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15.野蛮人

 最後の蛍光砂時計の砂が落ちきった。この先は進むにせよ退くにせよ、もうここに留まることはない。


 今回の休息では、老バダは時間を厳密に区切らなかった。探索隊全員に十分な休息を取らせたうえで、後衛全員に重すぎる荷物を捨てさせ、必要な食料と水だけを一人分ずつ持たせる。


 その命令だけで、老バダが今回の探索成果をあまり楽観視していないことは分かった。余計な荷物が必要なくなるのは最後の一日だけだからだ。


 死ぬか、生きるか。


 今日、彼らは前線拠点へ撤退することになるかもしれない。


 隊列も改めて組み直された。余分な荷物を背負う必要がなくなったため、後衛六人のうち三人は通過する各分岐の警戒を担当し、残る三人はカルロが負傷しているため、弓使いたちの護衛へ回された。


 準備を整え、探索隊は再び出発した。すでに何度も通った分岐の方向へ進んでいく。


 漆黒の闇に沈む、曲がりくねった通路。誰一人として声を発さず、呼吸の音さえほとんど聞こえない。


 丸顔の青年でさえ重く張り詰めた空気を感じ取り、隊から離れないようぴったりとついて歩いていた。周囲で聞こえるのは、ときおり吹き抜ける冷たい風の音だけ。松明の炎がそのたびに明るくなったり暗くなったりと揺れ、まるで一行の揺れ動く心境を映しているかのようだった。


 これまでの経路を辿りながら、老バダは注意深く地面を確認した。昨日倒した食獣人の死体はすべて残っており、動かされた形跡もない。


 これはいい兆候だった。


 食獣人の集団はそれほど統制されておらず、数も多くない可能性がある。そうであれば、巡回経路同士の隙間も大きくなり、探索任務はかなり楽になる。


 そのまま進み続ける中、探索隊はさらに何組かの食獣人と遭遇した。だが、すでに連携に慣れた一行は手早くすべてを斬り伏せ、探索範囲を着実に広げていく。


 奥へ進む速度が上がるにつれ、追加報酬への期待も膨らみ、冒険者たちの気分は次第に明るくなっていった。


 だが、老バダだけは進めば進むほど眉間の皺を深くしていた。


 何かがおかしい。


 何かを見落としている気がする。


 だが年老いた頭は、昔のように簡単には答えを閃かせてくれなかった。


 疑念を抱えたまま考え続ける中、探索隊はこれまでにない場所まで進み、やがて見知らぬ大きな分岐へ辿り着いた。


 自分たちが歩いてきた通路を含め、道は全部で五つある。


「食獣人は肉を好む。仲間の死体でさえ奪い合って食う……だが、ここまでの死体は確かに全部残っていた。食い荒らされた跡もない。なら問題はないはずだ。俺は何を見落とした……」


 隊列の中央で、老バダは低い声で何度も呟いていた。胸の奥にある危険の予感はますます強くなり、もはや無視できるものではなくなっている。


「二、三体一組の巡回……死体……食獣人……」


 一行は足を止め、老バダがどの道を選ぶのか待っていた。だが、彼が考え込んでいるのを見て、とりあえずその場で休むことにする。


 何かと質問するのが好きなミユナは老バダのそばに立ち、左手で弓をしっかり握り、右手の指を軽く弦へ掛けていた。いつでも戦える姿勢は崩していない。


 有名な冒険者が繰り返す独り言が偶然耳に入り、少し考えた後、何気なく口にした。


「私たちが地下城へ入った初日に倒した、あの二体の食獣人……死体、なくなってなかった?」


 深い皺に囲まれた老バダの目が大きく見開かれた!


 何かに気づいたように表情を一変させ、すぐさま低く叫ぶ。


「全員撤退! 急げ! ここを離れるぞ!」


 老冒険者がなぜ突然態度を変えたのかは分からない。だが、こんな状況で疑問を挟む者はいなかった。


 カルロも惜しいとは思ったが、反論はしない。任務と命のどちらが重いかくらいは分かっていた。


 探索隊は即座に陣形を変更した。前後を入れ替え、複数の道が交わる大きな分岐から急いで引き返す。


 元の道を進んで間もなく、一行は老バダが何を警戒していたのか理解した。


 最初に伝わってきたのは、遠くから届く微かな地面の震えだった。


 小さなものだが、はっきりと感じ取れる。


 アンダがすぐさま探索隊を制止した。


 その直後、最前方から悲鳴が上がった!


 誰もが知っている声だった。この数日間、共に行動してきた斥候――バブキの声だ。


 ほどなくして、もう一人の斥候ドールが松明を手に逃げ戻ってくる。


 全身には赤い血と肉片がこびりついていた。


 人間の血と肉だった。


 顔は恐怖に染まりきっている。


「バブキが死んだ! とんでもなくでかい食獣人が一体いる! それに、数も分からないくらい大勢の食獣人がいる!」


 探索隊に動揺が広がる時間さえ与えず、老バダは即座に決断した。


「反転する! さっきの大きな分岐まで戻るぞ!」


 すでに敵に見つかった以上、動きを隠す意味はない。冒険者たちは一斉に全力で走った。


 しかし大きな分岐まで戻ったところで、さらに絶望的な光景が待ち受けていた。


 手にした松明の光が周囲を照らす。


 残る四本の通路。


 そのすべてから、一体、また一体と食獣人が暗闇の中から姿を現していた。


 先頭を歩く一体は、明らかに異質だった。


 体格はほかの食獣人の二倍はある。膝から下だけでも、人間一人より太く大きい。身につけているのは粗末な白骨の鎧で、武器すら持っていなかった。


 それでも、その常軌を逸した巨体だけで、冒険者たちを絶望させるには十分だった。


「上位食獣人……しかも二体も……」


 危機を前に、多くの冒険者が恐怖で身体を震わせ始める。ジェットに至っては完全に腰を抜かし、その場へ座り込んでいた。


 ただ一人、老バダだけは思考を止めていない。


 どうすればこの窮地を脱出できるのか。


 頭の中で猛烈な勢いで考え続けていた。


「アンダ!」


 突然、老バダが女野蛮人を呼び、自分たちが入ってきた通路を指し示した。


 意図を理解したアンダは、目の前の絶望的な状況を前にして――むしろ長いあいだ自分を縛っていたものから、ようやく解放されたように笑った。


 身につけていた不要な物を投げ捨て、軽く身体を動かして筋肉をほぐす。そして背中から合金製の大槌を下ろし、両手で握った。


 顔には、抑えきれない興奮が浮かんでいた。


「何日も我慢したんだ。やっと思いっきり戦える!」


 アンダは、この数日を共にした仲間たちへ振り返った。


 戦いを前に血が沸き上がり、肌が次第に赤みを帯びていく。鋭い眼差しで一人ずつ見渡し、戦吼にも似た力強い声を響かせた!


「死にたくなきゃついてきな! 私が道をこじ開ける! 老バダ……あんたは自分で機を見て動きな!」


 老冒険者は頷いた。


 年老いた自分が地下城で不測の事態に見舞われれば、生還率はあのひよっこ青年より高くはないだろう。


 もっとも、前方にいる一体を突破するだけならまだ何とかなる。何しろアンダがいる。


 問題は、その次の役目を誰に任せるかだった。


 老バダは残っている冒険者たちを素早く見渡し、最後に、いつも寡黙な男へ声を掛ける。


「ヴィンセント。アンダは道を開けなきゃならない。後ろで二体目の上位食獣人を食い止める奴が必要だ……」


「分かった」


 それ以上何も言わず、ヴィンセントは遠慮なくファングの手から大盾を奪い取ると、それを背中へ背負った。同時に、自分の左手でもう一枚の大盾を高く構え、右手には長剣を握る。


 そのまま振り返り、他の冒険者たちに背を向けて隊列の後方へ歩いていった。


 突然盾を奪われたファングは、腹立たしくもあり、ありがたくもあった。


 腹が立つのは、ほかにも盾持ちが二人いるのに、よりによって自分の装備を持っていかれたからだ。


 ありがたいのは、大盾を失って長剣一本だけになった自分では、もう殿に残ることができないからだった。


 アカヤとベリ、二人の盾持ちは互いに顔を見合わせた。


 老バダから名指しされたわけではない。だが、自分たちの役目は分かっている。


 二人は黙ってヴィンセントの後ろについていった。三人の盾持ちは三角形を作り、次第に包囲を狭めてくる食獣人たちへ慎重に向き合う。


 食獣人の数はますます増えていった。


 だが二体の上位食獣人は、すぐに攻撃を仕掛けようとはしない。


 目の前の獲物が怯え、恐怖する様子を楽しんでいるのか、醜い豚頭の獣顔には、人間めいた残忍な笑みさえ浮かんでいた。


 老バダはそれを見ても慌てなかった。


 落ち着いて指示を出し続け、全員をアンダの後ろへ密着させる。探索隊全体がゆっくりと来た道へ後退しながら、正面にいる一体の上位食獣人へ向かっていった。


 残る十六人が逃げ出せるかどうか。


 すべては女野蛮人の実力にかかっていた。


 敵と味方がゆっくりと距離を詰めていく。


 そしてアンダがついに上位食獣人の攻撃範囲へ踏み込んだ瞬間――戦い慣れた彼女が先手を奪い、一歩早く戦吼を上げた!


 野蛮人族独自の技巧。


 エネルギーを蓄えて体内で反響させ、強靭な肉体そのものを共鳴させることで増幅する。アンダの口から、凄まじい無形の音波が炸裂した!


 制御された一方向への震波は、恐るべき威力を持っていた。


 両側の石壁が瞬時に激しく揺れ、上位食獣人を除く食獣人たちは一斉に眩暈と不快感に襲われ、足取りをふらつかせる。


 実際に傷を負ったわけではない。


 だが、侵入してきた獲物をじっくり弄ぼうとしていた上位食獣人は、自らの威厳を挑発されたと感じたのか、同じように大きな咆哮を返した。


 戦いが始まった!


 先頭のアンダが走り出し、雄叫びを上げながら上位食獣人へ突っ込む!


 両者が急速に接近し、まさにぶつかろうとした瞬間、女野蛮人は両手で合金製の大槌を強く握り締めた。


 地面を強く蹴り、技巧「突進」を発動する。


 その身体は不思議なほど二段階に速度を変え、一気に上位食獣人へ激突するように迫った!


 だが、互いの身体がぶつかる寸前。


 アンダは脚を高く上げ、地面へ強く踏み下ろして急停止した。


 同時に技巧「力溜め」を発動し、突進によって蓄積されたエネルギーをすべて合金製の大槌へ集中させる!


 その時、上位食獣人も斜め前へ踏み込み、戦闘のリズムを崩そうとしていた。


 巨大な拳を握り締め、後から動いたにもかかわらず、先に獲物へ届かせようと重い一撃を放つ!


 合金製の大槌を振るうより先に殴り殺される――そう見えた瞬間。


 アンダの全身が一気に真っ赤に染まり、筋肉が張り裂けんばかりに膨れ上がった。灼けるような血気がかすかに立ち昇る。


 そして三つ目の技巧「爆発」を発動!


 技巧「突進」、「力溜め」、「爆発」。


 三つの技巧を重ねた複合使用によって、後から動いた合金製の大槌が先に、迫り来る巨大な拳へ叩きつけられた!


「ドン!」


 金属と血肉が激突する凄まじい炸裂音が通路に響き渡り、目に見えない力の波が両者を数歩ずつ後退させる。


 上位食獣人は強靭な肉体を持っていたが、この猛烈な正面衝突では無傷では済まなかった。


 拳の皮膚が裂けて血が流れ、指の骨まで折れて歪んでいる!


 まだ息を整える間もない。


 恐るべき合金製の大槌が、再び迫った!


 戦いが始まる前から、アンダは自分の足を止めるわけにはいかないと分かっていた。


 食獣人たちに完全に包囲されれば、後ろの仲間はもちろん、彼女自身でさえ、ここで力尽きて死ぬ可能性がある。


 だから最初から、止まるつもりなどなかった!


 先ほどの衝突で受けた衝撃と痛みは、むしろ野蛮人の血をさらに滾らせる!


 アンダは唇の端から流れる血を無視した。


 野蛮人が極めて強靭な肉体を持つからこそ使える独自の技巧――技巧「怒りの連撃」!


 高温の血は燃えやすい薪のように、怒りの炎に点けられ、激しい力へと変わる。


 合金製の大槌はアンダの手の中で、まるで重さを失ったかのようだった。


 激しい雨粒のような連続攻撃が次々と繰り出され、目で追うことすらできない速さで、そのすべてが上位食獣人へ叩き込まれる!


「ドン! ドン! ドン!」


 重い衝撃音が絶え間なく響き、大地までも震わせた。


 その凄まじい威勢に、敵も味方も近づくことさえできない!


 女野蛮人の猛攻を受け、上位食獣人は骨を砕かれ、腕を折られ、血を四方へ撒き散らした。


 胸骨にははっきりと分かるほどの陥没が生じ、目、耳、鼻、口からは衝撃のたびに血が噴き出す。苦痛に満ちた咆哮が絶え間なく響き続けた。


 連撃に耐えきれず何歩も後退し、立て続けに重傷を負った上位食獣人は、ついに足から力が抜けた。


 そのまま後ろへ倒れ込み、地面を転がる!


 重傷を負った上位食獣人は慌てて命令を発し、配下に前へ出て敵の足を止めさせようとした。


 同時に、一気に爆発させた勢いだけで上位食獣人を倒したアンダも、わずかに動きを鈍らせていた。


 両手で大槌を握り、凶悪な眼差しで周囲を見回す。


 短時間に酷使された強靭な全身からは、細い血が絶えず噴き出していた。


 後方の仲間たちは、包囲してきた食獣人によって彼女から切り離されている。女野蛮人だけが、最前線に取り残されていた。


 だが急速に突っ込んだ結果、包囲されたこの状況こそ、彼女が想定していた中では最良だった。


 野蛮人らしい戦いの笑みを浮かべ、アンダが再び戦吼を上げる!


 両手を合金製の大槌の柄の末端まで引き下げる。


 次の瞬間、身体ごと激しい竜巻のように回転し始めた!


 全身から大量の赤い血気が浮かび上がる。


 制御されたエネルギーが、周囲を引き寄せる力を持つ破壊の旋風となって前進する!


 地上を進む巨大な渦。


 残酷で暴力的な、肉を挽き潰す巨大な挽き臼。


 多くの食獣人は恐怖の絶叫を上げながら、次々とその竜巻へ巻き込まれていった。


 一撃で一掃!


 アンダが回転しながら足を進めるたび、合金製の大槌が通った場所には、何一つ立ちはだかるものが残らない!


 破壊の旋風へ引き込まれた食獣人は、例外なく骨まで砕かれ、血肉を四方へ飛び散らせた。


 通路全体が一瞬にして大量の濁った生臭い血で染まり、その量は地面を流れて川を作るほどだった!


 敵味方を問わず、その場にいたすべての者が息を呑んだ!


 後方にいた食獣人たちは、ついに恐怖を覚え始める。


 上位食獣人が怒り狂って何度も咆哮しても、包囲の陣形は次第に乱れていった。


 戦況を一瞬も見逃さず見ていた老バダの目が光った。


 すぐさま大声で叫ぶ!


「行け! 今だ!」

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