103.シンシアの攻略
帝国辺境、最新の前線拠点。
天を衝く二つの巨大な山壁を前に、シンシアは顔を上げた。天地が生み出した壮大な自然の奇観を前にすれば、人間などあまりにも小さい。遠くから見たときには狭い亀裂にしか思えなかった隙間も、こうして間近に立てば、ひどく広々として見えた。
「シンシア、他の冒険者たちも準備できたぞ」
大柄で屈強な、黒い肌の坊主頭の男が近づいてきた。
シンシアは山壁から視線を戻し、頷いた。
「前線拠点に残る者には、いつでも援護に出られるよう準備させておいて。残りは――出発!」
命令が下ると、五十人を超える先行探索隊が死亡峡谷へ向けて進み始めた。
目的地へ近づくにつれ、冒険者たちははっきりと感じ取っていた。
冷え冷えとした空気がますます重くなっていく。巨大な山壁が光神の光を遮り、大きな影が狭い亀裂を覆っていた。その先は、いっそう暗く、不気味に見える。
昼間だというのに、不安を誘う空気が辺りに漂っていた。
「止まって」
入口へ到着すると、シンシアが片手を上げて命じた。
「事前に話し合った通りに動く。半数は入口に残って援護、残り半数は私と中へ入る。この迷宮城は、以前の情報とはすでに状況が変わっている可能性が高い。全員、気をつけて」
今回、死亡峡谷の攻略が再開されるにあたり、槍と剣と火は各方面から大量の支援を受けていた。
シンシアも自分たちの団をいくつもの小隊へ分け、それぞれに異なる任務を任せている。彼女自身は先鋒として、他から集められた熟練の冒険者たちと共に、真っ先に探索を行うことになっていた。
「隊長、気をつけてください」
「こっちも状況を見て援護する。何かあっても無理するなよ」
「出口は俺たちが守る。まずいと思ったら、すぐ戻ってこい」
仲間だけでなく、他の冒険者たちからも心配する声や忠告が飛んでくる。
シンシアはいちいち返事をせず、ただ頷くと、残る二十数人を率いて正式に死亡峡谷へ足を踏み入れた。
入って間もなく、かすかな生臭い血の臭いが冷たい風に乗って漂ってきた。
一行が周囲を見回す。
吊るされたもの、引っかけられたもの、道端に積み上げられたもの。そこには腐り始めた腕や遺体の残骸がいくつも転がっていた。どれも、以前ここへ探索に入った冒険者たちの一部だった。
一人の冒険者が近づいてしゃがみ込み、経験を頼りに傷口から死因を調べようとする。
だが、手を伸ばした瞬間、シンシアの短い制止が飛んだ。
「待って! 不用意に死体へ触らないで」
シンシアが隣にいた黒い肌の坊主頭の男へ目配せすると、彼はすぐ前へ出て、その冒険者を呼び戻した。
「ヴィロ、出番よ」
布の長衣をまとった男が頷き、手にした長杖を掲げて低い声で呪文を唱え始めた。
「盾役は外周へ。全員、衝撃に備えて防御態勢!」
槍と剣と火の団員たちは慣れた様子でそれぞれの位置につき、他の冒険者たちも空いた場所を埋めるように動いた。
彼らは皆、遊騎兵ギルドの選考を通った腕利きだ。互いにどう連携すべきかも理解しており、かつて老バダが率いていた即席の隊とは比べものにならない。
短く素早い詠唱が響くにつれ、目には見えなかったエネルギーが徐々に集まり、形を現し始める。
冒険者たちも、さらに意識を研ぎ澄ませた。
最後の一節が口から放たれると同時に、ヴィロは長杖を力いっぱい地面へ突き立てた!
円形のエネルギー波が、まるで押し寄せる波のように次々と四方へ広がっていく!
地面の砂や石、草木が根こそぎ吹き飛ばされ、積み重なっていた血肉も散り散りになった。遺体の残骸までも巻き上げられて転がり、まるで竜巻が通り過ぎたかのように周囲のものを一掃していく。
そして、その下に隠されていた仕掛けや罠が露わになった。
直後、作動した罠から立て続けに爆発が起こる!
熱風と衝撃が探索隊へ襲いかかった。
外周に立つ十人の盾役は、すぐさま大盾を強く地面へ突き立てる。身体と大盾が互いを支えるように直角を作り、技巧「怪力」と技巧「湧泉」の力を加え、隊全体を隙なく守り切った。
先ほど冒険者が調べようとした死体のあった場所からは、鋭い矢まで立て続けに射出される。
矢は近くの盾役が構える大盾へ次々とぶつかり、
「ガンッ! ガンッ!」
激しい金属音を連続して響かせた。
周囲で作動した罠がようやく静まる。
シンシアはまず慎重に辺りを見回した。いたるところに残骸が散らばっている。さらに重ねて仕掛けられた罠がないことまで確認してから、ようやく口を開いた。
「防御解除。ヴィロ、ご苦労さま」
「ははっ! シンシア隊長は律儀ですね。あなたたちを助けることは、循律の塔を助けることにもなります。それに、ここならまだ俺も役に立てる。地下区域に入れば、できることはかなり減りますからね。今のうちに使えるところがあれば、遠慮なく言ってください」
ヴィロは自分を中心にしっかりと守ってくれている周囲の仲間たちを見回し、笑いながら頷いた。魔法使いにとって、安心して背中を任せられる仲間ほど頼もしい存在はない。
「ありがとう」
シンシアは短く答えた。
魔法使いが弱いわけではない。ヴィロが弱いわけでもない。ただ、起伏が激しく複雑で、日の光すら届かない迷宮城の中では、誰も威力の大きすぎる魔法を気軽に使うことなどできなかった。
そんなことをすれば、自分だけでなく仲間の退路まで埋めてしまいかねない。
そして魔法使いも戦士と同じく、魔法も技巧も長い時間をかけて鍛え、繰り返し使って初めて熟達できる。そのため、何を専門とするかは非常に重要だった。
迷宮城攻略を専門とする魔法使いの多くは支援系に偏っており、攻撃を専門とする魔法使いが活躍するのは、主に荒野や禁忌の地だった。
だが短期間では適任の魔法使いが見つからず、遊騎兵ギルドもまだ人材を探している。そのため循律の塔は、ひとまずヴィロを貸し出す形で支援に回したのだ。
もっとも、彼自身も攻撃系の魔法を得意としていた。
最初の連携がうまくいったことで、一行は少し休息を取ったあと、再び前進を始めた。
その後も一定の距離を進むたび、シンシアはヴィロにエネルギーの衝撃波を放たせた。単純ではあるが効果的な方法を繰り返し、先に罠を作動させて破壊する。
後から入ってくる者たちのために、安全な道を切り開くためだった。
隊の進行速度は遅かった。
冒険者たちはほとんど半日を費やし、罠を一つ一つ潰しながら進んだ末、ようやく巨大な宮殿の前へたどり着いた。
シンシアは、目の前にそびえる壮麗な半壊の建物を見上げた。
その奥は暗く、何があるのか見通せない。技巧「鷹の目」と技巧「暗視」を併用しても、遠くまでは見えなかった。
濃く冷たい気配がすべてを覆い隠しているかのようで、まるで人を呑み込もうと口を開けた巨大な怪物が、彼らが入ってくるのを待っているようだった。
シンシアは、一日中魔法を使い続け、息を切らして疲れ切っている魔法使いへちらりと目を向けた。
そして隣にいる黒い肌の坊主頭の男へ顔を向ける。
「マンテキュウ、何人か連れて、探索してきた道をそのまま戻って。残っている者たちをここまで連れてきて。私たちは先にここで野営して休む。それから人を出して前線拠点の後勤部隊へ知らせて、新しい攻略拠点を造る準備をさせる」
一歩ずつ、確実に前へ進む。
それこそが、槍と剣と火が十大傭兵団の一角として名を馳せている理由の一つであり、かつて老バダが彼女に教えたやり方でもあった。
余計なことは言わず、マンテキュウは数人の冒険者を選ぶと、すぐ来た道を引き返していった。
すでに安全な道は確保されている。光神が完全に姿を消す前に、残る隊員を全員ここへ連れてくるつもりだった。
残された冒険者たちも、今日の探索はいったんここまでだと理解した。巨大な宮殿の暗い入口と、次第に暗くなっていく空を見比べ、彼らもその判断に異論はなかった。
シンシアの指揮のもと、魔法使いはすでに手を貸せる状態ではなかったものの、残る十数人が持ち込んだ簡易器材をその場で組み立てていった。
ほどなく、人の背丈の半分ほどの円形の防壁を備えた陣地が完成し、さらに循律の塔から提供された魔導器具を使って簡易結界も設置された。その中には、周囲を監視するための小さな高台まで設けられていた。
基本的な防御が無事に整ったことで、冒険者たちもかなり安心できるようになった。
この簡易結界は、攻撃そのものを防ぐためのものではない。不意を突かれ、冒険者たちが何の反応もできないまま襲撃を受ける事態を防ぐためのものだった。
たとえ地潜り虫が地中から攻撃を仕掛けてきても、ほんのわずかな時間さえ食い止めることができれば、この優秀な探索隊が危険から離脱するには十分だった。
時間が過ぎ、辺りは完全に暗くなり始めた。
マンテキュウも夜になる前には残る者たちを全員連れて戻り、道中で何かが起こることもなかった。
後からやって来た二十数人の冒険者たちは陣地の中で役割を分担して作業を始め、先に探索へ出ていた者たちは焚き火を囲んで食事を作り、休息を取っていた。
見張りを除けば、誰もが興味津々に互いの経験や感想を語り合っている。
今回の連合作戦は、それほど珍しい機会だった。
しかも、名高い槍と剣と火が隊を率いている。
昼間、死体へ近づいたところを呼び戻された冒険者が、興味深そうにシンシアへ尋ねた。
「隊長、どうしてあの死体の下に罠があるって分かったんです? この迷宮城の守衛、いくらなんでも陰険すぎませんか?」
シンシアは熱い肉のスープを何口かすすった。
栄養のある温かな食事が喉を通り、この冷え込んだ環境で感じていた不快感をいくらか和らげてくれる。
それから椀を置き、相手へ答えた。
「分かっていたわけじゃない。ただ、魔獣や邪悪体の多くは肉を食べる。特にここには鎌蜘蛛が大量にいる。それなのに、こんな場所に死体が残っているなんて妙でしょう。まさか全部腹いっぱいだったとも思えない。だから怪しいと思って、ヴィロに魔法で罠を作動させられないか試してもらっただけ」
それを聞き、他の者たちも次々と自分の意見を口にし始めた。ここへ来る前から噂は耳にしており、「人の魔王」が存在することも知っている。
だが、「人」がいる迷宮城を攻略するのは、彼らにとってこれが初めてだった。
きっとこれまで以上に困難になる。
それでも、その事実は多くの冒険者の挑戦心をかき立ててもいた。
千年ぶりに新たに誕生した魔王と迷宮城なのだ。
ここで功績を残すことができれば、歴史の記録にも、詩人たちの歌にも、自分たちの名が刻まれるに違いない!
皆の話がますます盛り上がっていく中、マンテキュウだけはゆっくりとシンシアのそばへ近づいた。
その表情は真剣だった。
「さっきの罠……気づいたか?」
シンシアは無意識に、醜い傷痕の残る左目へ左手を伸ばした。
表情を引き締め、同じように声を落とす。
「気づいた。表面に隠して、不意を突く攻撃。老バダから教わった基礎的な罠で、あの人がよく使う手口でもある」




