12話 進路
昼下がり、教室からはいつもの騒がしさが消えていた。
あちこちで進路希望の紙を前に、生徒たちが頭を抱えている。
その中で、清之助もまた、机の上の紙と必死ににらめっこをしていた。
隣でルキアが教科書のページをめくる音だけが、静かに響いている。
「はあ……」
清之助が大きくため息をついた。
その声に、ページをめくっていたルキアが顔を上げる。
「どうしたの?」
「進路希望、出さなきゃいけなくてさ」
清之助は白紙の用紙を見つめたまま答える。
ペン先で空欄を軽くつつき、それから椅子の背にもたれた。
「まあ、一応、受験かなあ」
ぼんやり呟きながら、指先でペンを回す。
次の瞬間、滑ったペンが机の上に落ち、カチンと音を立てた。
「自分が何になりたいかなんて、正直まだわかんねーよな」
清之助は天井を見上げながら、短く笑う。
それから、ふと思い立ったように隣のルキアへ向き直った。
「ルキアは、将来の夢とかあんの?」
清之助の問いに、ルキアは淡々と答える。
「僕は、もう決まっているから」
「え、マジかよ。なんだよ、それ?」
清之助は思わず机に身を乗り出した。
「僕の家系は、代々王家に仕える血筋なんだ。だから僕はもう、騎士として働いているよ」
「へえ。すげえな。騎士って、具体的には何するんだよ」
「……観測したり、記録したり。あとは、星を守ること」
清之助は腕を組み、深く頷いた。
それから用紙へ視線を落としたまま、何気ない調子で続ける。
「他になりたいもんとか、なかったの?」
その言葉に、ルキアはわずかに動きを止めた。
めくりかけたページの端に、指先だけが残る。
なりたいもの。
その言葉だけが、自分の中にうまく収まらなかった。
返事が途切れたのを見て、清之助は少しだけ笑った。
「お前、なんか最近、表情豊かになってきたよな」
「……そうかな」
ルキアは少し遅れて答えた。
言われて初めて、そうなのかもしれないと思った。
「前より、びっくりした顔とかするし。そっちのがいいんじゃない」
その言葉に、ルキアは清之助を見返した。
清之助は笑っていた。
「俺、ルキアと友達になれてよかったわ」
清之助は進路希望の紙を見て、少し首を傾げた。
それから、それを二つ折りにして鞄にしまった。
進路の紙はまだ白かった。
「お前といると、なんか飽きないよな」
そう言う清之助の横顔を、ルキアは黙って見ていた。
「どっか寄って帰るか?」
席を立った清之助が、鞄を肩に引っかける。
「……清之助」
「なんだ?」
ルキアは名前を呼んで、はっとした。
何を言おうとしたのか、思い出せない。
「……あ、本屋に行ってみたいんだけど」
「商店街のところの? いいぜ」
清之助はそのまま歩き出した。
ルキアも、少し遅れて席を立つ。
なりたいものは、わからない。
けれど、行ってみたい場所なら、ひとつだけ口にできた。




