ちっちゃなお鍋会
「……お鍋会に乾杯。」
「「かんぱーい!」」
「かんぱいです!」
カセットコンロに置かれた石狩鍋。
それを囲んで4人で乾杯。
私はジンジャーエール。
山城さんと店長さんはビール。
フランは飲めないので、気分だけでもと空のコップを持っていた。
「鮭のおかわりもありますからね!
たくさん食べてくださいね!」
フランは鼻高々にそう言った。
冬といえばお鍋。
ということでお鍋はフランの最近のマイブームだ。
一昨日はしょうが焼き鍋を食べたし、その前はちゃんこ鍋を食べた。
もちろんどれも絶品。
ということでもちろん今日のも。
「わ!すごい!フランちゃん!
料理上手なのね!」
「ふふー。そうなのです!
お褒めにあずかり光栄です!」
店長さんはひとくち食べただけでフランの料理を絶賛した。
店長さんは美味しいお店とかたくさん知ってそうな分、そうして褒めてもらえると私まで嬉しい。
「……でしょー。フランちゃん料理上手なの。」
「あ、山城さん!それは私の台詞です!
取らないで!」
フフンとなぜか山城さんまで鼻高々。
私が言おうとした台詞を取られてしまった。
台詞を取られた分、他のもので帳尻を合わそう。
「代わりに山城さんの分の鮭もらいます。」
お鍋の中からひとつ鮭を自分の器に。
まあ別に誰の分の鮭とか決まってる訳ではない。
ただやり返した気分になりたいだけ。
「……あ。」
「わ!嘘!嘘です!こっちの食べてください。」
でも思ったよりも悲しい顔をされてしまった。
よそうとはむふむと食べ始めた。
一転して心底美味しそうな笑顔。
「おいひい。202ひゃんありあと。」
「食べたまま喋らないの。もうっ。」
ホクホクとお鍋を食べる山城さんに、店長ちゃんはそうひとこと注意した。
でも改めて不思議な光景。
金髪赤目のどう見ても外国人な山城さんがうちでお鍋を食べている。
そしてそれを元サッカー選手の店長さんがお世話してる。
「新入りちゃん?どうかしたの?」
ちょっとじっくり見過ぎたみたい。
店長ちゃんは首をかしげてそう尋ねてきた。
「いえ、ふたりって不思議な関係だなーって。
お二人はどこで会ったのかなって。
山城さんインドアだし接点なさそうです。」
私がそう言うと、店長ちゃんはふふっと笑った。
対照的に山城さんはちょっと恥ずかしそうに目を逸らした。
「この子ね、夜に吸血鬼の歌を歌ってたの。
月の光を浴びながら変な歌を。
それでね、一目惚れ。ふふっ。」
「わ、まって!そ、それは秘密!」
くすくすと笑う店長ちゃんの口を山城さんがふさぐ。
でも吸血鬼の歌。
すごく気になる。
「どんな歌なんですか?聞きたいです!」
「吸血鬼の歌!すごく気になります!」
私とフランがほぼ同時にそう言うと、山城さんは恥ずかしそうにうーと唸った。
でもフランのキラキラお目々にやられたのか、ゆっくりと口ずさみ始める。
「わ、私はー♪
きゅ、吸血鬼ー♪……夜の女王ー♪
お月様きれいー……♪
え、えっとたしかこんな感じ……。」
そして山城さんはぷいっと他所を向いた。
歌のお礼にお鍋のおかわりをよそう。
すると山城さんはまたこっちを向いてむしゃむしゃし始めた。
「とっても上手でした。」
パチパチと拍手。
「やめて……恥ずかしい……。」
山城さんは食べながらもそう言った。
でも店長ちゃんが惹かれるのも分かる。
非日常が溢れてるもの。
「逆に私ちゃんとフランちゃんはどうやって?
ふたりはどんな馴れ初めなの?」
「あー。私が山で遭難してるときに拾い……」
「お嬢様。」
ぴしゃりとフランに言われて失言に気づく。
設定上はフランとは従姉妹の関係。
今のは聞かれちゃだめな内容。
お酒飲んで酔ってるし聞き逃してくれ、そう願う。
「え、えっと、遭難?拾ったの?」
「あー。」
全然聞き逃してくれてなかった。
まぁ店長ちゃんお酒にも強そうだもんね。
(まあ山城さんにはもう話してるし……。
店長ちゃんならしょうがないか。)
「え、えっと絶対誰にも秘密ですよ。」
かくかくしかじか。
フランは実は従姉妹ではないのです。
それに宇宙人なのです。
そんな話をした。
「あー……。そっか。納得したわ。」
「あれ?意外とすんなり信じてくれるんですね。」
「だって思い返すとおかしいとこだらけだもの。」
ちょいちょいと店長さんがフランを手招き。
フランは誘われるがままに店長ちゃんのお膝の上へ。
「サッカー、プロも顔負けの強さだったもの。
地球人じゃないなら納得。」
「ふふー。実はそういうことなのです。
絶対に他の人には内緒ですよ。」
なでなでされながら、フランはちょっとだけドヤ顔。
そんなフランのほっぺをむにっとつついて店長ちゃんは小さく微笑んだ。
「ふふっ。フランちゃんはフランちゃんだもんね。
それに私も吸血鬼の女王の彼女だもの。
新入りちゃんには負けないわ。」
フランを膝に抱えたまま、店長ちゃんが手を伸ばす。
その先には山城さん。
山城さんは少し迷って、店長ちゃんの後ろから抱きしめた。
「……そう。私たちも負けてない。」
「たくさんいちゃいちゃもしたしね。」
「……さき先輩。そ、そういうのはひみつ。」
わたわたする山城さんを見て、また店長ちゃんはふふっと笑った。
そしてお鍋会の夜も更けていく。
お鍋の後片付けをしたら、店長ちゃんは山城さんのお部屋に。
今日はやっぱり泊まっていくとのこと。
「良い夜をー!」
「良い夜をです!」
「ふたりもね!」
「……うむ。」
手を振って別れて今日という日も終わり。
そういえば小鳥たちは今日は秘密の会議をしてるそう。
なんで秘密なんだろう?
「フランはなにか聞いてる?」
「聞こえてるけど秘密とのことなので。
知らないふりしてます。」
とまあそんな感じ。
いい秘密ならいいな。
そう思いながら、私は寝るのであった。




