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42.変化

 光と闇が交互に巡り、その中で時は流れていった。


 数か月後。


「ドォン!」


 穏やかな陽気に包まれた晴れ渡る天地に、爆発の轟音が響き渡った。


 天地を揺るがす振動に、いくつもの怒りの咆哮が入り交じる。巨大な峡谷の岩壁の一角が大規模魔法によって吹き飛ばされ、その奥で激戦を繰り広げる両陣営が露わになった。


 守る側にいたのは、野蛮人よりさらに何倍も巨大な石炎魔だった。


 大地のエネルギーから自然に生まれるこの魔物は、全身が硬い巨岩で構成された人型をしており、岩の継ぎ目からは高温の炎が流れ出し、全身を包み込んでいる。


 立っているだけでも凄まじい威圧感を放つそれらが、今は数頭がかりで領域へ侵入した者たちを全力で攻撃していた。腕を振るうたび、人間よりも大きな溶岩塊が次々と降り注ぎ、まるで小規模な流星雨のような凄まじさだった!


 攻める側には、十数組の冒険者小隊がいた。


 冒険者たちは大型のエネルギー障壁と盾持ちの後方に整然と陣取り、役割を分担して降り注ぐ火山岩を防いでいる。さらに、詠唱とともに絶えず光を放つ神術の加護を受けながら、冷気を付与された武器と水系魔法で次々と攻撃を仕掛けていた。


 一つひとつは石炎魔の巨体に比べればあまりにも小さく、非力にさえ見える攻撃だったが、それが数を集めれば驚くべき効果を生み出す!


 水と火、冷気と熱気。極端な温度差がぶつかり合い、たちまち辺り一面に大量の霧が立ち込めた。


 そのため戦況は一時混乱し、自らの領域で戦う石炎魔が優位に立ったが、一人の魔法師が咄嗟に機転を利かせ、必死に魔法を放って死亡峡谷側の岩壁を破壊した。


 そこから吹き込んだ強風が視界を覆う霧を吹き払い、ようやく戦況は安定を取り戻した。


 この時点で、多くの石炎魔はすでに冒険者たちの攻撃に耐えきれず、身体を形作る岩が裂け、砕けた石となって地面に散乱していた。残っているのは頑強に抵抗を続ける少数の精鋭だけだ。だが岩壁が破られた時点で、すでに大勢は決していた。


「うーん……第十一層も、もうすぐ突破されそう。まだ二か月ちょっとしか経ってないのに、冒険者はもう数百人以上死んでる。それでも蒼藍帝国は高い褒賞を積んで、こんなに大勢を集め続けてる。死亡峡谷を攻略する決意は、相当固いみたいだねえ」


 一頭の鎌蜘蛛の背に座ったドロシーは、血族の天賦「探知」を使い、遠く離れた場所から両者の戦況を探っていた。迷宮城の権限の一部を与えられてはいるものの、彼女には依然として世界の心を使うことはできない。


 ヴィンセントも、世界の心がどこにあるのかを彼女に知らせるつもりはなかった。


 戦いがさらに激しくなるにつれ、残った石炎魔の精鋭たちは徐々に押し込まれていった。身体を包んでいた炎も弱まり、次第に消えていき、広い範囲を冷たい青い氷の結晶に覆われた個体まで現れる。


 冒険者たちはそれを見ると、全身から光を放つ一人の女騎士を先頭に、最後の大規模攻撃を開始した。


 そこまで見届けたドロシーは、もう勝敗は決したと判断した。相手の今日の攻略は、おそらくここでいったん終わるだろう。


 彼女自身もかつては冒険者の一人だったため、侵入者たちにはこのあとも多くの後方作業が残っていることを知っている。第十一層を完全に探索して掃討し、拠点を築き、補給路を増やし、そして何より新たな人員を募集しなければならない。


 短期間のうちに、皇家冒険団が第十二層まで進む余力はないはずだった。


 危険がさらに一歩迫っているというのに、ドロシーは悪戯っぽく笑うだけで、まるで気にしていなかった。


 今の彼女は、とても楽しく、とても幸せだったからだ。


「お義兄さんのところへ連れてって」


 鎌蜘蛛の背から伸びる鎌腕を軽く揺すりながら、ドロシーは小さな声で命じた。


 命令を受けた、人間の何倍もの大きさを持つ鎌蜘蛛は、すぐさま岩壁を素早く駆け上がり、飛び移り始めた。


「わあっ! もっと速く、もっと速く! お姉ちゃんがいない毎日って、本当に楽しい! ははははっ!」


 一人と一頭が、底の見えない恐ろしい峡谷の岩壁の間を飛び回る。


 風を切って疾走する快感を全身で受けながら、可愛らしく澄んだ少女の笑い声が峡谷に響き渡っていた。


 ヴィンセントの天賦「血液操作」によって感染してから、ドロシーは地下河の中で眠りながらエネルギーを吸収し、十数日後になってようやく少しずつ目を覚ました。


 目覚めた彼女はすぐに、血族の血に刻み込まれた天賦を身につけていった。そして最初にしたことは、天賦「探知」を使ってお義兄さんの居場所を探すことだった。


 その日、探知のエネルギー波を受け取ったヴィンセントは、すぐに奇妙な部屋から出てきた。ドロシーが最終的に無事生き返ったことを確認すると、胸中にはさまざまな感情が入り混じった。


 それが幸運なのか、それとも不幸なのか。


 ヴィンセントには分からなかった。


 天賦を使い続け、理解を深めるにつれて、ヴィンセントは天賦「血液操作」が血族に同族を増やさせる方法の一つなのだと自然に分かるようになっていた。


 ただ、あの時はまだ扱いに慣れておらず、本当に感染させられるのかさえ分かっていなかった。完全には掴めていない感覚に従って、ただやってみただけだ。


 ドロシーが目覚められたのは運がよかったことに加え、当時ちょうどエネルギーが集まりつつあった地下河の力が、より大きく作用したのかもしれない。


 その一方で、エリカはいまだに目を覚ましていなかった。


 それがドロシーの影響を受けたものなのかどうかも分からない。


 巨大な光球は翌日、天象異変が終わるとエリカを外へ解放した。身体にあった傷はすべて消えていた。だが、エリカは今に至るまで何の反応もなく、呼吸もなく、さらには……心拍さえなかった。


 ヴィンセントには、その事実を受け入れることができなかった。


 かつては狂ったようにオスヴィドを呼び、以前聞いたことのあるほかの声にも何度も呼びかけた。しかし、世界の心からは何の返事もなかった。


 さらに、世界の心のエネルギーも二度の天象異変によってほとんど使い果たされていた。自然に周囲の遊離エネルギーを吸収して回復はするものの、時間が必要になる。今では感知領域を使うことすらかなり難しく、意味もなく呼びかけ続けても、エネルギーが補充されるまでの時間を引き延ばすだけだった。


 そのため、しばらく試し続けたあと、ヴィンセントは一度諦めるしかなかった。


 もうほかにできることのないヴィンセントは、エリカのために自ら石の寝台を作った。そして毎日、奇妙な部屋で待ち続けた。


 いつか必ず、彼女も自分やドロシーと同じように目を覚ますと信じながら。


 今日も同じだった。


 もともと痩せ気味だった顔には無精髭が生え、灰白色の短髪は乱れ放題。伏せがちなまぶたには、隠しようのない憔悴が滲んでいる。ヴィンセントの平凡な顔で、ただ両目にだけは最後の強い意志が残っていた。


 眠り続ける妻を見つめる。


 金髪を広げ、何の物音も立てずに横たわるエリカ。いつもなら鋭く人を圧する気迫を放っている彼女が、今はひどく静かで、穏やかで、安らかに見えた。


 そうして見つめていると、再びドロシーから探知のエネルギー波が届いた。


 ヴィンセントは静かに、長く息を吐く。


 帝国側の今日の攻略が終わったことを悟った。


 エリカが目覚めていなくとも、やらなければならないことはある。


 ヴィンセントは立ち上がって奇妙な部屋を出ると、人の姿のまま骨と血で形作られた翼を広げることに成功し、そのまま地下河から飛び出した。


「お義兄さん!」


 広い地下河の岸辺に立っていたドロシーが、嬉しそうに声を上げた。


 今回は思っていたよりずっと早く姿を現した。もしかすると、ようやくお姉ちゃんを捨てて自分を選ぶ気になったのかもしれない。


 ドロシーは興奮して駆け寄り、腕を掴もうとした。


 だが、ヴィンセントから冷淡な視線を向けられ、そっと手を引っ込める。


「お義兄さん、報告! 邪悪な蒼藍帝国は第十一層迷宮を突破しました。私たちの愛する家が深刻な脅威にさらされています。そろそろ反撃しない?」


 ヴィンセントに救われ、しかも同じ血族になってからというもの、ドロシーはようやく自分も受け入れてもらえたと思っていた。


 毎日が楽しくてたまらなかった。


 嬉しそうに笑うドロシーを見つめる。種族が変わったことなどまるで気にせず、目にあるのは自分の欲望ばかりで、ほかの命など最初から眼中にない。


 そんな彼女に、ヴィンセントは答える気にもなれなかった。ただ黙って首を横に振る。


「でも……邪悪な蒼藍帝国は本当に腹を決めて、全力で攻めてるよ。毎日たくさんの冒険者が死んでるのに、そんなこと気にもせず一層ずつ攻め続けてる。このままだと、私たちもすぐ見つかるかもしれない……お姉ちゃんもだよ」


 そのことは、ヴィンセントも考えていた。


 迷宮城の攻略は奥へ進むほど難しくなる。まして、ここにはまだ三頭の超獣種が隠れている。地の利を得た状態なら、通常、蒼藍帝国が一万、あるいは数十万もの命を費やしても突破するのは難しいはずだった。


 それほどの死者が出れば、国そのものさえ揺るぎかねない。


 蒼藍帝国がそこまで無謀な真似をするとは思えない。


 だが、テレサ世界に絶対はなかった。


 奇跡というものは、老バダのような名の知れた冒険者や、それ以上の伝説的な冒険者のために存在する。


 彼らがいれば、巧みな戦術によって損害を極端に減らすこともできる。巨大な蒼藍帝国にとって、ほとんど問題にならない程度にまで。


 そして、ヴィンセントにはもう一つ気がかりなことがあった。


 ここは、蒼藍帝国が現在攻略している三つの迷宮城のうちの一つにすぎない。もし帝国が手持ちの冒険者すべて、さらには軍の戦力まで集結させれば、攻略速度はさらに上がるかもしれない。


 あとは、あの女皇がここをどれほど重視しているかだった。


 外界の情報が不足している以上、ヴィンセントには正確な判断を下せない。


 だが、どうであれ、今は消極的に奇妙な部屋へ籠もっていられる時ではなかった。迷宮城に何かあってはならない。


 ここは、エリカが目を覚ますための唯一の希望なのだ。


「対処する。お前は鎌蜘蛛と空中の石道を監視し続けろ。冒険者を足止めして、帝国に階層を飛び越えて進もうなどと思わせるな」


 そう言うと、ヴィンセントは身を翻し、第十二層迷宮へ飛んでいった。


 世界の心に残っていた最後のエネルギーを、ヴィンセントは鎌蜘蛛との意思疎通に使った。


 鎌蜘蛛自体はそれほど強大ではないが、空中の石道は各階層を繋ぐ重要な通路だ。それどころか、地下河へ直接通じる可能性すらある。だからこそ、まずこの部分だけは確実に守らなければならなかった。


 残念ながら、鎌蜘蛛を操り命令できるようになっても、あの巨大な超獣種からは依然として何の反応もなかった。


 このような極めて巨大な生物に対しては、世界の心に残ったわずかなエネルギーでは、完全に目覚めさせるほど引きつけることすらできない。まして、応答させることなど到底不可能だった。


 相手が求めているのは、長期間にわたり途切れることなく供給される大量のエネルギーだ。超獣種との意思疎通については、ヴィンセントもひとまず諦めるしかなかった。


 世界の心がエネルギーを失ったことで、その機能の大半も一時的に使えなくなっている。今の迷宮城では、全力で戦うことができない。


 ほかの階層にいる守衛たちでさえ、ヴィンセントとドロシーを自ら攻撃しなくなっただけで、自由に命令できるわけではない。


 蒼藍帝国の進攻を阻むには、今のところヴィンセント一人で何とかするしかなかった。


 遠ざかっていく背中を見つめ、ドロシーはうっとりとした目を向ける。思わず両手を強く握り締め、呟いた。


「お義兄さん、もっと強くなってる。天賦もどんどん使いこなせるようになってる。そのうち……あのクソ女どもを殴り殺せる!」


 辺境の野営地にいた頃、お義兄さんがアンダやディアドラとは、自分よりもたくさん言葉を交わしていた。


 それを思い出すだけで、二人を引き裂き、血を一滴残らず吸い尽くしたくなる衝動が湧き上がる!


「でも……今は先に会いに行こう。私のお姉ちゃん」


 次の瞬間には、ドロシーはまた笑顔を取り戻していた。


 ヴィンセントの命令には従わず、天賦「探知」を使って地下河の周辺を探り始める。


 感染によって血族となったドロシーは、地下河の豊富なエネルギーの助けがあっても、五つある天賦のうち四つしか受け継ぐことができず、最も重要な天賦「超速」は持っていなかった。


 だが、天賦「探知」だけはことのほか気に入っていた。


 数か月にわたって熱心に鍛え続けた結果、今では探知の扱いだけなら、ヴィンセントでさえ彼女には及ばない。


 過去に探知のエネルギー波が掻き消された位置の記憶を頼りに、ドロシーはすぐに洞窟のある場所を見つけた。


 口元をわずかに持ち上げる。


 背中には、ヴィンセントと同じ骨と血で形作られた翼が広がった。そのまま鮮紅色の光に包まれ、地下河へ潜り込んでいく。


 薄暗い浅瀬のそば。


 ピンク色の髪が、暗い川面からゆっくりと不気味に浮かび上がった。周囲には、怪魚の死骸がいくつも漂っている。


 ドロシーは隠された洞窟を見回し、心の中では大いに満足していた。


 ここなら、いつか自分とお義兄さんが一緒に暮らす場所にもぴったりだ。


 宙に浮いたまま、ドロシーは急ぐことなく、少しずつ探りながら洞窟の奥へ進んでいった。


 やがて、揺れによって裂けてできたらしい、斜めに長く延びる石道を発見する。


 深く考えることもなく、そのまま中へ入った。そこにあったのは、外とはまるで異なる奇妙な金属空間だった。


 そして、その中で見つけた。


 石の寝台に横たわり、目を閉じたまま目覚めない姉を。


 そして――あまりにも目立つ、あの巨大な光球を。


「見! つけ! た!」


 三つに区切られた言葉は、それぞれ高さの違う奇妙な調子で発せられ、話し手の昂ぶりをこれ以上なく示していた。

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