25.世界の心
灼けるような熱。痛み。全身が燃えているかのようだった!
墜落するヴィンセントは大量の蜘蛛の糸に絡め取られ、白い巨大な繭に包まれていた。下へ落ちれば落ちるほど、山間を吹き荒れる強風も次第に激しさを増し、ついには鋭い刃のように繭を絶え間なく削り始める。
蜘蛛の糸でできた巨大な繭には相当な強度があった。だが、強風は鋭いだけではない。ヴィンセントごと吹き飛ばし、激しく山壁へ叩きつけた!
傾斜した山壁へ衝突した白い繭は、そのまま何度も転がりながら落下していく。立て続けの激しい衝撃が蜘蛛の糸を通してヴィンセントの全身を打ち据え、皮膚と肉を裂き、筋を断ち、骨を砕く音が絶えず響いた。身体中どこにも痛みのない場所はなく、残された最後の意識だけが辛うじて彼を支えていた。
何度も叩きつけられるうちに、もとは白かった巨大な繭が次第に血で赤く染まっていく。
長いあいだ山壁を転がり続け、最後に「ドボン!」という音が響いた。
白い巨大な繭は、途方もなく大きな地下河へ落ちていた。極めて冷たい河水が染み込み、その冷気がヴィンセントの全身にある傷口へ少しずつ食い込んでいく。
もう叫ぶ力さえ残っていないと思っていた彼は、その瞬間、これまで一度も上げたことのない苦痛の叫びを発した!
拷問にも似た激烈な刺激に、目を閉じることすらできない。ヴィンセントは顔を激しく歪めたまま、白い繭の中を流れる奇妙な青い光を放つ河水を睨み続けた。
河の流れは、彼をさらに暗い地底の奥へと運んでいく。
どれほど時間が過ぎたのか分からない。
何度も重傷を負ったヴィンセント自身、自分がいつ意識を失ったのか覚えていなかった。だが、全身のあちこちから伝わる噛みつかれる痛みによって、どうにか意識を取り戻し、重い瞼を開いた。
ぼやけた視界に映ったのは、暗く不気味な洞窟だった。
それでも青い光を放つ地下河のおかげで、ヴィンセントはどうにか今の状況を確認することができた。
冷たい河水に流され、どこかの洞窟にある浅瀬へ打ち上げられたらしい。山壁を転がり落ちる間に、外側を包んでいた白い繭の大半は削ぎ落とされていたが、残った一部が幸運にも岩の間へ引っかかっていた。
だが、不運なこともあった。
今、ヴィンセントの身体には拳ほどの大きさの目のない怪魚が数匹取りつき、白い繭とその下の血肉を絶えず食いちぎっている。
怪魚の身体は平たく、腹側にある口には鋭い牙がびっしりと生えていた。さらに脚のような二本の肢を持ち、それを使って岸へ上がり、簡単に動き回ることもできる。
幸いにも、首などの急所へ噛みつかれる前に目を覚ますことができた。
ヴィンセントは激痛に耐えながら身体をわずかにずらし、怪魚たちが手の周囲を覆う蜘蛛の糸へ集中して噛みつくよう仕向けた。
片手が自由になると、すぐさま一匹の怪魚を掴む。
親指を力いっぱい魚体へ押し込み、そのまま突き破った!
血が噴き出した瞬間、ヴィンセントは怪魚をすぐ傍へ投げ捨てる。
残りの怪魚たちは、濃く新鮮な血の匂いに引き寄せられ、一斉に仲間の死体へ群がった。その隙にヴィンセントは、すでにかなり噛み緩められていた蜘蛛の糸を引き裂いていく。
切迫した状況の中、一気にそこまでやり終えると、ヴィンセントは反射的に立ち上がって逃げようとした。
だが突然、身体が言うことを聞かず、力を失ったようにその場へ倒れ込んだ。
激しい衝撃に、ヴィンセントは再び大量の血を吐く。
自分の身体へ目を向け、そこで初めて、もはや人の姿とは呼べないほどの状態になっていることに気づいた。
腐食によって皮膚のほとんどが溶け落ち、全身に鮮紅の筋肉が剥き出しになっている。その表面には、鎧の金属まで溶けて肉へ混じり合うように残っていた。
冷え切った地下河は蜘蛛の糸の毒を抑えてくれたものの、その代わりにさらなる苦痛と損傷を身体へ与えていた。
さらに悪いことに、山壁の斜面で何度も激しく衝突したせいで、ヴィンセントはすでに腹部より下の身体をまともに動かせなくなっていた。
感覚さえ戻ってこない。
辛うじて動かせるのは、両腕だけだった。
傍らでは、数匹の怪魚が間もなく仲間の死体を食べ終えようとしている。
ヴィンセントは必死に身体を反転させた。
激痛に何度も呻き声を漏らしながら、どうにかうつ伏せになる。そして両腕だけを使い、鋭く険しい硬い岩場を死に物狂いで這い始めた。
「まだ……機会は……ある……死んで……なければ……機会はある……俺は……ずっと……こうやって……生きてきた……必ず……帰る……」
背後から聞こえてくる肉を噛む音の中、ヴィンセントは何度も自分へ言い聞かせた。
耐えろ。
まだ終わっていない。
両腕で身体を引きずりながら、暗い石洞の奥へ向かって少しずつ進み続ける。やがて肉を食らう怪魚と、奇妙な青い光を放つ地下河から徐々に遠ざかっていった。
だが暗闇の奥へ進むにつれ、わずかに残っていたヴィンセントの意識も再び朦朧とし始める。
迷宮城の中で一人きりになり、しかもここまでの重傷を負っている。
この平凡で、いつも寡黙な冒険者も、心の中では自分がただ死に際の足掻きを続けているだけだと分かっていた。
それでも、数十年のあいだに身についた粘り強さと努力が、慣性のように彼を前へ動かし続けていた。
諦めるという選択を、ヴィンセントは想像することさえできなかった。
視界は次第にぼやけ、そのまま暗闇へ沈んでいく。
自分がいったいどこまで這ってきたのかも分からない。
ずっと必死に進み続けているようにも感じるし、実際にはまだ浅瀬の近くからほとんど離れていないのかもしれない。
何一つ確かではなかった。
分かるのは、身体がますます冷たくなり、力も失われていることだけだった。
それでも目の前の漆黒の世界は果てしなく続き、どれだけ進んでも抜け出すことができない。
どれほど強い意志にも、限界へ達する時はある。
ついにヴィンセントが最後の力で両腕を動かした瞬間、その身体は下へ傾斜した通路へ落ち込んだ。
ぼろぼろになった身体は壊れた物のように何度も転がり落ち、最後に硬い地面へ叩きつけられて、ようやく止まる。
身体にはもう、ほとんど何の感覚も残っていなかった。
痛みも、傷も、寒さも、失血さえ、ヴィンセントにはもはや影響を与えられない。
死の間際、意識が霞んでいく中で、目の前に突然、奇妙な光が現れた。
その光の中から、何かが何度も彼を呼んでいるように聞こえる。
「ヴィンセント……ヴィンセント……」
一声、また一声。
聞き慣れた声だった。
まるでエリカが、自分を呼んでいるようだった。
もはや人の姿さえまともに残っていない瀕死の身体が、最後の力を振り絞って手を伸ばす。
震える指先が、何かの光へ触れたように感じた。
その直後、ヴィンセントの意識は完全に途切れ、そのまま昏倒した。
だから彼は、そのあとに起こった幻想的な光景を見ることはなかった。
奇妙な光は触れられた瞬間、まるで実体を持つ流水へ変わったかのように次々と増え始めた。
地面に横たわる無惨な身体を包み込んでも、なお広がり続ける。
やがて石洞の外へと透け出し、あらゆる暗闇を貫いていった!
石洞の岸辺にいた目のない怪魚たちは、これほど強烈な光を一度も感じたことがなかった。
驚いた怪魚たちは次々と地下河へ逃げ戻る。
しかし光は止まらない。
実体を持つ水のように奇妙な地下河へ繋がった直後、眩いほど鮮やかな蒼い光が一気に輝き始めた!
蒼い光は瞬く間に広がり、死亡峡谷を流れる地下河のすべてを照らし出していく!
星空を翔ける銀河のように!
鮮やかな蒼い光が巨大な峡谷全体を貫いた。
山壁と空を覆っていた暗闇が追い払われ、夢幻のような光の世界が降り立つ。
迷宮城に存在するすべての守衛が、長いあいだ失われていた精神の繋がりを再び感じ取った。
峡谷の岩壁と地下河へ、半ば埋まり、半ば融け込むように存在していた一体の超巨大な鎌蜘蛛。
それは、かつてヴィンセントが目にしたあの超獣種だった。
複数の巨大な碧緑色の眼が開く。
そして、千百年ものあいだ一度も発したことのない鋭い嘶きが轟いた!
その叫びは天を破るように峡谷全体を震わせる!
死亡峡谷の外、前線拠点。
天地の異変を感じ取った人々が、一斉に外へ飛び出した!
誰もが信じられないものを見るような顔で、巨大宮殿と、その奥にある山峡を見上げる。
果てしなく膨大な蒼い光が溢れ出すように映し出され、そのまま天へ向かって突き上がっていた!
本来なら漆黒に沈んでいるはずの夜空が、無限にも思える蒼い光に切り裂かれ、星空まで照らし出されている。
色鮮やかな光の帯が、奇妙なエネルギーの法則に従って旋回し、漂い、さまざまな形を作り出していた。
それらはやがて、夜空高くに浮かぶ極光のような幻想的な景色へと変わっていく。
直後、微かな地鳴りと揺れが立て続けに起こった。
巨大宮殿の方角からは、多数の魔獣と邪悪体が一斉に上げる咆哮が響き、幾重もの音の波となって前線拠点の人々の耳を震わせる!
「迷宮城……迷宮城に何が起きたんだ!?」
一人の後勤組員が震える声で言った。
「わ……分からない。守衛が……守衛が暴走するんじゃ……」
別の者が唾を呑み込み、冷や汗を流しながら答える。
「第四陣の探索隊が……何かの仕掛けを作動させたんじゃないのか?」
人々がまだ口々に推測を続けている中、同じく驚きながら星空を見上げていた後勤組の組長は、すでに険しい表情へ変わっていた。
「もう見るな! 全員、聞け! 動員できる者をすべて集めろ! 襲撃に備えて防衛態勢を整え、第四陣の探索隊を迎え入れる準備もしておけ!」
続いて、恐怖を隠しきれない副組長へ即座に命じる。
「一人、野営地へ戻して報告させろ! ドゥノ副団長に、迷宮城で異変が起きたと伝えろ。すぐに増援を寄越してもらえ!」
実際には、前線拠点から報告を受けるまでもなかった。
野営地のある壊死の大地の縁は、ここから決して近くはない。それでも彼らの目にも、遠い星空に浮かぶあの奇妙で幻想的な光景は、はっきりと映っていた。
「これまで迷宮城を探索してきて、こんな現象を見たことはあるか?」
ある大天幕の外で、ドゥノは厳しい表情のまま夜空を見上げ、低い声で尋ねた。
どう考えても、迷宮城の異変が良いことだとは思えない。
隣では、老バダが深く眉を寄せている。
やがて何かを思い出したのか、顔色を悪くしながら口を開いた。
「昔、一つの噂を聞いたことがある。ある伝説級の冒険者が、当時俺たちが知っていた生体迷宮の最終層を突破し、そこにいた守護者を倒した時……似たような光が現れたらしい」
「その後は? 地の魔王も生体迷宮も、今でも残っているだろう?」
ドゥノが訝しげに問う。
「ああ。俺たちが最終層だと思っていた場所は、ただの大きな関門にすぎなかった。その後、生体迷宮は再び成長した。あるいは……本来の姿の一部を解放した、と言ったほうがいいかもしれん」
老バダは低い声で続けた。
「まるで、冒険者が攻略に成功したことを祝うみたいにな。実に皮肉な話だ……」
それを聞いたドゥノは、老バダの顔色がこれほど悪い理由をすぐに理解した。
胸の内に湧き上がる不安と高揚を抑えながら、もう一度尋ねる。
「つまり、ここは三大魔王の迷宮城と肩を並べるほどの迷宮城で、しかも今まさに変化している可能性があるということか?」
「分からん。帝国から遊騎兵ギルドへ問い合わせて、過去の記録を調べてもらったほうがいい。あるいは、最も古い神々の国なら何か知っているかもしれん。四正教は長い歴史を持っているし、生体迷宮もあいつらの領内にあるからな」
遠くの星空で今なお変化し続ける極光を見上げながら、ドゥノは老バダの助言を聞いた。
すでに、その胸には一つの考えが生まれている。
危険と機会は、常に共にある。
これは蒼藍帝国にとって好機なのかもしれない。
そして帝国にとっての好機は、彼自身にとっても好機だった。
同じ頃。
蒼藍帝国の辺境から遥か遠く離れた山間の小村、カンダベス。
大屋の奥にある小さな部屋で、それまで眠っていたエリカが突然目を覚ました!
傍らの軍刀を一気に掴む。
褐色の顔には冷たい汗が流れ落ち、エリカは驚きと疑念の入り混じった表情で周囲を見回した。
「今の……夢に出てきたのは、ヴィンセント……? 全身傷だらけで、もう誰なのか分からないくらい……」
何かがおかしい。
夢の中の光景があまりにも生々しかった。
無視できないほどに。
エリカは起き上がって軍用の外套を羽織り、無意識のうちに窓辺まで歩いていった。
窓を開き、遠くの星空を見上げる。
その彼方には、かすかに蒼い光が瞬いているように見えた。
夜のそよ風が吹き込み、氷のように冷たい空気が頬を撫でる。
エリカの表情は次第に引き締まり、眼差しもまた強い決意を帯びていった。
この数日間、考え続けてきた。
そして彼女はすでに、自分の未来について決断を下していた。
何気なく煙草と巻紙を手に取り、夜の闇の中へ小さな火を灯す。
長身の身体に軍用の外套を羽織ったまま窓辺へ寄りかかり、白い煙の向こうから星空を眺める。
そして、小さな声で呟いた。
「ヴィンセント、死なないでよ……」




