14.食獣人
蛍光砂時計が再び落ちきった。十分に休息を取ったはずの冒険者たちは、楽になるどころか、むしろ以前より疲れていた。精神的にも、肉体的にも同じだった。
一つには、迷宮城の暗く冷え切った環境が知性種族には適応しづらいこと。そしてもう一つは、老バダがいまだに方法を思いつけずにいることだった。
「じゃあ……今回の探索は、これで終わりにするのか?」
カルロが眉をわずかに寄せて尋ねた。
成果は悪くない。だが、豊富と呼べるほどでもなかった。先ほどは自分から撤退を提案したカルロだったが、心のどこかではまだ、この老冒険者に期待していた。
しばらく考え込んだ後、老バダが答えた。
「ここまで来ると、緑皮鬼の巣とその周辺にある居住地の数、それに密集具合は、もうこの隊で対処できる範囲を超えている。これで帰る気がないなら、第二層へ通じる別の道を探してみることはできる」
「まだあるの? 別の道が?」
ミユナが興味深そうに尋ねる。
老バダは頷いた。
「この階層にいる邪悪体の分布から考えれば、おそらくある。場所はたぶん、食獣人のいる方向だ」
そこまで話したところで一度言葉を切り、鋭い目で一同を見回した。
「先に言っておく。食獣人は戦闘能力にしても生活習性にしても、痕跡を隠したい探索隊にとって都合のいい相手じゃない。知能も緑皮鬼より多少高い。それなりの危険はある」
だからこそ、先ほど老バダも緑皮鬼のいる方向から進むことに同意していた。
その真剣な警告を聞き、冒険者たちは考え込んだ。命に関わる話だ。前の二陣の探索隊のように、ほとんど壊滅するような目には遭いたくない。
ただ、ジェットだけは相変わらず嫌悪を露わにし、まるで信じていない顔をしていた。
もっとも、昨日石をぶつけられて気絶した教訓がある。今度は迂闊に声を出す勇気もなく、心の中で悪態をつくだけに留めていた。
そう考えるほど、丸顔の青年がこの探索隊へ抱く恨みは深まっていく。中でも老バダ、アンダ、ヴィンセントの三人に対しては特に強かった。
自分を陥れた。
自分を傷つけた。
自分を見下した!
探索が終わったら、必ずグリフィス兄さんに頼んで訴えてもらおう。この忌々しい最低の冒険者どもを全員、帝国法廷で裁かせ、この任務で受けた不公平の代償を払わせてやる!
ただ、ヴィンセントのことを考えると、ジェットも少し困ってしまう。
何しろ相手はドロシーの義兄だ。この隊の中で、本当に善良なのはあの天使だけなのだから。
昨日、痛みで目を覚ました後も、その天使が親切に治療し、事情を説明してくれた。そのおかげでようやく、自分を密かに傷つけたのがアンダだったと分かったのだ!
隊が考え込んでいた時間は、そう長くなかった。
これまでの連携がうまくいっていたうえ、探索を始めてまだ二、三日しか経っていない。当初の予定は十日から十五日ほどだった。今の段階で帰れば、皇家冒険団にも説明がつきにくい。
最終的に、投票では撤退より探索続行を支持する者が上回った。
今度は食獣人のいる方向へ向かうことになる。
冒険者が冒険者と呼ばれるのは、彼らが冒険を選んだからだ。
残してきた目印を辿り、一行は以前通った道を引き返していく。
すでに道中の邪悪体は掃討してあるため、今回は進む速度も速かった。通路は相変わらず複雑に入り組み、途中には食獣人のいる方向へ通じていそうな別の入口もいくつか見つかったが、老バダの強い要求で、さらに半日をかけて最初の分岐路まで戻った。
数日かけて苦労して進んだというのに、また振り出しからやり直しだ。
隊の空気が多少沈むのも無理はなかった。だが、探索任務とは本来こういう退屈で面倒なものでもある。
それに皆も分かっていた。
老バダがいるからこそ、これでもずいぶん時間を省けているのだ。
今回は軽く休んだだけで、探索隊はすぐに再出発した。
そして食獣人の縄張りへ入ってから、さほど進まないうちに――老バダが「危険がある」と言った意味を、全員が思い知らされることになった。
斥候が先を探り、老バダが計画を立て、隊全体で連携して戦う。
そんなやり方に慣れ始めていた探索隊が進んでいる最中、何の前触れもなく奇襲を受けた。
三体の食獣人が突然、分岐した通路の一つから現れ、そのまま隊列の中央へ突っ込んできたのだ。
老バダが即座に警告を発し、アンダとヴィンセントもすぐに援護へ入ったものの、カルロとビセはそれぞれ重傷と軽傷を負った。
食獣人は緑皮鬼と違い、決まった縄張りを巡回する習性がない。どちらかといえば不規則に移動するため、一度調べ終えた道であっても安全ではなかった。
老バダが何度も注意していたとはいえ、迷宮城の中では、長年暗闇で暮らしてきた種族のほうがあまりにも多くの優位を持っている。
カルロは肩の半分がほとんど使い物にならなくなっていた。
三人の弓使いを食獣人の奇襲から守るため、棘の生えた棍棒の一撃を真正面から受けたのだ。
そのため探索隊は、またしても最初の分岐路まで引き返すことになった。
見張りを配置すると、老バダは今日の探索をここまでとすると宣言した。
ドロシーが二人の負傷者へ治療の神術を施す。
ビセは軽い捻挫だけで、翌日には回復できそうだった。だがカルロの傷は、とりあえず悪化を抑えることしかできない。外へ出てから改めて神官か医者に診てもらう必要があった。
隊の士気が落ちているのを感じた老バダは、改めて皆に探索を続ける意思があるか尋ねた。
今度は、もう終わりにしたいと考える冒険者も何人かいた。
今の成果では、老バダとアンダ以外が良い追加報酬を得るのは難しい。だが基本の賞金だけなら、すでに十分な額になるはずだった。
ところが意外にも、最も重い傷を負ったカルロが探索続行を支持した。
どうやら彼にも、自分なりに求めているものがあるらしい。
名目上の隊長であるカルロの提案もあり、最終的に冒険者たちはもう一度だけ試すことに決めた。
さらに蛍光砂時計一つ分の時間が過ぎる。
探索隊は先ほどよりも慎重な態勢を取り、二度目の探索へ向かった。
今度はかなり順調に進んだ。
途中で三組の食獣人と遭遇したものの、いずれも探索隊が先に相手の動きを発見できた。アンダを先頭にした強襲で素早く仕留めていく。
ただし、緑皮鬼の居住地のような石洞は一つも見つからなかった。
「今出会っているのは、どれも二、三体で巡回している食獣人だ。外をうろついている散兵程度にすぎない。この邪悪体は、大きな群れでまとまって暮らす。緑皮鬼みたいにあちこちへ分散して住むことはない。今のところ、まだ全体の規模は判断できん。全員、絶対に油断するな」
老バダの警告が何度も頭の中に蘇り、冒険者たちは神経を研ぎ澄ませていた。周囲のわずかな異変さえ見逃すまいと注意を払う。
口だけは強気だった丸顔の青年でさえ、先ほどの大柄で屈強な食獣人の突撃には肝を冷やしていた。緑皮鬼を一体倒した程度の自惚れなどすっかり消え、今では大人しく言われた通りにしている。
だが、以前にも増して神経を集中させ続ける行軍は、すぐに隊全体を疲れさせた。
後衛からは次第についていけない者が出始める。しかも、この辺りには安心して休める場所もない。
探索隊は三度目となる、最初の分岐路への撤退を余儀なくされた。
また一日が終わろうとしている。
老バダは蛍光砂時計を手に、しばらく考えた末、改めて重々しく口を開いた。
「カルロ。探索はここまでにしたほうがいいと俺は思う。食獣人は緑皮鬼とは違う。仲間の死体を見つければ、巡回はもっと厳しくなる。もし上位食獣人までいるなら……さらにまずい。この隊の戦力と編成じゃ、ここから出られなくなる可能性がある」
身体の半分近くを包帯で巻かれ、ところどころに血まで滲んでいる。
状態の悪いカルロはその言葉を聞くと、失血で青ざめた顔に葛藤を浮かべた。
だが、今のところ探索自体はまだ順調だった。
先ほどのように、これ以上進めば必ず緑皮鬼の巣へぶつかるという状況でもない。
最後には、苦しそうに言葉を絞り出した。
「もう一度……もう一度だけ、探索させてくれ」
外で作った賭けの借金のせいで、カルロは命を張らなければならなかった。
だからこそ探索隊へ参加したのだ。
ここで賭けに出て豊富な追加報酬さえ手に入れば、生き延びる道が開ける。それどころか、いくらか金を残して、まともな暮らしを送ることさえできる。
逆に賭けなければ、次もまた同じような任務へ参加するしかない。
しかもその時、またこの伝説の冒険者と同じ隊になれる保証などどこにもなかった。
これほど大したことのない探索隊を率いながら、実績によって「伝説の冒険者」の名に恥じないことを示した老バダだ。作戦部も今後、必ず彼を重用するはずだった!
老バダは探索を続けたいという要求に何も言わず、ただ険しい顔で、目の前の自分からすればまだ若い中年男を見つめていた。
その顔に浮かんでいる表情を、老バダはよく知っている。
賭博師が、すべてを賭けた時の顔だった。
他の冒険者たちも、何かがおかしいと感じ始めていた。
任務の難易度は、すでにかなり上がっている。
だが、誰かが撤退への賛成を口にしようとした時、カルロが先に声を上げた。
「みんな! もう一度だけだ。あと一度探索するだけでいい! ここまで隊がやってきたことは、皇家冒険団だってきっと評価してくれる。考えてみろ。俺たちはもう、第一層の迷宮をだいたい把握できてるんだぞ!」
「あと少し頑張れば、第一層を突破する方法だって見つけられるかもしれない!」
「安心してくれ。その時は俺が必ず、みんなの追加報酬を掛け合ってやる!」
「帝国は昔から気前がいい! 絶対に満足できるだけのものを出してくれる!」
追加報酬。
その言葉を聞いた途端、冒険者たちの欲が疼いた。
しばらく迷った末、最後には誰も反対の声を上げなくなった。
その様子を見て、老バダは皺だらけの顔をさらに険しくする。
そして女野蛮人へ顔を向けた。
「アンダ。お前はどう思う?」
「どっちでもいい」
この隊がいなくても、女野蛮人はこの階層の迷宮で一人きりでも生き延びられるほど強かった。
攻略組がまだ正式に動き始めておらず、外から来た見知らぬ者を受け入れていないから、彼女はここにいる。本来なら、そちらへ回されていてもおかしくなかった。
今の探索隊は、編成そのものがあまりにも弱い。
そのせいで、アンダも実力を十分に発揮できずにいた。
もう一人、判断に大きく関わるアンダまでそう言うのを見て、老バダも仕方なく答えた。
「分かった。だが明日の探索は、状況がどうであろうと、俺が撤退すべきだと判断したら全員無条件で従え」
「いいな、カルロ?」
失血がひどく、今にも意識を失いそうな中年男は、どうにか笑みを作った。
「もちろんだ」




