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男性向け恋愛ゲームのヒロインの姉に転生したので、妹もゲーム主人公も幸せにします  作者: 駒うさすず
第一部

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45話 慌ただしい新年

 気がつくと私は学園の廊下に立っていた。

 冬のはずなのに寒くない。

 そして昼間なのに廊下はシン、と静まり返っている。

 どうして誰もいないの?

 見渡すと、遠くに男子が一人いるのを見つける。

 近くに寄って、やっと気づいた。

 そこにいたのは、こちらに背を向けた翔馬だった。

 ……?

 翔馬なら、遠目に見てもすぐ気づくはずなのに。どうして気づかなかったんだろう。

「翔馬!」

 駆け寄って肩を叩いた。

 ビクリと肩を震わせた翔馬が、のろのろとこちらを向く。

 翔馬の目は、どろりと憂鬱そうに濁っていた。

 そして私を見て、一瞬鋭く睨んだ。

「……あ……」

 私は翔馬の肩に置いた手を離してしまう。

「……鈴白先輩。生徒会長のあなたは、一般生徒の名前も全部知ってるんだ。さすがですね」

 言葉は丁寧なのに、翔馬の声に温度がない。

「ちがっ」

 違う。私は生徒会長じゃない。

 うちの翔馬はこんなこと言わない。

「レン姉」って言って、それから「驚かせるなよ」とか言って、それで、それで……。

 でも言葉が出ない。

「名前で呼ばないでください。……僕と先輩はそんな関係じゃないでしょう」


 そんな関係よ! 大事な家族でしょう!?


 叫びたいのに声が出ない私は、背を向けて歩いていく翔馬に必死に手を伸ばした。

 駆け寄りたいのに足が前に進まない。

 手だけが空を切る。

 待って、待って翔馬!


 軽快なアラーム代わりの音楽が聞こえてきた。

 視界には見慣れた部屋の天井と、自分の右手がぼんやり見える。

 現実でも手を伸ばしていたらしい。

 ゆっくりと下ろした手で、そのまま目を覆う。

「……新年早々、これかあ……」

 縁起が悪すぎる。

「でも、夢でよかった……」

 ほっとした途端、目頭が熱くなり、右手に温かいものが触れた。

 私はベッドの中で、しばらく身動きしなかった。


 ひとしきり泣いたあと、涙もしっかり拭き取り、服を着替えて階下へ降りた。

 洗面所に向かうとちょうど咲愛が身支度を終えたところだ。

「あけましておめでとうお姉ちゃ……」

「おはよう……」

「お姉ちゃん、顔!」

 咲愛が叫んでキッチンに飛んでいく。

 鏡を見ると目元が腫れている。

 顔を洗ってリビングに向かうと、咲愛が氷嚢を作ってくれていた。

「これ使って。何があったの?」

「ありがとう、ちょっと夢見が悪くて……」

 氷嚢を当てて視界が塞がれる。

 耳に、聞き慣れた声がした。

「おはよう。レン姉どうしたの?」

 ずっと聞き慣れた翔馬の声だ。

「夢見が悪かったんだって」

 咲愛が説明してくれている。

「ふうん?」

 不思議そうな翔馬の声。

 深刻に心配するわけでも、全くの無関心でもない。

 その関係にほっとして、涙腺がまた緩んだ。

「ちょっとお姉ちゃん、目がまた腫れちゃう!」

「ティッシュ持ってくる!」

 私が肩を震わせたのを見て、咲愛と翔馬が慌ててくれたのが、心が痛いのに嬉しかった。


「明けましておめでとうございます」

 全員席について、お正月の挨拶を交わす。

 私だけ全部言葉が鼻声になっていたけど。

「恋華、このあと出かけるんでしょ? 大丈夫なの?」

「メイクでなんとかする……」

「一時間くらい必要そうね」

 年頃の娘に大変辛辣なお言葉だ。

 咲愛の作ってくれた伊達巻を取ろうとして、ほとんど無くなっているのに気づいた。

 翔馬の取り皿にどっさり置かれている。やっぱり。

 一つだけ重箱から伊達巻を取って味わう。

 うん、やっぱり咲愛の料理は美味しい。

 この甘さは私には一つで充分だ。

 一つ食べ終えて、手元の雑煮を私は楽しんだ。


 食事も一段落し、両親からお年玉を貰った私たちは出かける準備を始めた。

 両親はまだ二人でお酒を楽しむらしい。

 私は普段しないメイクで目元をごまかす。

 まあまあ、上手くいったと思う。

 少なくとも赤くなった鼻や目元はかなりマシだ。

 さっきまで氷嚢を当てていたので、腫れも引いてきている。

 クリスマスに貰ったお財布を出し、念のためお年玉を足しておく。

 ハンカチやティッシュをショルダーバッグに入れて準備完了だ。


 コートを羽織って玄関に向かうと、翔馬と咲愛がもう待っていた。

 翔馬の前を閉じていないコートの間から、クリスマスに貰ったボディバッグが見える。

「ごめん! 二人とも待って、待って」

 階段の上から声をかけると、二人揃って見上げてきた。

「レン姉、遅い」

 不貞腐れた翔馬が文句を言う。

「まだ待ち合わせには余裕があるから大丈夫だよ。お姉ちゃん」

 咲愛は微笑んでいる。


 急いでブーツを履いて立ち上がって、目元を二人に見せた。

「見てみて、ちゃんとマシになったでしょう?」

「そう……? いつもと同じだけど」

「うん、ちゃんと隠せてるよ」

 翔馬には聞くんじゃなかったな。

 三人揃って、家を出た。

「行ってきまーす!」

いつも読んでいただきありがとうございます。励みになっています。

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