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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
カラヴァルヴァ ノヴァ・オルディアーレス騒乱編
922/1369

第十六話 ラケッティア、悪魔の経済学。

 ドン・ガエタノ・ケレルマンが太った無期懲役囚と一緒に第三棟の懲罰独房階へと降りていく。

 デブの手には葡萄酒を入れるのに使う革袋が葡萄酒以外のものでいっぱいになっていて、ドン・ガエタノは小さなチリチリ燃える火縄を持っていた。

 一分もしないうちに液体がぶちまけられる音、そして、ゴウッと勢いよく何かが燃える音がして、デブとドン・ガエタノはさっさと階段を昇っていった。


 ドン・ガエタノが襲われたのが三十分前、そして、犯人は失敗したと見るや、ダウンに見捨てられ、苦肉の策として、手近にいた看守を殴り、警戒が厳しい懲罰用の独房に入ったのだが、()()()()()()()独房の警備がいなくなり、()()()()()()()ドン・ガエタノのもとに粗製ガソリンみたいな油が手に入り、そういうわけで哀れな馬鹿者はローストにされた。


 カンパニーの連中、それに既存のプリズン・ギャングを率いるダウンとメツガーはおれたちに外の世界のようにはいかないというが、それは噴飯物の大きな見込み違いだった。


 結局、カネは誰が受け取ってもカネに変わりはない。

 それにいくら株式会社で看守を会社員化したと言っても、目の前でおれみたいな囚人たちが大っぴらに札束切ってれば――まあ、この世界、札束はないが、とにかく派手に散財してれば、真面目に務めるのが馬鹿みたいになる。


 まあ、カネが万能である、なんて下品なことは言わないよ。

 カネなんてロールスロイスが買えたり、海のきれいなサンゴ礁の無人島が買えたり、ポッキーとトッポが買えたりするだけ。たったそれだけの存在だ。


「ところで、ドン・ガエタノ。その芋は何だね?」


「あのクズを焼いた炎でつくったベイクド・ポテトだが、外は真っ黒こげなのに、なかが生だ。クズ野郎め、芋ひとつ焼けやしねえんだからな」


「じゃあ、もっといいものをつくりに行こう」


 いまじゃ厨房に入るのもコックたちがドアを開けてくれる。


 包丁もベタベタ触りたい放題だし、食料も使いたい放題。

 さて、マフィアのプリズン飯といえば、『グッドフェローズ』の玉ねぎ多めのミートボールだ。


 小さめの玉ねぎを二個みじん切りにしてトマトソースを煮る。

 で、ミートボールとソーセージをぶち込んで煮るわけだ。


 マフィア飯としては『ゴッドファーザー』でクレメンザがマイケルに教えながらつくるミートボールパスタと並ぶツートップだと思っている。



 マフィアと料理は切っても切れない関係性がある。

 お気に入りのレストランで撃ち殺されたマフィアは大勢いるし、マフィアはみな得意料理をもっている。


 ジョセフ・〈ドラキュラ〉・グリエルモは七十年代から八十年代にのし上がったガンビーノ・ファミリーきっての恐怖の殺人鬼集団デメオ・クルーのメンバーでデメオの従兄だった。

 ドラキュラというあだ名の由来は殺したやつの血を記念に保管していたからとも言われているし、ポルノ・ビジネスをまわしていて多くの処女を使ったためとも言われるし、ただ背が高く髪が灰色で夜型人間だったのがなんとなくドラキュラっぽいからとも言われているのだが、このドラキュラ、殺しの腕と同じくらい料理の腕がプロ級で特にニンニクをきかせたミートソースは絶品と言われている。


 ドラキュラなのにニンニク?って気はするが、とにかくそうなのだ。


 さて、ノヴァ・オルディアーレスの厨房の、それも看守たちの飯をつくるための上等な厨房にテーブルを持ち込み、おれと他のボスたちの厨房兼食堂がわりに使っているのだが、他のボス連中は先にやってきて、魚の鱗を取ったり、オーブンの面倒を見てたりしていた。


 この世界のマフィアも料理ができるし、いろいろこだわりを持っている。

 野菜担当がフェリペ・デル・ロゴス。

 魚料理担当がカサンドラ・バインテミリャ。

 肉料理担当がガエタノ・ケレルマン。

 デザート担当がドン・ウンベルト。


 で、おれはパスタ担当。


 今日はクルマエビとアーモンドのマカロニをつくる。

 パセリとレモンの果汁と皮、にんにく、オリーブオイル、そして皮を剥いた生のアーモンドを狂ったように切り刻み、ペーストにする。


 正直、この体でペーストをつくるのはしんどい。

 フードプロセッサーを発明した人が異世界転移してくれないかなってマジで思う。

 で、フードプロセッサーで無双する。敵の頭を突っ込んでスイッチオンとかすると、おっぱいの大きなヒロインたちがきゃあきゃあ言ってくれる。


 まあ、それは置いておいてだ。

 このしんどさと節々の痛みを乗り越えた先には魅惑の緑の超美味ペーストが待っている。

 フードプロセッサーを使ったときよりもおいしい気がするのは内緒の話だ。


 その日の昼飯はオレガノの風味がきいた揚げナスのトマト煮、石鯛のレモンマリネ、子牛肉の山賊風カツレツ、レモン風のリコッタクリーム・タルト、んでパスタはクルマエビとアーモンドのマカロニ。


 テーブルにつき、ワインは断って、食事を始める。

 話題は料理をできないマフィアがいかに価値がないかということだ。


「ダウンもメツガーも料理ができないそうだ」


「半端者が」


「そもそも料理ができてりゃ、ムショになんざぶちこまれていねえ」


「監獄のなかで勢力を広げられても、こちらとしては苦笑するばかりです」


「まあ、よいだろう。こうしてたっぷり昼を取れば、よく眠れる。わしらは空飛ぶ監獄に閉じ込められながら、我らがレンディック裁判長よりもいい食事をしている」


「なんで、そうだと分かるんだ?」


「レンディックの目を見れば分かる。あれはパンに脂身をはさんだものを食べて、グルメとほざく手合いだ。目が腐っている」


「そのことなんだが――」


 フェリペ・デル・ロゴスが言う。


「――レンディックのやつ、どうする?」


 まあ、そうだな、と黒のジョヴァンニ。


「おれたちもこういう生き方している以上、パクられるのは人頭税みたいなもんだ。だが、あんなふうにカンパニーだけを贔屓して、おれたち全員をぶち込むのは筋が通らない」


「あのクソ野郎は殺すべきだよ」


 カサンドラ・バインテミリャがカツレツを食いちぎる。


「わたしたちはやつらの〈石鹸〉のためにシマを開いた。そのお返しがこれだよ」


「まあ、相手はカンパニーの息がかかっているとはいっても、治安裁判所の長官だ。そう簡単に進められる話じゃない」


「だが、以前にもやっているだろう?」


 うん。殺ってる。

 あのときボスだった連中で生き残ったのはおれだけだ。


「だが、あんたの考えることは分からんな」


「なにがだね、ドン・ガエタノ?」


「やつらに得をさせてることだ」


「ああ。あれか。まあ、いろいろ考えていることがある。そのひとつには、やつらがどれだけ商売人になっているのかを知りたい。わしはこの刑務所の価値を高くしてやった。カンパニーの連中も、それにわしをここにぶち込んだレンディックも知っているはずだ。確かにやつらは得をしている。しかし、それは株式の時価の話だ。実際に金貨として入ってきているわけではない。やつらの得た利益は帳簿のなかにだけ存在するに過ぎん。その価値がどんどん高くなっている。つまり、やつらは金融的に、証券取引的に、この監獄を支配下に置くことができていないということだ。バブルの弾けた反動を恐れてもいるだろうが、現時点でやつらにノヴァ・オルディアーレスの株価をコントロールすることはできん。つまり、刑務所が得をすればするほど、ノヴァ・オルディアーレスはやつらの手から離れていく。もし、このバブルがパチンと弾けたら? ヴィンチェンゾ・クルスはノヴァ・オルディアーレスと手を組んでいるわけではないことが投資家たちに知れたら? それどころか敵対しているとしれたら? ノヴァ・オルディアーレスの株だけじゃない。カンパニー絡みの株が次々と巻き添えを食って暴落する。だから、わしはこの監獄に得をさせなければいけないのだ」


     ――†――†――†――


 ボスの席には同席させることはできないが、それでも同じムショにぶち込まれた身だ。

 おれのマカロニは三人分余計に作ってある。

 ネギーニョと、それにヨシュアとリサークだ。


「あなたは本当にミツルくんの伯父なのですね」


 囚人用の食堂の隅の席でマカロニをふるまってやると、リサークが感嘆のため息とでも、いうのだろうか? そういったものを深々と吐き、おれの悪を称賛してくれる。どうも、株式うんぬんの話をきいていたらしい。


 ヨシュアもちょっと目をきらきらさせてきいてくる。


「同じことをミツルも考えていると思うか?」


 ど、どうしよう。

 この質問はちょーヤバい質問だ。


 このふたりはおれに内在する悪に惚れた、みたいなことを常々言っている。

 だから、ここで「ああ、甥も間違いなく考えている」と言えば、やっぱり悪なのね素敵!でおれへの追跡が激しいものになる。


 だが、ここで「いや、考えていないだろう」とこたえれば、まあ、このおじいさまオリジナルの悪なのね、宗旨変えしちゃうわ素敵!でこの場でレイプされるかもしれない。

 もちろん、何もない可能性はある。


「甥も考えてるよ」返答は間違いなく、来栖ミツルへの恋慕が高まり激しい追跡を食らう。

 だが、この場ではひとまず安全だ。


「甥も同じことを考えているだろうな」


「そうですか、やはり彼にはかないませんね」


「ミツルはやはり悪だ。この上ない悪だ」


 ……目先の損得で動いちまったなあ、って思ってます。でも、しょーがないじゃん。


「どうやったら、あんな男が出来上がるんだ?」


「生まれたときからああだった」


 これはあながち外れていない。

 おれがゴッドファーザーを初めて見たのは三歳のときだ。


「先天的悪。この世で唯一の誰にも練られなかった悪が内在しているのですね」


「ああ。ミツルに会いたい」


「わたしもあの三白眼が恋しいです」


 以前、ツィーヌに三白眼を普通の目にする薬は作れるかきいたが、作れないとこたえられた。

 若者がジョセフ・ワイズマン演じるサルヴァトーレ・マランツァーノに化ける薬は作れるのに三白眼は変えられない。なんてこったい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 毎朝更新を楽しみにしております。 [気になる点] トニー・ナップ・ナポリの自伝記事で父ジミーを初め、様々な悪党の食事のこだわりを目にしたことを思い出しました。 やはり人生謳歌するには飯へ…
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