102.意外
漆黒の夜の下、野外の平原には混乱する人影と戦いの怒声があふれていた。その巨大な隊商の外周、その一角に、一台の獣車だけがひどくぽつんと取り残され、静まり返っている。
ヴィンセントとディアドラは行商人の夫婦としてここに配置されていた。二人とも目立たぬよう振る舞い、周囲と交わろうともしなかったため、休息中に他の行商人の一団が声をかけてきて、夜の警戒を共にすることもなかった。
そんな分かりやすい孤立した獲物は、狼賊が襲撃を始めると、たちまち最初の略奪対象となった!
普通の乳牛ほどもある数頭の一角魔狼が大きく口を開き、鋭い牙を剥き出しにする。命令が下されると同時に、狂ったように獣車へ飛び込んだ!
その後ろからは、人相の悪い屈強な狼賊数十人が、思い思いの凶器を手に下卑た笑みを浮かべながら近づいてくる。
彼らは待っていた。
中から聞き慣れた泣き声や悲鳴、命乞いが聞こえてくるのを。あるいは、そのまま大量の血が流れ出し、獣車そのものが真っ赤に染まるのを。
時間だけが、一秒、また一秒と過ぎていった。
本来なら中から破壊され、粉々になっているはずの獣車には何の動きもない。物音一つ聞こえず、中へ飛び込んだ数頭の一角魔狼からも、まるで反応がなかった。
異変を察した屈強な狼賊の小隊長が、すぐに手を上げて部下たちを止めた。
まず慎重に、狩猟弓、投槍、クロスボウなどの飛び道具を獣車へ向けさせる。続いて長い口笛を吹き、さらに数頭の一角魔狼を呼び寄せた。
長年にわたって追われながら、生き延びることさえ難しい野外で生きてきた狼賊たちは、普通の知性ある者よりもはるかに警戒心が強く、慎重で、それだけに狡猾で危険だった。
小隊長の統一された指揮のもと、狼賊たちはすでにふざけた気分を捨て、息を潜めて構えている。
先に動いたのは、やはり一角魔狼だった。
元素のエネルギーが一本の角へ徐々に集まり、色とりどりの光球を形作っていく。属性を帯びた光球が限界まで圧縮された瞬間、幾重にも重なった遠吠えとともに、人の拳ほどの太さを持つ何本もの光線が獣車へ轟然と撃ち込まれた!
同時に、小隊長が大きく手を振る。
連射された矢の雨が、滝のような勢いで次々と獣車へ降り注いだ!
エネルギーと矢の雨による猛烈な集中攻撃を受け、奇妙な獣車の周囲で色とりどりの光が炸裂する。
次の瞬間、獣車は轟音とともに吹き飛んだ!
その場には、ばらばらになった大量の残骸だけが残る。
そしてようやく、その中から鮮血がゆっくりと流れ出してきた。
それを見た小隊長は、再び笑みを浮かべた。
これまでにも、自分は賢いと思い込み、逆に狼賊へ罠を仕掛けようとした冒険者を何人も見てきた。だが、その全員が彼の慎重さの前に倒れている。
今回も同じだ。
部下に残骸をどかして生死を確認し、戦利品を探すよう命じると、小隊長自身は周囲を見回し、次の獲物を探し始めた。
そのとき、部下の驚いた声が聞こえた!
「頭領! この獣車、おかしいです! 魔狼の死体しかありません!」
小隊長はその言葉を聞いた瞬間、異変を悟った。反射的に手の刃物を強く握り、鋭い目で漆黒の周囲を素早く見回す。
だが、もう遅かった。
突如、左胸に激しい痛みが走った。
小隊長が視線を落とすと、一本の長剣が背後から心臓を貫いている。
視界が霞み、意識が遠のいていく中、最後に耳へ届いたのは、いくつかの短い会話だった。
「隊商には、狼賊を処理する力がある」
「光神が万物を照らすのは、生命を育むためです。生命を失わせるためではありません。少なくとも、このような私欲のために命が失われるべきではない。そして、こんな私欲が目の前でまかり通るのを、見過ごすべきでもありません」
「……自分で気をつけろ」
ディアドラは頷いた。
ヴィンセントの言う「気をつけろ」は、狼賊に気をつけろという意味ではない。正体を悟られないようにしろ、という意味だった。
今に至っても、ディアドラは二人の魔王が口にした約束を完全には信じ切れていない。もし自分が正体を晒してしまえば、ヴィンセントが事情を知った者すべてを殺すという選択をする可能性さえある。
だからこそ、彼女も細心の注意を払うつもりだった。
少し前、獣車の中でディアドラがエネルギー攻撃と飛来する矢の雨を迎え撃つ準備を整えた、その瞬間だった。
ほんの一瞬、身体から速度の感覚が失われた。
次に視界へ映ったのは、すでに闇の荒野だった。
それなのに、数十人の狼賊は二人が移動したことにまるで気づいていない!
姿を消す能力と、理解を超えた何らかの速度系天賦!
これもまた、ディアドラが傍らの魔王をこれほど警戒している理由の一つだった!
ヴィンセントが本気で知性ある者を暗殺しようとした場合、自分の命と引き換えにする覚悟さえあるのなら、あるいは十分な時間をかけて待ち続けるのなら、ほとんど失敗する可能性がない。
標的が永遠に彼の目の前へ現れないのでない限り。
だが、頭の中にあったそうした懸念も思考も、小隊長が次の獲物を探し始めたのを見た瞬間に止まった。
ディアドラはただ眼前の標的だけへ意識を集中させ、ためらうことなく即座に相手を殺した。
本来なら、最も安全なのはヴィンセントと共にその場で姿を隠し、この混乱した襲撃から離れることだった。
そうすれば正体が露見する危険もなく、神々の国や死亡峡谷に余計な問題を持ち込むこともない。
ディアドラも、少数を犠牲にして多数を救うという理屈そのものは理解している。
だが、受け入れたくはなかった。
認めたくもなかった。
まだ起きてもいない未来を想像しただけで、目の前にある血まみれの現実を見捨てるなど、彼女にとっては教義に真っ向から背く行いだった。
光神は、公正無私であるべきなのだ。
他の狼賊たちは、まだ獣車の残骸を囲んでいた。何が起きたのかすら理解できていないまま、一声の悲鳴を聞いて振り返る。
そこには長剣に貫かれて倒れる頭領がいた。
そして倒れた身体の向こうから、全身を外套で覆った怪人が姿を現す。
「攻撃!」
誰かの怒鳴り声が響き、さまざまな飛び道具が再び雨のように放たれた。ほぼ全方向から全身を覆うように飛来する、大量の致命的な攻撃。
だが、ディアドラは慌てない。
白い光が点々と長剣へ集まり、素早く目の前へ二本の斬撃を交差させるように振り抜いた!
白い光をまとった斬撃が、雨のように飛来する武器を吹き散らす。
その直後、外套の怪人は身を低く沈め、俊敏な動きで一気に駆け出した!
動きは速く、鋭く、それでいて軽やかだった。
最前列にいた一人の狼賊が、ようやくクロスボウを捨て、腰の刃物を抜いたときには、すでに長剣が速く、鋭く、正確にその喉を貫いていた!
後方にいた二頭の一角魔狼が仲間の死を見て怒り、左右から同時に突進して噛みつく!
異なる角度から迫る二つの攻撃。
外套の怪人は、それでも長剣を引き戻して防ぐことを迷わず捨てた。右足を強く踏み込み、大地を踏み割る。
その力を利用して左脚を空中で半円を描くように旋回させ、踵を一頭の一角魔狼の首へ正確に叩き込んだ!
「ゴキッ!」
骨の折れる音とともに、一角魔狼が吹き飛ばされて地面へ落ちる。その首は、不自然な方向へ完全に折れ曲がっていた!
一頭は倒した。
だが、もう一頭が残っている。
開かれた大口は、すでに目の前まで迫っていた。外套の怪人は少しも慌てない。流れるような動きで左足を戻して地面へ立つと、長剣から離した右手はすでに固く拳を握っていた。
いつの間にか、その拳には夜よりも深い黒色の気配がまとわりついている。
大きく開かれた魔狼の口へ向け、拳を叩き込んだ!
鋭い気合いとともに、腕を丸ごとその口内へ突き入れる!
蓄積された闇神のエネルギーが、一角魔狼の体内で爆発した。乳牛ほどもある巨体が、激しく一度震える!
やがて魔狼の目、耳、口、鼻から次々と血が流れ出した。地面へ倒れると、その全身から力が抜け、そのまま二度と動かなくなった。
「全員でかかれ! あいつに各個撃破する隙を与えるな!」
血なまぐさい光景なら、狼賊たちは見慣れている。頭領が倒れれば、すぐに別の経験豊富な者が指揮を引き継いだ。
外套の怪人が悠然と長剣を拾い上げた頃には、すでに周囲を完全に包囲されている。
「殺せ!」
号令と同時に、前後左右、あらゆる方向から攻撃が始まった。
逃げ場のない網のような包囲攻撃を前にしても、外套の怪人は声一つ上げず、少しも怯まない。反撃の構えを取り、黒と白、二色のエネルギーが集まり始める。
そのときだった。
遠くから、矢が空気を裂く音が響いた!
狼賊の先頭を走っていた一人が、矢を受けて倒れる!
大柄な男が数人の冒険者を率い、後方から生まれた隙へ飛び込むように包囲網を破った。勢いのまま数人の狼賊を斬り倒し、外套の怪人と背中合わせに立つ。
「おい、馬鹿ども! 周りを見ろ! お前らの本隊はもう撤退を始めてるってのに、まだここに残ってるのか! 商会の護衛隊もすぐ来るぞ!」
ゼリスは片手に長剣、もう片方の手に円盾を高く構え、敵を警戒しながら大声で怒鳴った。
小隊長に代わって指揮を執っていた副官が周囲を見回す。
確かに、他の場所ではすでに整然と撤退が始まっている。
今回の略奪は、もともと素早く襲い、素早く引くためのものだった。隊商の護衛隊がどれほど強いかを試しながら、外周の行商人から十分な獲物を奪えば、そのまま退く予定だったのだ。
ただ、この小隊だけは運が悪かった。
厄介な獲物を選んでしまった。
相手側には、離れた暗がりで弓を構えている者がさらに二人いる。加えて、外套の怪人が見せた圧倒的で無駄のない身のこなし。
副官は険しい顔で撤退の合図を出した。
数十人の狼賊も、こちらへ正面を向けたまま慎重に一歩ずつ後退していく。
来るのも速ければ、去るのも速かった。
十分な距離を取ると、数十人の狼賊は一角魔狼へ飛び乗り、そのまま瞬く間に夜の闇へ消えていった。
荒野には、何度かの長い狼の遠吠えだけが残された。
敵がようやく遠ざかったのを見て、ゼリスも内心でほっと息をついた。狼賊の死を恐れないような戦い方はかなり手強い。できることなら、彼もまともに戦いたくはなかった。
「に……兄貴、ゼリス兄貴……」
だが、すぐ隣からヴィノの切迫した低い声が聞こえてきた。
ようやく狼賊の危機を片づけたばかりだというのに、また団員の慌てた声が聞こえたことで、ゼリスは少し苛立った。こいつらはいつも大げさに騒ぎすぎだ。
そう思いながら不機嫌そうに振り返り――その瞬間、ゼリスは振り返ったことを猛烈に後悔した。
助けたばかりの外套の怪人。
先ほどの飛び道具の雨を、光をまとった斬撃でかなり弾き飛ばしてはいたものの、それでもいくつかの刃が外套を切り裂いていた。
戦いの最中は気づかなかった。
だが今なら、はっきり見える。
破れた外套の隙間から覗く、珍しい銀色の長髪。まっすぐこちらを見つめる、澄んだ金色の瞳。
そして、一度見れば忘れがたい端麗な顔には、今、極度に警戒した冷たい気配が張りつめていた。
緊張する団員たちと同じように、ゼリスもついに思い出した!
死亡峡谷で行方不明になったと報告されていた光騎士。
ディアドラだ!
そしてもう一つ、聞き覚えのあった声の主も続けて思い出した。
あの夫人の夫だ!
「え……あ……俺たちは……その、人助けが好きな傭兵団でして……あ、あなたがご無事なら何よりです。俺たちは……その……お邪魔しましたので……」
ゼリスはようやく、あの恐ろしい危機感がどこから来ていたのか理解した!
もし狼賊の攻撃がもう少し激しかったら。
もし自分たちが助けに入るのがもう少し遅かったら。
邪魔された魔王が、本当の姿を現していたかもしれない。
そうなれば、この商会の隊商全体に何が起きていたのか。
誰にも分からない!
乾いた笑いでごまかしながら、ゼリスは自分がとんでもない秘密に偶然ぶつかってしまったことを悟った。隣にいる数人の団員も、すでに冷や汗だらけだ。
狼賊が撤退したときよりもはるかに速い勢いで、腰を低くし、頭を下げたまま後ずさりしてその場を離れようとする。
だが、まだ数歩も進まないうちに、再びヴィノの低い声が聞こえた。
「ゼリス兄貴、後ろ……後ろです……」
この瞬間、ゼリスは心の底から何も聞こえなかったふりをしたかった。だが、緊張と恐怖を必死に押さえ込み、無理やり振り返る。
そこでようやく気づいた。
いつの間にか、離れた場所に援護として残していた二人の弓兵が、もう一人の外套の怪人によって目の前まで連れてこられていた。
闇の中に隠されたその正体を知っているゼリスは、慌てて恭しく腰を折り、引きつった笑みを浮かべた。
「ど……どうも。お邪魔しました」
同時に、連れてこられた二人の弓兵に怪我がないことにも気づいた。二人とも目を見開き、恐怖に染まった表情がまだ抜け切っていないだけだった。
ゼリスは急いで二人を自分の背後へ引き寄せると、自分はそのまま一歩前へ出て、ぎこちない笑顔で挨拶を続けた。
だが、外套の怪人は何も答えない。
その様子を見て、ゼリスは以前耳にした「あの夫人の夫」の評判を思い出した。知性ある者との交流を好まず、ほとんど話もしない人物らしい。
ならば仕方ない。
ゼリスは自分で一方的に話を続け、乾いた笑い声を上げた。
「はは……みんな無事で本当によかった! 俺たち、まだ用事がありますので……そ、それじゃあ先に失礼しても?」
そう口では言ったものの、ゼリスも団員たちも勝手に動こうとはしなかった。目の前の外套の怪人が何を考えているのか、必死に探ろうとしている。
そのときだった。
背後にいた光騎士が、突然長剣を手に一歩、また一歩と近づいてきた。その身体から放たれる冷たく重い圧力は、次第にはっきりと形を持つほど濃くなっていく。
ついには、黒と白、二色のエネルギーが渦を巻いて集まる様子まで見え始めた。
突然張りつめた空気に、ゼリスの不安はさらに強くなった。
団員たちも、前後を警戒しながらそれぞれ武器を強く握りしめる。
三者の距離が、次第に縮まっていく。
今にも何かが起きそうになった、その瞬間。
ずっと沈黙していた外套の怪人が、ようやく口を開いた。
「構わないなら、君たちを雇いたい」




