43.目覚め
さほど広くない奇妙な部屋の中で、ドロシーは小さな顔いっぱいに喜びを浮かべ、得意げな様子を隠そうともしなかった。二歩歩いては一度跳ねるその姿は、こっそり悪戯をして得意になっている子供そのものだ。
巨大な光球と姉の周囲を、興奮した様子で何度も飛び跳ねながら眺めていた。
そして最後に、彼女が選んだのは巨大な光球ではなかった。まず姉のもとへと歩み寄る。
石の寝台に横たわるエリカは、改造を経た身体を何ひとつ身につけずに晒していた。軍用の外套の下に隠されていた美しい肢体が、今は完全に露わになっている。
豊満で、すらりと長く、贅肉ひとつない。小麦色の肌は巨大な光球に照らされ、かすかな艶を帯びていた。野性的で健康的な美しさに満ち、以前は古傷のせいで痩せて骨張っていた欠点も、今ではこの限りなく完璧に近い身体からすっかり消えている。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん。どうしてまだ目を覚まさないの? もしかして、もう目覚められないのかな? これが、いつも何もかも支配して、何もかも操ろうとしてたエリカなの? 本当に可哀想」
いつも嫌っていた豊かな双丘へ手を置き、ドロシーは意地悪そうに笑いながら好き放題に撫で、揉み、ついでに二度ほど叩いた。
エリカを好きなように弄び、辱められる機会など、そうそうあるものではない。
しばらくして。
「パァン!」
乾いた音が響き、恨みを晴らすように、ドロシーは眠る姉の頬へ平手を一発叩き込んだ。
「はははっ! 本当に面白い! ついに私が高いところからあなたを見下ろす日が来たんだね。自分にもこんな惨めな時が来るなんて、考えたことあった?」
「パァン! パァン!」
ドロシーはさらに二度平手を浴びせ、それからようやく手を止めた。
数発叩いただけで満足したからではない。
感染によって血族となったあと、強化されたはずの自分の手が、かすかに痛んでいたのだ。
お義兄さんが世界の心と呼んでいたものは、本当に姉の身体を改造したらしい。
「残念だったね。お義兄さんはあなたのために知恵を絞って、あれだけ努力して犠牲まで払った。人間ですらなくなって、もう少しで手に入るはずだった世襲爵位まで捨てて、蒼藍帝国まで裏切ったのに……結局、あなたは目を覚ませない!」
素手で殴れば痛むというのなら、話は簡単だった。
ドロシーの体内で血が激しく巡り、身体から滲み出た血色のエネルギーが拳を包み込む。
愛憎の入り交じる眠り顔へ向けて、彼女は容赦なく拳を振り下ろした!
直後。
肉と拳がぶつかる重い音が、奇妙な部屋に響いた。
ドロシーは血の滲んだ拳を引き戻し、ほとんど傷ひとつないエリカの顔を見た。可愛らしい顔が、たちまち陰鬱に歪む。
世界の心は、いったい姉を何に作り変えたのだろう。
「まあいいや。このくらいの小さな得なら譲ってあげる。でも、お義兄さんも、世界の心も、この迷宮城も……全部、私がもらうから!」
眠ったままの姉をそれ以上相手にせず、ドロシーは軽い足取りで巨大な光球の前まで移動した。
目まぐるしく移り変わる美しいエネルギーの輝きを見つめ、その表情は陶然としていく。
「お姉ちゃん、今日から私は全部を手に入れられる。あなたはずっと眠ったまま、私を見てるだけ。私があなたの代わりになって、本当なら私が手に入れるはずだったものを全部取り戻していくのをね。これ以上ないくらい素敵な童話の結末じゃない……」
そう言い終えると、待ちきれないドロシーは巨大な光球へ手を伸ばした。
だが、触れた瞬間だった。
美しく揺らめいていた光が突如として雷光へ変わり、轟音とともに炸裂した!
「あっ!」
驚きと痛みに短い声を漏らし、ドロシーは慌てて手を引いた。
しかし、もともと白く整い、わずかに骨張っていた手と指は、すでに黒く焼け焦げていた。
何もかも思い通りになると得意になっていたドロシーの胸に、たちまち激しい怒りが湧き上がる。
傷を負った血族としての本能も刺激され、抑えきれない――そして本人にも抑える気のない変身が始まった!
怒りとともに血が激しく巡り、ドロシーの小柄な身体が信じられない速さで均等に伸びていく。
野蛮人のような巨体にはならなかったものの、それでも一般的な人間を上回るほどの長身へと変わった。
もはや以前のような小柄で華奢な姿ではない。
代わりに現れた長身の身体には、誘惑的な曲線と豊かな起伏が浮かび上がっている。青白い肌の下には、肉を透かすように一本、また一本と血色の筋が輝き、やがて広い範囲に不気味でありながら人の心を惑わせる美しい紋様を描いていった。
全身からは、邪悪で人を誘うような気配が漂っている。
顔はヴィンセントのような恐ろしい獣の姿へ変わることはなかった。
両耳がわずかに尖り、目尻が上がり、どこか邪悪な色気を帯びる。
桜色だった小さな唇は燃えるような赤い唇へと変わり、それまでどこか弱々しく幼さを残していた顔立ちも、一気に大人びていった。
可愛らしく小柄だった女は、瞬く間に美しく妖艶な女悪魔へと変貌した!
背後には、骨と血で形作られた翼が大きく広がる。
もはや人間ではなくなったドロシーは、自分の血族としての姿を眺め、心から満足していた。
これこそが、本当の自分にふさわしい姿だと思えた。
いつも無邪気で何も知らないふりをすることにも、少し飽きていたのだ。
尖った爪の生えた手を口元へ当て、恍惚と笑いながら、ドロシーは思わず呟いた。
「お義兄さん……これこそ、お義兄さんに一番ふさわしい私の姿……」
「それじゃあ次は……言うことを聞かない、この大きな子だね」
体内の血液から放たれたエネルギーが、傷を急速に修復する。元通りになった手を、ドロシーは再び伸ばした。
今度はすでに十分な準備をしている。
お義兄さんが異変に気づいて戻ってくる前に、目の前の巨大な光球へ強引に介入し、支配する。
そうして初めて、本当の意味でこの迷宮城の女主人になれるのだ!
巨大な光球へ手を触れ、素晴らしい未来を思い描いていた――その時。
ドロシーが愛しながらも恐れている声が、予想もしなかった背後から聞こえてきた!
「ほう。言うことを聞かない野良猫が、また主のものを盗もうとしているのか」
恐怖!
エネルギーを集めていた手が瞬時に拳を握り締める。
血族の姿となったドロシーは何も考えず、振り向きざまに全力で拳を叩き込んだ!
だが。
凄まじい威力を秘めたその拳は、一本の手に受け止められた!
「轟ッ!」
二つのエネルギーが激突し、その衝撃で奇妙な部屋全体がわずかに揺れる。
ドロシーは目覚めた者の表情さえまだ見極められていなかった。
次の瞬間には、もう片方の手が顔を覆うように頭を掴んでいた。
あまりの力に反応する時間すらなく、そのまま身体ごと奇妙な金属で造られた壁へ猛烈に叩きつけられる!
強烈な衝撃が頭部を貫いた。
感染によって血族の体質を得た今でさえ、ドロシーは激しい眩暈に襲われ、血を吐く。
さらに頭を掴む五本の指が、少しずつ締まっていく。
つい先ほどまで得意になっていた女悪魔は、今では力を振り絞って怒鳴ることしかできなかった。
「は……放して……私を……」
もがきながらも、ドロシーは攻撃をやめなかった。エネルギーを使い、目の前の悪夢へ何度も蹴りを放つ。
だが、攻撃すればするほど自分の脚が腫れ上がり、骨にひびが入っていった。相手の身体が備える強大な防御力と反動によって、かえって自分の全身に傷が増えていく。
背後の骨と血で形作られた翼も、力任せに大きく広げようとする。全身から血色のエネルギーを放ち、天賦「血液操作」で相手の動きを封じようとした。
しかし返ってきた感触は、まるで山岩のように重く、硬い。
わずかにも動かすことができない!
「残念だが、今は人手が足りない。この程度の躾で済ませてやる。誰が本当の主なのか、この子猫に分からせておかないとな」
冷たい声とともに、頭を掴む五本の指がさらに締め上げられた。
頭蓋に亀裂が入り、骨が砕けていく微かな音が、ドロシー自身の耳の中に響く。耐え難い激痛に、ついに泣き叫ばずにはいられなかった!
「やめて! 早く……やめ……この……!」
「ほう……口だけは強いな。これでも謝りも命乞いもしないとは、本当に懲りない泥棒猫だ」
その瞬間、ドロシーは大きく広げていた左側の翼を、一本の手に掴まれたのを感じた。
このあと何をされるのか。本能的に思い至った途端、胸の奥から恐怖が湧き上がる。
ドロシーでさえ顔を恐怖に歪め、大声で叫ばずにはいられなかった。
「やめて!」
ぞっとするような引き裂く音が響いた!
骨と血で形作られた翼は、冷酷な力によって容赦なく二つに引き裂かれた。
大量の血が飛び散り、むき出しになった野性的な小麦色の身体を、一面真っ赤に染めていく!
心まで引き裂かれるような泣き叫ぶ声が響き、奇妙な部屋どころか、洞穴の外へまで遠く伝わっていった。
血液とともにエネルギーが急速に失われていく。
涙で顔を濡らし、力なくもがいていたドロシーの身体も、徐々に人間の姿へ戻り始めた。
すっかり弱り切ったところで、ようやく頭を掴んでいた手が離される。
身体はそのまま「ドサッ」と音を立て、力なく地面へ倒れた。
霞む視界の中で、ドロシーはあの見慣れた鮮紅色の瞳を見た。
血よりも深く、鮮やかに輝く赤い瞳。
自分にとって、美しい夢であると同時に悪夢でもある瞳だった。
「ついてくることを許した以上、お前はついてくるだけだ。ヴィンセントに近づく機会くらいは与えてやる。あいつが何を望むかについても、選ぶ自由はあいつに与える。だが……二度と、お前を面倒だと思わせるな」
命令そのものの言葉が耳へ入ってくる。
意識も朦朧としてきたドロシーは、ふと昔のことを思い出した。
幼い頃から、姉はいつもこうだった。
高いところに立ち、自分へ向かって話す。
雑多な記憶が頭の中を巡る中、突然、ドロシーは口の中へ一滴、また一滴と鮮烈な血が流れ込んでくるのを感じた。
冷たい。
死の気配を帯びている。
それでいて、力に満ちていた!
立て続けの奇襲と重傷に耐えきれず、ドロシーはとうとう意識を失った。
いつも騒ぎを起こそうとする泥棒猫が完全に意識を失ったことを確かめると、エリカは立ち上がった。自ら切り裂いた手首へ目を向ける。
そこからはすぐに、蒼灰色の正体不明のエネルギーが滲み出した。
見ているだけで不吉さと不安を感じさせるその力は、瞬く間に傷口を塞ぎ、血を止めていく。
新たに得た完璧な身体を、エリカは細かく確かめた。
長年にわたって自分を苦しめ、縛りつけていた古傷は消えている。
身体には、これまで感じたことのないほどの軽さと強さが満ちていた。
そして、自分に備わった固有の天賦も、少しずつ意識の中へ浮かび上がってくる。
「『剛力』『強靭』『耐性』『召喚』『不死』……ヴィンセントの血族の天賦とはまるで違う。私は別の悪魔種族へ変わったということか……世界の心とは、いったい何なんだ。やはり、魔王ではないかと思われる連中と、一度は接触を試みる必要がありそうだ……」
さまざまな思考が頭の中を駆け巡る。
記憶は、あの夜に老バダと繰り広げた最後の戦いで途切れていた。
だが目を覚ましたあと、巨大な光球と奇妙な部屋を目にし、さらに以前ヴィンセントから聞かされていた体験を思い返すことで、エリカは素早く目の前の状況を把握した。
そして、自分に背を向けて得意になっていた妹を、そのまま躾けたのだ。
自分の身体に起きた天地が覆るほどの変化にも、エリカは違和感を覚えなければ、信じられないとも思わなかった。
自分で制御できる強大な力なら、受け入れられる。
たとえ人間でなくなったとしても、構わない。
種族など重要ではない。
結果こそ、自分の手の中にしっかり握っていなければならない。
「次は……私はどれくらい眠っていた? ドロシーまで血族になっている。ヴィンセントが何か変化させる方法を身につけたのか? あいつは今どこに……」
次々と浮かぶ疑問について考えながら、エリカは宙に浮かび、目を引く美しい光を放つ光球へ視線を移した。
ヴィンセントから以前聞かされた、世界の心の能力を覚えている。
「もしかすると、これなら答えを見つけられる」
素早く思考をまとめたあと、この迷宮城の真の女主人は、手を伸ばした。




