48話 家族
結局翔馬のもらったプレゼントは、誰からのものかわからないままだ。
翔馬も黙ったままだし。
贈り主のことを考えると、人に相談するのも憚られてしまう。
もやもやしたまま、学年末考査前の金曜日。
昼休みの終わり、私は早足で次の授業の為に体育館へ向かっていた。
「……雨坂君と、本当に付き合ってないの?」
聞こえて来た内容に思わず立ち止まる。
そっと声の方を体育館の陰から覗いてみる。
咲愛と、こちらに背を向けた一年生の女子が見えた。
「付き合ってないよ」
咲愛は落ち着いて答えている。
「でも一緒に住んでるって」
「家族づきあいがあって、昔は一緒に住んでた。でも、翔……雨坂君とは付き合ってないよ」
静かに言う咲愛の声には、ためらいも何もなかった。
「じゃあ、協力してくれない? 私、雨坂君のことが好きなの。私のことをどう思ってるか、雨坂君に……」
こちらに背を向けている女の子は、「好きじゃないなら協力してくれるでしょ」と言わんばかりの勢いだ。
「それは駄目」
咲愛が即答した。
「雨坂君のあなたへの気持ちを、私が聞くべきじゃないから」
「やっぱり鈴白さんも雨坂君のこと好きなんじゃないの?」
食い下がる女子に、咲愛は不思議そうに尋ねた。
「もし本当にそう思ってるなら、私に協力してって言うのもおかしいよね?」
その声には怯えも嫌悪も怒りもない。
「……確かに、そうね……わかった。雨坂君には自分で言う。……このことは」
「言わないよ。頑張って」
そのまま女子はまっすぐ歩いて行ってしまった。
咲愛は立ち去らない。
「お姉ちゃん、見えてたよ」
まっすぐ私を見ている咲愛に、観念して出ていく。
「えっと、さっきの子って」
「ちょっと、相談されてて」
咲愛は約束通り言葉を濁した。
「ごめん、聞いちゃったから知ってるわ。咲愛はいいの?」
尋ねると、咲愛は首をかしげた。
「どういう意味?」
心底不思議そうだ。
「その、翔馬にあの子が告白してもいいの?」
「私が決めることじゃないよ。どうするかは、翔馬君が決めることでしょう?」
咲愛はそう言った。
あっさりとした態度に、こちらが拍子抜けしてしまう。
「咲愛は翔馬のことどう思ってるの?」
「家族だよ。甘いものに目がなくて、たまに頼りになる弟」
翔馬が咲愛の弟なのね。
でも、家族なんだ。
「お姉ちゃんだって、そうでしょう?」
「そうよ。弟」
即答して、二人でクスクス笑っていると、予鈴が聞こえてきた。
「まずい! じゃあね、咲愛!」
咲愛も手を振りながら一年生の教室棟へ戻っていった。
その日の夜。
咲愛と晩ご飯の支度をしていると、「……ただいま」と玄関から声がした。
元気のなさそうな声に咲愛と顔を見合わせる。
玄関の廊下から居間に続くドアが開いて、よろよろと翔馬が入ってきた。
そのまま力なくソファに転がる。
「どうしたの、大丈夫?」
「ん……ちょっと」
ろくに返事もしないまま、足元のカバンを探った翔馬はラッピングされた箱を取り出した。
……バレンタインの時の箱だ。
「……レン姉、食べる?」
「翔馬がもらったんでしょう?」
翔馬は口を開いては閉じて、ため息を一つついた。
「そうだけど。もらうのも悪かったから、返そうとしたらいらないって」
あ。
昼休みのあの子の、だろう。
『雨坂君には自分で言う』
勇気を出したんだ。
翔馬のこの憔悴具合は、きちんと答えを出した、ってことだろう。
「ちょっと、俺は食べにくくて」
そうでしょうね。でも。
「ちゃんと全部翔馬が食べるべきだと思う」
「……何で」
「じゃあ、翔馬が私にくれたものを、いらないからって返したり、他の人にあげたらどう思う?」
言うと、翔馬は口をきゅっと結んだ。
「……全部、食べる……」
その日の晩ご飯のあと、翔馬はラッピングされた箱を開けた。
咲愛はいつものように紅茶を三人分淹れて、私と翔馬に渡してくれる。
中のトリュフチョコを一つ食べるたびに、翔馬はミルクだけを入れた紅茶を一口飲む。
いつもならすぐに食べきってしまうチョコレートを、時間をかけて食べきった。
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