32.探り(一)
数日間の療養を経て、ヴィンセントはそろそろ頃合いを見て「回復」してもいいだろうと考えた。
常に変身と吸血衝動を抑え続けるのは、身体にとってかなり苦しい。良い鍛練になるとはいえ、眠っている間に時折湧き上がる血への渇望のせいで、なかなか眠りにつくことができなかった。
幸い、遭難した探索隊員として救出されてからは厚遇され、ずっと個室で療養させてもらっている。もし誰かと同室だったなら、間違いなく異常に気づかれていただろう。
医療センターの者たちに礼を言って別れを告げ、ヴィンセントは後勤組の休息区を離れた。
蒼藍帝国の福利厚生は確かに充実しており、気前もいい。四正教がこの国ではあまり盛んではないため、各地には神官が常駐していないことも多い。その代わり、帝国は独自に優秀な医療従事者と技術を育成しており、任務で負傷した者は完治するまで無償で治療を受けられる。
今回、ヴィンセントの身体が広範囲にわたって腐食傷を負ったことで、世界の心によって消えてしまった昔の傷痕もちょうど隠すことができた。すべて医療センターの治療によるものだと言ってしまえる。
ただ残念なのは、今のヴィンセントがもう人間ではないことだった。そうでなければ、本気でエリカとカンダベスに隠居し、下級の世襲貴族として穏やかに暮らすつもりだった。
ヴィンセントが内心惜しく思っていると、いくつもの区画をつなぐ前方の大きな交差点から、澄んだ明るい声が楽しげに彼を呼んだ。
「お義兄さん! やっと治ったんだ! 今日戻ってくるって聞いて、わざわざここで待ってたんだから」
そちらを見ると、ドロシーの傍らにはグリフィスとディアドラも立っていた。三人は人通りの多い道の中央におり、それぞれに目立つ容姿と雰囲気を持っているため、通り過ぎる冒険者たちの視線を集めている。
地味で目立たないヴィンセントとは大違いだった。
「うん」
避けようもないので、ヴィンセントは簡単に三人へ挨拶した。
ドロシーは楽しげに駆け寄ってヴィンセントの袖を掴むと、その傍らへ寄り、小声で説明した。
「お義兄さん、グリフィス様とディアドラさんが何か用事みたい。ちょうど二人と会ったから、一緒にここで待ってたの」
普段とは違って親しげな義兄と妻の妹の様子を見て、グリフィスは内心密かに注意を払い、不愉快さを覚えた。自分が目をつけている可愛い娘を、この寡黙な男に取られるなど御免だった。
それに今のヴィンセントには、異変の原因を隠している重大な疑いもある。きちんと「もてなして」やる必要があった。
「すまない。ここ数日、何度も君のところへ足を運ぶことになってしまって。攻略が滞っていることで作戦部もかなりの圧力を受けているんだ」
「迷宮城の異変が起きてから、帝国はそれまでの自主性に任せる方針を一変させて、副団長にすぐ成果を出すよう求めている。だから……また君に手間をかけてもらうしかなくてね」
グリフィスの言葉は非常に丁寧で、何度も詫びながら低姿勢を取るその態度からは、この上級貴族の誠意と苦しい立場が確かに感じ取れた。
正体を隠し続ける緊張と重圧の中、ヴィンセントは内心すでに少しうんざりしていた。それでも相手の話を受け入れるしかなく、淡々と尋ねる。
「今日も同じか?」
「そうだ。ただ、もう何日も続けて調査報告を取っているからね。分かっているよ。聞ける答えが大きく変わることはないだろう。今日は少し気楽にしよう。上の方々も、こちらの苦労くらいは分かってくれるはずだ」
拒まれなかったのを見て、グリフィスの声も次第に明るくなった。まるで世間話をしに来ただけのような軽い調子で続ける。
「ちょうど君も回復したことだし、今の野営地は前とはすっかり変わっている。帝国も長期攻略を見越して、ここを大きな町にするつもりらしい。歩きながら話さないか?」
「せっかくだから少し見て回ろう」
「ああ……そういえば、この土地の食材を使った美味しい特製焼きを出す店があってね。よければ……」
グリフィスが意図的に場の空気を盛り上げる中、四人は大きな交差点から、多くの冒険者のために設けられた娯楽区へと向かった。
ヴィンセントがここへ来るのは初めてだった。足を踏み入れた途端、ほかの区画とはまるで違う、喧騒と歓楽と活気に満ちた空気を感じる。
まだ第三陣の探索隊にいた頃、ヴィンセントはほかの隊員たちのようにここへ遊びに来ることはなく、報酬をきちんと貯め、カンダベスへ持ち帰って村の建設に使うつもりでいた。
周囲にはすでに二階建て、三階建ての建物が数多く並び、かつてぬかるんでいた地面も平坦な道へと整備されている。高く堅固な城壁と武装した巡回隊の存在も、人々に安心感を与えていた。野外の魔物や危険な存在に襲われる心配もない。
あちこちから客を呼び込む店主の声が響き、客たちは豪快に笑い、人の流れが絶えることもない。賑やかな声が途切れない気楽で楽しい環境は、そこにいるだけで気持ちを緩ませ、その空気へと浸りたくなるような場所だった。
「お義兄さん、見て! あそこで人形使いが芸をやってる。私、見たい! それに酒場には吟遊詩人が来てて、昔の薔薇小隊の英雄詩を歌うんだって。どこも催しばっかり!」
活発なドロシーがすっかり興味を惹かれているのを見て、グリフィスは笑いながらヴィンセントへ説明し、そのまま彼女を褒めた。
「ここは今、夜通し営業することを特別に許された区域なんだ。冒険を終えた者たちの多くが、ここへ息抜きに来る。ただ、ドロシーさんも来るのは初めてだよ。君が行方不明になってから、彼女は本当に必死になって任務をこなしていたからね」
それを聞いたドロシーは、自分のことを見られていたとは思わなかったとでもいうように驚いた顔をし、小さな口を手で覆って何度も声を上げた。
「あっ! グリフィス様、どうして知ってるんですか?」
グリフィスは声を上げて笑うと、端正な顔に礼儀と敬意を保ったまま彼女へ視線を向けた。
「俺は探索組の副組長だからね。当然、部下の探索員のことは気にかけているよ。でもヴィンセントも戻ってきたんだ。君もこれからは少し肩の力を抜いていい」
さりげなく、ちょうどいいところで気遣いを見せることは重要だった。
それぞれ別の思惑を抱えながら、グリフィスとドロシーは「楽しげに」会話を続けていく。
その傍らで、ヴィンセントは黙ってあの清麗な光騎士を観察していた。この数日、彼女が話しているところを一度も聞いていない。自分以上に寡黙だった。
普段のヴィンセントなら、そんなことを気にすることはない。だがこれほどの人物なら、本来は迷宮城の攻略で忙しくしているはずだった。少なくとも双子教会を代表して、大小さまざまな攻略会議に参加していてもおかしくない。
それなのに、この数日は何も語らず、頻繁に自分の前へ姿を見せている。
理由もなく、ヴィンセントの胸にわずかな不安が生じた。
いくら考えても答えは出ない。得意ではなかったが、それでも相手の意図を探ってみることにした。
「先日は怪我で余裕がなく、きちんと光騎士殿に挨拶もできなかった。この数日、迷惑をかけた」
話しかけられたディアドラは隣の男へ顔を向けた。輝く金色の瞳で真っ直ぐ見つめ、軽く頷く。
「いいえ」
挨拶が終わると、二人は再び黙り込んだ。
隣で盛り上がっている二人との差はあまりにも大きい。
しばらくして、ヴィンセントは空を見上げた。諦めず、もう一度話しかけてみる。
「いい天気だ」
その言葉には、普段から厳格なディアドラでさえ一瞬わずかに呆気に取られた。
これまで多くの求婚者が彼女の前で、さまざまな趣向を凝らした言葉を並べてきた。隣にいるグリフィスの意図も、ある程度は察している。
だが光神派の教義に反する人物や物事でない限り、彼女はたいてい正面から拒絶したり叱責したりすることはなかった。まして今は、秘密を隠しているこの男から話を引き出すという役目まで負っている。
しかし、こんな退屈な挨拶から天気の話へ入る会話は、もともと口下手なディアドラにとって、かえって返答に困るものだった。冷ややかだった表情が、たちまちいっそう複雑になる。
「ええ。光神のご加護です」
「光神は……偉大だな」
「……はい。偉大なお方です」
「……野営地での暮らしはどうだ?」
「悪くありません」
「攻略は進んでいるか?」
「知らせを待っています」
「君は……」
「あなたは……」
気まずく、鬱陶しく、それでもやらなければならない会話を何度も重ねたことで、普段から寡黙な二人は同時に苛立ち始め、このどうしようもない空気に耐えきれなくなっていた。
そして最後には、妙なところで息が合い、二人同時に口を開いた。
互いの顔を見つめる。
二人とも、ちょうど何かを言おうとしていたのが分かる表情を浮かべていた。
男女の間には、再び沈黙が戻った。
「あれ? お義兄さん、ディアドラさんとこっそりお話ししてたの? 駄目だよ。お姉ちゃんからちゃんと見張っててって頼まれてるんだから。浮気しちゃ駄目だからね」
突然、桃色の髪が二人の間へ割り込んできた。ドロシーは二人を交互に見ながら、笑顔でからかう。
グリフィスもすぐに寄ってきて、横から話に加わった。
「ドロシー、それはヴィンセントを責められないよ。ディアドラさんは確かに人々から敬われる光騎士だ。彼女を通して、光神の素晴らしさをもっと知りたいと思うのは、ごく自然なことだろう」
グリフィスは、この平凡な男に光騎士を惹きつけるようなところがあるとは内心まったく思っていなかった。ディアドラが相手と話していたのも任務のためだと考えている。
むしろヴィンセントのほうが本当に彼女へ興味を持っているのなら、それは秘密を突破するための一つの糸口になるかもしれない。
だから先ほどから二人の気まずい会話にはとっくに気づいていたが、内心笑いながらも止めるつもりはなかった。自分は自分でドロシーのほうから探りを入れ、ついでに互いの仲を深めておけばいい。
二人から続けざまにからかわれても、ヴィンセントには誤解されたことへの照れも、気恥ずかしさもまるでなかった。弁解もしない。
ただ会話を遮られたのを見て、首を振ってそれ以上話すのをやめた。
ディアドラも唇を固く結び、何も言わない。
寡黙な男女が揃って反応しないとなれば、グリフィスとドロシーという二人の盛り上げ役でさえ、一時は言葉を失うしかなかった。
幸い、ちょうどそのとき目的地へ到着した。
「ここだ。『パンク髭の特製焼き』。何人か冒険者仲間に勧められた店でね。料理は豊富だし、もちろん安くて美味い酒もある」
ちょうどいい頃合いとばかりに、グリフィスは前方にある大きな木造の店を指差して紹介した。
小さな看板が掛けられ、店の外には大勢の客が列を作っている。
煙突から白い煙が立ち上るのと同時に、肉汁を思わせる食欲をそそる香りが漂ってきた。通りがかった者でさえ、思わず足を止めてしまうほどだった。
長年各地を渡り歩いてきた冒険者であり、大食漢でもあるヴィンセントは、香りだけでもグリフィスの紹介通りの良い店だと判断できた。
それで胸の疑念を少しだけ脇へ置き、血への渇望を抑えるためにも食事を取ろうと、グリフィスの熱心な誘いに従って店へ入った。
接客をしているおばさんの荒っぽい指示に従い、四人はすぐ店の隅に空席を見つけた。
だが注文をしようとしたところで、隣から騒がしい声が聞こえてくる。
「頑張れ!」
「ははっ、あの小僧、怒ったぞ!」
「正義を訴える勇気があるんだろ? だったらその勇気で、俺に正義ってものを教えてくれよ!」
「ちょっとしたことも我慢できないくせに、よく冒険者なんて名乗れるな! 緑皮鬼を見ただけで震え上がったんだって? さっさと帰って母ちゃんに泣きつけよ。正義の味方になってくれるかもしれないぞ!」
「うるさい!!! 飯を食いたい奴は黙りな! 次に騒いだら、料理にパンクの足垢を入れてやるからね!」
接客のおばさんの怒鳴り声と脅しを受け、周囲で囃し立てていた者たちはたちまち散っていった。
そのあとに残ったのは、酒場の床に倒れている一人の丸顔の青年だった。
「ちっ、またこの潰れた酔っ払いかい。そいつを放り出しな!」
おばさんが命じると、すぐに屈強な店員が数人やってきた。どうやら副業で働いている冒険者らしく、中には装備すら完全に外さないまま働いている者もいる。
彼らは慣れた様子で青年を持ち上げると、本当に入口の外へ「放り出した」。
青年は大きな音を立て、地面へ激しく叩きつけられる。
長年冒険者たちを相手にしてきたおばさんは、彼らがどれだけ苦労しているかをそれなりに知っていた。そのため、この丸顔の青年のことは心底見下しており、扱いが優しくなることなど一度もなかった。
店の隅からその光景を眺めていたヴィンセントは、ここ最近あまりにも多くのことに追われていた頭の中から、ようやく思い出した。
あの丸顔の青年は、確かジェットという名前だった。
自分の昇爵が撤回される原因を作った、ジェットだ。




