはどうにか身体を安定させ、そのまま歩き続けることができた。
この程度の小細工なら、ディアはこれまで何度も経験している。監察使である以上、避けて通れない洗礼のようなものだった。
多少みっともない姿を晒しても、何事もなかったかのように顔色一つ変えない。
女王は監察使に、帝国内のさまざまな力を監視し牽制する権限を与えている。だが、選ばれる者は必ず個人としての武力が低く、与えられているのも調査と報告の権限だけだ。
各勢力との駆け引き、その危険な均衡がどれほど繊細なものかは、監察使である彼らにしか分からない。
鎧姿の女剣士に助けられ、相手が無事なのを見たアルフレッドも、それ以上意地悪をすることはなかった。
三人を連れ、巨大な甲板を横切って艦橋へ向かう。
やがて彼らは、飛空艇の最上部に位置する艦橋へ入った。
広く明るい指揮室には大勢の操縦員が座り、さまざまな計器盤を確認しながら、状態や問題点を次々と報告している。正面一帯には、特殊な強化を施された透明な固体状の過冷却液が広がっており、その向こうに外の景色を直接見ることができた。
視界は極めて良好だった。
飛空艇は、鋼鉄の玉座と循律の塔がすべて一から開発したものではない。大半は禁忌の地に残された魔導遺産を寄せ集め、組み合わせることで造られている。
そのため、一度飛行するだけでも何度も点検し、修理や整備を行う必要があり、維持費も決して安くはなかった。鋼鉄の玉座が、この独占的な先進魔導武装を他国へ販売している理由もそこにある。
売却時に巨額の代金を得られるのはもちろんだが、本当に重要なのは、その後の点検、修理、整備だった。
それだけで毎年莫大な収入を生み、今では鋼鉄の玉座にとって最重要の財源の一つにまでなっている。
重要任務で飛空艇を出動させながら、なお大量の空間を使って冒険者や商人を運んでいるのも、運賃収入を得るためだった。
そうでもしなければ、あまりにも採算が悪く、支出ばかりが膨らんでしまう。
実際、鋼鉄の玉座が保有する全艦隊のうち、常時四分の一ほどは輸送任務に使われている。本格的な戦闘任務に投入されるのは半数ほどで、残る四分の一は巡回、開拓、探査などの特殊任務を担当していた。
今回到着した四隻の飛空艇も、戦闘型は二隻だけだ。そのうち一隻は、もう二隻の輸送型飛空艇が鋼鉄の玉座へ帰還する際の護衛を担当する。
天象異変の研究任務を実際に遂行するのは、アルフレッドが乗るこの飛空艇だけだった。
ディアは素早く情報を把握し、道中で見聞きしたすべてを頭の中へ刻み込んでいく。自分たちがすでに持っている情報とも照らし合わせ、整理する。
準備を終えたディアは、胸の内で小さく息を吸った。
そしてアルフレッドに導かれ、指揮室の中央へ進む。
その先に立つ、小柄でありながらひどく逞しい背中へ向かい、名乗った。
「私はディア。蒼藍帝国の監察使です。鋼鉄の玉座の皆様、ようこそお越しくださいました」




