10.囮
ジェットの後ろについて、すべての死体に一体ずつ止めを刺したことを確認しながら、老バダは通路の何か所かに印も残していった。後から来る隊が攻略する際の目印であり、第三陣の探索隊がここまで来た証でもある。
ただ、その先で左右どちらの通路を選ぶかとなると、老バダも考え込んだ。
考えている途中、珍しくヴィンセントが口を挟み、最後の一体の食獣人が左へ逃げようとしていたと伝えた。だが、それだけでは判断材料にはならない。
情報によれば、この階層には中規模の緑皮鬼の巣がある。食獣人は緑皮鬼と同じ場所では暮らさないため、それを理由に右を選ぶこともできるが、結果がどうなるかは分からない。反対に、左へ進めば群れを成した食獣人が待っている可能性もあった。
しばらく考えた末、老バダは判断を諦めた。今は情報が足りない。最後はカルロが決断し、右側の通路を進むことになった。
だが出発して間もなく、隊列から遅れる者が次々と現れ始めた。ジェットが最初だったが、今回は彼を罵る者もほとんどいない。冒険者たちの大半がすでに心身ともに疲れ切っていたからだ。今回、老バダは特に、移動中はほとんど音を立てないよう皆に求めていた。
先頭を進む軽装の斥候二人、アンダ、ヴィンセント、それに老バダ自身を除けば、誰にとっても移動はひどく困難で、負担が大きかった。
とりわけ物資運搬を担当する後衛の冒険者たちは、重すぎる荷物を背負ったまま慎重に歩かなければならず、ほかの者よりはるかに大きな負担を強いられていた。
真っ先に耐えきれなくなったジェットは足元をふらつかせ、暗闇の中で不注意にも鋭く突き出した石を踏んでしまった。思わず大きな声を上げ、そのまま激しく転倒し、立て続けに大きな物音を響かせた。
突然の事故に探索隊全体が驚く中、老バダだけは素早く反応し、皆を落ち着かせるよう低く鋭く叫んだ。
「静かにしろ。よく聞け!」
地面に倒れたジェットは起き上がろうとしたが、同じ後衛にいた熟練の冒険者に押さえつけられた。相手は耳元で急いで囁く。
「馬鹿、動くな!」
隊は完全に停止し、全員が耳を澄ませた。アンダに至っては両眼を閉じ、片手を傍らのごつごつした岩壁へ当て、静かに何かを感じ取っていた。
しばらくして、ようやく低い声で告げる。
「大丈夫だ。近づいてくるものは感じない」
警戒が解かれると、老バダは小さく息を吐いた。皺だらけの老いた顔はさらに険しくなり、怒気さえ滲んでいる。振り返って尋ねた。
「今、後ろで何があった?」
仲間に手を離され、ようやく起き上がったジェットは、ひどく緊張しながらどもった。
「ご……ごめん。うっかり転んで……」
言葉を口にした瞬間、ジェットは感じ取った。いつも生気のない老冒険者の濁った瞳が一瞬にして鋭く変わり、まるで自分を食い殺そうとでもするかのように、凄まじい目で睨みつけている。だが、その視線もすぐに消えた。
「何もなかったならいい。進むぞ」
今度ばかりは、誰にもジェットをからかったり嘲笑ったりする気力はなく、軽口を叩く余裕さえなかった。一つには、高い緊張を保ったまま慎重に進み続ける疲労。そしてもう一つは、この場所ではたった一度の「ごめん」で、人が死ぬかもしれないからだった。
言葉にする必要も、話し合う必要もない。何か起きれば、老バダはジェットを最前線に立たせる。そして、それに反対する者は一人もいないだろう。
第三陣の探索隊には、すでにその共通認識ができていた。当の本人を除いて。
自分の役割が隊の中ですでに決められているとも知らず、ジェットは自分の不注意を悔やんでいた。ただし、仲間を危険に晒しかねなかったことを反省しているわけではない。心の中の天使の前で、格好悪いところを見せてしまったことが悔しかったのだ。
負担の大きい行軍は、その後もしばらく続いた。探索隊は起伏の激しい真っ暗な石洞を、止まっては進み、進んでは止まりながら歩いていく。速度は先ほどよりさらに遅かったが、仕方がない。危険に対処するための最低限の体力だけは、残しておかなければならなかった。
何度目かも分からない曲がり角を越えた頃、最前方にいる斥候の松明がようやく再び警告の合図を送った。ほどなくバブキが隊へ戻ってくる。
「老バダ、あまりよくない。前方に大きな石洞がある。出入口は二つで、中にはたぶん四十から五十体くらいの緑皮鬼がいる。小規模な居住地と見ていい。このまま先へ進めば、本当に巣へ繋がっているかもしれない」
「四十から五十体か……」老バダは低く呟き、考え込んだ。
皆もそれを見て余計な口を挟まず、それぞれ適当な場所で身体を休めた。
しばらく経っても老バダが動かないため、カルロがようやく探るように尋ねた。
「引き返すか? ここに印だけ残しておくこともできる」
だが老冒険者は首を横に振った。
「いや。四十から五十体程度の緑皮鬼なら、今の隊の編成でも対処できる。ここで殲滅する。そうすれば、その先の緑皮鬼の巣へ進める」
「でも、その数じゃ正面からぶつかることになるぞ。巣の連中や、地潜り虫にまで気づかれたらどうする?」カルロは納得できない様子で尋ねた。
ほかの冒険者たちも同じように危険が大きいと感じていた。ただ十大傭兵団で積んだ実績と、老冒険者の名声を信じているからこそ、口を挟んで反対しなかった。
老バダも、普通なら隊が同意しないことは分かっていた。そこで一つずつ説明していく。
「ここまで歩きながら、ずっと考えていた。この通路は見たところ下へ向かっているが、実際には岩壁に沿って複雑に曲がりくねっている。俺たちは高さを変えながら、同じ場所を円を描くように回っている可能性が高い」
「こういう造りなら、どの道を選んでも最後の関門となる守衛を避けるのは難しい。歩けば歩くほど体力を削られ、最後は攻略を諦めて戻るか、ここで道に迷って怪物の餌になる」
「だったら、どうして撤退しないで緑皮鬼の巣へ行くんだ?」
カルロの顔色が悪くなった。だが彼だけではない。話を聞いた全員が、アンダとヴィンセントを除いてひどく険しい表情を浮かべていた。
幸い、老バダはすぐに続けた。
「いや。この迷宮城は相当古い。地上城の巨大建造物でさえ崩れたまま修繕されていなかった。さっきの戦闘でも見ただろう。邪悪体まで気が緩んでいる。情報にある通り、ここの主はすでに死んでいる可能性が高い」
「なら、迷宮城の各階層を守っていた守衛も、とうに本来の配置から外れているかもしれん。地潜り虫が必ず寄ってくるとも限らない。それに、俺たちは長い時間歩いているが、それは隊の進みが遅いからだ。実際には地上城の安全区域から、それほど離れていない。全力で走れば戻れる」
「前へ進めば攻められる。後ろへ退けば逃げられる。試す価値はある。戦うことも敵を知る方法の一つだ」
「小規模な居住地を潰しても何も起きなければ、そのまま緑皮鬼の巣まで進む。その時は周囲を簡単に観察するだけでいい。次の階層へ続く道が、そこにある可能性もある」
「もし通路が巣の向こう側にあると分かれば、そこから先は俺たちの隊の編成と戦力でどうにかする話じゃない。攻略組に道を開かせればいい。そこまで成果を持ち帰れば、皇家冒険団の上層部も十分満足するだろう」
そこまで説明すると、老バダはカルロへ視線を向けた。
名目上の隊長は少し考えた後、頷いて同意した。ここで命を落としたいわけではないが、十分な成果を得ないまま手ぶらで帰るつもりもなかった。
「老バダ。地潜り虫が来ないかもしれないって話だけど、戦闘が始まって本当に出てきたらどうする? あんな大物が現れたら、この階層中の怪物まで引き寄せられるんじゃないか?」一人の冒険者が、まだ不安そうに尋ねた。
「ここまで隊をゆっくり進ませていたのは、そのためでもある。途中の岩壁を意識して見ていたが、この辺りには地潜り虫が動いた痕跡がほとんどない。おそらく主の支配を失った後、緑皮鬼や食獣人が自分たちの縄張りへ勝手に入らせなくなったんだろう。ああいう大型魔獣が暴れ出せば、この階層そのものを滅茶苦茶にしかねないからな」
それを聞き、質問した冒険者も黙って同意するしかなかった。探索隊の中で、老バダ以上に細かく周囲を観察している者はいない。
皆を納得させたところで、老バダは続ける。
「ただし、昔の迷宮城の主が、外敵を感知したら何も構わず攻撃しろと地潜り虫に命じていた可能性もある。だから万一に備えて、戦闘はできるだけ早く、それでいて慎重に終わらせる必要がある」
「ここから役割を決める」
「バブキ。お前とドールなら、小規模な居住地を気づかれずに抜けて、緑皮鬼の背後へ回れるか?」
バブキはしばらく黙り、先ほど確認した経路を思い返してから答えた。
「できる」
「よし。二人で潜行して、反対側の出口を押さえろ。勝手に手を出す必要はない。緑皮鬼を逃がして、助けを呼ばせないようにするだけでいい」
「次は……」老バダの視線が一同を巡り、最後に新人へ止まった。
「短期決着を狙うにしても、四十から五十体は多すぎる。何体か外へ誘き出す必要がある」
石壁に囲まれた通路が、一瞬にして静まり返った。全員が黙ったまま、丸顔の青年を見る。
「お……俺?」
「で……でも俺、ずっとこんな重い荷物を背負ってきたんだ。もう脚に力なんて残ってないし……ほかの人が行ったほうが……」
突然自分へ役目が回ってきたことで、ジェットは思わず暗い通路の奥へ目を向けた。先ほど止めを刺した怪物たちの醜悪な死体が脳裏に蘇り、嫌悪と恐怖が一気に込み上げる。声にさえ力が入らなかった。
拒絶の言葉を聞き、老バダは冷たく笑った。
「お前は潜行ができるのか? 正面から戦えるのか? 弓が使えるのか? それとも魔法か神術でも使えるのか?」
「どれでもいい。価値を示せるなら、隊のために囮になる必要はない」
立て続けに問われ、ジェットは何一つ答えられなかった。顔は青ざめ、額には冷や汗が浮かび、俯きながら何度も「無理だ」と繰り返すしかない。
「若いの。冒険者としての授業料を払う時が来たんだ」
「で……でも失敗したらどうするんだ? 任務にも影響が出るんじゃ……」
「……そうだ! 失敗したら、任務に影響するじゃないか!」
何かに気づいたように、ジェットは少し興奮し、顔を上げるのと同時に無意識に声まで大きくなった。
すでに腹を立てていた老バダは、殴って気絶させたい衝動を必死に堪え、まず声を抑えるよう手で示した。それから老いた顔を強張らせて言う。
「失敗したなら、次の奴が囮になるだけだ。ただし……その時、お前がまだいるかどうかは誰にも分からんがな」
老冒険者の圧力は強かった。一歩ずつ迫られ、丸顔の青年は助けを求めるように隊の皆を見回す。だが、誰も助けようとはしなかった。心の中の天使でさえ、ただ励ますような眼差しを向けてくるだけだった。
「……分かった。俺が囮になる」
その瞬間、ジェットの胸に悪意に満ちた考えが浮かんだ。
だが、その考えが芽生えたばかりのところで、老バダの冷たい声が再び聞こえてきた。
「怪物をこっちの隊へ引っ張ってこようなどと考えるな。相手は所詮、緑皮鬼だ。俺たちなら倒して逃げるくらいは難しくない。ただ任務のために、短時間で終わらせたいだけだ。もし悪意を持って仲間を陥れ、任務を失敗させようとするなら、一番ましな結末はこの迷宮城で死ぬことだ。生きて外へ出たなら、その先には帝国法廷が待っている」
それを聞いた瞬間、休んでいたほかの冒険者たちも一斉に顔を上げ、丸顔の青年を鋭く見つめた。
任務中にこうした悪意ある行為は決して珍しくない。だが、誰もそんなことを自分の身に起こされたくはなかった。
「そんなことするわけないだろ! お……俺が、そんなこと……! 勝手なこと言うな!」
まさか、自分の考えがすべて見抜かれていたとは。
ジェットの胸には驚きと寒気、そして絶望が広がった。どうして何もかも老冒険者の手の内にあるように見えるのか、彼には分からない。それに、隊へ加わってから自分だって一生懸命やってきたはずなのに、どうして皆はいつも自分ばかりを責めるのか。
十分に追い込んだと判断すると、老バダは最後に一つだけ希望を与えた。
「心配するな。俺だってわざわざ仲間を陥れたりはしない。地上城までの道は覚えているな? さっき説明した通り、戻ること自体は難しくない。緑皮鬼を外へ誘き出したら、そのまま奴らを連れて地上城まで走れ。迷宮城の守衛にはそれぞれ活動範囲がある。上の階層まで逃げ切れば、助かる可能性は高い」
闇の中に光が差したようだった。突然与えられた希望に、ジェットは緊張したまま尋ねる。
「本当なのか?」
「本当だ。計画通りにやれば問題ない。まずは――」
丸顔の青年が言われた通りに動けば、「おそらく」無事で済む。たとえできなくても隊に損害は出ず、せいぜい任務が失敗するだけだった。
老バダの判断は時に大胆だが、計画そのものは常に安全を重視している。それこそが、彼がこれほど長く生きてこられた理由でもあった。




