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12.作戦

 大盾を正面に構え、通路の両側に広がる闇を絶えず見回しながら、アカヤが少し心配そうに問いかけた。


「ヴィンセント、もう動く?」


 いつも無口なこの冒険者に不満があるわけではないし、老バダが彼を選んだのにも理由があるのだろう。だが、隊の中でいつまでも誰も言葉を交わさないままというわけにもいかず、仕方なく彼女から口を開いた。


 少し前、追撃に出ていた三十体あまりの緑皮鬼が小型居住地へ戻っていくのを、彼らはすでに確認していた。時間を考えれば、知らせを受けた老バダたちもとっくに伏撃の準備を終えているはずだ。そして今のところ、こちらには食獣人も一体として現れていない。


 作戦は極めて順調に進んでいた。


 実のところ、この計画で最も危険なのはひよっこのジェットではなく、ここに残った五人だった。


 食獣人が最悪のタイミングで現れれば、小型居住地を離れた緑皮鬼の部隊まで呼び戻し、前後から挟まれる可能性がある。だからこそ老バダは三人の盾持ちに加え、わざわざ二人の後衛までこちらへ回していた。


 五人がしばらく持ちこたえさえすれば、アンダたちもすぐに援護へ駆けつけられる。ただし、そうなれば戦闘後はいったん地上城まで退き、迷宮城の守衛の警戒が解けるのを待ってから再び降りてくる必要がある。探索任務の進行は大幅に遅れることになるだろう。


 闇の中で、ヴィンセントは相変わらず何も言わなかった。だが両目には淡いエネルギーの光が宿り、周囲のあらゆる変化を観察し続けている。


 しばらくして、ようやく返事が返ってきた。


「出発する」


「ファング。ジェットの様子を見てこい。連れ戻せそうなら連れてこい」


 珍しく、普段は寡黙な彼が続けて何句も口にした。


 名を呼ばれたファングは、内心では少し不満だった。先ほどの戦いでアンダの援護に一歩遅れたことをまだ気にしており、挟撃の時にもう一度ヴィンセントと張り合おうと思っていたのだ。それがまさか、新人一人を迎えに行かされるとは思わなかった。


 とはいえ、不満はあっても口には出さない。迷宮城の中では、明らかに自分の身を危険にさらす命令でもない限り、あるいは単独行動ができるほどの強者でもない限り、隊や仲間との関係を悪くしたい者などいなかった。


 もちろん、人を死なせかねないうえに状況も理解できていない新人は別だ。


 不満そうに立ち去るファングを見送ると、ヴィンセントも残る三人を連れ、反対側の石洞の入口へ向かった。緑皮鬼の部隊の後方を慎重に追っていく。


 四人は丸顔の青年のような素人ではない。緑皮鬼へ近づくにつれ、それぞれ技巧を使って匂い、姿、音を隠していく。斥候や殺し屋、盗賊のように完全に存在を消せるわけではないが、この程度のありふれた邪悪体を相手にするなら十分だった。


 先頭を進むヴィンセントは、左手で大盾を正面に構え、右手の長剣をその上へ軽く添えている。技巧「気配抑制」と「身軽」を組み合わせ、ほとんど物音を立てることなく巧みに後を追っていた。呼吸の音すらほとんど聞こえない。


 後ろを歩く三人もその姿を見ていた。比較的経験が浅く、後衛へ回されたウヘとルルディはもちろん、盾持ちのアカヤも内心では感心していた。普段から前衛で戦う彼女が、潜行に使える技巧は「身軽」くらいしかない。


 技巧は何度も繰り返し鍛錬し、使い慣れていかなければならない。習熟すれば効果が増すだけでなく、体力の消耗も減らせる。たとえ天賦を持つ者であっても、長い時間をかけた練習は必要だった。


 だから一般的な冒険者は、自分が普段担当する役割に関係する技巧を中心に身につける。それを複数同時に扱うとなれば、なおさら難しい。


 それなのにヴィンセントは、まるで苦もなく使っている。以前にはアンダの速度についていくことさえできた。加速や突進の類いの技巧も身につけているのだろう。普段から相当厳しい鍛錬を積んでいるに違いなかった。


 強い。落ち着いている。そして頼りになる。


 こういう仲間ほど、一緒にいて安心できる。


 アカヤはふと、最初にアンダが彼へ下した評価を思い出した。やはり野蛮人の戦いに関する直感は恐ろしく正確だ。


 前方では、三十体あまりの緑皮鬼が追撃する相手を見失い、すぐに興味を失って小型居住地へ戻り始めていた。


 そして、緑皮鬼の群れが入口を通過し、ちょうど半数ほどが中へ入った瞬間――老バダたちの伏撃が始まった!


 最初に飛んだのは、突然放たれた三本の鋭い矢だった。


 三体の緑皮鬼の頭を正確に貫く!


 残った緑皮鬼たちは異変に気づき、自分たちの縄張りへ侵入されたことに怒り、「ギャアッ!」と甲高い声を上げながら、一斉に待ち伏せしていた弓使いたちへ襲いかかる。


 だが、まだ半分も進まないうちに、傍らに積み上げられていた骨や雑物の中から、待ち伏せしていた五人の戦士が一気に飛び出した!


 カルロや老バダたちが刃を振るうたび、ほぼ一撃で一つの命が消えていく。邪悪体の中でも弱い部類に入る緑皮鬼を奇襲することなど難しくなく、瞬く間に数体が斬り殺された。


 だが後方には、まだ二十体近い緑皮鬼が残っていた。


 仲間が襲われているのを見た奴らは怒り狂い、速度を上げて石洞の中へ駆け込み、援護しようとする。


 その誰も気づいていなかった。


 石洞の入口、その上方の闇に、一つの大きな影が潜んでいることに!


 アンダは凄まじい指の力だけで石壁の亀裂へ指を食い込ませ、爬虫類のように身体を天井へ張りつけていた。


 すべては、この絶好の瞬間を待つためだった!


 上から落ちる!


 恐るべき力が頭上から圧しかかり、数体の緑皮鬼が一瞬で押し潰された!


 それにもかかわらず、驚くほど大きな振動も音も起きなかった。先頭を走っていた緑皮鬼など、後ろで仲間が死んだことにさえ気づいていない。


 アンダの力の制御は、細やかという言葉では足りないほど恐ろしいものだった。


 十数体の緑皮鬼の背後へ降り立った女野蛮人は、すでに全身を肉片と血で汚していた。だが本人はまるで気にもせず笑みを浮かべる。


 大きな身体が影のように緑皮鬼たちを覆った。


 背中の合金製の大槌すら使わず、両手の棘付きの拳甲だけで突撃を始める。彼女が通った場所には、肉泥しか残らなかった!


 ここでようやく、緑皮鬼たちは背後にも恐ろしい死神がいたことに気づいた。


 すでに群れの半数以上が死傷している。何体もの緑皮鬼が散り散りになって逃げ始め、死んだ仲間の血肉に紛れて女野蛮人の横をすり抜け、来た道へ引き返そうとする。


 だが洞口から飛び出した瞬間、二枚の大盾が正面から叩きつけられた!


 強烈な衝突に押し返され、緑皮鬼たちはまとめて小型居住地の中へ戻される。


 さらに二枚の大盾の隙間からは、二本の長剣が時折突き出され、逃げようとする緑皮鬼を次々と傷つけていった。これでは外へ出ることすら難しい。


「いい男、ちょうどいいところに来たな」


 一言声をかけ、アンダは背中の合金製の大槌を取り外した。


 一体ずつ逃げ回る弱い邪悪体を始末することに、もう飽きていた。


 女野蛮人の全身から赤い血気が立ち昇る。両手で大槌を握り、横薙ぎに振り回すと、巨大な金属製の槌頭が円を描き続けた。石洞の中に強烈な旋風が巻き起こり、そのまま強烈な薙ぎ払いへと変わる!


 一撃目。


 三体の緑皮鬼が血肉の飛沫となって弾け飛んだ。


 二撃目。


 五体の緑皮鬼がようやく反応し、骨製の棍棒を身体の前へ構えた。だが武器ごと吹き飛ばされ、そのまま石壁へ叩きつけられる!


 全身の骨を砕かれ、目や耳、鼻、口から血を噴き、その衝撃で絶命した!


 最後に残った二体の緑皮鬼は、ヴィンセントとアカヤが一体ずつ、一太刀で首を斬り落とした。


 老バダの作戦が順調に進んだ結果、十八人の冒険者はおよそ五十体の緑皮鬼を相手に、ほぼ一方的な完勝を収めた。


 しかも一人の損害もなく、他の迷宮城の守衛にも気づかれていない。


 完璧と言ってよかった。


 冒険者たちは手慣れた様子で、倒れた死体へ一体ずつ止めを刺していく。同時に、この無傷の戦果にも満足していた。


 彼らの中には、遊騎兵ギルドの刊行物で老バダの活躍を読んだことのある者も少なくない。だが実際に同じ隊を組み、その指揮のもとで動いてみると、受ける印象はまるで違っていた。


「老バダ、これからどうする?」


 小型居住地の中もほぼ片づいたのを見て、カルロが尋ねた。


「緑皮鬼と食獣人の習性から考えれば、この辺りでもう群れをなした怪物が出てくることはないだろう。まず休憩だ」


「アレン、セシリー。荷物を下ろしていい。ここには出口が二つある。一人ずつ片方を選んで警戒しろ。あとで交代を出す。外へ出る前に松明を点けておけ。奇襲されても気づかなかった、なんてことになるな」


 迷宮城の中に公平などというものはない。


 先に休める者には当然それだけの利点がある。休憩の途中で魔獣や怪物に襲われれば、まだ休めていない者が損をするのは当たり前だった。


 だが、名を呼ばれた二人の若手冒険者も文句は言わなかった。二人が後衛に選ばれたのは、実力が平均的で特別目立つところがないからだ。こういう時こそ、隊に対して自分たちの役割を果たす場面だった。


 それに老バダは、少なくとも悪くない隊長だった。


 人命を犠牲にして任務の成果を積み上げようとはしない。失敗する可能性があっても、まず命を守ることを優先する。その姿勢があるからこそ、彼らも安心して命令に従えた。


 そうでなければ、アンダほどの実力者や、老バダほど名の知れた冒険者が、わざわざ彼らのような普通の冒険者と隊を組む必要などない。


 それぞれが力を出すべき時に、自分の役割を果たす。


 ただ一人、何も分からないままついてきたひよっこのジェットだけは別だった。


「ヴィンセント、ファングは?」


 人数と戦場を確認していた老バダは、すぐに一人足りないことに気づいた。


「ジェットを迎えに行った」


 ヴィンセントは石壁の一角にもたれながら、短く答えた。


 そのすぐ隣では、ドロシーが慎重に、こっそりと近づいて腰を下ろしている。


「新人、大丈夫かな?」


「賭けるか? 俺は通用金貨三枚だ。新人は死んでない。だが絶対に怪我してて、こっそり母ちゃんって泣いてる!」


「通用金貨一枚。死んでる」


「死んでないし、怪我もしてない。自分で峡谷の外の休憩区まで逃げ帰ってる。通用金貨一枚」


「一口につき二倍払いだ。俺が胴元になる。好きなだけ賭けろ。帝国生まれの冒険者だからな。勝っても金を取りっぱぐれる心配はない」


 任務が順調に進んだことで、カルロもようやく肩の力を抜き、笑いながら賭けに加わった。


 小型居住地の中では、次々と賭け声が上がる。


 参加しなかったのは、アンダ、老バダ、ヴィンセント、ドロシーの四人だけだった。


 しばらくすると、石洞の出口から見張り役の合図が聞こえてきた。


 ファングが戻ってきたと分かると、賭けに参加しなかった四人を除き、皆が興奮した様子で洞口へ視線を向ける。


 答えはすぐに明らかになった。


 松明の光の中へ二つの人影が現れ、ひどく不機嫌そうなファングがジェットを支えながら石洞へ入ってくる。


「ほら、言っただろ。新人にしちゃ、これなら上出来だって」


 唯一賭けを当てたケイティが、嬉しそうに声を上げた。


 他の者は仕方なさそうに肩をすくめる。


 一方、カルロは少し儲けることができ、さらに機嫌よく笑っていた。外へ出たあとには、ちょっとした臨時収入が待っている。


 もちろん、彼と金を払う連中が全員無事に外へ出られればの話だが。


 任務が始まって以来、こんなささやかな笑いが起こることは珍しかった。わずかな楽しさが、それまで重苦しかった隊の空気を一気に活気づける。


 だが、その光景はジェットをさらに刺激した。


 自分が命懸けで敵を誘い出していた間、このいわゆる「仲間」たちは、自分が生きるか死ぬかを賭けの対象にしていたのだ!


 ファングの手を乱暴に振り払い、ジェットは怒りに任せて脚を引きずりながら老バダの前まで歩いていく。


 そして指を突きつけ、大声で怒鳴った!


「嘘をついたな! 一体の緑皮鬼が地下城の外まで追ってきたんだぞ! しかも俺は殺されかけた! 俺は――」


 突然、刃が皮膚を切る鋭い痛みが走った!


「静かにしろ。わざと任務を失敗させるつもりか?」


 丸顔の青年が最後まで言い終えるより早く、いつの間にか老冒険者の長剣がその首筋へ当てられていた!


 ジェットに見えたのは、闇の中で金属の光が一瞬走っただけだった。


 剣を抜く動作は、速く、そして無音だった。


 自分は道理を求めて抗議しに来ただけなのに、逆に長剣を首へ突きつけられている。


 ジェットの胸には、どうしようもない理不尽さが込み上げた。驚き、焦り、怒りが一度に湧き上がる。だが鋭い刃から伝わる金属の冷たさだけは紛れもない現実だった。


 丸い顔を真っ赤にしながら、憎々しげに老冒険者を睨みつけることしかできない。


 他の冒険者たちに止める気配はなかった。


 むしろ、この光景にどこか親しみすら覚えている。彼らの中にも、若い頃にこうして教育された者が少なくなかったからだ。


「任務じゃ何が起きるか分からん。俺は何でもできる神霊じゃないし、毎日お前の尻拭いをしてくれる母親でもない。一体の緑皮鬼がどうした? 剣を抜いて斬り殺せばいいだろう」


「お……俺はやった。緑皮鬼を殺した」


 刃を突きつけられたうえに続けざまに問い詰められ、すっかり勢いを失ったジェットは、それでも悔しそうに言い返した。


「呵」


 老バダは低く冷笑した。


 丸顔の青年が少し落ち着いたのを見て、ようやくゆっくりと長剣を引く。


「なら、いいじゃないか。おめでとう。これでまた一歩、冒険者に近づいたな」


 脅威がなくなった途端、ジェットの強気も戻ってきた。


 相手を睨みつけ、強い口調で言い返す。


「俺は最初から冒険者だ! 俺が大勢の敵を誘い出したから、お前たちだってあの緑皮鬼をうまく倒せたんだろ!」


「……その通りだ」


 老バダは軽くため息をつき、少しうんざりした様子で認めた。


 せっかくの休憩時間だ。怒るのも、新人を教育するのも面倒だった。


「カルロ、悪いがジェットの功績を記録しておいてくれ。作戦部へ報告する時に忘れず入れておけ」


 言い争いに勝ったと思ったジェットは、ようやく怒りを少し収めた。脚を引きずりながら隅へ向かい、休もうとする。


「大丈夫? 治療したほうがいい? 私……少しなら治療の神術が使えるから」


 感情がまだ激しく揺れていたジェットは、思わず驚いた。


 いつの間にか、心の中の天使がすぐそばまで来ていた。


 闇の中では、桃色の髪に隠されて表情まではよく見えない。それでも頬がかすかに赤く、どこか恥ずかしそうに見えた。小さな手を何度も擦り合わせ、ひどく緊張しているようでもある。


 怪物を倒した。


 任務をやり遂げた。


 言い争いでベテランを退けた。


 そして今、心の中の天使から優しく声までかけられている。


 丸顔の青年の膨れ上がった満足感は、今や人生の頂点に達していた。


 だがジェットは、ドロシーに自分を弱く見られたくない。


 平静を装って答えた。


「ただの足のつりだ。大したことじゃない」


 その一言を聞き、近くにいた何人かの冒険者が思わず小さく笑った。


 冒険者が任務中に足をつる。


 それは、最も基本的な体力管理すらできていないということだった。


 この程度の冒険者が長時間、あるいは何度も複雑な技巧を使えば、一気に大量の体力を消耗した際、そのまま急死することさえあり得る。


 丸顔の青年が、遊騎兵ギルドの最低基準にすら達していないひよっこであることを示すには十分だった。


 その返事には、普段から表情を作ることに長けたドロシーでさえ、一瞬呆気に取られた。


 だがすぐに元へ戻り、変わらず恥ずかしそうな笑顔を浮かべる。


「大丈夫。身体の回復を早める神術が一つ使えるから、足がつった時にも効くと思う。治療させて」


 他の者たちの冷淡な態度とは違い、目の前の天使はこれほどまでに優しく接してくれる。


 ついに我慢できなくなったジェットは、暗闇で誰も見ていないと思い、そっと手を伸ばして彼女の小さな手を握った。


 高揚し、自信に満ちた声で低く告げる。


「ありがとう、ドロシー」


 心の中の天使さえ自分を支えてくれるなら、あんな性格の悪い老冒険者たちになど屈しない!


「ううん」


 自分の手に触れられたのを一度見下ろし、ドロシーはさらに明るく笑った。


 あまりにも明るく――どこか不快さすら感じさせるほどに。


 石壁にもたれて黙って休んでいたアンダとヴィンセントも、その光景を見ていた。


 女野蛮人はただ馬鹿にしたように鼻を鳴らすと、再び目を閉じて休み始める。


 一方、いつも無表情な従男爵の顔には、珍しく変化が現れた。


 わずかに眉をひそめていた。

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