08話 本屋へ行こう
皆で駅まで歩いて向かう。下校時間だから他の生徒も多い。
すれ違うときに知っている子と挨拶を交わす。特に千賀屋君に声をかける女の子が多い。あ、今も二人組の女の子が小走りに来て挨拶して追い抜いて行った。
そのまま女の子たちを見ていると、少し先で顔を見合わせて、はしゃぎながらジタバタしている。「千賀屋君が~」ってちらっと聞こえたから、彼のファンだろうか。
今の千賀屋君は、爽やかなイケメンだからなあ。
翔馬はどうだろう。「雨坂ー、明日は今日言ってた本、持ってくから」「サンキュー。また明日な」
男子はかなり友好的だ。
女子は、「雨坂君バイバイ……あっ! 千賀屋君!!」みたいに、翔馬に挨拶した後、千賀屋君を見つけて目がハートになってる子が多い。
ゲームの翔馬は色白で少し陰があって、ゲーム内では「格好いい」と言う女の子もいたから、イケメンなはずだけど。少なくとも私がゲームに興味を持つきっかけになったスチル絵は「綺麗な子だな」と思った。
今の翔馬は正直身内すぎて、客観的な評価をしにくい。格好悪くはない。と思う。
横を歩く翔馬を見上げる。
「何? レン姉」
こちらを見ていた翔馬と目が合う。
睫毛長いし、眉も綺麗に整ってるし、鼻筋も通ってる。少し大きな目は溌剌とした印象だ。やっぱり今の翔馬もイケメ――
「じっと見られると……気持ち悪い」
翔馬は目をそらしたまま。本気で気持ち悪そうに言われた。
前言撤回! ゲームの翔馬の方がイケメン。
ゲームの翔馬なら、女の子に面と向かって気持ち悪いとか言わなかったよ!?
まあ、こんな風に大人数で話している場面もなかったけど。
後ろで千賀屋君が「麗しい鈴白先輩になんてことを!」と怒ってくれている。それは美化しすぎかな。
学園の最寄り駅は、駅前にカフェや雑貨などが入ったビルがある。駅とは屋根付きの通路で繋がっているので便利だ。本屋もその中にある。フロアが広くて種類も充実している。
「まず参考書コーナーに行こうか」
千賀屋君を促すと、咲愛と翔馬もついてきた。
「麻菜ちゃんは?」
「あたしちょっと雑誌見てから合流しまーす! 学校以外で勉強のこと考えたくなーい!」
うん、それでこそ麻菜ちゃん。
「わかった。あとで合流しましょう」
麻菜ちゃんはさっそく雑誌コーナーに向かって行った。
「教科は?」
「数学Aです」
棚を見ると、上の方に目当ての本を見つけた。
「うーん……なら、この本かな」
手を伸ばして取ろうとしても、あと少し届かない。
「んー……よっと」
思い切りジャンプして指に引っかけて取り出す。よし。
「今……見え……」
「ん?」
振り向くと、真っ赤な顔の千賀屋君がいた。今日はそんなに暑くないのに。
「千賀屋君。はい、これ」
参考書を渡すと、千賀屋君は慌てたように参考書に目を落とす。さっきは大丈夫と言っていたけど具合が悪いのかもしれない。
「レン姉!!」
どこにいたのか、突然翔馬が飛び込んできた。真っ赤な顔で息切れまでしている。店内を走り回るなんてまだまだやんちゃ盛りだ。
「何よ翔馬。本屋なんだから静かにね」
「レン姉今!今!」
口をパクパクさせる翔馬を不思議そうに見ていると、翔馬は「……いや、レン姉の……何でもない……」とトーンダウンした。変な子。
改めて参考書コーナーに向き直って、もう一冊の目当ての本を探す。
「てめーレン姉の、……見ただろ」
「見っ、見るわけがない!」
「えー、何を見たか言ってないのに、何でわかるんですかねー。千賀屋君は何想像したんですかねー」
「貴様……!」
何の話かわからないけど、後ろで翔馬と千賀屋君がゴニョゴニョとうるさい。
すぐに目当ての本が見つかり、千賀屋君を呼ぶ。
「さっき渡した参考書が終わったら、あっちの本がいいわよ。応用問題が少しひねってあるから、基礎ができてないと難しいの。実力試しにはいいと思う」
やっぱり高いところにある本に手を伸ばすと、今度は千賀屋君が手を伸ばして苦もなく取ってくれた。
背が高いなあ。思わずまじまじと見てしまう。
まだ若干顔が赤い千賀屋君が居心地悪そうに尋ねる。
「あの、何か?」
「千賀屋君、背が高いのね」
「ああ……父も母も高めですから」
ゲームでは、ポケットに手を入れて、気だるそうに背を丸めているポーズの千賀屋しか見ていない。ちゃんと背を伸ばしたらこんなに高かったんだ、という驚きだったのだけど、もちろん言うつもりはない。
「お姉ちゃん、私も参考書買いたいんだけど、見てくれる?」
「ん? いいわよ」
千賀屋君とは逆側にいた咲愛が、袖をくいくいと引っ張った。しかも上目遣い。
いいよいいよ、お姉ちゃん何でも選んであげるよ!
あざとい仕草だけど、咲愛に頼られるとやっぱり嬉しい。
可愛いってわかってやってるよねこの子。そんなの……可愛いに決まってるじゃない!
「咲愛は古文に慣れていないから、この本で予習するといいかも。いきなり問題を解くよりも理解しやすくなるから、結果的に近道になるわ。去年のなら持ってるからあげるわよ?」
「ううん。お母さんから参考書代もらってる。分からなかったらお姉ちゃんに聞いてもいい?」
「もちろん!」
「レジが混みそうだし、言ってくるね」
「鈴白さん、僕も行くよ」
咲愛と千賀屋君がレジに向かう。
翔馬と二人でレジに並ぶ列から離れて待つ。
「翔馬は買わないの?」
「今日は買わね」
「買いたい物あったから来たんじゃ……」
「別にねーもん」
「えっ、無いの?」
何で来たんだろう。
じっと見ると、決まり悪そうに頬を染めて頭を掻く。
「俺のことはいいから! レン姉こそ買うもんないの」
「私も別にないのよね。先週問題集を買ったばかりで、まだ終わってなくて」
「……レン姉、先々週に買ってた問題集は?」
「あれはすぐ終わっちゃって……。問題の構成が理解しやすくて良かったわよ。オススメ」
「問題集ソムリエかよ」
だって恋華になってから、勉強したらした分だけ理解できるのが嬉しくて。
親からも勉強に関するものは、きちんと解き終えたなら次の本は買ってもいいと許可をもらってる。
制限付きなのは、以前本屋に行くたびに数冊ずつ参考書と問題集を買っていたら、母に「雑誌感覚で参考書を買うの禁止!」と言われたからだ。
週に一冊買うのは、無駄遣いと言われてしまうかしら。
不安になって翔馬の袖をくいくいと引っ張った。
「ほ、ほら、咲愛と翔馬に勉強教えるのに役に立ってるし……無駄遣いじゃないから……ね?」
語尾が小さくなりながらも、翔馬をちらりと見る。翔馬はきまり悪そうな顔をして、すぐにそっぽを向いた。や、やっぱり無駄遣い……?
「ま、まあ無駄遣いとは思わないけど。レン姉の説明わかりやすいし。おかげで授業は困らなくなってる。……だから、あんまりじっと見るなよ」
最後の一言が余計だ。翔馬は最近、こういう風に最後に可愛くない一言を言うことが多い。
「ふふ、翔馬の理解の癖はちゃんとわかってるからね。お姉ちゃんにまかせなさい」
えっへんと胸を張ると、翔馬は「まただよ。レン姉はすぐ調子に乗るから」と苦笑した。




