↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/143

41.会議

 蒼藍帝国、首都バランド。


 威容を誇る巨大都市は、果てしなく広がる平原の中にそびえていた。


 澄んだ青い水を運ぶ幾筋もの大河が少し離れた場所で交わり、城門から伸びる広く平坦な街道は周辺の農耕地へと続いている。そこには黄金色の麦が一面に穂を垂れ、光神の輝きを受けて人の心を温めるような光を返していた。


 人々が行き交いながら働き、農作業や運搬に携わる者、野外での作業を守るため巡回する軍の姿も多い。そこかしこから掛け声や談笑が絶えず聞こえ、活気に満ちた光景が広がっている。


 そして、竜族の突撃にさえ耐えられそうなほど巨大で、高く、分厚い城壁の内側には大小の建物が軒を連ねていた。常に賑わいと繁栄に満ちるこの都市では、穏やかな巨獣が荷を引いて通りを行く姿さえ珍しくなく、輪と足跡商会の本部もこの地に置かれている。


 人類の国々の中でも、最も多くの人口が集まると言っていいこの都市の中心には、さらに独自の城壁を備えた華麗な建造物が存在していた。「城中の巨城」と呼ばれる皇家宮殿である。


 今、その内城門は固く閉ざされ、厳粛な空気に包まれていた。宮殿内の人目につかない豪奢な大広間には、帝国の高位にある者たちが一堂に会している。


 人間が使うには広すぎるとさえ思える大円卓には、帝国宰相エブナー、騎士団総団長オーストン、皇家冒険団団長モレイ、そして重要部門を預かる数名の大臣たちが席を連ねていた。誰も口を開かず、ただ大円卓の反対側に設けられた上座を見つめている。


 その席は長い階段の上にあり、ほかの者たちより明らかに高い位置に設けられていた。背後には、屈強で引き締まった身体つきの侍女が四人、柱のように背筋を伸ばして立っている。その左右には、片腕の中年男性と正装した若い女性が一人ずつ、静かに控えていた。


 蒼藍帝国女皇、イングリッド。


 彼女は片手で頬を斜めに支え、目を閉じたまま、数日前に辺境から届いた報告の内容について考え込んでいた。


 上座にいる者が口を開かないため、静寂は出席者たちの心に重くのしかかっていた。四十歳ほどになる女皇は、手腕も経験も権勢も、年を追うごとに恐ろしさを増している。彼女を怒らせたい者など、ここには一人もいない。


 前にその栄誉にあずかった者は、一族ごとシロ大陸から跡形もなく消えていた。


「モレイ」


 ついに、女皇が一人の名を呼んだ。


 指名された皇家冒険団団長は戦々恐々と席を立ち、上座の前まで進むと、恭しく片膝をついた。


「教えてもらえるか。帝国は毎年、皇家冒険団にこれほど多くの資源と支援を与えている。お前たちの要求に応じ、軍や騎士団からも少なからぬ人員を回した。それなのに、なぜお前たちの働きは相変わらず無能そのものなのだ?」


「人亜連合や鋼鉄の玉座といった昔馴染みはともかく、今では大勢の平民や冒険者にまで笑われている。笑いすぎて、蒼藍帝国の旗には今も剣が高々と掲げられていることすら忘れてしまったらしい。これはどういうことだ?」


 白髪の混じったモレイは、何十年にもわたり帝国のために命を懸けてきた皇家冒険団の責任者だった。だが今は深く頭を垂れ、片膝をついていた姿勢から両膝を床につけた。


 言い訳もせず、顔を上げることもない。


「陛下のご期待に背きました。どうか罰をお与えください」


 それを聞いても、女皇は怒る様子を見せなかった。


 むしろ、ふふ、と軽く笑い、穏やかに言った。


「私は正直に過ちを認める者には寛容だ。最初から罰を求めるのは、私のやり方を読んで責任を逃れようとしているのか?」


「滅相もございません」


 モレイの額から一気に冷や汗が噴き出した。答えると同時に両手を床につき、額まで重く床へ押しつける。


 その生真面目すぎる姿に、女皇はさすがに少し飽きたようだった。軽く手を振る。


「もういい。当時、私がこの座に就くのを支えた古参も、今ではほとんど残っていない。皇家冒険団団長を辞しなさい。宮殿の外では、お前のことを心配している若い後輩が何人か待っている」


「はっ、陛下! 職を失おうとも、臣と我が一族は今後も陛下と帝国のため、命を捧げて忠誠を尽くします!」


 礼を述べると、モレイは頭を下げたまま膝で後ろへ退き、大円卓から十分に離れたところで立ち上がった。そして振り返ることなく、その豪奢な大広間を後にした。


 彼が遠ざかるのを待ち、女皇はそばに控えていた屈強な侍女へ淡々と命じた。


「ドゥノの軍職と爵位をすべて剥奪しなさい。新たな功績を立てない限り、一生、皇家冒険団の一兵卒として働かせる。離脱は許さない。死ぬまでだ」


 わずかな言葉が静かに告げられただけで、前線基地のすべてを取り仕切っていた皇家冒険団副団長は、たちまち蒼藍帝国にとって最も使いやすく、最も惜しみなく使い潰せ、どう扱おうと気にも留められない捨て駒となった。


 言い終えると、女皇は大円卓に座る別の一人へ視線を向けた。


「それから、あの懐智派の小僧。どうやら本当に知恵があるようには見えないな。お前たちは、自分に欠けているものほど名前に使いたがるのか? 私の親愛なる内政大臣。どう思う?」


 名を呼ばれたブルーマは、太った身体から一気に汗を噴き出した。


 すぐさま先ほどのモレイと同じように席を立ったものの、慌てるあまり椅子まで倒し、しばらくもたついてからようやく女皇の前までたどり着き、片膝をつく。


「そ、そいつはもちろん愚か者でございます! 『百年来第一の女皇』と称される陛下の御前で、知恵を持つなどと名乗る資格のある者など一人もおりません!」


 女皇はわずかに眉を上げ、意味ありげに言った。


「ほう。では、なぜ我が蒼藍帝国の貴族の中に、今も懐智派などと名乗る者がいる? 私には『第一の女皇』という名がふさわしくないと思っているのか? それとも、裏から私を操れるとでも思っているのかな?」


「ドン!」と音を立て、ブルーマは両膝を床についた。


 顔は慌てふためき、太った頬にある五官がすべて中央へ寄ってしまいそうなほど必死の形相で、何度も額を床へ打ちつけながら許しを請う。


「め、滅相もございません! あれは……あれは誰かがほんの出来心で、陛下に学ぼうとしてそのような名前をつけただけでございます! 戻りましたらただちに改名させます! 『愚鈍派』に! い、いえ、ただちに解散させます!」


 額を打ちつける音が何度も響き、泣きながら許しを請う声が大広間にこだました。その姿は思わず心を動かされそうなほど悲痛だったが、口添えをする者は一人もいない。


 ただ、太った男だけが延々と許しを求め続けていた。


 帝国の重臣がそこまで卑屈な姿を晒しているにもかかわらず、女皇は軽く頷いただけだった。


「ブルーマ。お前のその命乞いの芝居は、何度見てもなかなか面白い。だが内政大臣である以上、私に芝居を見せるだけでは困る。非常に重要な役職なのだから、きちんと命令に従い、宰相の方針を実行し、総団長の騎士団を支え、帝国の民をよく見てやらなければならない」


「はい! はい! 必ず陛下に忠誠を尽くし、帝国のために全力を尽くします!」


 女皇の言葉に裏があるのかどうか判断できないまま、ブルーマは逃げ道が示されたと見るや、慌てて何度も頷いた。


 今はとにかく、この場を切り抜ければいい。


「では、お前は知っているか? なぜ私は、それほど重要な役職を、外見も中身も豚のように愚鈍だといつも笑われているお前に任せたのか」


 今度はあまりにも露骨な侮辱だったため、厚顔さでは人に負けないブルーマさえ一瞬呆然とした。


 しかし、人に合わせることに長けた彼はすぐに立ち直り、よく通る声で力強く答える。


「陛下はきっと、この醜い外見の下に隠された、陛下と帝国への忠誠心を見抜かれたのでございます!」


「違う」


 真っ向からの否定だった。


 だが、誰一人として笑う者はいない。


 女皇は内政大臣と話すことをかなり楽しんでいるようで、口元にはずっと薄い笑みが浮かんでいた。わずかに刻まれた皺のため、多少は年齢を感じさせるものの、その鋭く聡明な瞳はいまだ力に満ちている。


「で、では……陛下は、私に……人知れぬ非凡な才能があると……」


 後半になるにつれ、声はどんどん小さくなった。


 ブルーマ自身すら信じていなかったからだ。


 これ以上追い詰めても笑い話にしかならないと判断したのか、女皇はゆっくりと答えを告げた。


「才という意味では、今の答えも完全な間違いではない。お前を使うのは、お前が十分に愚かで、同時に十分に賢いからだ」


「わ、私は……」


 口をぱくぱくと動かす。


 バランドで長年立ち回り、言葉に詰まることなどほとんどなかったブルーマでさえ、何と答えればいいのか分からなかった。


「愚かなのは、私欲を抑えられず、あまりにも多くの弱みを残すからだ。だから私は、必要になればいつでも好きな理由でお前を替えられる。賢いのは、いつもちょろまかして私腹を肥やそうとはするが、少なくとも各方面が求める最低限の仕事だけはきちんとこなせるからだ。分かったか?」


 女皇が自分の弱みをいくつも握っていると知り、ブルーマの太った顔からさらに血の気が引いた。


 これまで自分がどんな大きな過ちを犯したのか、必死に思い返しながら、口では慌てて答える。


「わ、分かりました……」


「出て行け。貴族勢力をまとめようとしているなどと、二度と私の耳に入れるな」


「はっ! 陛下に死をもって忠誠を!」


 宣誓を終えると、その太った身体は転がるように、飛ぶような勢いで大広間から逃げ出した。


 次に発覚したらどうなるのか、女皇は何も言わなかった。


 そしてブルーマも、知りたいとは少しも思わなかった。


 彼に分かっているのは、今この瞬間から、貴族の中に懐智派などというものは存在しなくなるということだけだった。


 わずかな言葉のやり取りで、大円卓から重要な大臣が二人も消えた。


 帝国宰相と騎士団総団長を除き、残された者たちは額にうっすら汗を浮かべ、無意識に背筋をさらに伸ばした。


「あの懐智派の小僧は、頭を使うのが好きらしい。ならば冒険者にして、存分に頭を使わせなさい。迷宮城攻略の最前線に立たせ、帝国のためにしっかり頭を使わせる」


「私の要求は多くない。これも同じく、死ぬまででいい。本人が嫌がるなら、一族全員を送り込め。帝国のために十分に忠誠を尽くしてもらおう」


 女皇がまた淡々と告げると、そばにいた別の屈強な侍女が直ちに命令を受け、下がっていった。


 ようやく雑事を片づけ終えた女皇は、頬を支えていた手を下ろした。


 姿勢を正して座り直し、両手を王座の肘掛けに置く。そして低い声で言った。


「帝国は決して惜しまない。相応の努力さえ払うのなら、お前たちが何を望もうと与える。だが、私が何かを与えたにもかかわらず、それに見合う見返りが得られなかった時は、その余分に支払った代価を取り立てる」


「分かったか?」


 女皇は重臣たちへ静かに問いかけた。


「はっ! 陛下に死をもって忠誠を!」


 大円卓の全員が立ち上がり、声を揃えて宣誓した。


 座ったままでいることを許される者はいない。


 帝国宰相も、騎士団総団長も同じだった。


「よろしい。お前たちがいるならば、帝国はさらに長く、さらに遠くへ進めると信じている。いつの日か、すべての知性種族を一つに束ね、シロ大陸を征服し、繁生会のような遺憾な出来事が二度と起こらなくなる、その日まで」


 女皇は微笑みながら彼らを称えた。


「会議を始めなさい」


 手を軽く振ると、女皇は再び頬杖をついて王座へ身を預け、その後は口を閉ざした。


 全員が席へ戻る中、宰相エブナーだけが立ったままだった。


 彼は大円卓の前へ進み、女皇に背を向けると、老いてはいるが穏やかな声で話し始める。


「今回の会議の議題は、帝国辺境、発見者たちから『壊死の大地』と呼ばれている地域で発見された、新たな迷宮城についてです」


「現在までの調査によれば、この新たな迷宮城は、百年来一度も見られなかった規模の天象異変をすでに二度引き起こしています。このような異常は過去に例がなく、少なくとも知性時代以降には確認されていません。最古の歴史を持つ神々の国にも関連する記録はなく、循律の塔からも共同調査への参加申請が届いています」


「以上は各国も把握している情報です。ここからは、皇家冒険団のみが掴んでいる情報となります」


「一度目の天象異変の後、従男爵ヴィンセントが迷宮城から救出されました。その後、彼が重大な秘密を抱えていることが判明しています」


「逃走の際には、野蛮人族と正面から渡り合えるほどの未知の大型怪物へ変身できることが確認され、技巧、魔法、神術とは異なる複数の能力も有していました。推測では、何らかの悪魔種族である可能性があります」


「しかし、人間がどのように悪魔種族へ変わったのかについては、現在も詳細を調査中です。本人はすでに迷宮城へ潜伏したものと見られています……」


 宰相の詳しい説明を聞き、それまで辺境攻略に関心を払っていなかった大臣たちも、ようやく理解し始めた。


 なぜ女皇が突然、円卓会議を招集したのか。


 そして、なぜモレイとブルーマにあれほど重い処分を下したのか。


 知性時代以降、世界の異変によって悪魔種族はかつてほどの勢力を保てなくなった。それでも彼らが生まれ持つ天賦は、人類が恐れるほど強大であり、同時に人類が垂涎するものでもある。


 そして今、人間が悪魔種族へ変化した前例が現れた。


 帝国は今回、辺境で新たに発見された迷宮城から、とてつもないものを見つけたのかもしれない。


「各国や各勢力へ連絡し、この迷宮城の謎を解くため協力を求めますか?」


 外交大臣が真っ先に尋ねた。


 エブナーは一度女皇を振り返った。


 何の反応もないことを確かめると、首を横に振る。


「今のところ、その必要はありません」


「ヴィンセント従男爵は、もともとただの人間だった。それが怪物へ変身するほどの強大な力を手に入れ、しかも自我と理性を保っている。何より、光神の光の下で自由に行動できるという……これは、再現可能な成果なのでしょうか?」


 防務大臣が興味を抑えきれず、口を挟んだ。


「まだ何も分かっていません」


 皆が口々に意見を交わす中、騎士団総団長オーストンが突然、低い声を発した。


 短く整えた髪、精悍な顔立ち。全身から厳格な空気を漂わせる男だった。


「これほど重要な情報だ。封鎖はできているのか?」


「不可能です。当日は混乱がひどく、目撃した冒険者も事情を知った者も少なくありません。しかも、その中には双子教会の光騎士まで一人いました。遅かれ早かれ、情報は少しずつ外へ漏れるでしょう」


 答えを聞いたオーストンは眉をひそめると、即座に言い切った。


「ならば帝国軍を出す! 最短で迷宮城に関するすべての秘密を掘り出せ! 他国にも、他勢力にも介入する隙を与えるな! そして成果を盗んだあの薄汚い鼠も、絶対に逃がすな!」


 エブナーは再び女皇を振り返った。


 今度は、彼女が確かに小さく頷いた。


 それを確認すると、エブナーは向き直り、宣言する。


「では、以後の会議は新迷宮城を最速で攻略することを主題とします。各位、遠慮なく意見を出してください……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。