44話 穏やかな年越し
大晦日はいつも慌ただしい。
毎年、一年の最後はゆっくりしようと年末の準備を早めに始めても、同じ忙しさになるのが不思議だ。
おせちも一部しか作らないのに、毎年ギリギリになってしまう。
「お姉ちゃん、おせちの重箱、大きいのと小さいの、どっちも洗っておいてくれる?」
咲愛が煮物の味を見ながら言った。
その横ではお母さんがイライラしながら海老の背わたを取っている。私も苦手なので気持ちはわかる。
「わかったわ。小さいのも使うの?」
「二日におじいちゃんたちの家も行くでしょう? 少し持って行くの」
おじいちゃんたちも咲愛の料理好きだからなあ。
もちろんおじいちゃんたちの家に行くときは、翔馬も一緒だ。
唯一の男の子の孫だと、おじいちゃんおばあちゃんのどちらからも可愛がられている。
ちなみに雨坂の家と翔馬との間に、親戚づきあいはない。
以前お母さんに聞いたら、「ハン」と鼻で笑ったあと、「それはこっちでやってるから、気にする必要ないわよ」ときっぱり言われてしまった。
横にいたお父さんの目まで険しかったので、それ以降は聞いていない。
「ただいま。スーパーめっちゃ混んでた」
最後の買い出しに行ってくれていた、翔馬とお父さんが帰ってきた。
「お菓子とジュースも買っといた!」
ドサドサと大きな荷物が置かれた。クッキーやポテトチップスなど、お菓子が色々入っている。
頼んだのはお屠蘇用のお酒と、祝箸や小麦粉、パン粉と箱ティッシュくらいだったはずだけど。
お父さんも、普段買わないちょっといいビールをいそいそと冷蔵庫にしまっているので共犯だ。
「買い出しありがとう。帰ってきたところ悪いけど、男性陣には、お風呂掃除と共用場所の掃除機もお願いしたいわね」
にっこりとなにか言いたげに笑っているお母さんに、翔馬とお父さんは同じタイミングで頷いていた。
歌番組がはじまったころ、年越しの準備がやっと終わった。
重箱も詰め終わり、明日のお雑煮の具材は下ごしらえを済ませて出汁と一緒に冷蔵庫に入れてある。
我が家の大晦日の晩ご飯は年越しそば。
咲愛が揚げた海老天を乗せた蕎麦だ。
「翔馬君は今日泊まっていくのよね。前の翔馬君の部屋使ってね。ベッドがないからお客さん用の布団だけど」
お母さんの質問に翔馬が頷いた。
去年もそうだったし、今年も同じみたい。
晩ご飯を終えた人から順番にお風呂に入る。二人前食べた翔馬が食事を終えるのが一番早いのが不思議だ。
私も食べ終えたのでさっと丼を洗って、着替えを持って脱衣所へ向かう。
「ふんふーん、お風呂ー」
脱衣所のドアを開けると、ボクサーパンツ姿の翔馬がいた。
私を見て固まっている。
まだお風呂から出てなかったみたい。
「あ、ごめん」
パタンとドアを閉めて外で待つことにする。
危ない。もう少し早くドアを開けていたらまずいところだった。
……。
……五分たっても出てこない。
「翔馬ー? 何かあった?」
ドアを叩くと「絶対開けないで! ちょっと待って!」と焦った声が聞こえた。
一分くらいで、ルームウェアを着た翔馬が真っ赤な顔で息を切らせて出てきた。
翔馬と入れ替わりに脱衣所に入る。
「翔馬、鍵はちゃんとかけないと駄目よ」
注意をしただけなのに、「だからノックを先にしろよ!」と翔馬には怒鳴られた。
翔馬の反抗期はいつになったら落ち着くんだろう。
全員お風呂を終えて、なんとなく居間に集合していた。
年越し番組を見ていると、だんだんまぶたが重くなってくる。
「……新年、明けましておめでとうございますー!」
テレビから聞こえてきた声に、目を開ける。
寝てしまっていたらしい。
見ると、咲愛も机に突っ伏して寝てしまっている。
翔馬と両親は起きてテレビを見ていた。
「ん……皆、明けましておめでとう……」
起きてる三人と新年の挨拶を交わしたあと、咲愛を揺すって起こす。
「咲愛、明けましておめでとう。年明けたわよ」
「お姉ちゃん……? おめでとう……」
「……もう寝かせてあげましょう。私たちもそろそろ寝るわ」
両親がテレビを消して立ち上がった。
私と翔馬も咲愛を支えて二階に上がり、咲愛の部屋に連れていく。
咲愛がベッドに入ったのを確認して、翔馬と私も部屋に戻る。
前に使っていた部屋に自然と帰っていく翔馬を見て、つい声をかけてしまった。
「翔馬」
「ん?」
上半身だけこちらに向けてくる翔馬は、いつもの翔馬の姿だ。
ゲームで私が見ていた姿とは全然違う、リラックスした態度。
その姿を見て、これで良かったんだ、と自然に思えた。
「何、レン姉」
怪訝そうな翔馬に、私はもう一度改めて言った。
「明けましておめでとう。今年もよろしくね」
「さっきも言ったのに」と言いつつ、翔馬も「明けましておめでとう」と返してくれた。
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