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11.計画

 老バダの考えた作戦は実に単純だった。囮が緑皮鬼を誘い出し、主力部隊は通路の中に身を潜める。あとは、残って守る緑皮鬼と追撃に出る緑皮鬼の割合を見て、次の行動を決める。


 誘い出された緑皮鬼の数が少なければ、主力部隊が囮を援護して殲滅する。追撃に出る数が多ければ、その隙に小型居住地へ入り、残った緑皮鬼を掃討する。囮は上の階層まで逃げれば安全に離脱でき、その後、主力部隊が待ち伏せして戻ってくる残存の緑皮鬼を襲う。


 丸顔の青年を除けば、大半の者に異論はなかった。何人かの熟練冒険者が細部を補足し、作戦はすぐに決まった。


 それぞれの役目を割り振った後、後衛の一人がジェットの背負っていた荷物を引き受け、彼には松明一本だけを残した。主力部隊はすぐに撤退し、曲がり角の向こうの暗闇へ姿を消していく。


 ごつごつした岩が折り重なる通路には、弱い松明の火だけが揺れていた。その先は真っ暗で、時折吹いてくる冷たく生臭い風が、ジェットの緊張と吐き気をさらに煽る。だが、もう後戻りはできなかった。


 蒼藍帝国で生まれ育った民である以上、任務に背いたことを告発され、帝国法廷にかけられれば、生きて帰れたとしても罪を負い、犯罪者に落ちる可能性がある。ジェットは以前、商人である父について山間の鉱山へ行った際、刑に服している囚人たちを見たことがあった。あれはもはや、人の暮らしと呼べるものではなかった。


 何度か短く息を吸い、速くなった鼓動を少しでも落ち着かせる。ジェットは歩きながら自分を励ますように、何度も小声で呟いた。


「できる。ジェット、お前なら大丈夫だ。ドロシーさんも応援してくれたんだ。失望させるな……」


 ほどなく通路の曲がり角へ辿り着いた。遠くまでは見通せないが、風が明らかに強くなっている。吐き気を催すほどの生臭さも濃くなり、その奥からは細く甲高い鳴き声が時折聞こえてきた。


 老バダの指示通り、ジェットは技巧「暗視」と「鷹の目」を同時に使った。その瞬間、どうにか石洞の中の様子が見えるようになる。


 広い空間には、寝転がるもの、座るもの、眠るものと、数十体の緑皮鬼がいた。野人のように原始的で、文明らしいものは何一つなく、食うのも飲むのも排泄するのもすべて同じ場所で済ませている。濃密な熱気と悪臭が混ざり合い、耐え難い臭いとなって辺りに充満していた。これが、緑皮鬼なりの縄張りの示し方だった。


 込み上げる吐き気と恐怖を必死に堪え、素早く位置を頭へ叩き込むと、ジェットはすぐに技巧の効果を解いた。ほんの短時間しか使っていないのに体力は急速に削られ、思わず低く荒い息を漏らす。老バダから何度も注意されていたことさえ、すっかり頭から抜け落ちていた。


 彼はまだ新人冒険者だ。そもそも技巧の扱い自体に慣れておらず、二つを組み合わせて使うとなればなおさらだった。


 激しく感情を揺さぶられ続けていたジェットは、まるで気づかなかった。息を整えて体力を戻そうとしている間、小型居住地にいた何体かの緑皮鬼が敏感に鼻を動かしていたことに。いつもとは違う臭いを感じ取ったのか、奴らは静かに骨製の棍棒を手にして、洞口へ近づいていた。


 一方、ようやく呼吸が整ったジェットは覚悟を決め、隠れていた場所から一歩踏み出した。老バダに言われた通り、大声を上げて怪物たちの注意を引こうとする。


 だが、松明の火に照らし出されたのは――


 悪意に満ちた笑みを浮かべる、いくつもの緑色の顔だった!


「うわっ!」


 突然目の前まで迫っていた邪悪体に、ジェットは驚いて悲鳴を上げた!


 直後、「ギャアッ!」という大量の甲高い声が上がり、小型居住地の緑皮鬼たちが一気に騒ぎ始める!


 遠くの様子など見えなくても、静まり返っていた石壁の通路に、これまで聞いたこともないほど大量の騒ぎ声が響き渡った。それだけでジェットを恐怖に陥れるには十分だった。本来は予備として相手を挑発するために使うはずだった石を咄嗟に投げつけると、すぐさま背を向けて走り出した!


 先頭にいた不運な緑皮鬼へ石が当たった。傷こそ負わなかったものの、怒りを煽られたのかさらに大きな声で叫び、真っ先に追いかけてくる。


 大量の足音が絶え間なく通路を震わせ、反対側に身を潜めていた主力部隊も、ここまで見事に誘い出せるとは思っていなかった。


「はっ、これがひよっこの運ってやつか」


「生きてりゃな……」


「可哀想な子だ。大地の母の加護がありますように」


「お前、浅信徒ですらないだろ。そんな祈りに意味あるのか?」


「だったら闇神に祈ってみたらどうだ? 地下城はこんなに暗いんだ。闇神の管轄じゃないのか?」


「神霊の役目って、そういう分け方なのか?」


「知らない。ドロシーちゃんに聞いてみろ。あの子は少なくとも名もなき神霊の浅信徒だ」


「たぶん……違うと思う」


 最後に小さく答えたのはドロシーだった。信仰もなく、修行者ですらない冒険者たちに神霊のことを説明しても、ほとんど意味はない。彼女はそう思っていた。


 何人かの冒険者は、遠ざかっていくジェットの姿を眺め、新人らしい怯えきった叫び声を聞きながら、どこか懐かしく、それでいて可笑しい気分になっていた。声を抑えて笑いながら、ひそひそと話し続ける。


 老バダにも聞こえていたが、止めはしなかった。今は激しい足音と叫び声が絶えず響いているため、多少の小声なら気づかれることはない。ここに残っている者たちは皆それなりに経験があり、自分たちで判断できると老バダは信じていた。


 混乱に包まれた暗闇の中でも、老バダの視線は一度も緩まなかった。やがて一つの松明の火が主力部隊の前を勢いよく横切り、そのまま地下城へ入ってきた斜面へ向かって走っていくのが見える。


 ひよっこは余計な浅知恵を働かせて人を害そうとはしなかった。言われた通り必死に動いたことが、あるいは自分の生き残る機会を掴むことに繋がるかもしれない。


 ならば老バダも、わざわざ追い打ちをかけるつもりはなかった。同じように技巧「暗視」と「鷹の目」を使い、一体、また一体と目の前を駆け抜けていく緑皮鬼を落ち着いて見ながら、その数を黙って数えていく。


「三十三、三十四、三十五……へえ、この小僧、意外と怪物を引きつけるな。盾持ちを目指したほうがよさそうだ」


 低く笑った後、老バダはすぐに振り返り、声を落として言った。


「よし。追撃に出た緑皮鬼はもう小型居住地を離れた。新人が命懸けで作った機会だ。今度は俺たちベテランの出番だ。できるだけ速く、音を立てずに洞口まで近づけ」


「アンダ。中へ入ったら好きに暴れろ。俺たちが後ろから援護する」


「ベリ。お前は隊で唯一の盾持ちだ。弓使いたちを守ることだけ考えろ」


「ヴィンセント。お前はアカヤ、ファング、ウヘ、ルルディを連れて、五人でここを守れ。食獣人が奇襲してきたり、増援に来たりするのに備える。それと、誘い出した緑皮鬼が戻ってきたら知らせろ。その時は俺たちと前後から挟み撃ちにする」


「そうだ。新人が死んでなかったら、ついでに連れ戻してこい。次も使える」


 老バダの指示を聞き終えると、冒険者たちはそれぞれ自分の役目を理解した。互いに確認を済ませ、すぐに行動を始める!


 一方、三十体以上の緑皮鬼に追われているジェットは、自分がこれほど速く走れるとは夢にも思っていなかった。両脚はこれまで一度も出したことのない逃走速度を叩き出しているが、そのぶん口から漏れる息もどんどん重くなっていた。


 地上城から地下城へ降りたあと、探索隊が最初の小型居住地へ辿り着くまでには、それなりの時間がかかっている。だが実際の距離が長かったわけではなく、警戒しながらゆっくり進んでいただけだった。


 何も気にせず全力で走るジェットは、ほどなく斜面へ辿り着いた。地上城の安全区域へ駆け上がろうと右脚へ一気に力を込めた瞬間、ふくらはぎに突然ひきつるような痛みが走り、体勢を崩して危うく転びかける!


 自分はどうしていつもこんなに運が悪いのか。そう嘆く暇さえなかった。背後から強烈な風圧が迫り、ジェットが反応するより早く、一本の骨製の棍棒が耳元を飛び過ぎて地面へ激しく叩きつけられた!


 攻撃は外れた。だが後ろの緑皮鬼たちは、さらに大きな声で叫び始める!


 恐怖のあまり、ジェットまで無意識に一緒になって叫び声を上げた。慌てふためいた丸顔の青年は、痛む右脚を必死に支え、一歩ごとに身体を傾けながら、それでも構わず斜面を駆け上がっていく。


 ジェットには、後ろの緑皮鬼がどんどん距離を詰めているのが分かった。甲高い叫びも、鼻を突く悪臭も、飛び散る唾液さえ、すぐ後頭部まで迫っているように感じる。息はますます荒くなり、肺は焼けつくように苦しい。脚も、もう走るのを諦めたくなるほど痛んでいた。


 その時、見えた。


 地上城の出口を示す、青緑色の光!


 最後の大きな一歩。ジェットは歓喜に顔を歪め、左脚で力いっぱい踏み切って上へ跳び出し、ついに安全区域へ入った!


 思わず全身から力が抜け、そのまま仰向けに倒れて大きく息を吸う。


「はぁ……はぁ……大丈夫、大丈夫だ。俺はやった。自分たちだけ偉いと思ってるベテランどもも、これからはもう俺を馬鹿には……」


 自分を慰める言葉は最後まで続かなかった。ジェットは目を大きく見開き、驚愕と信じられない思いで正面を見つめる。


 斜面の入口から、一体の緑皮鬼が勢いよく飛び出した。両手で骨製の棍棒を高く掲げ、そのままジェットへ振り下ろそうとしている!


 もう力の残っていないジェットに避ける余裕はなかった。反射的に腰の長剣を抜き、目を固く閉じたまま武器を前へ突き出す!


 何かを貫いたような手応えが両手に伝わり、同時に服の上へ湿った粘り気のあるものが流れ落ちてきた。


 しばらくして、ジェットはようやく震えながら目を開ける。


 長剣の長さと腕のリーチのおかげで、飛びかかってきた緑皮鬼の胸には偶然にも長剣が深く突き刺さっていた。身体は刃に貫かれたまま斜めにジェットの上へ覆いかぶさり、濁った緑色の臭い血が絶えず流れ落ち、軽鎧の隙間へ染み込んでいく。


「ガランッ!」


 ジェットは長剣ごと怪物を横へ振り払い、尻もちをついたまま両手で地面を押して、急いで斜面の入口から後ずさった。顔は青ざめ、全身から汗が噴き出し、まだ恐怖の収まらないまま荒い息を繰り返している。


「お、俺……勝った! 緑皮鬼を倒したんだ! はっ……ははっ! 邪悪体だって、大したことないじゃないか!」


 激しく感情を揺さぶられた後、丸顔の青年はどこか狂ったように、何度も自分を鼓舞し続けた。


 しばらくして興奮が収まり、ようやく冷静さを取り戻したジェットは、突然一つのことを思い出す。老バダは確かに、守衛は持ち場を離れないと言っていた。なら、地上城は安全区域のはずだった!


 だが、地面に転がっている緑皮鬼の死体が、それを真っ向から否定する何よりの証拠だった。


 あのジジイ、嘘をついた!


 青緑色の光が落とす影の中で、丸顔の青年の表情が少しずつ歪み、両眼に強い恨みが満ちていく。


「あいつ……俺を騙したのか!?」

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