19.ディアドラ
野営地内、訓練区域を兼ねた攻略組の休息地。
蒼藍帝国の青地に剣盾の旗印をあしらった装備を身につけた百名ほどの武装要員が、中年の男の号令に合わせ、各種の技巧と筋力を組み合わせた基礎訓練を繰り返していた。
彼らはいずれも一定以上の実力を持っており、能力を高めるために、わざわざこうした統一された単調な基礎訓練を行う必要はない。
だが厳密に言えば、皇家冒険団は蒼藍帝国が公的に支援する組織だった。
しかも皇家冒険団の設立以来、重要な役職には蒼藍帝国五大騎士団から転任してきた者が就いてきた。そのため、軍隊式の気風もずっと受け継がれている。
融通の利かないそのやり方は、迷宮城攻略で皇家冒険団に少なからぬ損害をもたらし、外部の冒険者や傭兵団から嘲笑される原因にもなっていた。
しかし、統一され、規律の行き届いた部隊は、蒼藍帝国が求める安定ももたらしていた。
ここ数年では作戦部も十分な予算を確保し、考え方そのものを変えている。
外の連中が笑いたいのなら、金を払って冒険者や傭兵団に迷宮城へ入ってもらい、中で好きなだけ笑わせればいい。
もし笑いながら無事に戻ってこられたのなら、自分たちも何事もなかったように一緒に笑えばいい。
何しろ、生きて戻ってきたということは、攻略が進展したということだ。
利益を得るのは、結局皇家冒険団なのだから。
アンダがここへ足を踏み入れて最初に目にしたのが、その整然とした、彼女にとっては笑いたくなるような訓練風景だった。
軍隊に必要なのは統一された意志なのかもしれない。
だが野蛮人は、一人一人が軍隊のようなものだ。こんな型にはまった訓練をさせられるくらいなら、殺されたほうがましだった。
野蛮人は生まれながらにして、自分をどう鍛えるべきか知っている!
人間を大きく上回る女野蛮人の体格は非常に目立ったが、彼女は随行案内資格を持っている。わざわざ自分から面倒を招こうとする者もおらず、アンダは何にも邪魔されることなく進んでいった。
型通りの訓練には興味も示さず、アンダはさっさとこの退屈な場所を通り抜けた。
ここへ来た目的は、つまらない人間たちを見るためではない。
彼女が興味を持ち、同時に自分を攻略組へ移す助けになってくれるかもしれない強者を探すためだった。
二日前の探索任務で、最後に仲間を失ったという結果を、アンダは受け入れられずにいた。
とはいえ、彼女は負けを認められない野蛮人ではない。
だが女野蛮人から見れば、探索隊の中で役に立ったのは老バダとヴィンセントだけで、それ以外は全員役立たずだった!
斥候のろくでもない偵察も、弓使いの貧弱な攻撃も、盾持ちの紙のような守りも、戦士たちの軟弱な攻撃も、全部自分一人でやれる!
それでも自分から隊に加わった以上、アンダは仲間を尊重し、連携するつもりだった。老バダの経験とヴィンセントの頼もしさも、そうするだけの価値が確かにあった。
だが、それだけだ。
持てる力を十分に振るえないことほど、野蛮人にとって苦痛なものはない。
もし自分と同程度の実力を持つ者たちで冒険者隊を組むなら、老バダのように豊富な経験を持つ隊長が一人。一定の距離なら目を閉じていても百発百中の射手が一人。感知、偵察、罠の設置に長けた斥候か盗賊が一人。万能な神官か魔法師が一人。そして、頼りになり信頼できる盾持ちが一人。
最後に、自分が加わる。
それだけ揃えば、第一層の迷宮を正面から突破することさえ問題ではない。
たとえ十五日間居続けるだけでも、緑皮鬼か食獣人のどちらか一方を全滅させる程度なら簡単なことだった。
だが現実は残酷だった。
あのときは最後にはアンダ自身さえ、大量の邪悪体に呑み込まれかけた。
もしヴィンセントが命懸けで後方の上位食獣人を食い止め、最後の瞬間にそいつと部下たちを引きつけていなければ、前後から完全に包囲された時点で、逃げ出すのはアンダにとってさえ簡単ではなかっただろう。
あんな腹立たしい結果を二度と繰り返さないため、アンダは皇家冒険団の間違った認識を正すことにした。
第一段階は、発言に影響力のある強者を見つけること。
第二段階は、その強者と話をつけること。
シロ大陸中の誰もが知っている。
野蛮人ほど話の分かる種族はいない。
拳で。
皇家冒険団の上層部に会えないのなら、攻略組の中で最も目立つ強者を選べばいい。
きっと相手も、自分と話をつけることを喜んでくれるはずだと、アンダは信じていた。
訓練場を離れると、退屈な号令も次第に遠ざかっていった。
アンダは大股で、端のほうに並ぶ木造の小屋へ向かう。外観は探索組で使っていた個室宿舎とよく似ており、どうやらここも皇家冒険団に協力する「外援」たちの居住区らしい。
目的地へ近づいたところで、アンダの耳に別の音が届いた。
一人きりの、澄んだ鋭い訓練音。
誰かが極度の集中状態で自らを鍛え、肉体の力を限界まで絞り出し、さらに一歩先へ進もうとしている音だ。
木造小屋の前にある空き地では、灰色の修道服や神官服をまとった数人が、それぞれの日課をこなしていた。
空の光神へ向かって小声で祈りを唱える者。経典をめくりながら呟く者。何度も神術を使い、その変化を確かめている者。
その中に、一人だけ明らかに異なる銀髪の女がいた。
全身を重鎧で包み、手には先端が尖り、胴の丸い巨大な合金製騎士槍を握っている。立てればアンダの身長とほとんど変わらないほど長く、普通の人間にとっては想像もできないほど重い武器だった。
突き、薙ぎ払い、打撃、突進、そして左右の手を入れ替えての攻撃。
息はすでに荒く、はっきり聞こえるほどになり、白い首筋には汗が滴っている。それでも女は動きを止めなかった。
さらにさまざまな技巧を組み込んで鍛錬を続け、そのたびに周囲には淡いエネルギーの光が散っていた。
他人の鍛錬を邪魔することは許されない。
まして相手が、称賛するに値する強者ならなおさらだ。
アンダは少し離れた場所に立ち、目を輝かせながら興味深そうにその姿を眺めていた。
近くにいた修道女や神官たちも女野蛮人の来訪には気づいていたが、不意の客へわざわざ声をかけようとはしなかった。
アンダに騒ぎを起こすつもりがないと分かると、それぞれ自分の日課へ戻っていく。
ここで努力しているのは、重鎧の女一人だけではなかった。
誰にも構われないことを、アンダもむしろ気に入った。その場に腰を下ろし、待つことにする。
鍛錬は単調で、退屈なものだった。
時間はゆっくりと流れ、空の光神の輝きも、焼けつくような強さから穏やかなものへと変わっていった。
それでもアンダは辛抱強く待っていた。途中からは相手の邪魔にならないよう、自分もいくつかの静的な技巧を鍛え始めた。
その間、重鎧の女は一度だけアンダへ目を向けただけで、そのまま鍛錬を続けた。
一人は動き、一人は静かに。
互いに妙な暗黙の了解を保ちながら鍛錬していた、そのときだった。
遠くから騒々しい声が聞こえてきた。
「光騎士に会わせろ! 不公平なことがあったんだ、裁いてもらいたい!」
「放せよ! これが無事に帰ってきた冒険者に対する態度か!」
「お前たちを訴えてやる!」
若い男の騒々しい声が、何度も同じような内容を繰り返している。
重鎧の女とアンダは同時に眉をひそめた。
ただし、その理由はまるで違っていた。
重鎧の女が一歩踏み出す。
手にしていた合金製騎士槍を、その勢いのまま宙へ放り投げた。
巨大な武器が激しく回転する音に、言い争っていた者たちの注意が一斉に引きつけられる。
誰もが呆然と、巨大な物体が空から落ちてくるのを見つめた。
「ドン!」
轟音とともに土煙が舞い上がり、その場にいた者たちを震撼させた。
合金製騎士槍が人々の前へ真っ直ぐ突き立っている。
まるで、何か神聖な宣告を示すかのように。
「ははは! 俺を邪魔する悪党ども、さっさと放せ!」
ジェットは興奮していた。
正義は必ず果たされる。
グリフィス兄さんが言っていた通りだ。ここまで来て騒ぎを起こし、声高に訴えれば、双子教会の光騎士が黙って見ているはずがない!
後勤組の巡回要員たちは、ジェットの言葉を聞くと、自分たちよりはるかに高い合金製騎士槍へ目を向けた。
結局、苦々しい顔で青年を放すしかなかった。
今回の失態について、彼らは後で処分を受けることになるだろう。
「求める者、光神の眼差しを求め、声を上げているのはあなたですか?」
澄んだ女の声が響いた。
「そう! 俺だ! 俺は……」
巡回要員を押し退け、ジェットは勢いよく訴え始めようとした。
だが、現れた人物を目にした瞬間、思わず言葉を失った。
女はすらりとした体つきをしていた。
全身を覆う重鎧も、彼女が身につければ重苦しくも窮屈にも見えない。むしろ神聖で威厳ある気配を際立たせ、人の心を圧するほどだった。
ジェットの視線が顔へ移ったところで、女は汗で張りついていた銀白の長髪をさっと払った。そのまま手早く高い位置で一つに束ねる。
白く美しい首筋と鎖骨が、大きく露わになった。
斜めに伸びる長い眉。
澄んだ金色の瞳。
細身ながら骨張ってはいない顔立ち。
清らかで美しい容貌は、詩人が後世まで歌い継ぐほどの絶世の美貌というわけではない。
それでも修行者特有の荘厳な雰囲気と合わさることで、不思議なほど人を惹きつけ、忘れがたい印象を残していた。
「求める者、何を望みますか」
人から見つめられることには慣れている。
ディアドラは声の調子を変えることなく、もう一度尋ねた。
「俺は……俺は……そうだ! 第三陣の探索隊の不正を告発したい! あいつらは功績を偽って報告して、それだけじゃなく、徒党を組んで俺を陥れ、傷つけて、さらに圧力までかけたんだ!」
一瞬ぼうっとしていたジェットだったが、ようやくここへ来た目的を口にした。
出発前、グリフィス兄さんから特に念を押されていた。
同じ帝国の一員なのだから、作戦部の偉い人たちについてはひとまず触れず、告発の対象を探索隊の構成員だけに絞ること。
そうすれば、成功する可能性が大きく上がるのだという!
「求める者、二日前に報告された攻略情報の内容に、問題があるということですか?」
その言葉を聞いた途端、近くにいた巡回要員たちの顔色が変わった。
一人が上官を呼びに走り、残った者たちは焦った様子で説明を始める。
「光騎士様、それはあり得ません! 探索組の責任者が情報を確認したうえで報告し、作戦部でも専門の者が何度も検証しています! 仲間の命が懸かっているのに、そんなことで嘘をつくはずがありません! こいつは騒ぎを起こしに来ただけです!」
迷宮城の情報に誤りがあれば、まもなく出発する攻略組は甚大な代償を払うことになる。
軽視することも、冗談で済ませることもできない問題だった。
正面から攻め込んだところで罠にはまれば、百人、場合によっては千人もの命が一瞬で失われることさえあり得る。
皇家冒険団は外部から常に軽く見られているとはいえ、さすがにそこまで初歩的な失敗を犯す組織ではない。
まして今回は、機嫌を損ねたくない外援まで参加している。
彼らはもう十分すぎるほど笑われていた。
だからこそ、丸顔の青年の告発は非常に重大だった。
皇家冒険団そのものを直接非難してはいないものの、この場にいる強力な外援たちに、皇家冒険団の能力そのものを疑わせるには十分だった。
「嘘をつくな! お前も共犯なんだろ! あいつらから何か受け取って、俺を陥れようとしてるんじゃないのか!」
ジェットは巡回要員の説明へ即座に言い返した。
もう後には引けない。
自分の中にある真実を、必ず公にしなければならない。
「ほう? それなら、どうやら私もお前の言う共犯者らしいな」
ジェットが再び巡回要員と言い争っていると、記憶にある巨大な影がその身体を覆った。
振り返る。
そこには、本来ここにいるはずのない恐ろしい女野蛮人が立っていた。
口元には笑みともつかないものを浮かべ、蔑むような目でジェットを見下ろしていた。




