18.愚かな助っ人
帝国辺境の野営地。
今日も光神は熱く、燦然と輝いていた。その光に照らされ、大地には緑が広がり、知性種族の営みも活気に満ちている。光の下を忙しく行き交う人々の姿が、その何よりの証だった。
「ああ……まったく。光神を讃えよ、か」
グリフィスは目を細めて空を見上げ、独り言のように呟いた。それから思わず笑い、首を横に振る。
「はは、この数日、あの光騎士に合わせていたら、もう癖になりそうだ」
大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。生命に満ちた美しい光景を感じながら、グリフィスは自分のために奔走する部下、駒、冒険者たちへ目を向け、心から満足していた。
貴族とは、本来こうあるべきなのだ。
ふと、遠くを歩いていく、小柄で淡い桃色の髪をした女冒険者が目に入った。
それを見て、ここ最近忙しくしていたグリフィスは思い出す。自分にはまだ一人、狙っている相手がいた。二日前、その女は無事に迷宮城から帰還したものの、彼女が頼りにしていた義兄は、不幸にも戻ってこなかった。
「本当に運がいい」
「この二日、資料を整理して作戦部へ報告するのに忙しくて、あの可愛い子のことを忘れていたな。老バダたちが無事に連れ帰ってくれたことに感謝しないと。きっと光神も、私の誠意に心を動かされたんだろう……」
グリフィスは、ちょうどいい具合の爽やかな笑みを浮かべた。
礼を失わず、それでいて人を惹きつける。その笑顔は、彼が念入りに考え、長く練習を重ねて作り上げた、どんな場面でも使える得意の表情だった。
準備を整えたグリフィスだったが、すぐにその可愛い子のもとへ向かうことはしなかった。途中で方向を変え、まずは一人の助っ人を探しに行く。
十分に愚かで、それでいて大いに役立つ助っ人を。
野営地にある個室の宿舎では、ジェットが怒りに任せて荷物をまとめていた。丸い顔は今にも湯気が出そうなほど真っ赤になり、不満をぶちまけるように大声で喚いている。
「くそっ! 責任も果たさない帝国の寄生虫どもめ!」
「全員、迷宮城で死ねばよかったんだ!!!」
「ちゃんと訴えを出したのに、なんで誰も取り合わないんだ! カルロは隊長としての責任を果たさなかった! 老バダは悪意を持って仲間を陥れた! アンダなんか俺を殴って怪我までさせた! なのに、どうして誰も正義のために立ち上がらない!」
「それに、いつも俺を馬鹿にしていたヴィンセント! 大した活躍もしてないくせに、作戦部はあいつの遺族へ世襲男爵位を与える申請まで認めたっていうのに、俺は基本報酬だけ!?」
「なんでだよ!!!」
口にすればするほど怒りは膨らんでいった。
ジェットは自分の荷物を手早くまとめると、バランドへ戻り、帝国法廷へ改めて訴えるつもりだった。さらに遊騎兵ギルドへ今回の一件をすべて話し、あいつらが二度と冒険者を続けられないようにしてやる。
必要なら両親に頼み、輪と足跡商会で知り合った人脈まで使ってもらうつもりだった。
荷物を背負い、野営地の門で定期輸送の獣車を待とうと振り返ったところで、扉の前に爽やかな笑顔を浮かべた男が、まるで頃合いを見計らったように現れた。
「グ……グリフィス兄さん!? やっと俺を訪ねてきてくれたんだ!」
救いの手が現れたと思い、丸顔の青年はたちまち喜びに沸いた。
愚かな助っ人が今にも立ち去ろうとしているのを見ても、グリフィスは表情を変えなかった。親しげに片手を振り、申し訳なさそうな笑みを浮かべる。
「ジェット。すまなかったね。君が素晴らしい働きをしてくれたおかげで、持ち帰った情報があまりにも重要だった。この二日は報告をまとめて作戦部へ提出するのに追われていてね。仕事が一段落してから、ようやく補佐官に君が急ぎで私を探していたと聞いたんだ。何かあったのかい?」
実際には、この二日あまりにも仕事が多かったため、ジェットの名を聞いた瞬間、補佐官へ取り次がないよう命じていた。
あの可愛い子を見かけて、ようやく思い出しただけである。
ようやく自分の働きを褒めてくれる者が現れ、ジェットは軽く咳払いして平静を装った。しかし口元に浮かぶ得意げな笑みだけは、どうしても隠せない。
「べ……別に大したことじゃないよ。隊の中では、誰かが勇気を出して責任を背負って、犠牲にならなきゃいけないからさ。俺以外、やろうとする奴がいなかっただけだよ」
グリフィスは拍手をして、同意と称賛を示した。
ジェットの気分がある程度落ち着いたのを見てから、今度はわざと驚いたような表情を浮かべる。
「もちろんだとも。ちょうど君には追加の褒賞を申請しようと……ん? ジェット、君……野営地を離れるつもりなのかい? 私は今、君の活躍を評価して、地下城第一層攻略の『随行案内資格』を申請しようと思っていたところなんだけどね」
第三陣の探索隊が持ち帰った手掛かりと情報によって、第一層の迷宮はほぼ解析されていた。作戦部も、食獣人と緑皮鬼を掃討しなければ先へ進めないことを把握しており、現在は具体的な攻略方法を検討している。
随行案内資格とは、攻略組の作戦へ同行し、現場の案内や助言を行う資格だった。実際に現地へ入ったことのない正規部隊にとって、その経験は大いに役立つ。アンダやカルロをはじめ、すでに何人かが選ばれていた。
一方、老バダは作戦部の探索顧問として直接雇われ、現在の臨時職級はグリフィスより上にまでなっている。
もっとも、グリフィスは特に嫉妬していなかった。
相手はただの老冒険者だ。いちいち張り合う必要もない。それに、第三陣の探索隊の成功が自分にも少なからぬ功績をもたらしたことは事実だった。
何人かの冒険者が今後も任務を続けるか考えている中、ただ一人、ひよっこのジェットだけは、当然のように候補から外されていた。
カルロの報告では、この丸顔の青年に対する探索中の評価が、あまりにも酷かったのだ。
もし本人が残るつもりなら、第四陣の探索隊へ参加する機会を待つことはできる。迷宮城がこの先何層まで続いているかは、まだ誰にも分からない。
道を探らせるための代わりはいくらいても困らないのだから。
つい先ほどまで褒められて舞い上がっていたところへ、立ち去ろうとしていることまで見抜かれ、ジェットは急に気まずそうな顔をした。口を何度か開きかけるものの、何を言えばいいのか分からない。
そんな愚かな助っ人の困り果てた顔を見て、グリフィスは親切にも話を本題へ導いてやることにした。
「そうだ。この話はひとまず置いておこう。ジェット、さっき急いで私を探していたのは何のためだったんだい? 私にできることなら、必ず力になるよ。光神にかけて」
「そうだ! そう……だった! ここに残ってグリフィス兄さんや帝国の役に立てるのは嬉しいけど、俺が出ていこうとしてるのには理由があるんだ!」
思い出したジェットは、たちまち表情を変え、再び歯噛みしながら怒りを露わにした。
「どうしたんだい? どうして私たち探索隊の英雄が、ここを離れようとしているんだ?」
怒りに包まれていたジェットは、逆にその問いを聞いてきょとんとする。
「グリフィス兄さん、補佐官から俺の訴えを受け取ってないの?」
グリフィスはわざとしばらく考える素振りを見せてから、ようやく思い出したように答えた。
「ああ! カルロ、老バダ、アンダ、ヴィンセントが功績を偽って報告したこと、それにほかの冒険者たちが結託して君を不当に扱ったことへの訴えだね?」
「そう! それだよ! グリフィス兄さん、ちゃんと見てくれてたんだ! 俺、バランドへ持って帰って、遊騎兵ギルドと帝国法廷へもう一度訴えようと思ってたんだ!」
その途方もない答えを聞き、完璧な表情管理を自負するグリフィスでさえ、危うく笑顔を崩しかけた。
まさかこの愚かな助っ人が、ここまで愚かだとは思っていなかった。
一体どんな教育を受ければ、こんな人間に育つのか理解できない。
怠け者、放蕩者、好き勝手に振る舞う者、何もせず遊び暮らす者。グリフィスはこれまで、さまざまな貴族を見てきた。
それでも、ここまで愚かな者は見たことがない。
まるで自分だけの世界で生きているようだった。世間を知らない小商人の家だからこそ、こんな人間が育ったのだろう。
実際にそんなことをすれば、ジェットという名も、その家族も、今後バランドで永遠に笑いものとなり、反面教師として語り継がれるだろう。
しかも、この馬鹿げた一件がグリフィスの率いていた探索隊で起きたと物好きたちに知られれば、自分の名まで一緒に広まってしまうかもしれない。
瞬く間にそこまで考えたグリフィスは、爽やかな笑顔をそのまま悲しげな苦笑へ変え、丸顔の青年の前で深く溜息をついた。
「グリフィス兄さん? どうしたの? 俺の訴えに何か問題があるの?」
本当は「全部だ」と大声で言ってやりたかった。
それでもグリフィスは苛立ちを押し込み、申し訳なさそうな顔を作る。
「はあ……実はこの二日、報告のほかに忙しくしていたのは、まさにこの件なんだ」
「じゃあ、いい知らせがあるの!? 作戦部が俺の言い分を認めてくれた?」
ジェットが興奮して尋ねる。
グリフィスは重々しく首を横に振り、困り果てた顔で答えた。
「君の話は、カルロが提出した報告とはほとんど正反対なんだ。私は君を信じているし、君のためにできる限り訴えている。だが……」
「だが、何!? グリフィス兄さん、最後まで言ってくれよ!」
ジェットにも結果が良くないことは分かった。気分は再び大きく沈んでいく。
グリフィスは一歩近づき、片手でジェットの肩を叩いて慰めた。
「私が君のために出した訴えは、すべて差し戻された。作戦部の言い分では、第三陣の探索隊は全員が君の告発を否定している。それに、彼らは君のことを……」
また途中で言葉を切られ、すでに焦りを抑えきれなくなっていたジェットは、とうとう大声で怒鳴った。
「俺が何だよ!? グリフィス兄さん、まとめて最後まで言ってくれよ!」
グリフィスは今度は両手を丸顔の青年の肩へ置き、今にも暴れ出しそうな身体を押さえながら、真剣な表情で言った。
「興奮するな。落ち着いて最後まで聞くんだ。彼らは……君こそ道中ずっと探索隊の足を引っ張っていた、迷宮城で死ぬべきだったのは君のほうだ、と言っている」
前半は、本当にカルロの報告に書かれていた評価だった。
だが後半は、グリフィスが相手を煽るため、意図的に付け足した言葉だった。
それを聞いた瞬間、ジェットの中に溜まっていた悔しさも、恨みも、一気に爆発した。
立ち上がり、今すぐ皆のところへ行って直接問い詰めようとする。
だが身体を動かした途端、両肩へ重い力がかかり、ジェットは身動きできなくなった。
「グリフィス兄さん! 放してくれ! あいつら、そこまで俺を陥れるのか! 俺は……俺は絶対に事実を明らかにしてやる! この世に公平も正義もないなんて、俺は信じない!」
愚かな助っ人がそう考えることなど、グリフィスには最初から分かっていた。
だからこそ、あらかじめ技巧「怪力」を使い、相手を押さえ込んでいたのだ。このまま外へ飛び出されれば、本当に面倒なことになる。
状況は、自分の望む方向へ進めなければならない。
グリフィスは丸顔の青年を無理やり室内唯一の椅子へ座らせた。念のためというように扉と窓のほうを確認してから、声を落とす。
「ジェット、まず落ち着くんだ。公平も正義も、もちろん存在する。ただ、作戦部の方々も……分かるだろう? この迷宮城の攻略はまだ始まったばかりだ。余計な問題を起こしたくないんだよ」
「それに老バダは名の知れた冒険者だ。彼を裁くことになれば、遊騎兵ギルドへの説明も難しい。ヴィンセントに至っては、帝国の従男爵だからね。だから……」
「でも! 俺は納得できないよ!」
悔しさのあまり、ジェットは今にも泣き出しそうだった。
本心から、間違っているのはほかの全員で、自分こそ正しいと思っている。
その姿を見て、グリフィスは心の中でますます楽しげに笑った。
これこそ、自分が求めていた「愚かな助っ人」だった。
「安心しろ。公平も正義も必ず存在する。たとえ今、帝国の目が一時的に曇っていたとしても、いつかそれを拭い、再び正しく見えるようにする者が現れる」
「そして、その人間は……君だと私は思っている」
「でも……でも俺の訴えは全部退けられたんだ。それともグリフィス兄さん、俺と一緒にバランドまで行って証言してくれるの?」
話しているうちに、ジェットの目はどんどん輝き始めた。
とんでもなく素晴らしい考えだと思ったらしい。
グリフィスの頬が、またわずかに引きつった。
もう少し直接的に言うことにした。
そうしなければ、自分のほうが先に剣を抜いて、この厄介者を斬り殺したくなりそうだった。
「ジェット。よく聞くんだ。君は、双子教会の『光騎士』を知っているか?」
「ちょうど今、この野営地にも一人、光騎士が支援に来ている……」




