47話 バレンタインのプレゼント
お正月もあっという間に過ぎて、もう二月だ。
バレンタインが過ぎたらすぐに学期末考査があるので、気を抜きにくい。
気を抜きにくい、のだけど。
バレンタイン前日、私と咲愛はキッチンにいた。
「お姉ちゃん、そこのココアを、このボウルに入れてくれる?」
「はーい」
咲愛の指示でココアを入れる。
ササッと咲愛が混ぜて、レシピを確認して……。
三十分後、キッチンには甘い香りが漂っていた。
オーブンの表示はあと数分。中では、大きな四角い型と小さな型に入ったガトーショコラが焼かれている。
「それ、バレンタイン?」
来た来た。
翔馬は浮かれているようで、動きもいつもより軽快だ。
「晩ご飯も食べるでしょう? 明日あげるから我慢して」
「人に渡すなら味見いらない? いるよな?」
目が輝いている。
「どうする?」と咲愛に目で聞いてみる。
「小さな型のほうは余分に作ってあるから、晩御飯にデザートつけようか」
「っしゃ!」
翔馬がガッツポーズをした。
晩御飯を食べたあと、ガトーショコラをいただくことにした。
「本当は一晩置くほうがしっとりするんだけど……」
「美味いよこれ」
咲愛の注意をよそに、翔馬が既に食べている。
私も一口食べてみた。
咲愛は小麦粉を使わないレシピだと言っていたけど、言われてみれば濃厚……?
「あ、いいこと思いついた!」
冷凍庫から、大容量のバニラアイスを取り出す。
振り向くと咲愛と翔馬がこちらにケーキ皿を差し出していた。
「はいはい。……翔馬はもうケーキないじゃない」
二人分、アイスをすくってよそい、私の皿にもよそった。
席についたけど、隣の翔馬の視線が痛い。
「レン姉、俺の皿を見て気になることない?」
目は口ほどに物を言うというけど、翔馬は口も目に劣らずおしゃべりだ。
「……はい。一口あげる」
翔馬の皿に自分のケーキを取り分けた。
「ありがと、レン姉」
現金な子だ。
やっと落ち着いた私は、改めてケーキを食べ始めた。
少し溶けたアイスでケーキがしっとりして食べやすくなっている。
三人でケーキを堪能したあと、先に味見した翔馬にもラッピングを手伝ってもらった。
「俺の分は先にちょうだい」
「バレンタイン用だけど……」
「どうせもらうから一緒」
「咲愛がいいって言うならね」
「私はいいよ」
翔馬は上機嫌でラッピング済みのガトーショコラを一つ持っていった。
次の日、咲愛と作ったガトーショコラを友人たちに配った。
「楓、これバレンタインの」
「いいの? ありがとう。妹ちゃん、マメだね」
「咲愛、すごいのよ。これは小麦粉なしで作るガトーショコラなの」
「へえ。本格的」
楓は不思議そうにガトーショコラを見て、丁寧にカバンにしまった。
「私もさっきもらったから、これあげる」
楓が差し出したのはチョコチップクッキー。
ラッピングからして手作りっぽい。
「いいの?」
「もらい物だし」
もらい物だからこそ、楓が食べたほうがいいと思うけど……。
ありがたく一枚もらって食べてみると、香ばしくてチョコチップもアクセントになっていて美味しい。
「美味しいわ。ありがとう」
「こっちこそ。妹ちゃんにもよろしく言っておいて」
放課後、一年一組へ向かう。
翔馬は帰ってしまったらしく教室にいなかった。
来見君もいない。
仕方ない。来見君の分は、翔馬に渡してもらおうかな。
まだ残っていた千賀屋君が、私に気づいて入口まで来てくれる。
「鈴白先輩、今日は一段と甘い香りがしますね。新しい香水ですか?」
私、香水は使ってないけど……。
「千賀屋君、それクラスメイトには言わないほうがいいからね?」
「もちろんです。鈴白先輩にしか言いませんよ」
ならいいか……な?
「これ、咲愛と作ったガトーショコラ。今日明日中には食べてね?」
飾ったり置いておかないように釘をさしておく。
「わかりました。一口ずつ味わって食べます……!」
少し悔しそうにしながらも、大事そうに受け取ってくれた。
あまり日持ちのするものじゃないしね。
「ねえ、あの机って千賀屋君の席、よね?」
私は、さっきから気になっていたことを聞いてみる。
大きな紙袋が何個も置かれていて、ラッピングされた箱や袋がどっさり入っている。
漫画やアニメみたいだ。
「はい……机やロッカーにいつの間にか入れられていて」
あらら。
「お返しも大変そうね」
帰るときに靴箱を開けたら、ぎっしり詰まったプレゼントがさらに落ちてきたりして。
……ありそう。
「千賀屋君、帰る時はもう一つ大きな袋を用意して靴箱に向かったほうがいいかも」
「え? ……あ、そうですね」
千賀屋君はすぐに察してくれた。
人気があるのも大変ね。
「鈴白先輩、その……先輩にはきちんとお返しさせていただきますので!」
「いつものお礼だから気にしないで。じゃあね」
私は手を振って自分の教室に戻った。
帰宅すると先に翔馬が帰ってきていた。
「おかえり」
キッチンに立って晩御飯を作ってくれている。
「ただいま。帰りに一年一組に行ったのよ。どこ行ってたの」
「……ちょっと用事」
なんだか歯切れが悪いわね。
「来見君にもガトーショコラを渡したかったけど、いなかったの。明日、翔馬から渡してもらってもいい?」
「あー、うん。カバンに入れといて」
上の空っぽいなあ。
気になりながらも来見君に渡してもらうガトーショコラを入れようと、翔馬のカバンを持ち上げた。
「……」
中に、見たことのないラッピングされた箱があった。
「……あ! ちょっと待ったレン姉!」
慌てた翔馬が駆け込んできたけどもう遅い。
「……ごめん、見ちゃった」
綺麗にラッピングされている。ただの義理っぽくないわよね。
「ねえ、誰から? 麻菜ちゃん?」
「違う。誰でもいいだろ」
「よくないでしょ! お返ししないと」
「自分でやるから! 放っとけよ!」
本気で嫌そうだ。
気になるけど、これ以上言うのはやめておこう。
「来見君のガトーショコラ、入れておくわね」
ぷいっとそっぽを向く翔馬に構わずカバンに入れておく。
気になるなあ。翔馬は誰から貰ったんだろう。
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